【2014-2015】音楽業界の活性化に必要な「ニューミドルマン」の姿 ニューミドルマン養成講座 記念対談 山口哲一×高野修平

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:山口哲一氏、高野修平氏

1月17日より開講するニューミドルマン養成講座。3週目のゲスト講師である高野修平さんと主宰の山口哲一さんの対談をお届けする。2014年から2015年へ、市場が縮小し続ける中、デジタル化への移行が課題となっている音楽業界において、国内外、業界内外に豊富な知識を持つ2人の対談が行われました。

 

山口 哲一(やまぐち・のりかず)
音楽プロデューサー/コンテンツビジネス・エバンジェリスト/株式会社バグ・コーポレーション代表取締役


1964年東京生まれ。『デジタルコンテンツ白書 (経済産業省監修)』編集委員、プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰、「Start Me Up Awards」オーガナイザー。SION、村上“ポンタ”秀一、佐山雅弘、村田陽一などの実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、SweetVacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始め、パネルディスカッションのモデレーターやコンテンツ系ITサービスへのアドバイザーとしても活躍している。著書に、『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)、『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/リットーミュージック)、『プロ直伝!職業作曲家への道』(リットーミュージック)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(SPACE SHOWER BOOKs)、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(リットーミュージック)がある。
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「ソーシャル時代に音楽を売る7つの戦略 〜 音楽人が切り拓く新世紀音楽ビジネス」
実業者が占う音楽の未来 音楽は無料(タダ)になる?
『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』著者:山口哲一、松本拓也、殿木達郎、高野修平

 

高野 修平(たかの・しゅうへい)
トライバルメディアハウス


デジタルマーケティング会社トライバルメディアハウスにてシニアプランナー / サブマネージャー / 音楽マーケターとして所属。音楽業界ではレーベル、事務所、放送局、音響メーカーなどを支援。音楽業界以外にも様々な業種業態のコミュニケーションデザインを行っている。日本で初のソーシャルメディアと音楽ビジネスを掛けあわせた著書『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネス新時代-』、『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』を執筆。メディア出演、講演、寄稿など多数。2014年4月18日に3冊目となる『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング-戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法-』を出版。また、THE NOVEMBERS、蟲ふるう夜に、Aureoleのマーケティングコミュニケーション、クリエイティブディレクターも担当している。M-ON番組審議会有識者委員。
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『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング-戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法-』
『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング-戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法-』

  1. ストリーミング元年にならなかった2014年、時代を動かすニューミドルマンの養成が急務!
  2. 高野修平がコミュニケーションデザインするTHE NOVEMBERSの戦略
  3. デジタル、ソーシャル、テクノロジーの3つ、そして音楽愛
  4. 音楽の有料化、マネタイズについて

 

ストリーミング元年にならなかった2014年、時代を動かすニューミドルマンの養成が急務!

山口:残念な1年だったね。

高野:デジタル元年とはならなかったですね。

山口:2014年後半はストリーミング時代に向けて、レコード業界が動き出したのは大きな変化でしたね。それがLINEミュージックという会社ができた事だったり、サイバーエージェントとエイベックスとの新会社であったりに代表される動きで、期待したいです。

僕の出自がマネージメント側ということもあって、「レコード会社主導で本当にうまくいくの?」という疑問はあるのですが、何はともあれ動き出したことはよかったなと思っていますね。

「ニューミドルマン養成講座」を始めたのは、日本の音楽業界のデジタル対応の遅さへの危機感が動機です。人を育てるというとおこがましいんだけど、情報を共有して、刺激を与えて、新しいマネージャーやIT起業家のスターが出てきてくれないと現状は変わらない。そういう動きを促進することで現状を打破していきたいと思いました。それから、従来の音楽ビジネス、業界の良いところもたくさんあるので、良い部分は残していく、守っていくためにも新しい血が必要だと思っています。

既存の発想で蛸壺の内側を見ていると悲観したくなるけれど、ちょっと俯瞰して外から見ると、面白いことが山ほどあるのが日本の音楽業界だと思っていて、高野さんは、まさにマーケティングの分野で音楽業界、音楽ビジネスの「ニューミドルマン」だと思ってますよ。

高野:ありがとうございます。僕は純粋な音楽業界の人間ではありません。ただ、デジタルマーケティングはもちろん、クリエイティブのところで音楽に恩返ししたいと常々思ってます。

