【クリエイティブディレクター・小橋賢児氏×エイベックス・坂本茂義氏】伝統文化の常識を覆したSTAR ISLAND、日本発のエンターテインメントを世界へ

インタビュー フォーカス

左から:坂本茂義氏、小橋賢児氏

5月26日、東京・お台場海浜公園にて未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND 2018」が開催された。

STAR ISLANDは、日本の伝統的文化である花火と3Dサウンドをはじめとした最先端のテクノロジー、ショーパフォーマンス、ライティングなど、様々なコンテンツを融合、革新的に進化させた世界初の花火エンターテインメントとして新たな地位を確立している。

今回、総合プロデュースを務める小橋賢児氏 (リアル株式会社代表取締役/クリエイティブディレクター)、統括プロデュースを務める坂本茂義氏(エイベックス・エンタテインメント株式会社 アライアンス本部 エリア・イベント事業グループ ゼネラルマネージャー)に、2回目の開催を終えたSTAR ISLANDにかける想い、海外展開への展望、エンターテインメントに求められるものについて話を伺った。

  1. お台場はチャレンジの舞台
  2. 「STAR ISLAND」という概念を世界に
  3. 余白が与えるイマジネーション
  4. 気づきのきっかけの場所に
  5. お互いの信頼が作り出すもの
  6. 「なぜ」から生まれたプロジェクト

 

お台場はチャレンジの舞台

伝統文化の常識を覆したSTAR ISLAND、日本発のエンターテインメントを世界へ

――2回目のSTAR ISLANDを終えてしばらく経ちましたが、手応えはいかがでしたか?

坂本:1回目は長期的なビジョンを見据えた中で新しいチャレンジを行いましたが、今回は自分たちが描いているビジョンに沿った形でイベントを開催できたことで、その先の可能性が見えたというのはありますね。

――可能性、というのは具体的にどのようなことでしょうか?

坂本:例えば海外展開や企業とのパートナーシップなどです。あとはユーザーがどんな感動体験をしていくのか、ユーザー自身のポテンシャルの可能性ですね。

なかなか表に感情を出さない国民性がある中で、2回目ではより感情をすぐに表現する様子を観ることができたので、もっと新しいことにチャレンジして、ユーザー自身に新たな感動体験を提供することができるのではないかと思いました。

小橋:あと、1回目はラッキーだったんじゃない? と思われがちで。よく映画でも、続編はだいたいコケるとか、1回目を上回ることはないとか、そういった厳しい目もあり初回の感動を超えるプレッシャーがとても大きかったです。

それとチームが一度離れてしまうので、手探りでやっているときの初々しさと情熱みたいなマインドも含めて、その人たちをまた1つに戻す作業も大変でした。

――東京都や行政とも長い期間をかけて調整してきたそうですね。

小橋:お台場自体すごくチャレンジングな場所で、陸域、海域、空域ともに管轄が異なり、それぞれの観点からの意見があるので、各所と信頼関係を築くのには時間がかかりました。それでも、イベントの趣旨や概要を丁寧に説明して協議を重ね、理解をして頂くことで無事に開催することができました。これから世界へ行けばもっと多様な考え方があるわけですから、その中でどうやり繰りしていくかですよね。

それに国によっては音楽でさえ規制されるところもあるので、こういったチャレンジが新しいイノベーションになり、逆境をどうポジティブに転換していくか、ということは常にありますね。

――では、パッケージ化はなかなか難しいということでしょうか?

小橋:どのエンターテインメントでも、そのままパッケージというわけにはいかないです。柔軟性を持ってローカライズしていかないと、これからはどの世界においても難しいと思います。

 

「STAR ISLAND」という概念を世界に

伝統文化の常識を覆したSTAR ISLAND、日本発のエンターテインメントを世界へ

――STAR ISLANDは海外でも開催予定と伺っています。企画当初から海外展開も視野に入れていたのでしょうか?

