INORAN、ライブの魅力を徹底追求した「TOUR 2018 “Override 66”」スタート

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ライブという表現に拘り抜いた新作「Override」をリリースした、INORAN。彼の全国ツアー「TOUR 2018 “Override 66”」が、9月14日の東京・新宿BLAZEからスタートした。

ライブ当日の新宿は、今年の記録的な猛暑が嘘のように、もう秋の気配を感じる涼しさだったが、会場のBLAZEには満員のオーディエンスが集結し、開演前から強い熱気を帯びていた。

開演時刻、ダンサブルなエレクトロニカのBGMが流れる中、聴衆の大きな歓声を受け、INORAN、Yukio Murata(g)、u:zo(b)、Ryo Yamagata(ds)がステージに登場。EP作「Somewhere」収録の疾走感溢れるロックナンバー、「REDISCOVER ON ANOTHER」でライブはスタートした。

昨年のツアー「SOLO 20TH ANNIVERSARY TOUR-INTENSE/MELLOW」は、メロウな世界観のインスト曲「Come Away With Me」でスタートしたが、今回のオープニング「REDISCOVER ON ANOTHER」のロックらしい力強いグルーヴは、前回とは全く違った世界観を見事に描き出し、今回のセットリストの印象をガラリと変える劇的な効果をもたらしていた。

このイントロの出音で確信したが、今のバンドのエネルギッシュさは本当に凄い。INORAN、Murata、u:zo、Ryoによる現在のバンド編成は6年以上続いてきたもので、作品をリリースしてツアーをする度に、驚くべき成長を遂げてきた。

筆者は、そんな彼らの目覚ましい進化の過程を見てきたが、今、この会場に轟く躍動感溢れ、生命力に満ちたバンド・サウンドは、もう「凄まじい」の一言でしか表現できない。INORANとMurataのスリリングかつ表現力豊かなギターワーク、u:zoとRyoの野生的でダイナミックなリズム、どの音もクールでとにかくカッコ良いのだ。

その後、「Awaking in myself」「grace and glory」という、近年ライブ前半の鉄板となる4曲が披露された。これらは、どれもINORANのピュアで、ストレートなロックさを証明するナンバーである。MCで、INORANが「ヘイヘイ東京、約1年振りにこのバンドで帰ってきました。4曲目だけど満足しちゃったよ。いや、んなワケないか(笑)」と、ジョークを交えて心境を語っていたが、そのコメントも納得なほど、開始4曲の説得力と演奏は圧倒的なものだった。やはりこの感覚は、ライブでしか味わえない、最高に至福な瞬間である。

INORANは、MCで「1年振りのツアーでさ、今こんなことを言うと不謹慎に思われるかもしれないけど、俺はこのツアーで嵐になろうと思っているんだ。音のね」と話していたが、この「ロックな音の嵐」というワードが、今回のツアーの鍵になることは間違いない。

新作「Override」(通常盤)は、映像盤とCD2枚組で構成されており、INORANの“ライブに対する情熱”がたっぷりと詰まっている。本作に収録された、新曲の「I’m Here for you」と「Turn It Around」は、INORANがこのツアーにおいて、オーディエンスと共に歌いたいという、強い想いを込めて作ったナンバーだ。

「Override」について、INORANは「ライブという行為の中で皆の声がもっと欲しくて、そういう想いから生まれたもの。彼らの声を受けて、導かれるように“その先”が続いていくと思う」と語った。

その言葉通り、「I’m Here for you」と「Turn It Around」は、どちらもライブでオーディエンスの声を求める曲だ。リラックスしたムードの「Turn It Around」は、激しい初期衝動を宿した前半パートから、オーディエンスの声がさらに求められる中盤部分でプレイされ、スピーディで疾走感溢れる「I’m Here for you」は、終盤のライブ恒例となる「Get Laid」のオーディエンスとのシンガロングの後で披露され、会場のボルテージをさらに盛り上げる役割を果たしていた。

実際、MCでINORANが「他のバンドのライブも観に行くんだけどさ、ファンも凄かったぜ。ウチらの場合はまぁこんな感じなんだけど(笑)。でもさ、お前達に歌ってほしいから、新曲は絶対に一緒に歌ってくれよな」と語っていたが、この2曲のシンガロングは今後のツアーにおける、大きなハイライトとなるだろう。

その後、INORANは「ライブって良いね。昨日は早く寝すぎちゃったよ(笑)。でさ、そこからライブ、MC、ツアーのことを色々と考えたけど、全部吹き飛んだよ。そんなことを考えるよりも、とにかく皆のハートを掴みたいから」と、語りかける。そんな気持ちが込められた彼らの演奏に、会場のオーディエンス達も全力のレスポンスを返し続ける。

