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眞名子 新 無限の可能性を感じさせ心地良い余韻を残した、ツアーファイナル渋谷公演をレポート

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眞名子 新

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眞名子 新『野原では海の話を』リリースワンマンツアー
2025.9.12 渋谷クラブクアトロ

シンガーソングライターの眞名子 新が、2025年9月12日(金)東京・渋谷クラブクアトロにて、『眞名子 新『野原では海の話を』リリースワンマンツアー』のファイナル公演を開催。満員のファンと一体となる大盛り上がりのライブで、ツアーを締めくくった。

自身初となるフルアルバム『野原では海の話を』(5月14日リリース)を携えて6月13日渋谷La.mamaを皮切りにスタートした今回の全国ツアー。12箇所にしてファイナル公演となるこの日はソールドアウトとなり、フロアにギッシリと観客が詰めかけていた。

開演時間を迎えて場内が暗転。「本日は、『眞名子 新『野原では海の話を』リリースワンマンツアー』にお越しいただき、誠にありがとうございます」と、アナウンスが流れ出した。どうやら眞名子本人の声ではなさそうだ。「どうも初めまして。そうでない方は改めまして、森山直太朗です」。なんと、森山直太朗による影アナだ。どよめく観客たちに「どうも~」と、飄々とした名調子で語り出す。「さあ、素晴らしいステージ、そしてオーディエンス。舞台は整いました。彼の前髪くらい、整いました。それでは、大いに歌っていただきましょう。令和が生んだカントリー野郎、眞名子 新! 拍手!」。

ユーモアたっぷりの影アナを受けて、陽気なバンジョーの音色を中心としたカントリーソングのSEが流れる中、眞名子とバンドメンバーがステージに登場。「令和のカントリー野郎、眞名子 新です! よろしくお願いします!」と森山からのバトンを受けて歓声に応えると、目を閉じてアコースティックギターを確かめるようにダウンストロークしながら「台風」を歌い出した。眞名子のマネージャーでもあるドラマー・谷朋彦がマレットでタムを叩き地響きを鳴らすと、ベースの稲葉航大(Helsinki Lambda Club)が加わって、台風の進路のごとく突き進む。ここ数日、ゲリラ豪雨に見舞われて不安定な東京の天候をリアルに想起させるオープニングとなった。

「ありがとう! 眞名子 新です! よろしくお願いします!」。改めて挨拶すると、加速して「ライリーストーン」へ。実兄・motoki manakoが描く《ライリー》(イライラ)《ストーン》(投げる)という造語による歌詞を、性急なカントリーサウンドに乗せて早口で歌うと、一気に沸き立つ観客たち。「まだまだいけますか!?」と呼び掛けると、「ラジオ」へと続く。歌い、コーラスしながらフロアを眺める眞名子をクラップで盛り立てるオーディエンス。令和のカントリー野郎の面目躍如なハイテンポな2曲で惹きつけると、早くもアルバム表題曲でツアータイトルの「野原では海の話を」が飛び出した。太いベースのリフが牽引する3拍子のリズムに乗って歌われる、どこかの誰かの心情に想像力が膨らむ。ハーモニカを吹き曲を終わらせると、続く「A2出口」ではエレキギターに持ち替えた。地下を徘徊するようなどっぷりと暗いブルースが、直線的で強烈なビートに乗せて歌われる。“ha~”とコーラスの合間に挟み込まれるハイトーンのスキャットが、より深く曲の世界へと誘った。

MCでは、「今日はアルバムツアー千秋楽。みなさん、たくさんアルバムを聴いてくれたことをひしひしと感じています。ありがとうございます」と観客に感謝すると共に、冒頭の森山直太朗による影アナはサプライズだったことを明かし、「ありがとうー!」と、この日は海外にいるという森山にも感謝を示した。

稲葉がウッドベースに持ち替えた「川沿い」で温かい歌と演奏を届けると、出身地・神戸のバーの歌だという「ナスティ・ハウス」へ。弾き語りの前半から、ドラム、ベースが加わりシンプルな演奏で《客はまばらなナスティ・ハウス》の情景を描く。曲が終わるとすぐさまギターを弾き始めた眞名子が《あなたのことを 考えすぎて》と歌い出したのは、「マシかもしれない」。綺麗なメロディ、侘しさや寂しさが漂う歌声に淡々としたリズムが寄り添う。間奏の歯笛が、より一層もの哀しさを感じさせて、心に染み入る1曲となった。その空気感は、続くアルバムからの曲「諦めな、お嬢さん」へと続き、ゆったりとした中での3人のアンサンブルが心地良く響く。

