第7回 ホッピー神山 氏

インタビュー リレーインタビュー

ホッピー神山 氏
ホッピー神山 氏

プロデューサー/ミュージシャン

リレーのバトンはコンポーザー・プロデューサー・ミュージシャン 佐久間正英氏からプロデューサー・ミュージシャン ホッピー神山氏へ引き渡されました。 佐久間氏から紹介されたトップ・ミュージシャン、ホッピー神山氏。
 日本のメジャーでの確立された地位に甘んじることなく、ワールドワイドに自己のインディー・ヴィジョンを拡大していくアグレッシブな姿勢には、かねがね脱帽! 心意気高き「知的音楽暴れん坊」の大いなる野望とは?それにしても「ホントの事をいってるだけ」という氏の辛口マシンガン・トークは痛快(だけど3時間超!フゥ)。初の長編3部構成となりました。

[2000年5月11日/株式会社ワーナーアーティスツ応接室にて]

プロフィール
ホッピー神山(Hoppy KAMIYAMA)
プロデューサー/ミュージシャン


1960年2月22日生まれ。O型。高校時代よりアマチュアバンドでギグを重ね、19歳の時バンド、ヒーローでプロ・デビュー。 20歳で、日本で最も早くP-FUNKを始めたバンドとして注目を集めた爆風銃-BOPGUN-に参加する。ライブにおける狂乱の演奏は人呼んで”ジャパニーズ NO.1 FUNKキーボーディスト”。 その後、E.Sアイランド、ナンバーワンバンド、ビブラトーンズといったバンドを経て、1983年に、80年代を代表するスーパー・バンドPINKを結成。6枚のアルバムを発表し、ロンドンを含めて何回ものツアーを成功させた。 PINK結成時から数々のアーティストのプロデュース、アレンジを手掛け、プロデューサーとしても高い評価を受ける。 1987年 サイケデリックファーズのワールド・ツアーに誘われる。 PINK解散後、ギタリスト下山淳とプロジェクトRAELを結成。1990年にアルバム『BIRTH OF MONSTER』を発表。1991年 初のソロアルバム『音楽王』を発表。 1992年 単身NYに渡り、2ndアルバム『音楽王・2』を完成させる。1993年 自らの名前を冠したレーベルゴッド・マウンテンをスタート。世界中のミュージシャンとコラボレイトすべく日夜活動中。 OPTICAL-8、PUGS、オリビア☆ニュー☆トン☆ジョン(O☆N☆T☆J)というユニットで活発なライヴ活動を繰り広げる。 1994年 宮本亜門演出のサイケ歌舞伎『月食』の音楽を全面的にプロデュース。ロックからヨーデル、演歌、グレゴリオ聖歌まで、これまでの和製ミュージカルの枠を破る画期的な音楽を制作(サウンド・トラック『月食』としてリリース)、演劇界、音楽界から大評判を呼ぶ。一方で、氷室京介のアルバム『SHAKE THE FAKE』をプロデュースし、チャートの一位にたたきこむ。とうとう時代がホッピー神山に追い付いたのか? 1996年 PUGSメジャー・デビュー。 同年3月 テキサス州オースチンでS×SW’96(サウス・バイ・サウスウエスト)に参加。ゴージャスで、グラマラスで、パワフルなロック・サウンドが海外でも注目される。 1997年 PUGSアメリカ・デビュー。 同年3月 全米13ヶ所ツアーを行い、各地で話題沸騰。 同年7月 再度渡米し、ロラパルーザ全米イベントツアーに参加。ジョン・スペンサー、DEVO等と共演。


 

  1. まずヴィジョンありき
  2. 浦和ロックンロールセンター
  3. 近田春夫&ジョージ・クリントン
  4. 認知されてからのPINKは不満?
  5. 80年代を総括すると…。
  6. 海外によく出るようになってクリアーになったもの
  7. ゴッド・マウンテンレーベルの誕生
  8. 『音楽王』はそれまでの音楽活動の清算
  9. ミュージシャン兼アメリカ担当プロモーター、ホッピー
  10. 日本ではNHKが面白い?
  11. CD店の事情は90年代後半に変わってしまった!
  12. 日本の音楽業界はアメリカ人を相手にビジネスしようとしていない
  13. 自分で物が判断出来ない日本人、批評出来ない評論家
  14. アメリカが面白いのは健全なジャーナリズムのせい?
  15. 女装の意図するところ
  16. わが心のバイブル”SHAGGES”(シャグス)
  17. eX-girlのアメリカ戦略
  18. やっぱり西洋人は日本の女性が好き!
  19. ロラパルーザの体験を生かす
  20. 向こうのビジネスで頑張ってみようってバンドがいっぱい出てくるべき
  21. 歌・英語・アニメのキーポイントをしっかり押さえる
  22. “豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ”
  23. 日本の言葉とか文化を広めていくって事が面白い
  24. 我々が海外で自信を持てる日が来なくちゃいけない

 

1. まずヴィジョンありき

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--ホッピーさんを特別な人だと思っているのはメジャーとインディーを両立させて、両方とも最先端を行かれている事。メジャーではこういう風に考えてるとか、インディーではこういう風に考えてるとかありますか?

