株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ 代表取締役会長 原田 公一氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

原田 公一 氏
原田 公一 氏

株式会社ソニー・ミュージックアーティスツの所属アーティストが出演する同社主催イベント『ベストヒット☆SMA』が10月17日に開催される。同社は、これまでも自社イベントを数多く手掛けてきたが、今回は、新人からベテランまで多様なジャンルの音楽系アーティストが、渋谷・原宿エリアのライブハウス、ホール全10会場でパフォーマンスを行うライブサーキット形式での開催となる。このイベントの開催の目的や新たな試み、さらに、音楽業界の現状まで株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ代表取締役会長 原田 公一氏にお話を伺った。

原田 公一(はらだ・きみかず)
株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ 代表取締役会長


生年月日:昭和29年(1954年)5月9日

職歴

昭和52年(1977年) Music Unlimited Ltd.入社 南 佳孝 マネージメント
昭和54年(1979年) Music Unlimited Ltd.退社
昭和54年(1979年)9月 株式会社エイプリル・ミュージック入社 南 佳孝 マネージメント
昭和63年(1988年)3月 社名変更により株式会社CSアーティスツ 制作1部1課
平成元年(1989年) ユニコーン マネージメント
平成5年(1993年)4月 社名変更により株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ
平成18年(2006年)4月 株式会社Hit&Run 代表取締役 就任 執行役員社長
平成21年(2009年)4月 株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ 代表取締役 就任 執行役員会長

原田 公一bh_SMAs
→ クリックで拡大

——『ベストヒット☆SMA』は、どのような経緯で開催することになったのでしょうか。

原田:’09年に、独立していた6社のマネージメント会社が統合することになったんですが、3年間分社化していたこともあり、統合したのを契機にみんなで何かやりたいと考えていて、「文化祭が一番いい」と思ったのがきっかけですね。文化祭は学校周辺の方が外から来て、自分たちも出し物を作ることによって他のクラスともコミュニケーションがとれますよね。そういった交流ができればいいなと去年の12月に企画しました。

——最近、音楽業界は元気がないように感じるのですが、この『ベストヒット☆SMA』には非常にエネルギーを感じました。

原田:おかげさまでグッドセールスなアーティストもいますので、彼らを中心として色々と出し物を考えています。これまでもHit & Runがメインで90年代の頭ぐらいから『SMAちゃん祭り』、『SMAカーニバル』や『バリサン』などのイベントは行っていました。当時はフェスがない時代だったので、海外のロックフェスのように自然の中でイベントをやろうと、’92、3年頃からユニコーンを中心として『SMAちゃん祭り』を九州や東北で開催していたんですが、今回のイベントはそれを発展させたものです。

——今回は自然の中ではなく渋谷の街で、ということですね。

原田:ええ。うちの事務所は渋谷のキラー通りにあるんですが、この周りにはレコード会社やプロダクション、音楽出版社などが集まっていて音楽のストリート、あるいはティン・パン・アレーみたいな感じなので、渋谷をキーワードにしたいというのはありましたね。かつ若者達が集まる街でもあるので、そこで何か同時に仕掛けられればいいなと。

——これは所属アーティスト数が多いから出来ることでもありますよね。自社だけでお祭りができてしまうなんて。

原田:そうですね。会場を1つにしちゃうと出演できないアーティストが出てきますし、新人が大きな会場に出演してもプレッシャーでいいパフォーマンスができなくなってしまうこともあるので、そういう意味もあって今回は小屋のサイズも大小フレキシブルに取り揃えました。逆に小さい小屋に民生さんが出て行ったりしたら、そこにいるお客さんはビックリするだろうといったサプライズがあるんですが。それに全社員をあげて取り組まないといけないと思ったので、できるだけ場所が多い方がいいかなと思いました。

——チケットはどのくらい前に発売されたんですか?

原田:一般発売は9月の初旬ですが、モバイルでプレオーダーを9月前から受け付けていました。おかげさまで渋谷C.C.Lemonホールは売り切れています。

——ほぼ全会場がソールドアウトしているんですか?

原田:ON AIR系とかはまだ少し残っていると思います。そこは1会場1会場じゃなくて、リストバンドで5ヶ所をどこでも見て回れるというフェス形式なんですが、そのやり方がちょっとユーザーに伝わりにくかったのかなと思っているんですけどね。

——延べ動員数はどれくらいになるんですか?

