ビクター新レーベル「FlyingStar Records」設立インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:貝原 一平 氏、高垣 健 氏
左から:貝原 一平 氏、高垣 健 氏

ビクターエンタテインメント株式会社
FlyingStar Records レーベルヘッド
貝原 一平氏

ビクターエンタテインメント株式会社
エグゼクティブプロデューサー
高垣 健氏

 ビクターエンタテインメント株式会社が、4月1日に新たなロックレーベル「FlyingStar Records」を立ち上げた。
「FlyingStar Records」は、サカナクション、SPECIAL OTHERS、Dewなどを輩出した同社の新人発掘・育成レーベル「BabeStar」と、新設された「FlyingStar」の2つのレーベルからできており、その全てを7人のスタッフが担当する。さらに、それぞれのスタッフが得意分野を活かしながら、制作・宣伝・販促までもをこなす、「一人 A&R」としてチーム一丸となりアーティストを売り出していくという。
今回は、レーベルヘッドに就任した貝原一平氏とスーパーバイザーとして参加している高垣健氏に、新レーベル「FlyingStar Records」の設立理由や特色などを伺った。

【FlyingStar Records】
FlyingStar Recordsメイン3
 → http://jvcmusic.co.jp/flyingstar/

[2009年4月7日 ビクタースタジオにて]
▼FlyingStar Records ウェブサイト
http://jvcmusic.co.jp/flyingstar/

 

——今回設立された「FlyingStar Records」は全く新しいレーベルとして立ち上げたものですか?

貝原:その通りです。全く新しいレーベルとして設立され、そのまま独立した部門となっています。

——既存のレーベルである「BabeStar」が入っているようですが。

貝原:イメージでは、これまで発掘と育成を主眼においた「BabeStar」を発展・拡大させて、新しいレーベル「FlyingStar Records」を立ち上げて、その中に「BabeStar」が入ったというような形ですね。「BabeStar」は、新しいアーティストがなかなか世の中に出にくい飽和状態の中で時代に合わせてできたレーベルですが、最近は「ホップ・ステップ・ジャンプ」の”ホップ”の状態からその先の“ステップ”“ジャンプ”へと順序だててアーティストが大きく出ていくチャンスが失われていると思うんです。それを新人発掘からある程度売れたと認識できるところ、つまり”ステップ”から“ジャンプ”の状況までもっていくレーベルとして「FlyingStar Records」が設立されたということですね。

——「FlyingStar Records」内の「BabeStar」と「FlyingStar」、この2つのレーベルのそれぞれの特色はなんですか?

貝原:まず2つともメジャーレーベルなんですが、簡単に言ってしまうとショット契約なのか、包括契約なのかという違いではありますけど、まずはアルバム1枚を通じてトライアルしてみるのが「BabeStar」です。その中で売上が上がったり将来的な可能性を見いだしたりして、ある程度の年数をかけて育てていこうというのが、「FlyingStar」という分け方になります。

——いつ頃から「FlyingStar Records」の立ち上げを考えていたのですか?

高垣:「BabeStar」は、できるだけたくさんのアーティストにデビューのきっかけを与えられるようなファームレーベルを作ろうというのがスタートのきっかけでした。それで僕らが送り出したアーティスト、例えばサカナクションとかSPECIAL OTHERSとか、Dewなど「BabeStar」発でメジャーレーベルに行ってるアーティストがいっぱい出てきてるんですが、タイミングとキャパシティの問題で、いいアーティストが「BabeStar」の中に残ってるという状態がここ2年ぐらいの間に目立ってきて、「BabeStar」の役割だけでは収まりきれなくなってきたんですね。それで次のステップを模索し始めたというのと、貝原君は32歳で、他のスタッフは20代とすごく若いんですが、「BabeStar」でA&Rのベーシックなトレーニングを3年ぐらい積んで、制作、宣伝、販促、さらにはマネージメントに至るまでみんな経験してスタッフも育ってきたので、「BabeStar」の3年目ぐらいのときに「FlyingStar Records」の立ち上げを考えました。

FlyingStar Records_staff

——スタッフもアーティストと一緒に育ってきたわけですね。

貝原:従来型のレーベルみたいに「僕は音源をつくる役割だ」「僕はメディアに宣伝する役割だ」と分かれていると、どうしてもアーティストや作品から距離ができていくんですね。そういうこだわりなどで小さいヒットのチャンスを逃すことが多かったと思うんですが、それを一人が作り手でもありながら販売のところまで把握することで、店頭に並ぶところやメディアでの鳴り方を想像して曲を作っていけますし。そういったことはレーベルの原点として必要なことだと思って「BabeStar」でスタッフ全員がずっとやってきたので、「FlyingStar Records」でも同様にやっていきたいと思っています。

——それは、アーティストの発掘から制作、販売まで1アーティストを1人のスタッフが担当するということでしょうか?

