高堂 学 氏 スペシャル・インタビュー (株)レーベルゲート代表取締役社長

インタビュー スペシャルインタビュー

高堂 学 氏
高堂 学 氏

 音楽ビジネスの未来のカギを握ると言われながらも、なかなかビジネスラインに乗せるのが困難な“音楽配信”。そんな中アメリカで「iTunes Music Store」が爆発的にブレイク、日本でも期待が膨らむ中、今年4月、株式会社レーベルゲートが音楽配信サービスの新ブランド「Mora(モーラ)」を立ち上げて新展開をみせている。国内のレコードレーベルが4年前に共同出資・設立し、音楽配信のポータルサイトとして業界を牽引してきた同社の、高堂学氏(代表取締役)に、これまでの歩みから音楽産業全体における配信事業の可能性、さらにはネットワーク家電時代へと向かう今後の展開までを熱く語っていただきました!

[2004年7月29日 赤坂・株式会社レーベルゲートにて]

 

プロフィール

高堂 学(こうどう・まなぶ)

株式会社レーベルゲート 代表取締役社長


1948年 長野県生まれ
1971年 早稲田大学卒業
1971年 株式会社ホリプロダクション入社
1974年 株式会社シービーエス・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメ ント)入社
1992年 株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ取締役
2000年 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントデジタルネットワーク グループ本部長
2002年 株式会社エスエムイー・ティーヴィー常勤監査役
2003年 9月より現職

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——株式会社レーベルゲートでは、4年前に『Label Gate』という音楽配信のポータルサイトをスタートされていますが、そもそも高堂さんご自身、どういったきっかけで配信事業に携わられたのですか?

高堂:通信カラオケが流行りだした頃に、配信インフラを押さえられてレコード会社が音楽流通の主導権を失うのではないかという危機感を覚えたんです。実際、通カラ業界に着メロというビッグビジネスを持って行かれて、そのリベンジが着うたのモチベーションでもあった訳ですしね。その頃から音楽配信を具体的に意識しだして、レコード協会の総合音楽データベースのプロジェクトリーダーなんかをやってきまして。1999年12月にソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)がスタートした配信サイト『bitmusic』でも現場の指揮を執らせてもらいました。当時アメリカでMP3がどんどん流行っていく中で、違法にダウンロードされる前に正規の配信サイトを立ち上げようと、SMEJ独自の判断で始めたんですが、実際にサービスを開始して、その中でいろんな仕組みやシステムを作っていくうちに、やはり一社でやるには非常にもったいないし、大き過ぎるな、ということになって。元々レコード業界では倉庫や配送の機能なんかを共有してきた歴史があるし、どうせならみんなで使おうよ、と。そういう訳で、多くのレコード会社の賛同で、『Label Gate』が立ち上げられました。

——『Label Gate』から今回『Mora』に改名された理由は?

高堂:実は改名ではないんですよ。『Label Gate』がバックヤードになってるんです。現在、音楽配信においてはATRAC3(*1)、WMA(*2)、AAC(*3)といった3つの音声圧縮方式がメインで使われているんですが、たまたま日本においてはATRAC3対応のNet MD等が出回っていることもあり、『Mora』ではATRAC3でやっていくことになりまして。ただ、各レーベルのコンテンツをお預かりするときに、どれかひとつの形式だけでは不十分ですよね。WMAを採用している音楽配信企業もあるし、そういう端末もぼちぼち出だしている。AACも、今後は家電に入っていくもの、携帯に入っていくもの、とかいろんなカタチでコーディングとして出てくると思いますので、我々も将来を見据えて、幅広くやって行こうと考えています。『Mora』はその第一歩ですね。

——当初『Label Gate』は各社の裏方で、実際には『bitmusic』などの各レーベルのサイトから決済時に飛んでくる、っていう仕組みでしたよね。

高堂:各社のサイトのほうがまだ知名度も集客力もありましたからね。まずはサイトを大きくして知名度を上げるというのが当面の目標だったので。その後4年間、試行錯誤を重ねた結果、まずは『Mora』というワンストップショップに統一された訳です。

——『Mora』という名前の由来は?

