POLYSICS ニュー・アルバムリリースインタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

白井嘉一郎氏
白井嘉一郎氏

 来年でメジャーデビュー10周年を迎えるPOLYSICSが、9月16日に待望のニューアルバム『Absolute POLYSICS』を発売する。
その初回限定盤付属DVDには、スタジオで一曲を完成させるまでの作業過程をノーカット・ノンストップで6時間(!!)収録したドキュメンタリー映像が収録されている。今回、POLYSICSを始めKi/oon Recordsの数々のアーティストのディレクションを手掛けられてきた株式会社キューンレコード A&R1部 部長 白井嘉一郎氏に、この前代未聞のDVDが付けられたPOLYSICSの新作についてや、ご自身のこれまでのお仕事まで語っていただきました。

[2009年8月27日/港区赤坂 株式会社キューンレコードにて]
▼Ki/oon Records Official Website
http://www.kioon.com/

——まず、Ki/oon Recordsと白井さんご自身についてお話を伺いたいのですが、Ki/oon Recordsの設立は何年ですか?

白井:Ki/oon Recordsは電気グルーヴなどがいた「Trefort」と、スチャダラパーなどの「LIFE/SIZE」、REBECCAらが所属していた「FITZBEAT」、Xの「STAFF ROOM 3rd.」の4レーベルがまとまって1992年に設立されました。

——白井さんがソニーに入られたきっかけは?

白井:そんなに大した動機があったわけではなくて、音楽が好きで普通に就職活動して新卒で入りました。最初はSDという新人の発掘・開発の部署に5年ほど在籍しました。その後、’97年にKi/oon Recordsへ移って制作をするようになったので、新人発掘と制作しかしたことがないんです。

——新人発掘については何を重要視されていましたか?

白井:状況やタイミングによっても違うと思いますが、オリジナリティーも含めた全部のクオリティーが一定量を超えていることですね。 

白井嘉一郎POLYSICSNANOMUGEN2009main
▲ ASIAN KUNG-FU GENERATION

白井嘉一郎POLYSICSiLL_Force
▲ iLL

白井嘉一郎POLYSICSPrague_SlowDown
▲ Prague(プラハ)

——Ki/oon Recordsに移られてからは担当するアーティストをご自分で決めていたんですか?

白井:そうですね。Ki/oon Recordsというレーベル自体が非常に自由なレーベルですし、逆に「これやります」と自分から動いていかないと始まらないんです。ですからあまり上から「これをやれ」と言われることはないですね。

——これまで担当されたアーティストをお聞かせ下さい。

白井:一番初めは電気グルーヴのアシスタントでそのまま今も電気グルーヴは担当していて、高橋徹也というソロのアーティストや李博士(イ・パクサ)という韓国のアーティストを担当した後に、POLYSICS、ASIAN KUNG-FU GENERATION、今はもう外れましたけどL’Arc〜en〜Ciel。あとは元スーパーカー中村弘二のiLLや新人のPrague(プラハ)を担当しています。

——今までのキャリアの中で嬉しかったことはどんなことですか?

白井:現在は管理職なので味わう機会も減ってしまったんですが、スタジオに居て自分でヴォーカル・ディレクションやレコーディングをやっている中で、誰よりも最初に音楽が出来る瞬間に立ち会えるということですね。自分が選んでいたり、ディレクションしたものなので、その感覚には常に喜びがありました。世俗の喜びとはちょっと違った感覚ではありますけど(笑)。

——やはり制作の現場がお好きなんですね。

白井:好きですね。ただ、そのためにクリアしなきゃいけないことは山ほどあるんですけど、そういった苦労もある中で作品が完成したときは本当に嬉しいです。ユーザーの手に渡るCDは、16bitのクオリティーが一般的なんですが、我々は24bit/48kや24bit/96kといった高音質のプレイバック環境で最初に聴くことができますから、その喜びは本当に何物にも代え難いですよ。大袈裟に言えば「自分しか知らないバージョンがある」ということですけど、もちろん根底には担当アーティストが出す音にリスペクトがあると思います。

——ディレクションされる際に心掛けていることはありますか?

白井:これは難しい話で、僕は多分残り少なくなってきた「メーカーのディレクター」だと思うんですよ。今はプロデューサーの方がいらっしゃることが多くて、レコード会社の中でディレクター業をやる人が減っている中、常に「自分でいいのかな?」とか、「本当のミュージカル・プロデューサーじゃないんだけどな・・・」というような負い目との戦いがあります。もちろん自分では満足しているクオリティーではあるんですが、人様に喧伝するほどの何かがあるかどうかはちょっとわからないです。ただ、メーカーディレクターの利点は「ずっとアーティストと一緒にいる」ということだと思います。ミュージカル・プロデューサーは一定期間しかお付き合いがなかったりしますが、僕の場合は何年ものスパンで、スタジオ以外でも会いますし、共有する時間が多いので、アーティストの人間自体をよく知ることが出来ると思います。ですからブースの向こうで今何を考えているのかというようなことはわかりやすいと思います。

 

POLYSICS ニューアルバム『Absolute POLYSICS』の前代未聞の初回特典とは?