原田:8,000人くらいです。だから武道館1回やるのと同じくらいなんです。

——フィナーレはC.C.Lemonホールに出演アーティストが集結するそうですね。

原田:はい。イベントのテーマソングがあるんですが、それをみんなで合唱する予定です。ちょっとそのへんが臭いっちゃ臭いんですけど…(笑)。

——いや、楽しいと思います(笑)。徳光和夫さんがこの中に入るんですよね。

原田:そうですね。徳光さんと奥田民生さんはSMAの顧問なので、徳光さんには司会をやっていただこうと思っています。

——今後、このイベントが定例化する可能性あるんでしょうか?

原田:今回は全アーティストということですが、先日、SPARKS GO GOという北海道出身のバンドのデビュー20周年記念イベントを彼らの地元である倶知安で行ったんです。SPARKS GO GOのほかにチャットモンチーやユニコーン、OKAMOTO’S、真心ブラザーズ、PUFFYなど所属アーティストが出演して、お客さんも4,500人くらい集まってすごく面白かったので、例えば『ベストヒット☆SMA』のピックアップメンバーで、全国ツアーというのもありかなとは思っているんです。昔、ボブ・ディランがやった「ローリング・サンダー・レヴュー」みたいに、サーカス団が回るようなイメージでできればいいかなと思っているんですけどね。

——今、ライブイベントに力を入れているのは、昨今のCD不況を補うという意味合いもあるんでしょうか?

原田:元々SMAはライブに強いアーティストが所属しているので、自然発生的なものかなと思います。業界はCDの売上が減少してきていますけども、SMAとしてはライブを強化するというよりは、始めからライブ中心でしたね。

原田 公一2

——『ベストヒット☆SMA』におけるUSTREAMやTwitterとの連動など、メディアとの新しい試みについてお聞かせ下さい。

原田:我々はエンターテイメントビジネスをやっていますので、伝える方法として使えるメディアがあるなら全部やっていこうと思っています。ただ、分配などはっきり決まっていない部分もあるので使えないものもあるんですが、それでも可能なところはやっていこうとは思っています。USTREAMはライブ自体は無理ですが、ライブが始まる前までのお客さんの盛り上がりは当然伝えて良いわけですから、その辺を中継することによって現場にいる感じを味わっていただこうと思っています。

——『ベストヒット☆SMA』のiPhoneアプリがあるそうですが、これはどういったものなんですか?

原田:これは事前の盛り上げみたいなことも含めて、当日のタイムスケジュールや事前のアーティスト情報など、このイベントに関する色んな情報を得られるアプリです。実はSXSWが今年からアプリを作っていまして、それがとても良かったので「これを作ったらどうだろう?」とネットチームに見せて作ってもらっていたんですけど、それがやっと完成しました。当然無料で配布します。

 今やUSTREAMやTwitter、mixiと色々と情報発信できるので、その全てに対応しておかないと置いていかれちゃうという感じはあるんですよ。Twitterに関しては当日、10会場で呟く人間を配置して、それぞれの会場でどんなことが起こっているかをリアルタイムで更新していきます。一応ホールに一人ずつチーフマネージャー=「番長」がいるんですが(笑)、その二番手くらいがずっと呟いています。

——お客さんもリアルタイムで情報を得ながら各会場を回っていくんですね。

原田:そうですね。例えば、「ON AIRのこのスペースが空いているので入れます」とか「この会場は今入場規制がかかっています」とかそういった情報も出せるので、Twitterをやっている人には便利かもしれないですね。

——ちなみこのイベントの採算的なものはどうなんですか?

原田:採算はとれないですし、初めからそれは考えていないです。

——最終的にDVDにするとかそういったことも考えていない?

原田:それは権利的な部分で難しいですね。あまりにも各アーティストが各レコード会社に分かれているので・・・でもクリアにしていきたいとは思っていますから、まず素材を撮っておこうとは思っていますけどね。

——先ほどお話に出てきたテーマソングもCD化はしないのですか?

原田:これも権利の問題でCD化はできないので、当日ライブに来ていただいたお客さんには、会場のポスターにあるQRコードから「着うた」を無料でプレゼントすることになっています。

——先ほど「一丸」と仰っていましたが、このイベントをやることによってSMA社内の士気も上がるんじゃないですか?

原田:うーん、どうなんでしょうね。「面倒臭い」と思っている奴も当然いるとは思うんですが(笑)、そのへんは・・・査定で更生させていこうかと(笑)。

——(笑)。

原田:それは冗談ですが、このイベントに関して約一年間、月一で打ち合わせをやっていたので、初めの頃は僕も知らない社員もいたんですが、だんだん分かってきたとか、SMA全体としてまとまってきていると思います。

※「着うた」はソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標です。

原田 公一メイン2

——今、SMAは何アーティスト抱えてらっしゃるんですか?

