日本初!ダンス・ミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」開催

インタビュー スペシャルインタビュー

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
コーポレートビジネスマーケティンググループマーケティングオフィス
Lauren Rose Kocher / コーカー ローレン ローズ (写真中)
株式会社ソニー・ミュージックパブリッシング
シンクロ・ライセンス部シンクロ課 兼 インターナショナル部
倉本 博史 (写真左)
株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ
マーチャンダイジングカンパニーマーケティング部企画課 兼 プランニング営業部
柳井 功治 (写真右)


 ダンス・ミュージックに焦点をあてた日本初の国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(以下、TDME)」が、12月1日(木)から3日(土)の3日間、東京・渋谷の5会場にて同時開催される。

「カンファレンス(国際会議)」、「セッションズ(音楽制作)」、「ライブ(音楽パフォーマンス)」という3種類のプログラムで構成されるこのイベントでは、DJ/アーティストはもちろんレーベルや各種音楽サービス、メディアの関係者、マーケティングの担当者、プロモーター、クラブオーナーなど、ダンス・ミュージックのビジネスに関わるさまざまな重要人物を世界各国から招聘。テクノやハウス、EDM、ポップスを含む広い意味でのダンス・ミュージックの現状について意見を交換し合い、体験し、理解を深めることで、日本のシーンおよび音楽業界の活性化をめざす新たな試みだ。

今回のインタビューでは、イベントの発起人であるソニー・ミュージックエンタテインメントのコーカー ローレン ローズ氏、ソニー・ミュージックパブリッシングの倉本博史氏、ソニー・ミュージックコミュニケーションズの柳井功治氏に集まっていただき、プロジェクトのコンセプトや目標、今後の展望についてお話を伺った。

(Text by 北野創)
2016年11月21日掲載

  1. 日本にもダンス・ミュージックの国際的なカンファレンスを
  2. 世界中から約50名もの多彩な顔ぶれが登壇する「カンファレンス」
  3. 世界的なテクノ/ハウス・レーベルと直接コネクトできる「セッションズ」、BOILER ROOMを通じて全世界配信もされる「ライブ」

 

日本にもダンス・ミュージックの国際的なカンファレンスを

——TDMEはどういった経緯で立ち上げられたのでしょうか。

ローレン:もともと海外では、マイアミの「Winter Music Conference」やアムステルダムの「Amsterdam Dance Event(以下、ADE)」といった、ダンス・ミュージックについての大規模なカンファレンスが盛んに行われているのですが、日本ではそれに類するようなイベントがなかったんです。それで、日本のシーンの活性化には国際的なカンファレンスの必要性を感じました。

倉本:ADEではカンファレンスと同時に街のいたるところでライブやパーティーが行われて、もう夢か現実かわからなくなるぐらいの雰囲気なんですよ。行くたびに日本からの来場者も増えていて盛り上がりを感じるのですが、一方で日本のクラブ・シーンは世界に追いついていないと思わされることが多くて。実際にクラブの数も減っている状況のなか、これはどこかでシーンが一体となって議論する場所を作って、いまの世界のトレンドを日本の関係者に知ってほしい、という思いから始まっています。

——EDMの隆盛もありますし、開催には良いタイミングかもしれませんね。

柳井:日本においてもEDMが世間一般に浸透して、企業からの注目も集まっていますし、おそらくいまがいちばんのビジネスチャンスだと思います。

ローレン:それに2020年の東京オリンピックの前に国際会議を作りたいという思いもあります。

倉本:日本もダンス・ミュージックのシーンは独特の発展を遂げてますし、世界と対等に渡り合えるアーティストも増えていると個人的には感じているんですよ。ただ、それを海外に届けるにはアーティスト個人だと難しい部分もあって、やはりビジネス側の人間がもっと知識を高めて勝負しなくてはならない。そういったイベントの趣旨や意義には、みなさんに共感いただいてます。

「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」フライヤー

——今回が初開催となりますが、モデルにされたイベントはありますか?