ホッピー:私には私の音楽のヴィジョンがあって。そのヴィジョンに沿ったものであれば別にメジャーだとかインディーだとかはこだわってはいないんです。私も生活する為にはメジャーの仕事をしてお金を貰わなくちゃいけないし、インディーなんてお金にはならないですからまず心意気がないと出来ません。ヴィジョンというか強い目的意識。これを持って分け隔てなく、最終的に自分が聴いた時に良いと思えるか、自分が演奏したり作るものに関してはその時点で自分が感動出来るかどうか。私の場合理屈じゃなく、私のフィルターの中でリスナーとしても良いなと思えるかどうかの価値判断しかないんですよ。単純なんですけど。だから当然メジャーのものに関しては商業的にマーケティングなんかをした上で、売れるものをっていう事をある程度プロデューサーとしては考えますけど、それと別にまず自分が作ったものを聴きたいって気持ちがあって。よく自分の作ったものを聴きたくないって人がいますけど、あれは間違いだと思うんですよ。そんな事があってはいけないと思うんですよ。自分のものが一番かわいくて、 いつ聴いても「良いな」と思えないと。全てが代表作って言えないと。作家としてミュージシャンとしてアーティストとして、自分の意志がないって事はやってて意味がないですよ。それはメジャーのアーティスト、インディーのアーティスト問わず同じ事で。自分から発せられないものを作ったとしても何も聴いた人は楽しくないです。

--その心意気のインディーですが、基本には聴いて欲しいということがありますよね、その辺をいかに聴いてもらうかっていう事で、大きな苦労をいとわずやってらっしゃるようですが。

ホッピー:そうですね、聴いてもらいたいっていうのもありますし、メジャーのアーティストでよくある「何を作っていいのかわからない」「作る事が苦痛だ」とかそういう事は私にとって考えられない、絶対有り得ない。私なんか時間さえあれば毎日でも作品を作って一週間に一遍はCD出したいぐらいなんですよ(笑) インディーでは世界中で年間10枚ぐらいは出してますけど、まだまだ作りたくてしょうがないんですよ。私の付き合っているインディーの人間達みんなそうなんですよ。だからアンダーグラウンドの人間は聴いてもらう前に作りたいんですよ。自然にどんどん音楽が出てくる。人によって出てくるスピードとか早さは違いますけど。みんな表現をする事が好き。それでそれを最終的に聴いてもらいたいからCD出したり、ライブやったりすると思うんですけど、最終的に音楽が好きで、まさか苦痛なんて無いですし。私は音楽に携わる人間はただ音楽が好きだけで良いと思うんですよ。

--音楽が好きだっていう初心、そこが守られているのがインディーズとかアンダーグラウンドなんですね。

ホッピー:そうですね。そういう初期衝動みたいなものとかそれがほとんどだと思いますね。

--「当たり前だろ」っていうところですよね。

ホッピー:もちろんそうです。だからメジャーのアーティストはみんなそうじゃなきゃいけないし、ノルマとかにしちゃいけないし無理なノルマを課す方も変だし、それをノルマと感じるアーティストも信じ難いっていうか、メジャーの人間でそういう事にぶち当たっている人間は私の役目とすると、現場で音楽を作る事もそうですけど、「あなたにとって音楽っていうのはどういう風に自分のまわりにあるんですか?」っていう事に関して話し合う事をすごく心がけてるんですよ。

--プロデューサーとして?

ホッピー:仕事のお付き合いの無いようなアーティストからも電話がかかってきたりしますよ。それは私に出来る事があったらやってあげたいから、今自分がどうやって音楽をやったらいいかって事を自然体で出来る為の薬になればいいなと思ってるんですよ。でも、私は逆にそういう色んな人と喋る事も自分にとっては音楽でセッションするのと同じ様にプラスになるんですよ。人の考え方って色々あるじゃないですか。それを身につけるのはとても面白いです。

 

2. 浦和ロックンロールセンター

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--さて、ご自身のバンド歴は高校ぐらいからですか?