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高堂:「すべての音楽を網羅(モーラ)する」という願いを込めた造語です。そもそも“レーベルゲート”というのは会社名だし、長いし、濁音が入っている分カタイ印象かな、という意見があって。その点“モーラ”という言葉の響きは非常に柔らかいし、短いですからね。

——実際に日本のレーベルを一番“モーラ”されてますよね。

高堂:お陰さまで(笑)。でも、今後いろんな企業が参入してくるだろうし、アップルが日本に進出する、という話もありますし。

——最初に上陸するというニュースが出てから随分経ちましたが、実際には遅れているようですね。

高堂:当初は6月という話でしたが、秋になったり…今は来年という噂ですよね。

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——これまでもいろいろな配信サイトが誕生してきましたが、なかなか浸透しないというか…こうやってまとまったカタチにするのは難しいんでしょうね。

高堂:そうですね。2000年くらいから音楽配信が一気にブレイクするんじゃないかという期待があって、レーベル側も、ともかくどこかに参加しておこう、という思いがあったんでしょうね。レーベルゲートに関しても、参加企業も出資企業も多かったけど、実際は担当者も必要になってくるし、皆さん未経験ということで、組織的な問題上なかなか行動に移せなかったんですよ。それと、「現実にはそんなに売れてないよね?」みたいな声もあって、皆さん結構のんびりされてたのもあり、その結果的として、出資しているけどなかなか動けなかったんですね。会社ができて4年になりますが、当初はもう少し早いペースで音楽配信の時代が来るだろうと思っていたんですけど、割と皆さん、互いに横を見てゆっくり構えていたというか。

——『Mora』のサービスを始めた頃から風向きが変わってきたのでは?

高堂:アップルの成功や日本上陸のニュースもあって、盛り上がってきたというのはありますね。

——アメリカの配信業界はどうなんでしょう。最近はやはり『iTunes Music Store』がダントツのようですが。

高堂:時間的な経緯としては、まず『bitmusic』のサービス開始と前後して、アメリカでは『Napster』が話題になり出して。向こうのレーベルは『Napster』に対して裁判を起こしましたよね。ただ、もちろん「ダメだダメだ」と繰り返すばかりでは勝ち目なんてない訳で。つまり、自分たちもユーザーに対してデジタル供給をしている必要がありますよね。被害があるなしの証明もできないし。訴えている一方で、自分たちがデジタルビジネスを行なっていないという反論が、『Napster』側からも当然あったんです。そこで当時『pressplay』と『MusicNet』という、今の『Mora』みたいなものをレーベルが集まって作ったんですけど…付け焼き刃で作ったみたいな部分もあって、実際そんなにうまく行かなかったんですね。プレスプレイは二転三転して今や新生『Napster』に買われちゃったりしてますし。レーベル側としては『Napster』の裁判には勝ちましたけど、今もユーザーを訴えたりなんかして、音楽配信を巡る裁判は続いてる訳ですよね。ただやはり訴えるばかりではなく、正規な音楽配信を続けなくては、というところにアップルの『iTunes Music Store』が参入してきた訳です。各レーベルとは当初一年契約でしたが、アップルのカリスマ性も手伝って、レーベル側としても割と満足の行く結果となったようですね。

——あの値段(1曲99セント)に全米のレーベルは納得してるんですかね?

高堂:割と定着しちゃった部分があるので、値上げしたくてもできないというのが現状なんでしょう。そういう意味で言えば、アップルはうまいところに入ったなと思いますね。

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——アップル関連のニュースは、日本の音楽配信において良い影響を与えていると思いますか?

高堂:可能性の立証という点ではそう思います。ただ、例えばアメリカでのサービスをそのまま日本に持ってきて、同じシステム、同じ価格でやったとしても同様にうまく行くとは限らない。日本では以前からシングルマーケット、レンタルマーケットが充実していて、単曲でMDに入れて聴くという楽しみ方をしてきた訳で。その点アメリカではそういったマーケットが開拓されていないので、1曲ずつ買えるっていう仕組みが新鮮だったんでしょうね。だからこそアルバムはパッケージで買って、単曲はダウンロードするという文化が定着しやすい。ただ日本人は一方で、買ったCDでもわざわざMDに落として聴いたりもするでしょ。つまり、ある意味データで聴いてる。なので、逆に言えば日本のユーザーの方が1曲ずつダウンロードする文化に馴染んでるとも言えるんです。マーケット、文化の違いをくみ取ってサービスの内容を適応させていくことが、日本での成功のポイントと言えるでしょうね。

——日本でも他社の参入が急激に増えてますよね。

高堂:そうですね。ただアメリカでも日本でも、まだそこまで至ってないような気がしますけどね。いくつも乱立するほどには。将来的に浸透してくると、『Mora』のような総合ショップも含めていろんな専門的なサイトも出てくると思いますが…リアルなショップをやるより、ネットの方がいろんな可能性を秘めてますからね。しかし、残念ながら全体的にまだそのレベルに至ってないし、そこまでのマーケットが開拓されてないのが現状です。いくつかサイトが出てくることで配信に目が行くのはいいけど、アメリカみたいに価格競争が起こってお互いの足を引っ張ってしまうということは避けたいですね。