倉本:やはりADEですね。今回、TDMEでは渋谷区と手を組んで、渋谷区観光協会に後援に入っていただいたり、渋谷区長の長谷部健氏によるウェルカム・スピーチを予定していたり、会場もすべて渋谷に統一しています。やはり渋谷はカルチャーの街ですし、これから街ぐるみでエンタメ性を増やしていきたい部分もあるようなので、いずれはTDMEの開催期間に渋谷の街がダンス・ミュージック一色になれば素敵だなと思っています。

 

世界中から約50名もの多彩な顔ぶれが登壇する「カンファレンス」

「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」コーカー ローレン ローズ

——今回は3種類のプログラムに分かれていますが、なかでも注目は1日(木)、2日(金)に渋谷ヒカリエで行われる「カンファレンス」だと思います。世界各地から約50名もの著名な業界人が登壇しますが、具体的にどういった議題内容を予定していますか?

ローレン:1日目はクラブやフェス、ツアーなどのライブビジネスを中心としたテーマが多く、アジアや日本のクラブ・シーンの現状、風営法改正についてのパネルも予定しています。2日目は、主に音楽マーケティング、ストリーミング、新しいテクノロジーにフォーカスしていて、レーベル向けのお話がメインですね。

——普段なかなか情報を目にしにくいアジアのクラブ・シーンやフェスについてのパネルがあるのも興味深いですね。

柳井:日本にはそういったアジアの情報はあまり入ってきませんが、欧米の巨大なフェスをやっているプロモーターたちはアジアに目を向けていて、それこそ「ULTRA MUSIC FESTIVAL」にしても、いまやアジアの多くの国で開催されています。世界最大級のフェスのひとつ「EDC(Electric Daisy Carnival)」も、この11月にインドでアジア初開催されました。そういったワールドワイドなフェスがありつつ、それらに匹敵する規模のイベントをドメスティックで行っているプロモーターがアジアにはたくさんいて、クラブも日本より盛り上がっている場所がたくさんあります。そういったことが日本ではあまり知られていないし、かつ、日本とアジアそれぞれのシーンがあまり結びついていないので、このカンファレンスで情報を共有すると共にネットワークを強め、日本とアジアが一丸となって世界に進出していければという狙いもあります。

——アジアのシーンとの連携は大きな波を生みそうですし、おもしろい試みですね。

柳井:今回はアジア各地のプロモーターやクラブオーナーに、それぞれの国のクラブ・シーンにおける現状を話してもらおうと思っています。

「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」柳井功治

——そして2日目はマーケットやサービスの話題が中心とのことで、コンテンツ・ホルダーやアーティストにとって参考となるパネルが多そうですね。

倉本:まさにその通りです。メジャー・レーベルのA&Rたちがどのように日本でマーケティングを行ったりアーティストを発掘しているのか。また、インディペンデントなレーベルを運営している方々にそのノウハウを話していただくので、自分でレーベルを作りたい人や音楽業界で働きたい人が学べる場にもなると思います。

柳井:Ultra RecordsのCEOパトリック・モクシー氏やSony Music EntertainmentのHead of Electronic Music Marketing トビー・アンドリュー氏も登壇します。彼らはカルヴィン・ハリスやカイゴといったアーティストを手掛けて、いまや世界でトップクラスのDJ/アーティストに育てています。彼らがいかにしてトップに上り詰めることができたかといった事例も話してもらう予定です。