坂本:おかげさまで、多くのオファーをいただいております。今回は外務省の大使の方に非常に高い評価をいただけたので、これまでの努力が結果に結びついたと感じています。

僕はSTAR ISLANDを1つの概念のように捉えています。クリエイティブって時間が経過していく中でアップデートされていくものだと思うのですけど、その中でSTAR ISLANDという概念が、世界各地で行われていくものだとイメージしています。

小橋:変化していくものですよね。世界中にある音楽イベントも、最初は自分たちが好きなことをある意味反骨的にやっていたことが、ある日突然世の中の人に認められて、それが文化になっていく。

例えばSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)も最初は音楽フェスだったのが、今はテック系のカンファレンスの要素が大きくなっていますし、僕らもSTAR ISLANDが海外に行くことで変化していける。

僕たちが僕たちのままで世界に行くというよりは、この概念を持って世界に行くことで、僕らにはなかった新しい発想を持つ人たちと出会って、その中で新しいものに変化していくということに意味があると思います。

 

余白が与えるイマジネーション

伝統文化の常識を覆したSTAR ISLAND、日本発のエンターテインメントを世界へ

――海外のショーは詰め込み型で迫力がありますが、STAR ISLANDには余白のようなものを感じて、そこに日本の良さが反映されているような気がしました。

小橋:テクノロジーって映像の方が派手で進化を感じるので、どうしてもそっちの方向に行きやすいんですけど、僕らが着目したのは音なんです。

3Dサウンドを取り入れることで自分たちの想像力、イマジネーションを創り出すことができる。この余白の部分を全部与えてしまうと、僕らの答えを押しつけているような感覚がするんですよね。

だから、どう観方を変えるかというのも自分次第で変わっていく。イマジネーションを起こさせる場所を提供することによって、「こんな観方もできるんだ」という気づきが生まれますよね。

坂本:そういった作り手の想いってなかなか伝えることが難しいですよね。何かがアップデートされた時に、スピーカの数がどうとか、来場者数が何人とか、どうしても定量的な数値が目立ってしまいがちで。

数字が重要なことも理解できるのですが、そこのプライオリティはそんなに高くなくて、結果論としてそうなっただけの話だったりすることが多いんですよ。

なので今回の様に回数を重ねていくことで、本来は伝わるとベストだった作り手の想いも伝わっていくのかなとも思います。

 

気づきのきっかけの場所に

伝統文化の常識を覆したSTAR ISLAND、日本発のエンターテインメントを世界へ

――STAR ISLANDはどのような想いがあって始めようと思われたのですか?

小橋:「気づきのきっかけの場所を作りたい」と思ったところからですね。そこから生まれてきたアイデアの1つとして、STAR ISLANDの開催へと繋がっていきました。

こういったイベントって日常の中にある非日常で、様々な境遇の人たちが集まってくるわけです。その人たちが新しい感情に出会ったり、人に会うことで元気をもらったり、そこから気持ちが切り替わることによって、自分の中で新しい何かを生み出すことが大事だと思っていて。

そんな非日常が1日でもあれば、その日にかける熱量、ここに関わるスタッフの熱量はとんでもないものになりますし、それを期待して来る人の想いも重なってくる。ここから始まる体験価値に僕は意味があると信じています。

――そういった気づきを提供できるのが、エンターテイメントの醍醐味といえますよね。

坂本:気づくことはとても重要なポイントですね。ここ最近、色々な方々と話す機会があって「最近、何に感動しました?」と聞くと結構みんな考えるんですよ。

高校生の時はパンクロックじゃないと認めない(笑)とか偏屈な子供だったのですが、ある日、雨上がりに歩いていた時に水たまりに油がキラキラ浮いているのが目に入って。

その光景が凄く印象に残っていて、世の中ってほんの少しのきっかけで心を開くと綺麗に見えるんだって、ちょっとした気づきがあったんですね。

そうなったら拘わることも大切なんだけど、そこに閉じこもっているのが馬鹿馬鹿しいなって思うようになって、物事に対して一気にオープンになりました。

――STAR ISLANDというイベント自体を知らなくても、お台場付近にいれば花火があがっているのを見て、何かに気づくきっかけになっているのかも知れませんね。

小橋:そもそも、都会のど真ん中であんな巨大な爆音を鳴らせることって不思議じゃないですか? 花火は昔からあるから当たり前のように感じているけど、それこそ非日常の体験ですよね。

それに想いを込めて作ったものが一瞬で消えていくので、花火には刹那的に何かを感じさせる美学がありますよね。

坂本:対岸で花火を見て気づくこともあるけど、ビームが対岸から飛んでて「あれ何やっているんだろう?」「こういうことをやっていたんだ」ということから新しい気づきにもなりますよね。見たままで一番わかりやすい所だけど、その1つ1つに気づきのきっかけがありますから。

 

お互いの信頼が作り出すもの

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――お2人は長い期間、一緒にお仕事されていると思うんですけど、ビジネスパートナーとしてどういった印象をお持ちでしょうか?

