Sou
YouTubeチャンネル登録者169万人、Xフォロワー数約64万人を持ち、インターネットシーンを拠点に精力的な活動を続けるボーカリストSou。彼のワンマンライブ「Sou LIVE 2025『水想レグルス』」が10月19日、東京・豊洲PITにて開催された。同公演は2015年12月にリリースされた1stアルバム『水奏レグルス』の10周年を記念した一夜限りのプレミアムライブ。それを目撃するため、全国各地から数多くの観客が集まった。
10年前のSouの声と、今のSouの声のユニゾンのライブタイトルコールの後、宇宙や夜空を想起させるSEとともにバンドメンバーが登場し、それに続いてSouが現れる。「あの頃にやり残したことを、今日はここでやりにきました! よろしくお願いします!」と高らかに告げ、『水奏レグルス』の1曲目である「右に曲ガール」でこの日の幕を開けた。小気味よいリズムに乗せて軽やかかつエネルギッシュに歌い上げると、そのまま「疑心暗鬼」へなだれこむ。挑発的なダンスビートを味方につけてクールにグルーヴを作り、続いての「恋愛裁判」では一転、色気と爽やかさを併せ持つボーカルで豊かにサウンドを彩る。彼が様々なジャンルの楽曲を歌唱できる手腕を持つボーカリストであることを、冒頭3曲から強く印象付けた。
「泣いちゃいそう」と話す彼は、フロアの隅々まで観客で溢れるフロアを見渡して感謝を告げる。そして「10年前から聴いてくれている人も最近知ってくれた人も楽しめるライブになっている」「たくさん歌うので覚悟しておいてください」と今回のライブについて語り、「ケッペキショウ」「ダーリンドール」と疾走感のあるロックナンバーをたたみかけて会場の熱気を上げる。すると“歌ってみた”のキャリアをスタートさせた初投稿楽曲「独りんぼエンヴィー」へ。アンニュイなムードと感傷性、ユーモアが混ざり合ったボーカルとサウンドが心地よくフロアを揺らすと、「虚空腹家の憂鬱」でさらにその空気を濃くし、「サリシノハラ」では切実な歌声が観客一人ひとりの胸を締め付けた。
今回のライブのテーマが「“あの頃”に帰ろう」であること、当時リリースライブができなかったことが心残りだった旨を明かすと「『水奏レグルス』以外の曲も歌います」と告げ、「ハイドアンド・シーク」を歌唱する。クラップやワイパーで観客と心を通わせ、「夏が終わる風の音」で切なさと爽快感を彩度高く描くと、ロックバラード「心做し」へ。楽曲の世界の奥深くに没入して歌詞に綴られた思いを隅々まで鮮明に歌に昇華し、その後の「あやとり」では悲しみに優しく光を当てるように歌い、「メリュー」では様々な感情をカラフルなボーカルで表現する。Souが10年前も今も楽曲の本質や感情の機微を繊細なタッチで彩れるボーカリストであること、だからこそ長きにわたり数多くのリスナーの心を掴んでいることを痛感するセクションだった。
今回のセットリストを組むなかで、過去の自分の歌ってみた投稿を聴き返したというSouは、10年間で変わったところと変わらないところがあると話し「忘れていた初心を思い出していくような感覚」と充実感のある穏やかな表情を浮かべる。すると「新世界LIVE」「ドーナツホール」「イノコリ先生」とアッパーな楽曲をたたみ掛けて会場のテンションを上げ、そこからドラムでシームレスにつないだ「思春期少年少女」では、楽曲の繊細さや感傷性を失わないままに清涼感に富んだボーカルを響かせ、行き場のない思いで張り裂けそうな思春期の少年少女の心情を体現した。
今回のセットリストは「もしリリース当時に『水奏レグルス』のライブが開催されていたら」と仮定して組み、2015年頃までに歌ってみた動画を投稿した楽曲で構成したという。「10年越しに『水奏レグルス』のライブをやろうと思わせてくれたのは、ずっとこのアルバムを忘れずに聴いてくれて、色褪せないままにしてくれたみんなのおかげ」「この景色をあの頃の自分に見せたい」「感慨深い」と再度喜びと感謝をあらわにし、「さかさシンドローム」「ショパンと氷の白鍵」「未来景イノセンス」と素直で真摯な気持ちを歌に込める。「StarCrew」で純度の高い真心に富んだ歌声で壮大に会場を包み込むと、本編ラストは「世界寿命と最後の一日」。センチメンタルでポップな楽曲をより際立たせた歌唱で、余韻を残したままステージを後にした。
「Q」でアンコールをスタートさせると、Souは「ここからは10年の時を経てたどり着いた最新の僕をお届けします」と胸を張り、まず8月にリリースしたmekakusheからの提供曲「ブルースクリーン」を披露する。少年のような純朴さを感じさせる歌声で聴き手の胸をくすぐると、続いてはおいしくるメロンパンのギターボーカル・ナカシマからの提供曲「千里眼」を初公開する。しなやかな力強さがほとばしるドラマチックなロックナンバーで、Souのボーカルの強みを存分に活かした楽曲だった。
「メモリアルなライブにしたくて曲を詰め込んだんだけどあっという間だった」と今日のライブを振り返ったSouは、「歌詞は“聴き馴染みが良ければいいんじゃない?派閥”な自分が、みんなに伝えたい思いや思っていることを歌にしたいと初めて思って書いた曲」「MCでかっこいいことを言えないので、曲を聴いて感じてください」と告げ、Sou自身が作詞作曲し、higmaとともにアレンジを担当した「Terminal」を披露した。ライブならではのバンドサウンドとデジタルサウンドが融合したアレンジは、ネットシーンとバンドシーンどちらの音楽にも恋焦がれてきた彼を象徴するようだ。歌詞にしたためられたメッセージとソフトで清らかな歌声は、ファンとともに今後もさらなる旅に出ようと呼びかけるような、夜明け前の高揚感にも似た瑞々しさだった。
全26曲というライブでの過去最多曲数を披露したSouは「本当に本当にありがとうございました! また絶対会おう~!」と言い残し、ステージを去った。すると告知ムービーにて2026年1月放送のTVアニメ『アルネの事件簿』OPテーマを担当すること、栗山夕璃が作詞作曲を担当した「Q.E.D.」という楽曲であることが発表され、フロアからは大きな歓声と拍手が起きた。メジャーデビュー10周年の節目に原点を振り返り、初心を取り戻すと同時に新たに広がる自身の世界を堂々と示したSou。今後さらに彼の作り出す音楽世界は深みを増してゆくだろう。過去と未来のターミナルのような一夜だった。
撮影=川崎龍弥
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