貝原:もともと人数が少ないのでほぼ一体化で全員が全てのアーティストをフォローしていきます。

——普通は「このアーティストは誰担当」というようなタテ割りだと思うんですが、そういう分担にはしないということですか?

貝原:プロダクションやアーティストが混乱するので窓口は一人立てますが、作業としては全員が何らかの形で関わることになります。

高垣:ビクターの中にADルームという新人発掘のチームがあって、地方のライブハウスを回るスタッフが色んなアマチュアやインディーズの情報を集めてきます。そのADルームの中にまず「BabeStar」を作ったんです。それでさらに3年前に「rookiestar」ができたんですね。ADルームの中にもインディーズのレーベルがあるんですが、「rookiestar」で楽曲単位で配信して「BabeStar」でアルバム単位でショット契約するというようなそういうサイクルがあるんです。

——全て揃っているという感じですね。

高垣:そうですね。かといって大きな組織ではなくてスタッフはみんな兼任でやっていますし、ADルーム全部合わせても20人いないですね。やはり少ない人数のほうがフットワークもいいですし、情報の流れも速いし共有できますからね。本来音楽ビジネスというのは規模が小さい方が楽ですよね。極端に言えば一人でやるのが一番楽ですよ(笑)。

——(笑)。ところで「Flying Star」というと、30年ほど前に高垣さんが立ち上げたレーベル「FLYING DOG」を思い出しますね。「FLYING DOG」はロック色の強いレーベルでしたが、今回もロックにこだわっているんですか?

高垣:そうですね。結構うちはロックレーベルを打ち出しているんですけど、形ではなくてもっとスピリチュアルなもの、ライフスタイルみたいなもの、そういうところの差別化はちゃんとしていきたいなとは思っています。よく貝原君と話しているのは、ロックレーベルと言ったら可愛いアイドルっぽい女の子でも面白いことがあればやってみようと思うけど、それがポップレーベルとかアイドルレーベルって言っちゃうと限定されちゃうので何もできないだろうと(笑)。

貝原:そこは高垣さんが「SPEEDSTAR RECORDS」のようなレーベルを掲げてやってこられたおかげというのもありますね。やはりロックと言いつつ「SPEEDSTAR RECORDS」も色んなことやってましたから。

——アーティストを選ぶときに重点をおいていることはありますか?

貝原:ライブ重視なのは間違いないですね。自分で曲も作ってほしいですし詞も書いてほしいですし、それをちゃんと自分で届けられる人が一番強いとは思いますので、まずそこをきっちり僕らがサポートしていくというのが原点だと思っています。それ以上にうちのスタッフ全体がそのアーティストを好きになれるかどうかというのは大きいですね。全員が心の底から最高だと思うことはなかなか難しいとは思っているんですが、まずみんなそのアーティストの中に何かしらの可能性を感じていないと駄目だと思いますね。

——「Flying Star」のアーティストは事務所には所属していないんですか?

貝原:それはケースバイケースですね。大手プロダクションに所属しているアーティストもいますし、ビクターでマネージメントしているのも、完全に無所属でアーティストとダイレクトにコミュニケートをとっている場合もあります。

——決まった形にこだわらないということですね。

貝原:そうですね。ひとつの形にこだわると色んな可能性を狭めてしまうかなというのはありますね。

高垣:あとは相性ですね。スタッフが若いからフットワークもいいし変なこだわりもないから一緒に仕事していてもすごく楽しいというか話が盛り上がるんだけど、逆に経験がない分仕事の中で苦労することもあると。それをカバーしてくれるようなマネージメントがいるに越したことはないですよね。

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——では、具体的にリリースするアーティストについて伺いたいのですが。

貝原:4/22に第一弾としてリリースするのが”つしまみれ”というアーティストです。このバンドは結成してもう10年ぐらいになるんですが、10年の内の多くを海外でライブ活動しているんです。イベントももちろんなんですが、去年も40日間で30本、車も自分たちで運転して全米ツアーをしています。

——現代の少年ナイフみたいですね。

貝原:正に例えられるのはそうですね。このアーティストの魅力は何年も海外で培った圧倒的なライブ力と、歌詞のおもしろさ。あと、曲の中に色んなジャンルが交差するんですね。激しいロックをやっていたと思ったら、急に歌謡曲に変わったり、スカが入ったり。そういうアーティスト性とか音楽性を一体にしたこのもみくちゃ感がアーティストネームと同じでつしまみれと(笑)。色んなライターさんとかに見てもらっても、20代の女性の3ピースでは演奏力がぶっちぎりだと言ってもらっています。

——それは是非ライブで観てみたいですね。”つしまみれ”以外ではどんなアーティストが予定されているんですか?