白井嘉一郎POLYSICSAbsolute-POLYSICS

白井嘉一郎POLYSICSAbsolutejk
POLYSICS new album
『Absolute POLYSICS』
2009.09.16 out
初回生産限定盤 (CD+DVD)
KSCL 1456〜1457 / ¥3,360(税込)
【初回特典】
ノーカット・ノンストップ収録!
POLYSICSのレコーディング全貌6時間!

——POLYSICS Official Web Site → http://www.polysics.com/

——来年でメジャーデビュー10周年を迎えるPOLYSICSについて伺っていきたいのですが、POLYSICSを担当することになったきっかけは何だったのですか?

白井:POLYSICSはもともとインディーでデビューしていたところを、Ki/oon Records社長の中山道彦さんが観に行って「これやらないか?」という話になりまして、メジャーデビュー以降はずっと担当しています。

——POLYSICSに関してはアマチュア時代を知っているのですが、正直ここまで大きくなるとは驚きました。

白井:当時は「3回観たら飽きる」と言われていましたからね。基本的に彼らは真面目なんですよ。みんなどこかで飽きてしまったり、疲れてしまったり、モチベーションが無くなったりすることもあると思いますが、ずっと高いレベルで意識をキープできていることが大きいですね。やはり取り組む姿勢の問題じゃないかなと思います。

——9月16日(水)には10枚目のアルバムとなる『Absolute POLYSICS』が発売されますが、初回限定盤には6時間にもおよぶレコーディングの様子を収録するという画期的な試みの特典DVDが付いていますね。このDVDの発案はどなたなんですか?

白井:これは僕が考えました(笑)。

——1枚のDVDに6時間も収録できるなんて知りませんでした。

白井:2時間ぐらいが限界だと思われがちですが、DVDはCDと違ってデータの圧縮率をこちらで決められるんですよ。映像を高画質にする限界が2時間ぐらいなだけであって、圧縮率を上げていけば物理的に4ギガまで大丈夫なんです。

白井嘉一郎POLYSICSpoly_02

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——DVDを拝見したのですが全く問題なく見られる画質ですよね。内容も斬新で、スタジオに入って、アイデアを出すところから映像はノンストップでしたね。

白井:そうなんです。やらせも無いし、カットもしてないんですよ。

——一見すると6時間はちょっと長いかなとも思えるのですが、曲が出来ていくプロセスからミックスダウンまで見てみると「こんな短時間で1曲を完成させてしまうのか! 凄い集中力だな」と驚きに変わっていきました。

白井:曲が短かったということもあるんですけどね。だいたい1分半ぐらいの曲だったので成り立ちました。

——こういったDVDを出すこと自体、誰もやったことがないですよね。

白井:ドキュメンタリーで良いところだけを使うということは見たこともあると思いますが、ノーカットという意味では恐らく世界初ではないでしょうか。ですからスタジオの現場をちょっとでも知ってる人にはものすごく面白いと思います。ファンの方もきっと普段は見ることができない部分なので楽しんでいただけると思いますしね。

——白井さんご自身は、このDVDの一番の見所はどこだと思っていますか?

白井:POLYSICSというバンドの成り立ちや、やっていることはかなり変わっているんですが、このDVDに入っている作業の流れ自体はすごくオーソドックスなんですよ。いわゆるバンドで物を作るときの流れが全て入っていて、それがすごくコンパクトになっています。こういう仕事に携わってる方はわかると思うんですが、普通はこういう作業を2日とか3日かけてやるんですけど、それが6時間で全て見られるというのは本当に貴重な映像かなという気はしていますね。

——でも、そんなに急いでやっている感じもなく、リラックスした感じですよね。あと、メンバーの着ているTシャツが変わっていくのも面白かったです(笑)。

白井:(笑)。「何か遊びを入れないとね」という話でTシャツを変えていったんです。あれは物販のTシャツで、10年やってると膨大な量になるので出そうということになりました。見てるとだいたいハヤシが着替えると、その時期のTシャツに合わせて他の3人が着替えていますね(笑)。

——そういった遊びを取り入れるところがPOLYSICSらしいですね。

白井:あと、このDVDを支えてるのは、POLYSICSというバンドの演奏力の高さですね。普通のバンドですと練習したり、リテイクを繰り返したりするんですが、彼らは「こうやってくれ」と言われたことを即座にやれるんですよ。

——デビューの頃から比べると、この10年で演奏力は格段の進歩を遂げていますよね。

白井:そうですね。今はリズムに対するシュアさは凄いですよ。bpm180以上のスクエアのビートで全員合わせられるバンドってそうそういないと思います。

——ハヤシさんが全部アレンジもしているんですか?

白井:全体像はハヤシが描いてますね。初期の頃はプレイアビリティの関係でできないことが多かったんですが、今は全員対応できるのであっという間に曲ができてしまいます。

——DVDの収録時のエピソードなどはありますか?