ホッピー:バンド活動いっぱいしてたわけじゃないんですけど、私は高校が浦和にある浦和西高校だったんですけど、浦和に浦和ロックンロールセンターっていうのがあって、URCっていう大学の学生運動とタイアップしたような音楽団体があったんですよ。昔はフォーク団体とかいっぱいあったじゃないですか。その中のかなり硬派なロック団体があって。四人囃子も頭脳警察もあんぜんバンドもみんなそこから出て来たっていうか、学生運動の大学の紛争とかそういうところから生まれてきたようなバンドが総決起集会とかいって、声明文を読み上げるような連中と一緒にライブをやるとか。

--今の学園祭とは違うイメージで学校でやってましたよね。

ホッピー:それで毎年、浦和の田島ヶ原っていう荒川の土手で野外コンサートをやったりとか、影響力のある団体があって。その人達が面白かったんでよくその人達のところに出入りしてたんですよ。その人達のライブに参加してるうちに四人囃子の人達と会って話す機会も出てくるわけですよ。そこで話てるうちにたまたま「やってみないか?」って誘いを受けたから「もちろんやりますよ!」って。だって憧れてた先輩じゃないですか。だから単純に努力してコネクションを作ったんではなくて、浦和の団体に出入りしてたのがきっかけでそういう人から声がかかったんです。

--その時は最年少ですか?

ホッピー:そうですね、18歳ですから。それでみんな7〜10歳上なんですよ。70年代ロックの人達っていうのは。

--政治的な何かがあってそこに近づいたんですか?

ホッピー:違います(笑) ただ単に音楽がやりたかった。面白いのは必ずそういう野外イベントになると赤いヘルメットの連中とかが出て来ちゃって声明文を読み上げて「我々は〜」とか「三里塚が〜」とか「成田の空港が〜」とかしょっちゅう言ってるわけですよ。埼玉大学と対立してたんでそうするとしょっちゅうケンカが起きるんですよ。そういう暴動と化した状態の中で、バンドが演奏始めると、それが無かったかのように無くなるんですよ。その時に私が見た日本の70年代のロックの連中がそこでライブをやる事の意味が音楽っていうのがイデオロギーとか関係なく成立しちゃう格好良さを洋楽とは別にリアリティとしてそこで見ました。例えば長沢ヒロがグチャグチャっともめた後に出て演奏する時に「俺達のメッセージはこれだから」ってパッと始めた時なんか…。

--格好いいですね(笑)

ホッピー:格好いいでしょ(笑) 高校生ながらも「やっぱり違うんだな」って思いましたよ。そのグチャグチャ言うことじゃなくて「音楽は音楽なんだから」ってわざとらしくなく言える彼らの潔さっていうか、それはジャンルは関係なく大事な事だなと思いましたね。

--そうすると、ヒーロー(彼の最初のバンド、あんぜんバンドの長沢ヒロがリーダー)っていうネーミングもよかったですね(笑)

ホッピー:どうでしょうね。でもねちょうど同じ時期にね、甲斐バンドの『ヒーロー』がヒットしてそのあおりでデビューしても売れなかったんですよ。よくあるじゃないですか、イメージ的に強いものが横にあるとダメになるなんですよ(笑)

 

3. 近田春夫&ジョージ・クリントン

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--その後は?

ホッピー:その後に幾つもバンドやってますけど、例えばBOP-GUNっていうのもやってますし、その後にやった近田春夫さんのビブラトーンズに入ったところから最終的にはPINKの母体になってる事は間違いないんですけど。近田さんは非常に面白い人ですから、私は変な人達とばっかりやってきてますから(笑)

--近田さんの業界の入り方も若い時で、共通してる感じがしますね。近田さんが入った時もまわりが7〜8歳年上で。

ホッピー:そうですね。彼も異端児じゃないんですけどねじ曲がったカーブがとても個性的で良いんですよ(笑) 私が一緒にやってた時は彼の感覚が時代的に反対側に行っちゃったっていうか、当然CM業界では彼の面白さはすごく買われてCM業界では売れっ子でしたけど。商業的なところの音楽マーケットでは彼のものはキワモノすぎて…。でも私は近田さんの良いバランス感覚には勉強させられました。

--ホッピーさんには”ファンク”っていうのがありますよね。

ホッピー:私のファンクっていうのは形態的に音楽ジャンルのファンクじゃないんですけど、私がすごく影響を受けたファンカデリックのファンクっていうものはいわゆるファンキーな音楽っていう事のファンクっていうよりは何でもアリ。だから、精神的なファンクっていうところが非常に大きいんですよ。だから「何やっても良いじゃないの」って、黒人だから黒人の音楽って関係ないし、ファンカデリックってハードロックもあれば、ジャズもある、何でもアリなんですよ。だから逆に面白いっていうか、それでライブやった時のパワーとエネルギーは凄い。私のファンクは音楽ジャンルではなくて…。

--何でもアリ?