貝原:”竹内電気”というアーティストなんですが、このアーティストは名古屋発で全国展開していますが、今も愛知県在住なんです。名古屋のADルームが発掘して、インディーズでリリースをして、ショット契約の「BabeStar」でメジャー流通して、今度は「FlyingStar」と正にうちの育成機関をフルに使って駆け上がってきたアーティストになりますね。

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——音楽的にはどのような感じですか?

貝原:年齢は20代前半なんですけど、大瀧詠一さんや山下達郎さんなどを敬愛していて、ロックバンドでありながらシティーポップ感があるんですね。今、下北とかでもギターポップバンドがすごく多いんですけどもその中でもちょっと異質なポップセンスがあって、ゴリゴリのロックじゃないんだけど若いお客さんをどんどん掴んでいっています。

高垣:この二つのバンドは仲がいいんですよ。一緒にイベントやったり、お互いのブログに写真を載っけあったりしてね。

貝原:両方ともちょっと異質なんですよね。ギャルバンドは最近増えてきましたけど、”つしまみれ”ほどゴリっとしたのをやってるのはいないです。正直、対バンには困るタイプなんですけど、そこは持ち前のキャラクターで音楽的に距離がある対バンでも全然問題なく行っています。

高垣:とくに”つしまみれ”は、SCANDALとかオレスカバンドとか女の子バンドから対バンのオファーが多くきてますね。

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——憧れのカッコいいお姉さんという感じなんでしょうかね。

貝原:そういうところはありますね。あともう1つ、これもギャルバンなんですが、”LAZYgunsBRISKY”という4人組のアーティストで、20歳で2人がまだ大学生なんですが、帰国子女のボーカルが英詞で歌っています。見た目はかわいらしいんですけど、スピリッツがほんとロックで、何か言おうものなら「自分でやるからほっといてくれ」みたいな感じなんですよ(笑)。

——レーベル側のコントロールが大変そうですね(笑)。

貝原:本当に自分たちのスタンスで我が道を徹底的に行くタイプですね。客がノってようとノってまいと徹底的に自分たちのライブをやる!みたいな。そういうロックスピリッツが元 BLANKEY JET CITY、現SHERBETSの浅井健一さんの目に留まって、自分の作品以外に初めてプロデュースしてくれたのが去年の12月に出したアルバム『“Catching!”』です。今年の夏にもう一枚出す作品も引き続き浅井さんがプロデュースしています。

——最初のラインナップはけっこうロック色が強いですね。ところで高垣さんの役割は?

高垣:なんだろうねぇ…。

——(笑)。

貝原:僕が思っているのは、「FlyingStar Records」は経験も10年たたない若いスタッフが多いので、40年やっている高垣さんのこれまでのキャリアからの経験談を聞かせてもらったり、人脈を含めて大きくサポートしてもらったり、スーパーバイザー的な、そういう感じだと思うんですけどね。

——高垣さんはアーティスト選定にはあまり口出しをしないんですか?

貝原:それはケースバイケースですね。

——(笑)。じっとしていられない部分もあるんですかね。

貝原:そこは逆に混じり合うと面白いなとは思っているんですよね。高垣さんの“経験値”や“人脈”のところと、現場スタッフの20代の“カン”と、そういうのがミックスするとそれはそれで面白いものができると思うので。それはうちだからできることになると思います。

——アーティストの数が増えていくとスタッフの数も増えていくんですか?

貝原:そこは今話しているところではあるんですが、アーティストも無尽蔵に増やそうとは全く思っていなくて、「FlyingStar」の長期プランで売っていくアーティストに関しては5組くらいを大前提としてやりたいなと思っています。これ以上増やすと組織的にもっと大きくしていかないといけないとか、予算を上げないといけないとか、採算も効率も悪くなると思いますから。

——アーティストの契約についてはどのような内容になっているのですか?