——それは世界的にも大変貴重な機会になりそうですね。さらに近年日本でも注目を集めているストリーミングサービスについての議題もあります。

柳井:アジアのある国では低迷していた音楽市場を定額制ストリーミング音楽配信サービスが回復させたりなど、ストリーミングサービスは受け入れられています。ただ、アジアでは各国によって流行っているものが違いますし、台湾ではKKBOX, 韓国ではMelOnというサービスが半数以上のシェアを獲得していたりなど利用しているストリーミングサービスも違うといった状況があります。それに比べて日本はApple MusicやSpotifyが上陸しましたが、まだまだストリーミングサービスのマーケットシェアは小さいので、そういった現状を踏まえて、AWAやLINE MUSICの方も交えて海外と国内の関係者同士でディスカッションできればと思います。

——他にもDOMMUNEの宇川直宏氏や渋谷区観光大使・ナイトアンバサダーとしても活動するZeebra氏、世界的なDJでレーベルも運営されてるニーナ・クラヴィッツ氏など、錚々たる登壇者が予定されています。最先端の音楽カルチャーに強い「FADER」誌の編集長もいらっしゃりますね。

倉本:そう、音楽メディアについてのパネルも設けているんですよ。「DJ Mag」や「FADER」といった世界的なメディアの編集長を迎えて、さらにblock.fmのCEOでもある☆Taku Takahashi氏にモデレーターとして入っていただきます。ここではジャーナリズム的な観点からお話をしていただく予定です。

柳井:このカンファレンスによっていろんなシナジー効果が生まれて、新しいマーケティングやイベントの打ち方といったアイデアが生まれればと思っています。

 

世界的なテクノ/ハウス・レーベルと直接コネクトできる「セッションズ」、BOILER ROOMを通じて全世界配信もされる「ライブ」

——そして1日(木)、2日(金)にはRed Bull Studios Tokyoで「セッションズ」と銘打ったワークショップが行われます。1日目の「Ableton Meetup Tokyo」はどのようなイベントでしょうか。

倉本:Ableton Liveという、ダンス・ミュージックの制作にもよく活用される音楽ソフトウェアがありまして、そのレクチャーになります。今回は認定トレーナーのKOYAS氏やCD HATA氏、DJ BAKU氏、JUZU a.k.a. MOOCHY氏といったアーティストの方を迎えて、実際にその使い方を学ぶことができます。

——2日目の「TOOLROOM ACADEMY」は、世界的なテクノ/ハウス・レーベルのToolroom Records(トゥールルーム)と直接コネクトできる大変貴重な機会ですね。

倉本:そうなんですよ。「TOOLROOM ACADEMY」はレーベルの所属アーティストやA&Rがそのノウハウを教える音楽学校で、これがアジア初開催となります。今回、スロベニアのテクノ・マスターのウメックと、ヨーロッパを中心に活躍しているプロック&フィッチというリアルなアーティストから直接教われるので、貴重な体験になるんじゃないでしょうか。

ローレン:それに今回はデモを渡したら必ずフィードバックをもらえるという約束もあります。

倉本:トゥールルームはアカデミーを通じてアーティストを発掘しているので、もしかしたら今回の参加者から作品のリリースにこぎつける人が現れるかもしれません。「セッションズ」ではどちらかというとプロデューサーやアーティスト志望の方、作家さんやクリエイターの方がおもしろいと思える場を提供できればと考えています。

「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」倉本博史

——そして「ライブ」は、2日(金)、3日(土)に渋谷のWOMB、contact、SOUND MUSEUM VISIONといったクラブにて、ディスコ・レジェンドのジョルジオ・モロダーをはじめ豪華ラインナップを迎えて行われます。なかでも2日(金)に渋谷ヒカリエで実施される「TDME×BOILER ROOM」は、ストリーミング配信メディアのBOILER ROOMを通じて世界にライブ配信されますね。

倉本:それもあって「TDME×BOILER ROOM」には、Wata Igarashi、Seiho、galcid、Sekitova、Satoshi Otsukiという、現在世界で活躍している日本のアーティストにご出演いただきます。これからの方たちをフックアップしたいという気持ちもありますので、プロダクションを含め大いにご期待ください。