白井:サウンドチェックで他のアーティストの曲を弾きそうになるんですよ。そうすると著作権の問題が出るので、カメラのないところで「他のアーティストの曲は弾かないでね」というような話はしました。ミュージシャンってつい好きなアーティストの曲を弾いたりするんですよね(笑)。

——(笑)。このDVDは本当に面白いので、ぜひ初回盤を購入してほしいですね。

白井:そうですね。それに「Musicman」を利用していたり、スタジオを探すことがあるような仕事をされている方にも一度は見ていただきたいです。他のアーティストのスタジオでの様子はなかなか見る機会がないじゃないですか? 僕も他のアーティストが今回のようなDVDを出していたら買うと思います。それに、これから音楽業界を目指す方にとっても参考になるんじゃないでしょうか。

 

オルタナティブの頂点へ、POLYSICS初の武道館ライブが決定

白井嘉一郎POLYSICSp_01

——ニューアルバム全体のポイントはどんなところでしょう?

白井:今回のアルバムタイトルは『Absolute POLYSICS』=「絶対的なPOLYSICS」という意味になんですが、「”POLYSICSにしかできない、POLYSICSならではのこと”とは何だろう?」と考えた結果、トータルパッケージとして今回のDVDも含めて、それを上手く表現できたかなとは思っています。これは僕の客観的な意見ですが、手触りとしてはデビュー盤に一番近いアルバムになっていると思うんです。デビュー盤ってそのバンドの全てが入っているものですし、常に超えられない何かがあるものなんですが、彼らの全てに対して前に向いていく姿勢が10年続いた結果、デビュー盤の手触りでありながら明らかにそれを超えた、デビューと同時に表現できなかったものがちゃんと入っているアルバムになったと思います。

——楽曲の制作段階でもライブでの反応を意識して制作してらっしゃるんですか?

白井:もちろんそれはありますが、ただ、ライブで再現が難しそうだからといってクリエイティブを止めることはないです。CDを聴いていただくとわかると思うんですが、歌ってる裏ですごく面倒臭いギターフレーズを弾いていたりして。当然録ってるときは別々に録っているので大したことではないんですが、いざ一緒に演奏するともの凄く大変なことになるんです。ですが、それは気合いで乗り切っています(笑)。

——(笑)。

白井:「これ、ステージでできるの?」ってこっちも思うんですけど、本人たちが「やる」と言って録音して、アルバム発売後のツアーに行くと本当にやってるんですよ(笑)。気合いというか努力というか、正しいミュージシャンシップですよね。

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▲ POLYSICS Myspace

——これまでライブ中心で大きく成長してきたPOLYSICSですが、今後、インターネットによるプロモーションに関してはどのような考えをお持ちですか?

白井:MySpaceに関しては、アルバムのアメリカでの発売元がMySpace Recordsなので、アメリカでは日本とは違うレギュレーションでやっています。基本的にアメリカのMySpaceで展開をしていて、リリースがあるとMySpace Musicのトップページにバナーを掲載してもらったりしています。

——ネットプロモーションがCDの売上に繋がっているという実感はありますか?

白井:ページビューは上がるんですけど、フィジカルには跳ね返って来づらいですね。そういう意味ではコンピューター上での人気は、コンピューター上で完結してしまうという感覚はあります。ページビューもある。書き込みも多い。でもフィジカルとリンクするもう一つのポイントを作らないと駄目ですね。例えば、アメリカの大都市のライブですと、POLYSICSはクアトロクラスのバンドなんですが、そこからZeppクラスへ行くにはもう一つ何かが必要だということは確実に感じますね。

——そのポイントとは何でしょうか?

白井:おそらくそれは向こうに何度も行っていたりとか、ネット以外のメディアでの露出があるとか、そういうようなフィジカルな露出というのがあってこそのリンクだろうなというような気はします。ただ、そんなに甘くはないと思いますが・・・(笑)。

——ニューアルバム発表後のPOLYSICSの予定を教えて下さい。

白井:アルバム・リリース直後から11月までツアーをやります。

——海外でもツアーは予定しているのですか?

白井:このアルバム自体もまたアメリカでリリースされることになっているので、来年になると思うんですが、日本のツアーが終わったらアメリカツアーが始まる予定です。

——POLYSICSの場合は日本語だろうと英語の歌詞だろうと関係なく伝わりそうですね。

白井:やっぱりライブの場で彼らの音楽があれば、言葉のコミュニケーションはそんなに必要ないんだと感じましたね。

——例えば、西海岸、東海岸など地域によって観客の反応は違いますか?

白井:ざっくりと言うとアメリカでは西側のほうが動員は良いのですが、一つの州が一つの国のようなスケールがありますので、ローカルのプロモーターがどれだけ頑張るかで全然変わってくるんですね。ですからボストンで突然ソールドアウトが出たこともあります。

——11月以降の予定で決まっていることはありますか?

白井:3月にはPOLYSICS初の武道館でのライブが決定しました。

——ついに武道館ですか。すごいですね。

白井:そうですね。武道館はオルタナティブの中では頂点の会場という感じですね(笑)。ただフェスでは大きなステージを何度もやっていますから、パフォーマンス自体に不安は全然ありません。是非期待していて下さい!

——今後POLYSICSがどこまで突っ走っていくのか本当に楽しみです。本日はお忙しい中ありがとうございました。

-2009.9.16 掲載

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