次に歌う「灯り」を紹介するMCでは、兄が書いた歌詞に当初はあまりピンと来ていなかったものの、最近になり歌詞がとても響いており、「自分にとって大切な曲」になったことを明かしてから歌い出した。リズミカルな3フィンガーを弾きながら歌うと、バンドが一体となり走り出して、照明がステージを明るく照らし出す。人生の機微を思わせる歌詞が、爽快な演奏と歌でじんわりと熱く伝わってくる。曲が終わると大きな拍手がステージに送られた。柔らかくも力強い「一駅」では、最後に《眠らないでいて》とロングトーンのシャウトを聴かせて、フロアから歓声が沸き起こった。

バンドメンバーを紹介すると、「もう1人、高校の同級生です」と、キーボードの喜瀬弘望を呼び込んで、「きみたちおなじかおしてる」を披露。コール&レスポンスでドッと盛り上がり、演奏のブレイクではベース、鍵盤、口笛を挟むなど、メンバー間の雰囲気の良さが音から伝わって来る。「健康」ではシャッフルに手拍子が加わって、さらに肩の力が抜けた楽しさが場内を包んだ。

ドラムのカウントから始まった「網戸」で、そんな緩やかなムードが一変。まさに緊張と緩和の落差の激しい、疾走感溢れる演奏に俄然気分が昂る。夏の匂いを感じさせるどこか切ない旋律と感傷を振り払うような激しい演奏を、オーディエンスもクラップで煽る。1番を歌い終えた眞名子が「せ~の!」と呼び掛けると“Ah~Ah~”とコーラスが広がっていき、「最高!」と叫んでギターと歌だけになる落ちサビを歌いバンドが加わると、演奏にも俄然熱がこもって聴こえた。歌い終えると、「いやあ、気持ち良いですね! 600人の“Ah~Ah~”を聴いたことがないので。うれしいです!」と、笑顔を見せる眞名子。季節を全力で駆け抜けたような、エモさ満点の名演だった。

「あと1曲になりました」と告げると、「ええ~!」と上がった声に、「……あと3曲です」と、アンコールを含めた曲数を正直に申告する眞名子に笑いつつ喝采を送る観客たち。こんな親しみやすいキャラクターへの人気も、この日ソールドアウトした理由の一つだろう。本編最後は、「今回のアルバムの核となっている曲で、この曲ができたからアルバムができたな、というような曲になっています」と紹介された「出自」。スポットライトを浴びながら、丁寧にアコギの単音を鳴らし、しんとした場内に言葉を置くように歌っていく。ミラーボールが回り、ハーモニカの音色が壮大な景色を描いた。

アンコールのMCでは、6月から始まったツアーを振り返り、「その間にも『フジロック』とかへの出演もあって、今日はいろんなところで観て来てくださった方がいらっしゃっていると思います。本当にみなさんのおかげで、今日ここに立ててるなという感謝の気持ちでいっぱいです。まだまだ兄と2人で曲をいっぱい作ろうと思いますし、このチームでたくさん曲を歌っていこうと意気込んでおります。もう明日とかには書き始めていると思うし、またリリースしたいなと思ってますので、是非楽しみにしていてください!」。そう意気込みを伝えると、喜瀬と2人だけで、ピアノに合わせてギターを弾かずに「リビング」を披露。優しいピアノの演奏をバックに、阿吽の呼吸で聴かせた迫力の歌声が空気を震わせて、改めて眞名子の歌唱力、表現力に感動させられた。

谷と稲葉を呼び込むと、眞名子に促されて、メンバーそれぞれがお客さんに感謝しながら、ツアーを振り返ってひと言。

「去年のリリースツアーでは、ここの1/3ぐらいのキャパでやって、そこも一応ソールドアウトできたんですけれども、その瞬間にすぐ「クアトロに行こう!」って押さえました。でも、正直こんなにお客さんが来ると思わなかったです。ありがとうございます。また面白いことをいっぱい考えたりするので、そのときはまた是非来てください」(谷)

「僕は東名阪だけの参加ですけど、合流したときから仕上がりまくっていたので、これはすごいことになるぞと思って、すごいことになりました」(稲葉)

「初参戦ながら温かく見ていただいてありがとうございます。高1のときから眞名子君はすごく人を惹きつけるものがあって、ずっと憧れだったんですよね。こういう形で、たくさんのお客さまにお迎え入れてくださって、めちゃくちゃ楽しい思い出をみなさんと共に作れて、本当に良かったです」(喜瀬)

「以上、4人でお送りしました。今日は本当にみなさん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」。眞名子の言葉から続いた最後の曲は、直球のカントリーソング「さいなら」。客電も明るくなり、ステージとフロアがひとつになる中、ド迫力のハイスパート・サウンドが炸裂。“うぉ~!”と爆発的に盛り上がる観客たちに向かって、《ここから始まるの》と繰り返し歌う眞名子。その姿にこれから広がっていく無限の可能性を感じさせて、心地良い余韻を残したツアーファイナルのエンディングとなった。

取材・文=岡本貴之 撮影=タケシタ トモヒロ

 

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