小橋:坂本さんは大企業の人でありながら、良い意味で大企業らしくない人ですね。会社にとってリスクにならないようにするのが普通だと思うのですが、それを超えてくるというか…僕が気を遣って提案することを「何いってんだよ、いっちゃおうぜ!」って逆に背中を押してくれるような感じで(笑)。

もちろん、全体の統括をなさっているので、僕らに見えないお金の部分とか苦労されてると思うんですけど、そういう部分を超えてついて行きたくなるような真っ直ぐさとチャレンジ精神、そしてパンクロック精神(笑)を持っている所を尊敬しています。

坂本:(笑)。

小橋:でも、ちゃんと未来に対してワクワクさせる感覚も持っていますよね。「仕事だからこうでしょ?」って感情無しに切ってくるものではなくて、感情を元に仕事をしていると思うので「ここは張るべきでしょ」って僕の感覚に対しても理解をしてくれています。

――それは小橋さんを信頼しているからできることでもありますよね。

坂本:もちろん、賢児のことはすごく信頼しています。未知の領域に対してきっちり自分の意見を言ってくれる所がクリエイターとしても尊敬できるところですね。

ULTRA JAPANのチームの中では色んな発言をするので、クレーマーディレクターと呼ばれているんですけど(笑)。

小橋:組織図にそう書かれてて(笑)。

坂本:僕は全くそういう感じはしないです。チームの中で新しい音を追求するとか、技術の部分でのバージョンアップに対して物事の本質を貫き通す作業を当たり前のようにやっていくんですが、お客さんが会場を歩くときに「どんな風に体験するのか?」「どんな感動を求めるのか?」って考える人って案外少なくて、一方通行になりがちなんですよね。

そういった色々な人の立場になって考えていった時に、物事の本質がどこにあるのを追求しているのが賢児だったんです。

ちょっとしたことが気になるということはよくあるのですが、そこに対しての追及の仕方は僕らも学ばなければいけない所や、再発見した所もいっぱいありましたから、そのきっかけを与えてくれる人としても貴重な存在ですね。

 

「なぜ」から生まれたプロジェクト

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――子どもの頃って当たり前に「なんで」と思う好奇心や、疑問を持つじゃないですか? そういった物事の本質を追求することって、年齢を重ねていくにつれて面倒で後回しになってしまいがちですよね。

小橋:僕の場合は俳優時代に周りの目があったり、仕事の関係だったり、俳優という立場を言い訳にどんどん自分の感覚みたいなのものが閉じていったんですね。

「なぜ」を考えることよりも周りの世界に自分がはまっていく感じ。そこから抜け出して自分で新たな人生を作っていこうと思ったときに、「なんでこれができないんだろう」ってことがいっぱいありすぎちゃって(笑)。

それは否定の「なぜ」じゃなくて良くなるための「なぜ」で、そこに気付かないことが多くて「世の中ってこうだから」「ルールだから」と自分の中で知りもしないで決めちゃうことって多いですよね。

例えばSNSも1つのコミュニティで、その中で自分が正しいのか、間違っているのかということ自体「それが本当の気持ちなの?」って改めて考えてみてほしいです。

その1つのコミュニティから外に出ると、今まで当たり前だったことが「なぜ」となり、疑問が生まれていく。それこそエンターテインメントも、世界で提供できているのに「なぜ、日本で出来ないのか」「なぜ、やらないのか」という風に自分の枠を広げていくと、もっと出来ることって必ずあるはずなんです。

この「なぜ」が無かったらお台場を貸し切りにしないですし、ULTRA JAPANも地方の一番安いところでやっていたと思います。東京のど真ん中で、興味なかった人たちが、友達に連れられて行ける距離で触れる異空間の体験にすごく意味がある気がしています。

とはいえ、無謀なことを言っているわけじゃないですよ(笑)。出来ない中でも何が良いかを追求しましょうってことです。

――最後にエンターテインメントを提供する側として、どういうマインドを持つことが大切だと思われますか?

坂本:繰り返しになってしまいますが、気づけることがすごく重要ですね。世の中は色んなもので構成されていて、他の人から見たら全然違う観え方かもしれない、ということまで考えられるかだと思います。

小橋:アイデアって発想みたいにおりてくるイメージですけど、結局は気づきですよね。

例えば、苦手だと思っている人に話しかけてみるとか、興味の無かったものにトライしてみるとか、普段とは違う視点になれば気づきや疑問が生まれてくる。そういう出会いとストックみたいなものが重なって新しいクリエイティブが生まれてくるので、そこをいかに心がけているかですね。

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