——世界中の音楽業界の人々と対話ができて、制作の現場に触れることができて、実際にダンス・ミュージックを聴くことができて。いろんな人が楽しめるイベントになりそうですね。

ローレン:カンファレンスは海外と同じようにカジュアルでフレンドリーなものを目指しています。聞きたいトークを聞きにきて、レセプション・パーティーで気になる人に気軽に声をかけたり、自由にゆっくりできるようなイベントにしたいので、音楽業界の人だけでなく、音楽の仕事に就きたい人、アーティスト志望の人、レーベルを作りたい人、もっと音楽を使ってマーケティングしたい人など、あらゆる人に来ていただきたいです。海外のゲストスピーカーが登壇する際は、同時通訳デバイスも準備していますし、学割りチケットもあります。セッションズは音楽制作を志す人向けで、ライブはもちろん誰でもウェルカムです!

——音楽と直接関係ない職種の人にとっても、仕事の刺激になるものが見つかりそうです。さて、まだ第一回の開催前で気が早いですが、今後はどのような展望を考えていますか?

柳井:やはり業界内だけでは終わらせたくないので、「カンファレンス」と「セッションズ」は軸として継続していきつつ、来年以降は「ライブ」の部分をもう少し大きなものにしていければと思います。まずは首都圏エリアで年1回のペースで開催して、2020年までに規模を拡大することが目標ですね。

——ライブの規模が大きくなると観光的なアピールにも繋がりますものね。

柳井:例えば今年の「渋谷音楽祭」は、渋谷駅周辺の道路を交通規制して、そこにいくつもステージを立ててイベントをやっていたんですよ。TDMEでもゆくゆくはそういったことをやりたいと考えていて。我々も一緒になって渋谷エリアを盛り上げていければと考えています。

——ちなみにみなさん、ダンス・ミュージックの未来や可能性についてどのように考えられていますか?

倉本:可能性を感じてなければやらないですからね(笑)。僕はテクノが好きなんですが、日本のテクノというと、YMOの頃からずっと独自性があるので、それをもっと外に出すべきだし、そこにソニーミュージックが関わることは非常に大事だと思っていて。ソニーミュージックは90年代からケンイシイや石野卓球、BOOM BOOM SATELLITESといった才能を世界に紹介してきて、エッジーなバックグラウンドがあるし海外展開にも強い。なので、TDMEでの繋がりをきっかけに新しいアーティストを世界に発信していけたらと思います。

ローレン:私はアメリカ人なのですが、いまアメリカのラジオを聴くとトップ40のなかにダンス・ミュージックが多く入っていて。でも、5年前や8年前にはポップスのラジオからそういったサウンドが流れてくることはほとんどなかったんです。今後ダンス・ミュージックは音楽にとってさらに大事なジャンルになると思いますし、TDMEはレーベルに関わる人であればさまざまな知識を得られるチャンスだと思いますので、ぜひ参加してほしいですね。

柳井:例えば60〜70年代のロックンロール、80〜90年代のヒップホップと同じように、いまはダンス・ミュージックの時代だと思うんです。一昔前は〈アーティスト・フィーチャリング・DJ〉というクレジットが多かったですけど、いまはそれが逆転して〈DJ・フィーチャリング・シンガー〉という形が多くなっている。いまのメインストリームは完全にDJが存在の中心となっているので、そんななかで継続していけるような事業やイベントを手掛けていきたいですね。

——いまや聴き手がダンス・ミュージックと意識してなくても受容している部分は多いですしね。

柳井:日本でもEDMの要素を採り入れたポップスは増えてきているので、ファーストステップとしてはいいところにきていると思います。ただ、日本のポップスと世界的なダンス・ミュージックのトレンドには若干のギャップがあって、もちろんそれが良いところでもありますが、そういったギャップを埋めるべく、世界のトレンドや事情をもっと日本のメインストリームに認知させていきたいです。まずはTDMEに来ていただいて、みんなでシーンを盛り上げましょう!

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