“オーディエンスと共にライブを全力で楽しむ”というテーマを掲げて、ライブで新たな試みが行われたのが、中盤に披露された新曲「adore」だ。ツアーに向けて書かれた未発表のこの新曲を、INORANはこのライブで敢えてデモのイメージのまま演奏するというチャレンジをした。そして、ツアー各会場のオーディエンスの反応を感じた後に、そこから得たイメージをまとめて曲を完成させるという。

また、この曲ではu:zoがドラム、Ryoがギター、Murataがベースと、INORAN以外のメンバー全員が、メイン以外の楽器に持ち替える演奏上のサプライズがあり、その大胆な発想に会場のファンも大いに湧いた。

INORANは、MCで「ツアーのために4曲くらい書いたけど、この曲はデモ段階で演奏したイメージを基に、皆の反応を感じて形にしていきたいんだ。だから、ライブでバンドのパートを変えたら、もっとおもしろいものになる」と話していた。もしかすると、ラフスケッチのようなデモのイメージに、バンド・サウンドを近づける狙いがあったのかもしれないが、そんな従来と異なったアンサンブルの中で、INORANは雄弁にギターを弾いてバンドをリードし、エモーショナルにメロディを歌いながら、オーディエンス達の反応を確認し、何かしらの手応えを掴もうとしていた。

ライブを通し、バンドとオーディエンスがひとつになる喜びを追求した「adore」が、今回の「TOUR 2018 “Override 66”」を経て、どのような形に仕上がるか楽しみだ。

「adore」を終え、いよいよライブは終盤に向かう。ここでは、壮大なスケール感を持つロック曲「raize」から始まり、今やライブの定番となる名曲「Beautiful Now」、シンガロングで盛り上がる新曲「I’m Here for you」など、起承転結のメリハリが効いたナンバーが並ぶ。

その中で、今回筆者が心を強く揺さぶられのが、「INTENSE/MELLOW」でリアレンジされて生まれ変わった「raize」だ。「躊躇せず飛ばしてゆこう、諦めず信じて走ろう〜」という、サビのポジティブなメッセージが実に彼らしく、強く胸に響く。ライブの序盤にプレイされ、同じく「INTENSE/MELLOW」で新たなイメージで蘇った「Daylight」もそうだが、ストレートな日本語の歌詞だと、INORANならではの独自なワードチョイスの魅力が、より明確に伝わってくる。

ラストナンバーは、近年のライブで定番となっている「All We Are」。MCで、INORANは「最近思うんだけど、良いことも悪いことも辛いこともあるけど、今日1日をピークだと思ってみな。そうすると必ず乗り越えられるし、その先のピークも迎えられるようになるから」と語り、また「このツアーで、旅でドキドキしたい。でも旅をしていると、行った場所から家や自分の居場所に戻ることこそが、本当の旅だと思うようになった。最後の曲になるけど、この曲を歌って帰りましょう。気を付けて帰れよ」と、自身の気持ちをファンに語りかける。

そんな彼の想いに応えるように、「All We Are」では会場のオーディエンスから、一際大きなシンガロングが巻き起こった。バンドとファンを結ぶ強い絆が現れたこの感動的な光景を見たINORANは、ライブ終了後に「また必ずこの4人で会いにくるからな!」と次の再開を約束し、笑顔でステージを後にした。

これからINORANは、「TOUR 2018 “Override 66”」で、9月17日に梅田CLUB QUATTRO、21日に仙台darwin、24日に名古屋ElectricLadyLandを回り、自身の誕生日となる29日、品川Stellar Ballでツアー・ファイナルのファンクラブ限定公演、「-Tour Final-NO NAME? MEMBERS’ LIMITED LIVE-INORAN PREMIUM B-DAY-」を行う。

常にストイックな深化を続けるINORAN。そんな彼を象徴する言葉が、新作「Override」のドキュメンタリー映像の中にある。「ミュージシャンである前に、音楽ファンだと自分は思っているんですよ。朝起きたりとか、夜寝る前とか、なんかリラックスする時に音楽を聞くんだけど、昨日より今日の方が音楽を好きって思っちゃうよね」。

この彼らしい情熱に溢れる言葉に、筆者はINORANの強い音楽愛を感じているライブという表現に拘り抜いたこの「TOUR 2018 “Override 66”」を経て、彼が一体どんな音楽の“その先”を見つけるか、今からとても楽しみだ。

Text by 細江高広
Photo by ヤマダマサヒロ

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