僕は普通に生きていれば音楽業界に関わることはまずなかったと思うんです。ポイントポイントでは機会はあったかもしれないですが、間違いなくいまのようなスタンスではなかったと思います。つまり、音楽好きの普通のリスナーだったはずの人間です。それが(山口)哲一さんだったりいろんな人との出会いで、仕事を頂けるようになった。それは本当にありがたい限りで。

じゃあ、僕がニューミドルマンだとして、何が音楽に対して貢献できるのか、恩返しできるのかといえば、それはやはりコミュニケーションデザインの部分かもしれません。僕ができたらいいなと思うことは、やはり「音楽業界を拡張していくこと」で、それは今がダメというわけじゃなくて、もっといろんなブランドや業界の人が入ってくると活性化すると思うんです。もちろん音楽への愛があるというのが前提です。音楽へ愛を持ったいろんな業界の人が、音楽を媒介にして拡張していくことで、もっと多くの可能性が生まれると思います。音楽がもっと文化として根付いて、聴かれてアーティストにも還元されてっていう世界は、もっと多くのトライブを巻き込んでの拡張がないと難しい。それはただのタイアップとかではなくて、そういう思考やマインド、音楽愛を持った人がどんどんニューミドルマンとして入ってくること、そうすれば音楽の世界は面白くなると思います。そして、その立ち位置はレコード会社だけとかプロダクションに限らなくてもいいのかもしれません。

 

高野修平がコミュニケーションデザインするTHE NOVEMBERSの戦略

山口:僕が高野さんに初めて会ったのは、3年半くらい前だけど、この3年半の高野さんの活躍は凄いですね。最近やっているTHE NOVEMBERSについてはどんな立場で、どんなことをしているか話してもらえますか?

高野:コミュニケーションデザイナーとして関わっています。もちろん曲作りなんかはしないですが、メンバーやマネージャーと一緒にこんな音がいいんじゃないの? こんなライブハウス回ったらいいんじゃない? とか。リリース日程を決めたりもします。そして、メインの仕事である音が上がって、それをどう届けるか? というプロモーション戦略も含めたコミュニケーションデザインを考えます。

THE NOVEMBERS「TO-Y」上條淳士描きおろしアーティストイラスト第1弾
THE NOVEMBERS

山口:昔からの言葉、音楽業界の言葉でいうとプロデューサーだね。

高野:音づくりには関わってないので、プロデューサーとはあまり自分では言わないですね。

山口:なるほど。従来の「プロデューサー」定義で言うと、レコーディングを仕切っているか、予算を握っているかどちらかですからね。

高野:そうですね。たぶん、シングル単位やアルバム単位ではなく、THE NOVEMBERSというバンドが単位になっているからだと思います。例えば、2014年11月のSTUDIO COASTでのツアーファイナルは大きなことだったと思います。バンドとしては、2014年はフジロックにも出演しましたし、確実にステップは上がっていきていると思います。CDだけじゃなく、彼らの総合的なコミュニケーションをデザインして、どこに結果を残せるかという事を考えます。

山口:「ニューミドルマン」は尊敬する田坂広志さんの著書からの引用です。音楽業界にはこれまで、マネージャーとかA&Rとかコンサートプロモーターとか、いろんな職域があるんだけど、もう区別していることに意味がなくなってきていて、一度ガラガラガッチャンしないとダメだなと。今までの役割分担、職域なんかも見直して、ノウハウや常識を共通するものに再構築したいと思っています。

一方で、ITジャーナリストとかで、アーティストとユーザーが直接やればそれで済むという意見の方も多いようですが、僕はその種の意見は間違っていると思っていて、アーティストとユーザーの中間に一つは職域が必要なんです。「ニューミドルマン」という言葉に、僕としてこの2つのメッセージを込めています。そういう意味で、高野さんの言う「コミュニケーションデザイナー」っていうのは、まさにニューミドルマン的なポジショニングだと思う。

高野:でも、それはあくまで「名前」として存在してないだけで、実際にやられている方は数多くいらっしゃいます。やっぱり僕の師匠と思っている方たちはレコード会社にも、プロダクションにもいらっしゃいますし。ただ、「コミュニケーションデザイナー」という職種についての「名前」はなかったかもしれないですね。