貝原:数年前のように毎月毎月多額の資金を払って獲得するというよりは、もうちょっとスタッフ間のコミュニケーションとかマインドを重視した契約や、今はより権利ビジネスにもなっていってますので、弾力的な印税率の運用とか、そういうところできっちりとお互いに利益が生み出せるような新しい契約形式を作っていきたいと思います。

——今時は見切りが早いというか、一枚出して売れなかったら2枚目が出ないケースも多いですよね。

高垣:それは色んな考え方があるんですが、今までのレコード会社の1つの習慣みたいなものがあって、例えば月に100万とか育成金を払って、でも印税は押さえて、なのに制作費は1枚1000万以上かけるとか、すごくいびつな形だったんですね。それより今のインディーズの人たちの方がよっぽど時代に沿ったやり方でアーティストと接していると思いますよ。言ってみれば契約の方法ではメジャーの中から学ぶものよりもインディーズから学ぶもののほうがこういうレーベルにとっては大きいと思っています。その代わりアーティストもレコード会社もヒットしたときは利益をシェアするのが基本だと思うんです。そのへんのバランスはちゃんと考えていかないと。

——では最後に、今後「FlyingStar Records」をどんなレーベルにしたいと考えていますか?

高垣:やはりA&Rという言葉につきると僕は思っているんです。情報がこれだけ氾濫してメディアからの影響力が少なくなってきているじゃないですか。そういう時代だからこそアーティストのライブというのが最大のメディアだと思うんですよね。いい曲を作り、いいライブをやるアーティストがやっぱり売れてきている。情報とか戦略に左右されない実力がそのまま反映される時代が戻ってきていると思います。だから音楽ビジネスの基本に立ち返って、いいアーティストがマーケットにちゃんと知れ渡るような環境作りが出来るか否か、それがレーベルの仕事だと思うんですよね。

 レコード会社だろうがプロダクションだろうがそういうのは関係なくて、単純にアーティストと作品に僕らはどこまで共同作業ができるか。それはスタッフ個人の力に戻るという気がしてるので、そういう気合いの入った若いスタッフになってくれればいいなと思いますね。それはきっと人数が多いとかお金がいっぱいあるとか、そういう巨大なシステムじゃなくて、マンツーマンの気持ちが伝わるようなすごくミニマムな組織だと思うんですね。だから7人の20代の「FlyingStar Records」っていうのが、音楽ビジネスの原点回帰みたいな場所になっていってくれればと思っています。

貝原:レーベルロゴがひとつのメッセージでもあります。ロゴの円盤は、販売方法は多種多様になってきたけれど、あえてパッケージにこだわりを持ちたいと言う思いです。やはりレーベルとして、アーティストと共に作るカタチを大事にしたいですね。これは先ほどの高垣さんの「音楽ビジネスの原点回帰」に通じると思ってます。それからロゴの羽根。これには見てのとおりでパッケージを、それを作ったスター(アーティスト)をどんどん世の中に羽ばたかせたい。という思いがあります。強烈な閉塞感や不景気を感じる今、音楽業界も厳しくなったといわれる今、このタイミングで新しいレーベルが立ち上がるということに意義を感じながら、若く新しい力を結集して、スタッフ・アーティストが同じ方向を向いて大きく上昇できる。こんなレーベルにしたい思います。


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つしまみれ  —— レーベルサイト
1999年結成。6度に渡りアメリカツアーを敢行。累計100ヶ所、延べ10万人の観客を熱狂させる。キュートでポップでバカで切ない丸裸の乙女心を歌に載せ、衝撃的グルーヴが絡み合う骨太サウンドに酔いしれる奇跡のスリーピース。圧巻のライブパフォーマンスは必見。

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「タイムラグ」
2009.04.22リリース
12cmシングル
VICB-35015
¥300(税込)


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 竹内電気  —— レーベルサイト
愛知県在住の5人組ポップバンド。ROCK IN JAPAN FES. 2008では入場規制がかかり、続く年末のCOUNT DOWNJAPAN 08/09も大盛況のうちに終了。そんな快進撃を続ける中完成させた、ニューアルバム「SHY!!」。竹内電気の更なる魅力がぎっしり詰まったセカンドフルアルバムだ。

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「SHY!!」
2009.03.11リリース
セカンドフルアルバム
VICB-60040
¥2,100(税込)


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LAZYgunsBRISKY  —— レーベルサイト
2006.09 高校で出会う。LAZYgunsBRISKY結成!
2007.02 ファーストデモ作成。ライブで無料配布。
2008.04.16 ファーストアルバム「quixotic」リリース。同時に初ライブツアー。
2008.12.17 浅井健一(自身初になる)プロデュースによるミニアルバムでメジャーデビュー。

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「Catching!」
2008.12.17リリース
ミニアルバム
VICB-60038
¥1,500(税込)

-2009.4.23 掲載

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