——最近ソニーからHD(ハードディスク)ウォークマンが発売されましたが、アップル同様、ソニーにも戦略があるのでしょうか。

高堂:あるでしょうね。アメリカやヨーロッパで『Connect』というサービスを始めてますし。ただiPodと違って、ATRAC3もOpen MGというDRM(デジタル権利管理)もライセンスはオープンにしてますからね。Net MDやエニーミュージックも各社から発売されてるでしょう。コンテンツも機器も大勢が参加した方がいいという戦略でしょう。

——HDウォークマンが出たことで、やっとアップルに対抗できると?

高堂:ただウチと、iPodで儲ければいいというアップルのビジネスとでは根本的に違いますからね。レーベル自らがやっているという点でもそうですし。アメリカのレーベルは失敗して、結果的にアップルに丸投げしてしまいましたが。

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——現在『Mora』に登録されているカタログ数はどれくらいですか?

高堂:約4万曲です。ちなみに去年の11月の時点では7,000曲くらいでした。

——かなりの急カーブで増えてるんですね。

高堂:海外ではカタログ数と価格で競ったりしていますが、僕は日本ではそういう必要もないかな、とも思います。もちろん数が多いに越したことはないんですけど、本当に70万曲、80万曲とか楽曲があっても、実際に動くのは限られてくるでしょうから。

——レーベル各社で楽曲の開放はなかなか難しいようですが。

高堂:開放するという方向性は『iTunes Music Store』『Napster』『Connect』等の例を見ても分かると思います。特に外資系レーベルは、本国では数十万曲出せる状態なんですよ。ただし日本では許諾は出ていても作業の問題が大きくて…日本向けにしたりとか、品番や価格の問題とかで、組織的にも簡単にはできないというのが現状です。

——邦楽の場合ではどうでしょう。大物アーティストは出てるけど一部だけだったり、同じレーベル内でも揃って出てるという訳でもない。

高堂:日本の場合は、スタート時期は早かったものの、割とのんびり構えてますからね。アメリカでも整理するのには多少時間がかかったと思いますが。単純に言えば、各レーベル、各アーティストによって具体的な契約内容も違ってくるでしょうし…やっぱり一番苦労する点ですね(笑)。

——この大物アーティストが出てれば他のアーティストも…と思いますけどね(笑)。

高堂:そこはレーベルやアーティスト側の意向もあるでしょうし、難しいですね。権利の所在を巡る駆け引きだとか、レーベルの方針だとか、いろんな考えがありますからね。

——価格はどのようにして決定されてるんですか?

高堂:基本的に、日本の場合はレコード会社が自らユーザーに売ろうという考えなんですよ。つまり、『Mora』という総合ショップはあるものの、実際はレーベルがユーザーに直接売ってるというカタチになっていて。だから価格もレーベルが決めるというスタイルが基本なんです。

——レコード業界の長年の慣習というのもありますからね。メジャーはメジャーのレベルで値段が決まるだろうし、インディーズは多少バラつくのかもしれませんね。

高堂:そうですね。ただ“値頃感”じゃないですけど、現状でもそこそこだろうと思っています。安ければ売れる、という話じゃないと。10円でもいらない曲は買わないでしょ? それに、日本は格段に高くてアメリカは安い、なんてこともない。向こうは99セント、日本でも150円くらいからあるし、平均でも200円くらいですからね。

——『bitmusic』はスタート当時350円でしたよね。

高堂:あれはシングル盤の価格から逆算したもので、どうしても既存のマーケットのアレンジでスタートせざるを得なかったんです。

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——その頃に比べてユーザーに変化はありましたか?

高堂:多少はあるかもしれませんが、配信のメリットというものにはまだ慣れていないという印象ですね。享受できていないというか。CD購入者に比べると、数的にもまだまだ少ないですし。『Mora』に限って言うと、ユーザーの7割が男性で、年齢層は20代後半〜30代が多いんですよ。CDを買ってるのはおそらく女性、年齢も10代が多いと思うのですが、全然違う層にきてるんですよね。

——パソコンやインターネットユーザーがメインということでしょうか。

高堂:そうですね。ある程度年齢が高いということは旧譜が売れる可能性があるので、カタログも増えてこれから伸びていく可能性もありますが。ただ、まだまだ“音楽を買いに来くる”というお客さんは限られていて。どちらかと言うとネット好き、パソコン好きな方が有名な曲、街で売ってるのと同じ曲を買うというのが主流ですが、これからはネットでしか買えないような曲が売れる時代が来ると思います。

——現状ではどういう聴き方が主流なんですか?