山口:これまでも成功したほとんどのプロジェクトには、その役割を担う人はいたんだと思います。優秀なマネージャーは、コミュニケーションデザインのかなりの部分をやってきていると思うし、プロジェクトによっては、レコード会社のA&Rの方がやっていたり、アーティスト本人がやった場合もね。ただ、その職域だけフォーカスしてやる人は今までいなかったですね。

THE NOVEMBERS ライブ写真 撮影:タイコウクニヨシ
THE NOVEMBERS ライブ写真 撮影:タイコウクニヨシ

高野:いまはTHE NOVEMBERSに限らずライブ演出なんかにも関わるようになってきて(笑)。でも、コミュニケーションってそういうことですよね。例えば、バンドのコミュニケーションをデザインするとしたら、CDプロモーションだけでコミュニケーションは完結しないし、ライブだけも同様です。お客様やファンがバンドと接するすべてのところにコミュニケーションデザインが関わってこないと成立しないはずなんです。そして、その中にデジタルだったり、ソーシャルがあったりすると思います。

そうなると、さきほど言ったとおり、曲のコミュニケーションデザインではなくて、THE NOVEMBERSのコミュニケーションデザインをすることになります。コミュニケーションデザイナーは「物語を翻訳する」仕事だと思っています。この「翻訳」という言葉は、THE NOVEMBERSのヴォーカルの小林祐介くんが言ってくれた言葉なんです。でも、言われてみればその通りで、音楽であれ、スポーツシューズであれ、お弁当であれ、そこにはアーティストの想いや企業、ブランドのメッセージがあります。それをいかに魅力的に、素敵にファンのみんなや新しいファンを作るために、世の中へ打ち出すとき、どう「翻訳」するかなんです。なので、すべては物語をどう描いていくかに尽きると思っていて、その物語にハマるという条件の中で、デジタルやテクノロジーを必要とあらば使っていきます。

THE NOVEMBERSの2014年10月に発売したニューアルバム「Rhapsody in beauty」で言えば、これはSpotifyで世界先行をやりましたが、なぜSpotifyなのかだったり、世界先行なのかという理由も物語に合ってないと成立しないと思うんです。物語がなければ、それは奇抜や突飛で片付けられてしまう。やっぱりどんなに新しくても面白くても、物語を描いていく中でマッチさせることができなければ組み込むべきではないんですね。同様にさきほどのTHE NOVEMBERSのSTUDIO COASTライブでは、Beaconというテクノロジーを使ったり、ミュージックビデオでは見る人や環境によって映像が変わるというこれまたテクノロジーを使ったものを作ったり、結局それらは何なのかと言えば、それは全て楽曲に紐づいてる物語なわけです。そういった彼らの想いを素敵に届けるコミュニケーションをデザインするってことが僕自身もワクワクしますし、楽しいです。そして、このような機会と環境を与えてもらっているTHE NOVEMBERSに感謝ですね。

THE NOVEMBERS「Romancé」ミュージックビデオ
THE NOVEMBERS「Romancé」ミュージックビデオ

 参考記事:音楽ビジネスには何が足りない? 高野修平×THE NOVEMBERS

 

デジタル、ソーシャル、テクノロジーの3つ、そして音楽愛

高野:僕がありがたいと思うのは、僕が所属しているトライバルメディアハウスという環境は音楽以外の仕事もやっているということです。仕事柄、音楽以外のお仕事もとても多いので、様々な業種、商品のコミュニケーションデザインをすることがあります。そっちで得た知見を音楽に持ってきたり、またその逆もあったり。それが面白いです。

山口:特にB to Cの企業が、ユーザー、消費者とのコミュニケーションに楽曲やアーティストを使うことはすごく重要ですし、チャンスがある。本当はマネージャーやレコード会社のプロモーターが、そこをやらなくちゃいけないんですが、なかなか難しい。そこで、マーケティング畑の高野さんのような人がどんどん活躍してほしいし、音楽ビジネスにもそういう発想が広まっていってほしい。

高野:THE NOVEMBERSのツアーファイナルSTUDIO COASTでのライブで、Beaconを使ってるんですが、リクルートホールディングスとアライドアーキテクツという会社に組んでもらっているんです。誰もが知っているわけではないバンドに上場企業が力を貸してくれたんです。しかも、それはどちらの世界に片一方が組み込まれるのではなく、並列のバランスで。そういったのも、音楽業界を拡張させることだと思いますし、それぞれの強みを持ち寄ってできる新しいことはたくさんあると思うんです。