原田:音楽系が70組、お笑いなどを含んだ非音楽系が60組くらいで、随時動いているんですがトータルで130〜140組くらいだと思います。特にお笑いは出入りが激しいですね。

——マネージャーも最近はなかなか定着しないそうですね。やはりマネージャーは厳しい仕事なのでしょうか?プライベートな時間が少ないと・・・。

原田:ライブなんかやるときは、レコード会社の人たちはだいたい夕方の6時くらいに来てライブを観て9時くらいには帰るんですけど、僕たちは朝の9時から仕込みなのでだいたい朝8時半くらいから会場に行って、バラしが終わるのがだいたい夜の10時〜11時。その後打ち上げに出て…みたいな生活をずっとやってきたのでもう普通になっちゃっていますからね。でもそれを若い人に言うと驚かれるんですよ(笑)。それでバタバタと辞めていっちゃう。もちろん残っていく素晴らしいマネージャーもいます。ローディーから入ってマネージャーになる人もいるし、ローディーから舞台監督とかになっていく人もいます。ただ最近の若い人は難しいですよね…特にここ3〜4年は定着率がよくないですね。

——やはり「マネージメントという仕事は厳しい」というイメージが若い人たちにもあるんじゃないでしょうか。でも、マネージャーこそアーティストと最も近い目線で仕事ができますし、他のあらゆる業種と接するチャンスも多く、正に音楽ビジネスの中心に位置する重要な仕事だと思うのですが。

原田:そうなんです。マネージャーという仕事は本当に面白いんですけどね。こんなに面白い仕事はないと思うんですよ。自分の担当しているアーティストが売れていく楽しさと言いますかね。マネージャーはアーティストと対等という本来の関係が結べたら素晴らしいんですけどね。

——どんなタイプの人が向いているんでしょうか?

原田:人間関係のハーモニーが作れる人がいいんですけど、それがなかなか難しいですよね。あと、アーティストが「自分は売れないな」と思ったときに「マネージャーになりたい」と考える人がいたらいいと思うんですけど、それもあまりいないんですよね。そこで「マネージャーやらせてください」って言われたら僕はOKしようと思っていますし、80年代ぐらいまではそういう人がいたんですけどね。それと業界の見通しが暗いと感じているからか、自分の将来を考えると腰掛け的な感じで入ってくるというか、バイト感覚なんでしょうか。ぜひマネージャーという仕事を通してこの業界をひっぱっていってやろうと本気で立ち向かってくれる若者を熱望しています。

——ちなみに原田さんと言えばユニコーン、奥田民生さんのマネージャーさんというイメージが強いんですが、最初はどなたをマネージメントされたんですか?

原田:最初、南佳孝さんを担当していました。それで’89年ぐらいからユニコーンを担当して、ユニコーン解散後の奥田民生さんぐらいまでですね。それ以降は管理っぽいことをやっていますけど、現場にはずっと行っていますし、今でも僕はOKAMOTO’Sとか若いバンドのマネージャーだと思ってますけどね(笑)。

——やはりマネージメントサイドも、今のCD不況の影響を受けていますか?

原田:もちろんそうですね。でも、やはり興行はエンターテインメントの原点だと思うので、それをどう複製していくか、どう広めていくかということです。配信が伸びているといっても、その配信音源は圧縮してるわけですから完全とは思えない。その圧縮という部分はもう少し時が経てばもっと良い形になると思うので、今はこらえて、僕たちは原点たるライブをどんどんやっていこうと思ってます。

——ライブはコピーできないですからね。

原田:そうなんです。中国もそういう感じですよね。中国ではCDは海賊版が普及しちゃったのでCDは売れなくなっちゃったんですけど、興行からあがる金額は莫大だそうです。国民の数も多いですから。

原田 公一4

——SMAのアーティストが今後海外のマーケットに進出する予定などは?