高堂:アンケートによると、やはりパソコンで聞く方が多いですけど、意外と端末を買ってNet MDなんかで聞いている方も多いですよ。

——時代が進んで、小さい端末なんかが普及するとまた変わってくるでしょうね。携帯電話にしても、ここ数年でどんどん変化してますからね。

高堂:日本では、ADSLを中心にブロードバンドが急速に伸びましたよね。その影響で音楽配信も一緒に伸びるかと思ってましたけど…まだついて行けてないですね(笑)。要因としては、コンテンツが少ないとも言われていますが、決済方法ひとつを取ってもカードがメインになってしまう分、年齢層を制限してしまっていることなどが挙げられると思います。そのうち電子決済なんかが浸透して子供達にも普及してくれば、状況は随分変わるんじゃないでしょうか。これまでもたくさんの障害があって、ひとつはクリアされたけどほかはまだという状況では、どうしても低いレベルに足並みを揃えがちですが、いろんなものが同じように改善されていくと、相乗効果でブレイクしてくると思います。

——現在も着々と足場を固めている訳ですね?

高堂:この4年間で失敗もたくさんありましたが、その分、状況は確実に良くなりました。

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——来年へ向けて、年度末には15万曲まで増曲予定ということですが、ほかにどんなプランをお持ちですか?

高堂:メールニュースの配信数自体は増えたのですが、今は一律のものしか流せていないんですよ。なので今後はジャンル毎にセグメント化して、カユいところに手が届くような情報を配信することでユーザーをフォローしていきたいですね。要するに、情報なんですよ。最近は各レーベルも使い方を工夫していて、その中でも先行配信なんかは反応がビビッドに出てきてるし。プロモーションの一環として、ネット限定で未発表音源を配信したり。雑誌だと、情報が1ヶ月前のものになってしまう可能性もあるでしょ? その点で、ネットは雑誌なんかに比べて非常にフレキシブルに対応できますよね。 それと最近、新譜のアルバム配信も始まったんですよ。今まではなんとなくCDが優先で、というレーベルサイドの様子見があったんですが、だんだんそういうのも取れてきて、ユーザーにとっての利便性で選ぶという時代に来ています。レーベル側も、もっと積極的にプロモーションに使っていこうという姿勢ですし。

——現実に『Mora』を利用してプロモーションしてるところも多いんですか?

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高堂:出資会社に限らず、各参加レーベルの担当者を集めて結構頻繁に企画会議を行なっています。実際、成功事例も徐々に出てきてますし、社内でも技術チームとプロモーションチームの両方で新しい仕掛けを試行錯誤しています。だからある意味レコード会社がやってる会社ですので、うまく利用していただいて、一緒にいろんな仕掛けをして行きたいですね。

——ところで、最近『着うた』が1曲で遂に100万ダウンロードを達成した、というニュースがありました。

高堂:実際、『着うた』と『iTunes Music Store』が同じくらい売れてますからね。

——『着うた』は楽曲ダウンロードに比べると敷居が低いんでしょうか。アーティストも特に嫌がりませんし。

高堂:曲自体が短く、シングルを“食わない”という安心感があるのと、携帯から取り出せない分コピーの心配もないという免罪符がありますからね。

——ここ最近のビジネスでは顕著な成功例ですよね。

高堂:着メロという土台もありましたからね。音質はまだまだ低いですけど、それでも本当の音という点でMIDIとは違う満足感があるんでしょうね。アメリカの企業も非常に興味を持ってるみたいですよ。

——そういう話を聞くと、配信にも可能性を感じたりしますが。

高堂:以前から着メロがプロモーションに利用されていましたが、着メロで楽曲をプロモーションするよりも、実際の歌でやった方が絶対に効果的ですし。だから皆さん、先出ししたりとかいろんなことをされてますよね。レーベル側としても効率は絶対に良いし、ユーザーとしても気軽に“試し聴き”するような感覚なんでしょう。

——そうすると、楽曲フル配信も、アーティストの許諾を得ることでもっと敷居が下がれば、風向きもぐっと良くなってくると。

高堂:ビジネスとして成功・確立して、アーティストやレーベルに認識させることができれば本格的になってくると思いますよ。

——つまり「儲かるよ」って思わせなきゃいけないんですよね(笑)。

高堂:今までできなかった、新しい仕掛け方がいろいろできますよ、と。パッケージに入ってない音源を配信したり、メールマガジンを使ったりと、いろんなことを含めてネットならではの使い方ができる。まだまだいろんなアイディアが出てくると思いますね。

