新しい音楽と出会えるミュージック・プレイヤーアプリ「Groovy」 — 株式会社DeNA エンターテインメント事業本部本部長 島田智行氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

島田智行氏
島田智行氏

今春、DeNAはスマホ用音楽プレイヤーアプリ「Groovy」の提供を開始した。インターネット事業を主に手がける同社による音楽業界への参入ということで話題を呼んだ同アプリは、音楽プレイヤーとしての使いやすさ、好みの曲がつぎつぎと集まってくるミュージック・インタレストグラフ、チケット制を採用したハイブリッド型音楽配信という、3つの大きな特徴を備えている。今年に入り、日本でも様々な新しい音楽サービスがスタートしている中、DeNA エンターテインメント事業本部本部長の島田氏に、その戦略、サービス詳細について話を伺った。
(取材・文・写真:Jiro Honda)

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DeNA
Groovy
Groovy iPhone版
Groovy Android版
[2013年5月1日 / DeNAにて]

——Groovyは今春にローンチされたばかりですが、現在の状況はいかがでしょうか?

島田:Android版を3月28日に、iOS版を4月17日に提供を開始しました。ネット上も含め、まだ大々的なプロモーション展開はしていませんが、おかげさまでユーザーは順調に増えてきています。

ユーザー属性の特徴としては、我々が思っていたより若いユーザーにご利用いただいていますね。10代・20代が、それぞれ約30%ずつを占めています。やはり若い方はスマートフォンで音楽を聴くというのが日常的な体験なので、その層にリーチすることはできているのかなと思います。

——IT業界から音楽業界へ参入と言われていますが、Groovy開発のきっかけというのは?

島田:スマートフォンにおいてゲーム以外の事業を考えた時に、改めて「スマートフォンを使ってみんな何をやっているのか?」について調査したんですね。すると、コミュニケーションサービスやゲームに次いで「音楽を聴く」という行為が多かったんです。

そういう部分に対して、我々が今まで培ってきたインターネットビジネスおよびソーシャルゲームビジネスのノウハウを組み込んでいけば、ユーザに新しい価値も提供できるのではないか、というところからGroovyの元となる企画が2012年の春ごろに始まりました。

——事業の全体的な座組みを考えた時に、音楽事業を抱えていた方が良い?

島田:ユーザーに対して多面的に接点を持つことができるというのはDeNAにとって良いことですので、トライしている状況ですね。

——開発の際に苦労されたところや、こだわった部分というのは?

島田:実際に本開発を始めたのは2012年の10月くらいからでした。Androidでの開発においてはいつもの事なのですが、やはりスペックやメモリ容量等の環境が端末によって違うので苦戦しましたね。徹底的にテストを繰り返し、いかに安定したアプリにするかには特にこだわりました。音楽再生アプリなのに、音楽を聴いている最中に落ちてしまってはそもそもユーザーに使ってもらえないですからね。 

 

groovy

——Groovyは音楽再生プレイヤーとして、優れたインターフェースを備えています。

島田:音楽再生プレーヤーアプリとして継続的に使って頂くのが、このプロジェクトの第一の優先順位です。まずは「Groovyは使いやすいし新しい曲に出会える」というイメージを持っていただきたいと考えています。

——まず音楽再生プレイヤーとしてのポジションを築いていくと。てっきり斬新なチケット制が一番のウリなのかと。

島田:チケットの部分だけでビジネスをしようとは考えていません。アラカルトダウンロードもあわせ、将来的にはさらに他のモノを販売したり、新しい音楽に出会う場所というのも含めて、音楽再生プレイヤー兼メディアというポジションを目指しています。

——音楽プレイヤーとしてのアプリですが、楽曲配信の部分では、アラカルト販売とチケット制のストリーミングという少しユニークなメニューを用意されています。チケット制に関して、島田さんは先日の記者発表で「マーケティングした結果、聴いても聴かなくても同じ値段を払うなら、チケットのカタチの方がユーザーフレンドリー」と説明されていましたが、サブスクリプションではなく、どうしてチケット制を採用したのかもう少し具体的に教えてください。

島田:先ほど冒頭のユーザーの半分以上を占めている若年層は、特に端末ローカルに曲を持っているんですね。彼らに対して、いきなりそのローカルで聴くという行為を捨てて、月額1,000円近く支払ってもらい、クラウド上のライブラリで聴き放題な環境に移行してください、というのは結構ハードルが高いなと感じたんです。

——お小遣いも限られていますしね。

島田:それもありますし、すでに「音楽を聴く」という行為自体はしているので、そこから新しい曲に出会うという体験をレコメンドやソーシャルな機能を通じて提供し、その際にカジュアルに曲が聴ける環境を提供するというのがユーザーにとって一番心地よいのではないだろうか、という仮説の上で取り組んでいます。

誰かからレコメンドされた曲を聴く時に、登録していないユーザーに利用料で1,000円近い金額を支払っていただくのは難しい部分もあるなと。それよりはハードル低く、安い価格で制限をもって(※ 99円/17枚セット、1枚1回ストリーミング再生)楽しんでもらう場を作るのが、モデルとしては良いのではないかという判断ですね。音楽は無料ではないという、習慣づけも含めて。

——今後チケット制からプランが細かく分かれていくというのは?

