ベリンガー社 チェアマン ウリ・ベリンガー 氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

ウリ・ベリンガー 氏
ウリ・ベリンガー 氏

 1989年にドイツで設立され、一連のプロオーディオ製品、楽器、および関連製品を開発・生産・販売する、ベリンガー社の創始者であり、チェアマンであるウリ・ベリンガー氏が、2008年12月に初来日した。
 「2倍の性能を、1/2の価格で」という独自の成功哲学を掲げ、顧客にとっては信じられない価格性能比を実現し、まったく新しい市場を開拓したベリンガー氏に、ベリンガー社設立秘話から低価格実現までの道のり、今後の展望などを伺った。

[2008年12月9日 ペニンシュラ東京にて]

【BEHRINGER社】
● 設立:1989年
● 設立者/Chairman:ULI BEHRINGER(ウリ・ベリンガー)
● ベリンガー社は1989年にドイツで設立。今日では10ヶ国にそのビジネス基盤をもち、ビジネス領域は世界中に及ぶ。これらの基盤と世界中に広がる販売店および代理店のネットワークによって、ベリンガー製品は125ヶ国を超える国々で販売されている。
▼BEHRINGER社 :http://www.behringer.com/

 

——ベリンガーはどのような経緯で設立されたのでしょうか?

ベリンガー:私の母は同時通訳とピアニストで、私も4歳からピアノを始めました。そして父が電気工学の科学者で、世界初のパイプオルガンを作った人なんです。その背景から音楽はもちろん、電子工学にも興味があり、私は15歳の頃にシンセサイザーを作りました。

 その後、サウンドエンジニアになるためにドイツの大学に進学して、サウンドエンジニアリングと音楽を勉強し始めたんです。しかし、その当時は音楽設備の値段が高すぎて、マイクが2本あるだけでした。そんな状況下で「どうすればサウンドエンジニアになれるのだろう?」と考え、自分で機材をデザインしようと思ったんです。

 それでまず、2000ドルぐらいのコンプレッサを分解して中身を見たんですが、部品の値段が全部で数百ドル程度だったんです。なのになぜこんなに値段が高いんだろうと疑問に思いました。その間にコンプレッサを自作していることが友達に伝わり、みんな欲しいと言ってくれたので作る前から予約で10台ほど売れていたんですね。その後も50台ほどの注文がくるようになり、それがきっかけで1989年にベリンガーを設立しました。

——ベリンガーの魅力は低価格で高性能という点だと思うのですが、なぜ実現できたのでしょうか?

ベリンガー:設立後しばらくは、中国から部品を買って、ドイツで組み立てていたのですが、さらにコストを抑えるために部品だけでなく、人件費なども押さえないと安い機種を作ることができないと考え、1990年に香港に行き、新たに生産業者を探しました。そのときに作ってもらったサンプルはとても品質が良かったのですが、実際に届いたものはとても品質が低かったんです。そこで、自分が工場に行き生産のプロセスをチェックしないといい品質のものは出来ないと気づきました。

 また、それから数年後には、委託していた生産業者が一番品質のいい部品を有名他社に回してしまうことで品質のばらつきが出るようになったので、部品も自社で生産しなければならないと感じ、7年前にユーロテックという会社を中国に設立しました。

 今まで品質の問題を乗り越えてきて、特に最近は生産の効率化を中心にプロセスを改善しています。さらにチェアマンだけでなく、CMOも兼任しているので常に現場にも立っています。

——中国での生産ラインを確保していることが大きなメリットだということでしょうか?

ベリンガー:他の企業も中国で生産しているのでそのあたりは同じなんですね。その中でどのようにして消費者に興味を持ってもらい積極的に購入してもらうかと言うと、効率的に商品を生産し、価格を抑え、なおかつ高品質なものを作るということになるのですが、我々は部品を購入するときに他社よりもさらに大量に購入するんですね。

 なぜそれができるかと言うと、単にたくさん買って在庫として置いておくのではなくて、同じ部品をたくさんの商品に使うからです。つまり、部品のレベルで考えて開発するのではなく、商品はそれぞれのモジュールからできているので既に作ってあるモジュールを組み合わせて新しい商品を開発していき、新しい発想を追求していくという形になっています。これにより、他社よりも部品を多く購入し、価格を下げ、そこで節約されたお金は商品の価格を下げることで、そのまま消費者にお返しすることができるのです。

——製品のクオリティの向上をいつも視野に入れてらっしゃると思うのですが、どのようにしてその品質を保っているのですか?

ベリンガー:KAIZEN(改善)という日本の概念を実行しています。まるで会社はKAIZENからできていると考えてもいいですね。

——そのKAIZENとは具体的にはどのような取り組みなのですか?