——パッケージに入ってない音源を配信していくっていうのは面白いですよね。

高堂:最近は浜田省吾さんを始め、ちょくちょく出てきましたね。例えCDを全部持っていたとしても、そこに収録されてないのがあれば、ファンの心をくすぐりますよね。バージョン違いもあれば、音源にもいろいろあるし、使い道やくすぐり方も要はやり方次第だと思います。

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——配信業界全体の将来性について意見をお聞かせください。

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高堂:レーベルゲートとして考えてるのは、今はパソコン上で運営してますが、テレビがネットワークにつながってくると、画面はテレビで操作はリモコン、パソコンを使わなくても楽曲が買える、ということが可能になってくると思います。つまりネットワーク家電という、日本が得意とする分野に応用していこうと考えています。その先駆けがエニーミュージックであり、今後はパソコンに加えてネットワーク家電とか、日本的な音楽配信というのが作れるんじゃないかな。アメリカ人は日本人と比べてパソコンに向かう時間が長いんですよね。日本に比べてテレビのバラエティ番組も少ないし、ケーブルばかりだし。その点、日本人は携帯やテレビに時間を取られて、パソコンに向かう時間が短い。そういった文化の違いもふまえて、今後はパソコン、ネット家電、携帯の棲み分けができるようにして行きたいし、いろんなカタチでユーザーに近づけるんじゃないかと思うんですよ。ブロードバンドが広がって、パソコンの数が増えたとは言え、立ち上げるのが面倒だとかパソコン自体にバリアがかかっている状態ですよね。そういうのを越えて、いつのまにか浸透しているという状態を目指しています。

——何年後くらいを目標に?

高堂:意外と早いと思いますよ。家電メーカーと話をしてても、「ゆっくり考えてますよ」と言いつつも2006年だったりする訳で。だからあと2〜3年でそういう広がりがあると思いますよ。音楽番組を見ながら曲が買えたりだとか。パソコンでいうと、現在は能動的な方が買ってくれますが、今後、受動的なお客さんも気軽に買えるようになると本格的な時代が来るでしょう。

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——先行きは明るい、と。

高堂:そもそも今までは音楽を選ぶという作業は、家ではできませんでしたよね。CDショップへ行って試聴するとかしないと。それが今では試聴はもちろん、『Mora』ではほとんどの試聴ファイルに132Kという高いビットレートを使っていますので、売っているものと同じ音質で楽しむことができるんですよ。今までは非常に音が悪いんだけど、なんとなく分かればいいか、みたいな感じで。レーベルも保守的で、音を出すのが怖くて、試聴音源も「これくらいの圧縮音源でいいよね?」みたいなところがあったんです。でもやっぱり、音楽って音が良くないとダメでしょ?

——試聴は重要ですよね。

高堂:聴いてもらってナンボですから(笑)。それに今は試聴しないで買う方よりも、試聴して買う方のほうが増えてますしね。汚い音だと、もしかしたら購買欲が失せてしまうかもしれないじゃないですか。この点は、最近始まった他のサイトに誇れる点ですね。やっぱり音楽は“良い音”で聴かなくちゃ。

——最後に、Musicman-NETを見ている方々へメッセージをお願いします。

高堂:音楽配信というのは、まだまだこれから本格的になるところではありますが、『Mora』としては試聴曲ひとつをとっても良い音質で提供したいし、紹介していきたいと思っています。音楽を好きな方にとって、いろんな意味で楽しめる、情報が得られるサイトになるべく、切磋琢磨していくつもりでいるので、是非サイトに遊びに来て、音を聴いてみてください。サイト自体、しょっちゅうリニューアルを重ねたり、曲も急激に増えたり、サービスもどんどん追加しているので、出来上がったものを見るより、成長過程を見るのもおもしろいですよ(笑)。音楽配信の時代は必ずやってきますからね。  

【notes】
*1…ミニディスク(MD)に採用されている、ソニ−が独自に開発したATRAC(Adaptive TRansform Acoustic Coding)という音声圧縮技術をベースに、音質をほとんど損ねることなく、さらにATRACの1/2のデータサイズに圧縮できる新しい技術。データサイズをCDの約1/10に圧縮することができる。
*2…「Windows Media Audio」の略であり、マイクロソフト社の提唱するメディアテクノロジー「Windows Media Technology」の中のサウンドを扱うデータフォーマット。
*3…ISO(国際標準化機構)のワーキンググループであるMPEGが1997年に制定した音声情報圧縮の国際規格「MPEG-2/Advanced Audio Coding(ISO/IEC標準13818-7)」。BSデジタル放送の音楽圧縮技術として採用されている。

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