原田:PUFFYは2000年のSXSWに出演して、その後カートゥーンネットワークでアメリカに広がったので、どうしても活動はアメリカ中心でアジアの方にはあまり行ってなかったんですが、ちょうど先月ぐらいに香港・台湾に行って来たんですよ。行ったのは11年振りだったんですが暖かく迎えていただいて、これは今後すごい可能性があるなと思いましたね。

——アジアは有望なマーケットですよね。

原田:そうですね。なにせ人口が多いですし、あとアジアの場合はある程度、ルックスも同じですから入り込みやすいと思います。また、昔は中国の音楽っていうとベッタリとしたバラードみたいな曲調が多かったですけど、この頃はリズミックなものが増えてきました。ここ10年間でジャニーズさんやエイベックスさんがライブなどを行って日本の音楽を広めていただけたので土壌はできていると思います。

——海外で日本の音楽が花開く日も近い?

原田:はい。日本でマーケットがシュリンクしているならマーケットを外に広げればいいだけの話ですからね。チャットモンチーやOKAMOTO’Sといった新しいバンドはSXSWなんかを利用してアメリカやオーストラリアの方に出て行ってます。

——韓国は初めから海外を視野に入れてますよね。

原田:スウェーデンのABBAみたいなものですよね。スウェーデンも小さい国なので、70年代にABBAをヨーロッパに売り出した。韓国は少女時代みたいなK-POPを売り出してますけど、僕らにもJ-POPがあるので。J-POPの場合はヨーロッパの方が先に火が付いていますが、それをアメリカと南米、そしてアジアに持っていけばいいと思っています。

——日本の音楽業界もそのあたりから突破口をみつけて活気を取り戻してもらいたいですね。一方で新人発掘、開発もコンスタントにやられてるのですか?

原田:そうですね。SMAはソニーミュージックのSD部門を利用させていただいているというのもありますし、独自の音楽のオーディションと女優、タレントのオーディションを年4回ぐらいやっています。今はちょうどマイスペースと共同で実施している『プリプロ』というオーディションを審査しています。『プリプロ』は今年3年目でずいぶん定着してきました。

——成果はあがりつつありますか?

原田:第一回目の『プリプロ』のファイナリストに選ばれたザ・ビートモーターズは、SMA内のSMALLER RECORDINGSというレーベルからリリースしていますし、同じくファイナリストに選ばれたオズは、ユニバーサルからデビューしたばかりです。

——SMAとしての今後の予定は?

原田:来年以降もさっき申し上げました『ベストヒット☆SMA』に出演するアーティストのピックアップメンバーで複数の地方をまわってイベントなどを開催したいと思っています。そういうことで地方の音楽シーンにも活力を与えられればいいかなと思います。

——こういうイベントの開催をきっかけに、SMAに所属したいと考えるアーティストが増えそうですよね。

原田:イベントをやってどう伝わるかによりますけれど、メディアでイベントの存在を知って、『ベストヒット☆SMA』のピックアップメンバーのイベントが地元で開催されるというときに「行ってみよう」となってくれればいいかなと思いますね。そこには当然メジャーアーティストと新人アーティストの両方を出そうと思っていますので、新人アーティストをその場で観て、好きになってくれて…というように繋がればいいですね。新人の底上げをしたいというところが根底にありますので。

——新人アーティストのアピールの場であり、ファン獲得の手段にもなりうるということですね。

原田:そうですね。アーティストの方々からも、「そういうアーティストがいる事務所なんだ」と知ってもらってSMAのオーディションに応募してもらいたいと思いますし、奥田民生さんとか、ユニコーンがいるからとか、音楽を大切にしてくれる事務所だからという理由でSMAを選んでくれるアーティストも非常に多いので、こういったイベントはやっていて意味があるのかなとは思います。

——音楽業界の先行きは不透明ですが、イベントを通じて活力が得られたり、明るくなれたらいいですよね。

原田:最近は本当に「CDが売れない」みたいな話ばかりなので、もっと明るく前向きに考えてやっていくほうがいいと思います。音楽を作ってる僕たちが暗くなってもしょうがないので。よく海外の状況について話をするんですが、SXSWも参加人数は増えてるし、JAPAN EXPOも今は18万人が参加してますからね。日本の音楽を求めてヨーロッパ中から18万人。去年が16万人だったので、今年は2万人増えてますし、どんどん増えてますから悪いことばかりじゃないんですよ。絶対チャンスはあると思います。

——手の届きそうなところまで来ている感じはあるんですけどね。

原田:そうなんです。何かきっかけがあれば一気にいくと思うんですけどね。見本市には人が集まっていますし、いいバンドも増えています。また、ストリートでは常に何か起きているでしょうから、それを拾い上げた方がいいと思うんですけどね。結局は良いもの作れるかどうか、それ次第ですよね。そのためにはとにかく動きながら考えるしかないと思っています。

-2010.10.8 掲載

オススメ