 参考記事:THE NOVEMBERSとコミュニケーションデザイナーが仕掛けた、新たなライブの在り方

「MUSICIANS HACKATHON」2014年11月29日、11月30日
2014年11月29日、11月30日に行われた「MUSICIANS HACKATHON」の様子

山口:音楽家が、本当は一番イノベーターでなければいけないし、かつてそうであったと思うんですよ。いつのまにか、IT起業家の方がイノベーターになってしまった。U2やOasisよりスティーブ・ジョブズやザッカーバーグの方が革命的っていうのは悔しいです。

昨年の11月末に僕が主宰した「ミュージシャンズ、ハッカソン」では、日本人音楽家のイノベーション能力を見せつけられました。浅田祐介をキャプテンにそうそうたるミュージシャンやサウンドプロデューサーが参加して、プログラマーと一緒にチームを組んでやったハッカソンです。24時間でサービスのプロトタイプをつくりました。これが凄かったです。プログラマーは音楽家と一緒にできるという喜びや刺激があるし、ミュージシャンたちはプログラマーたちを異業種のクリエイターとしてリスペクトする。素晴らしいコミュニケーションが生まれて、翌日から何十年の仲間のようになってた。

 参考記事:音楽ハッカソンから生まれる音楽制作の新たな可能性

高野:Facebookとかで見ていて、山口さんは、何故、このイベントに僕を呼んでくれないのかなと思ってました(笑)。

山口:ごめんなさい(笑)。1月にもフォローアップイベントやるので見て欲しいです。面白いものがいっぱい出てきている。業界ごと、シーンごとに蛸壺化してしまっているのを溶かして掛け合わせていく事は大事だと改めて思いました。

これからの時代の音楽ビジネス活躍するニューミドルマンはコミュニケーションデザインの技術は身につけた方がいいよね。それは昔からの音楽業界でもそうだったし、これからは更にそうだね。

高野:今までのやり方は当然必要だと思いますし、すごく尊敬しています。すごいなー!って思うことが本当にたくさんあります。その中で、今後はデジタル、ソーシャル、テクノロジー、PRがひとつポイントではあると思います。それだけじゃないですが、それらを含めた形で包括的に描くのがコミュニケーションデザインかなと思います。

山口:デジタル、ソーシャル、テクノロジーの3つに長けていく、そして音楽愛がある、これがニューミドルマンにとって必要な事ですね?

高野:必要だと思います。もちろん自分が使っていなきゃいけないし、知ってるだけでは意味ないですけども。

山口:その通りだと思います。強く同意です。

「MUSICIANS HACKATHON」2014年11月29日、11月30日
2014年11月29日、11月30日に行われた「MUSICIANS HACKATHON」の様子

 

音楽の有料化、マネタイズについて

ニューミドルマン養成講座 記念対談 山口哲一×高野修平

山口:日本とアメリカはマーケット状況が違う。アメリカはパッケージがiTunes Storeになって、iTunesがSpotifyになった。だからCDの代わりがSpotifyと言う話になるのは理解できるのだけど、日本はiTunesが広まらず、着うただけで、その着うたが無くなり、パッケージは結構粘っている。そこにストリーミングが入ってくるのだとすると、ストリーミングは全然CDの代わりじゃなくて、むしろラジオとかジュークボックスの進化形と捉えたい。

今、CDを買っている人はコレクションの喜びやアーティストとの関係性の証として購買しているのがほとんどだから、ストリーミングが始まったら買わなくなるということは無いと僕は思っている。むしろ、音楽を知る機会が増えることで、刺激があって、ストリーミングの普及はパッケージにプラスの方が大きいと思ってる。ストリーミングは宣伝になるし、お金になる。フリーミアムが他の国でも機能して音楽ビジネス全体にいい影響を与えている。

マネタイズについては、ストリーミングに、パッケージとライブエンタテイメントという3本柱があって、それぞれ太くしていく事になるでしょうね。「ビジネスマネージャー」の視点で、この3つのバランスを戦略的に考えないと。映画でいうウィンドウ戦略と似ていますが、ノウハウを積み上げる必要があります。

事務所サイドが、一番やらなくちゃいけないのは、ファンクラブの再構築ですね。ソーシャルゲームを研究すべきだと思ってます。今のファンクラブって、どのアーティストもほぼ同じで、年間6000円位の会費を払って、ライブの優先チケット買えます、会報送ります。囲いこみ型のビジネスモデルにしていて、あなた方だけに特別な情報渡しますといったもの。これが時代に合わなくなっている。

これからは、アーティストを宣伝してもらうチームに参加してもらいながらお金を払ってもらうというモデルに変えなくちゃいけないし、金銭的に貢献したい人は、何10万円でも好きなだけ払ってもらって、その人たちがアーティストの存在や楽曲を広めていく。

高野:エバンジェリストのことですよね?