ウリ・ベリンガーBEHRINGER_VALUES_S

ベリンガー:まず、できるだけルーチンワークは機械に任せてクリエイティブな部分を人間が担当するというように分けているんです。どんな立場の従業員でも新しい発想ができるので、そのアイディアが採用されれば賞を受けられるというシステムを作ったんです。

 そしてこれが改善のポスターになるのですが、1番目から説明すると、「Build Teamwork」は、チームワークが大切だと常識ではわかっているのですが、実際にはみんなバラバラだったりするんです。これは簡単なことではないので、どのようにしてチームワークを形成するかをトレーニングしているんです。

 2番目の「Take Ownership」はグループ内で仕事を押しつけ合わず、「これは私の仕事だ」と責任を持ってほしいのでリストに入れました。

 3番目「Don’t Waste Resources」は余計なものを省いて無駄が出ないように工夫をするということですね。

 4番目の「Clean Workplace = Clean Mind」は、朝出社したときに作業場がきれいだったら自分の頭もすっきりしているので仕事にも効率的に取り組むことができるということです。

 5番目「Respect Guidelines and Policies」は会社全体のポリシーに従うということです。グローバル化している会社だとそれぞれの支店が勝手に自分のポリシーを実行してしまうんですが、そうではなく、会社全体が1つの方向に向かわないと成功はありません。

 6番目「Improve Yourself and Help Others」は、ものを作るときに自分の利益だけじゃなく、この製品を通じてどのように社会に貢献できるかを幅広く考えているということです。まず自分を改善する、そして相手をサポートすることが大事です。

 7番目「Don’t Forget to Smile and Say Thank You」は、以前中国の工場に行ったときに従業員が下を向いて目を合わせようとしなかったんですね。それは良くないと思ったんです。なぜかというと、そういう消極的な態度が製品に反映してしまう恐れがあるんです。ですから、僕がまず笑顔でいることを始めとして、毎日毎日工場で働いている従業員とコミュニケーションを取りました。そうしたら品質が良くなったんですね。故障率がすごく下がったんです。

 このKAIZENプログラムではたくさんの日本の会社を見習いました。日本人はとても綺麗な環境を作り、組織化されていて完璧主義で私たちとの共通点が多く模範になります。

——新製品を作る上で重要視している点をお聞かせ下さい。

ベリンガー:消費者が欲しいと思う基準より高い品質のものを作らなければいけないということです。問題解決だけじゃなく、商品の価値をアピールしなくてはいけません。そして消費者のニーズを把握し、そのニーズに近づくようにアプローチしていく必要があります。会社としてはエンドユーザー、販売店、マスコミからの声がフィードバックされるようになっていますし、私もエンドユーザーからのEメールや掲示板などダイレクトな声に目を通すようにしています。

——国によって生活環境も違うと思いますが、機材のニーズにも違いはありますか?

ベリンガー:先ほどの話と近いかもしれませんが、日本を例に挙げると昨日の取材で雑誌の方に言われたことが、日本で人気があるのは5〜10ワットの中型アンプだそうです。それはスペースや騒音の問題もあるのでコンパクトな製品のほうが需要が高いということですね。ですので実際に販売店に出て、何が求められているかを理解し、そこに近づけていくということの連続です。

——今後はどのような製品の開発に力を入れていかれるのでしょうか?

ベリンガー:女性の化粧品ですね。

——(笑)

ベリンガー:私は中国とフィリピンにもよく訪れるのですが、ちょっとコンビニに行くためだけにメイクをするのは日本だけですよ。だから日本の化粧品メーカーは儲かっているのかなと思いました。

 冗談のようですけど、考え方の話ですね。もちろん我々がコスメティックの世界に進出するわけではないですが(笑)、人々の動向や外見、身につけている物を観察していかに流行や必要とされる物を捉えていくという考え方は重要ですね。

 現在はライフスタイルに沿った商品を考えています。パソコンはスカイプなどを始めとして電話に近づいているし、電話はパソコンと同じ事ができるようになってきていて、それぞれの商品の境目が曖昧になってきているように感じます。オーディオの世界でもプロの現場で成果を発揮できる商品は家庭でも何かしらの形で貢献できるようになってきていると思います。

——ではこれからはプロ用の機材だけに限らず、一般の方向けの新たな試みもあるということですか?

ベリンガー:そうですね。音楽ストリーミングなどいろいろ考えています。「音」というのはスピーカーから出る音楽の信号だけじゃなく、どこにいってもあるもので携帯でもパソコンでも車でも大事なものですごく広域なんです。ですから視野を広く保ち、ライフスタイルに根ざした商品も開発していきたいと考えています。

——現在、世界的な経済危機と言われていますが、音響機器の世界でも影響はありますか?

ベリンガー:One’s pain is One’s gain. ある人の苦しみはある人の成功の種とも言えると思います。実は私たちにとってはいい時期がきています。過去を振り返っても、ベリンガーが一番栄えた時期というのは世界が不景気のタイミングだったんです。音楽業界でも不景気によりメーカーでも生き残るところとそうでないところが出てきてどんどんシンプルになっていき、我々は利益をあげることができました。

 これからの2年間で我々が見たこともないような不況によるトラブルが続くと考えています。大きく有名な企業ほど大変だと思いますね。

——最後に今後の展望をお聞かせ下さい。

ベリンガー:理念というか哲学的になってしましますが、人生には幸福が必要だと思います。自分だけの幸福や製品のことだけじゃなく、小さくてもいいのでエンドユーザー、販売業者、我々など関わっている人みんなが幸せを感じることができるような、人間を中心とした経営を心がければ自動的に成功するのではないでしょうか。先ほどの話とも共通しますが、幸せな人ほど優れたアイディア、意見をもたらせてくれたり、故障率も減少できますしね。

-2009.2.3 掲載

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