島田:チケット制とアラカルトダウンロードのハイブリッドが、最適なバランスであろうという判断ですので、今のところそのプランを増やす予定はないです。

——Musicman-NETまわりでも今さかんに話題になるのが、「音楽との出会い方」という部分でして。音楽との接点を考えた時、Groovyには「好みの曲がつぎつぎ集まる」ソーシャルなミュージック・インタレストグラフという特徴があります。

島田:やはり単に「曲を聴ける」とか「曲を入手できる」ということでは他のサービスと差別化できないですよね。

現在のユーザーに枯渇しているであろう体験というのは、昔でいうラジオやテレビの音楽番組や、ドラマのタイアップを通じて曲を知る・出会うというようなことだと思うんです。

そういう体験が、極端に減少してきている状況ですので、日常の中で新しい音楽にどれだけ簡単に出会うことができるか、という部分をサービスのコアバリューとして定義しています。 

 

——IT企業として楽曲使用の交渉などで、音楽業界とのやりとりは大変でしたか? それとも、むしろやりやすかった?

島田:市場が厳しいのに加え、海外からの黒船に対する危機感もみなさんお持ちでしょうから、我々のようなインターネット企業が新しいリソースを投入し、市場活性化のために一緒に企画してくという事に対しては、市場発展のために共にトライアンドエラーをしていきましょうという前向きなスタンスで、現在もご協力いただいています。

——楽曲提供社のリストをみると、ボカロミュージックまで幅広いですね。そういう幅の広さは意識されましたか。

島田:売れている曲と実際ユーザーが聴いている曲には、ギャップがあると思うんですよ。そういう意味でGroovyは自分が聴いている音楽を他のユーザーに聴かせるということがきちんと出来るように、幅広い曲のアグリゲーション/品揃えを意識しています。例えば、ボカロ曲は、一般的なイメージ以上に若いみなさん実際聴いていますしね。そういう風に、各ジャンルの文化も理解した上で取り組んでいます。

——最近は、音楽を聴くスタイルが本当にみんなバラバラだと思うんです。日本において新しい音楽配信サービスはどれも高い技術で素晴らしいクオリティのものを提供していると思うのですが、リスナーはまだまだそこと乖離している感も否めないかと。

島田:どうしたらマス化するかということですよね。

——若いリスナーは、音楽雑誌もネットに移行が起きている中で「音楽との接触」において空洞化の部分に置かれちゃっている感じもするんですね。そこで、日本においては新しい音楽配信各サービスのみなさんがいきなり食い合うよりも、まずはそのサービス群が一体となって「こういう音楽との出会い方があるんだよ」と啓蒙というか働きかけをしていただくというのもありなのかなと感じています。

島田:当然、他社さんと協力して出来る部分があれば、是非それはやっていきたいなと思っています。

——競合サービスを訊こうと思ったのですが、恐らくまだ日本では競合云々という段階じゃないですよね。

島田:先ほどの話しにもありましたが、新しい音楽サービスを使ってるユーザーのパイが、全体でまだまだ少ない状況です。従って、まずは競合云々の前に市場を広げなければならないフェーズだと思っているので、コンペティターを意識して「よそがこういうスキームでやっているから、うちはこうやろう」というのは考えていないです。

——10代だと、サブスクリプションという言葉さえも「?」という感じでしょうしね。

島田:そうだと思います。

——地方とかにもしっかりリーチするようになったら、すごく面白くなってくる気がします。

島田:まだ、テッキー(先端テクノロジーが好きなユーザー)な層がメインな感じもあります。有料サービスであれ、広告ベースでやるサービスであれ、デジタルの領域でも音源の二次利用の領域でも、ちゃんとマネタイズされるビジネスじゃないと、コンテンツ業界および作り手にちゃんとお金が還流されず、コンテンツの創造サイクルが停滞してしまうのはマズいと思います。

Groovyはまだチューニングをしてプロダクトに磨きをかけている最中の段階ですが、コンセプト自体はそう外れてはいないはずなので、長い目で見ていただければと思います。

あと、ロゴがかわいいとひそかに評判なので(笑)、スマートフォン向け音楽サービス「Groovy」をぜひダウンロードして使ってみてください。

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