山口:そう!ファンクラブ会員にはアーティストの魅力を伝えるエバンジェリストになってもらうという考え方にするのが本質だと思います。エバンジェリスト活動の中でアイテム課金的なものでお金を使う人も出てくるし、貧乏でお金はあまり使わないけどすごく応援してくれる人もいる。そんなコミュニティにするというファンクラブの改革必要ですね。

ファンクラブをエバンジェリストチームに改革した上で、ストリーミング、ライブという体験、そして、モノと3つを上手に組合せてマネタイズしていくという例を作りたい。アーティストのタイプやユーザーのターゲットによって作戦は全然違うと思うけど、新しいアーティストで成功例を作りたい。そういう考え方のチームがいたらヘルプしたいです。

高野さんは、これからの音楽家のマネタイズについてはどう考えてますか?

高野:基本的には同じ意見で、まず3本柱があって、とは言え、ストリーミングとCDは一部を除いてはそんなに儲からないだろうと思っています。

山口:どっちも?

高野:それは、どっちが食い合う事とかではなくて、世の中的にということです。

山口:音源ビジネス自体が、そうはいってもつらい、ということですね。

高野:本当は払ってほしいですけどね。まず、基軸はライブエンタテインメントになると思うんです。間違いなく。物販も含めて。でも一番改革すべきは、仰るとおりファンクラブだと思うんです。それは、僕は3年前の処女作『音楽の明日を鳴らす』でも書いたのですが、プロ野球球団型にしようと。年会費5000円で終わりじゃなくて、2000円とか500円とか1000円とか。それに見合う対価、インセンティブをプレゼントする。例えば、僕は西武ファンで西武沿線に住んでいますが、じゃあ、西武球場行きたいけど、年間そんなに行けるわけではない。熱烈な西武ファンかと言われれば、そうでもない。それで5000円のファンクラブ会費払うかというと払わないわけです。回数そんなに行けないし、別に生きがいレベルではないので。だけどファンの熱量の階層が分かれていて、2000円とかの会員があるんですね。いまがどうかはちょっとわからないですが、だいたい2000円だと内野席のチケット2枚とスペシャルジャージかなんかもらえる。これだと全然ペイできると思っちゃう。これだったら俺払えると。ってことは、5000円だと払わないけど、2000円で払ったってことは、その3000円の中には大きな機会損失の可能性あるということです。

音楽ビジネスは、既存アーティスト含めて、マーケティング3.0ではないですが、ファンクラブ2.0、3.0にしていかないといけないと思います。ファンクラブはアーティストのビジネスでいえばベースに当たります。なので、ここをしっかりと安定稼働させてこそ、いろんなことが出来るのかなと思います。まだまだ良くするところが沢山ある中で、ファンクラブは、その最たる例だと思います。
リンク:「音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-」

山口:最後に2015年に期待することはありますか?

高野:大きなところはストリーミングを世の中ゴトにさせたいです。当たり前に地方の子たちが、YouTubeを見るようにLINEミュージックでも何でもいいんですけど、ストリーミングを使うっていう風になってほしい。

山口:そうするとみんなが自然にソーシャルで話題にする機会も増えるしね。

高野:アナログレコードが改めて売れているみたいな話もあるようにCDがなくなることは絶対ないと思うんですけど、世の中の流れ的にデジタルになっていって、ストリーミングになることは絶対避けられない話だと思います。だったら、それがLINEミュージックでも、Spotifyでもいいし、それがどこでも、結果的にそこらへんに歩いている普通の女の子が普通に使うようになってほしい、そういう年になってほしいなと思っています。

山口:ありがとうございました。講座でまた、深く掘り下げた話をしたいですね。色々教えてください!

高野:こちらこそありがとうございました。よろしくお願いします。

ニューミドルマン養成講座 記念対談 山口哲一×高野修平