ホッピー:そう、カオスとしての音楽の在り方。最初に10年以上前にジョージ・クリントンに会って話した時も彼も同じ考え方をしてて彼の思想もまさにそうだった。

--いでたちもめちゃくちゃでしたからね。あれはホッピーさんの女装にもつながるんですか?

ホッピー:好きな事をやれば良いって事だと思うんですよ。好きな事がある一線を越えてしまえば、それはOK。自分もOKだし、見た人間も認めざるを得ないわけですよ。ファンカデリックは好きな事をやって認められてるんですよ。それが極端じゃないですか。狙った音楽じゃないですから。だから才能とかじゃなくて、彼はいつも言ってるんですけど「ジャムの様にぐじゃぐじゃしたものを指でかき混ぜてそれの臭いを嗅ぐんだ、スティンキーフィンガーだ!」って。正にそのジャムのぐじゃぐじゃしたっていうのが彼のまわりの状況とか世界の事で「それをかき混ぜてその臭いを嗅ぐ感じが音楽だよ」って彼は言ってました。実際そうだと思うんですよ。だから、彼は子供のまま好きな事をやってる。人気者ですけど、金持ちではないし。一時期はホームレスみたいだったり、ヤク中で逃げ回ってる時もあれば、だから人間としてもとても面白い。彼は親分としてすごくオーラの強い人間ですから、一緒にファンカデリックのライブに出た時も彼はずっといないんですよね。ポイント、ポイントで出て来て誘導するんですけど、自由にやらしてて、彼が出るとキュッとなるんですよ。だからコントラストがすごく良いんですよ。それが3時間続くわけですよ。彼は良いところで出て来ておいしいパフォーマンスをして、いっぱいシンガーもいますから後は弟子達に自由にやらして。ただ彼が真ん中に立った時のオーラっていうか統率力はすごいですよ。宗教的なものに近いカリスマはありますね。

 

4. 認知されてからのPINKは不満?

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--さて、PINKは80年代の日本のロックにエポック作ってますよね。海外ツアーもやったり。

ホッピー:ツアーっていうか、イギリスでシングルをリリースするんで向こうでライブをやったってだけですけど。まあ、バンドが好きな事をやってある程度売れたっていうか、売れたっていっても今の枚数とは違いますけどね、最高で5万枚とかの世界ですから。

--音楽のオリジナリティーは溢れてましたよね。

ホッピー:ただ、私はPINKがアルバムとかで出して一般的に認知されてからのPINKは不満なんです。その前におPINK兄弟っていうPINKの母体みたいなのがあって。その時はとても面白かった。いわゆるファンカデリックのような感じで、メンバーもとっかえひっかえで。

--売りにくいぐらいの音楽だったんですよね。

ホッピー:ボーカルのエンちゃん(PINKボーカル・福岡ユタカ氏)の個性はハナモゲラで適当に吠えてる時がすごい格好良いじゃないですか。

--今、それが評価されてますけどね(ニュース・ステーション)。

ホッピー:今また戻ったですよ。一時期AORみたいになって心配したんですけど。今、良いですよ。

--あれは元々だったんですね(笑)

ホッピー:彼の良いところですよ。誰にも出来ないキャラクターで。彼のトランスな感じが格好良かった。それと混じるミュージシャンのクレイジーな感じが。だから最初の頃はじゃがたらのメンバーに混じってやってたりとか、今はイギリスに行っちゃってる鈴木賢司がいたりとか。あの頃のピテカントロプスを中心とした人脈は非常に面白かったですね。みんななんか好き勝手やってて。出てくるものが面白かったですね。その頃はそういう人間と今はクラブって言いますけど、ピテカンみたいなところで夜遊ぶのもとても楽しい事だったですよね。会う人会う人みんな変な人で(笑)

--みんなパワー出してましたしね。

ホッピー:ピテカンとかで海外のアーティスト達も非常に面白かったですね。UB40とかペンギンカフェを見た時もとても良いと思いましたし。あの時は私にとって音楽を始めた時とかの次に楽しい時でした。PINKがどうのこうのって事じゃなくてまわりにいる環境としてはとても良い音楽環境でした。80年代半ばかな。

 

5. 80年代を総括すると…。

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--90年代になるとどんな感じなんですか?

ホッピー:80年代の後半にバンドブームが起こったじゃないですか。あれは良いにしろ悪いにしろああいうものがあって、日本の音楽業界の在り方をかなり変えてしまったっていうか、あと歌謡曲とロックの境目も無くなって、システムも色んなものが変わってしまって。それでインディーズのものがメジャーになれる。だからインディーズの在り方もメジャーの登竜門みたいに考え方が移行する時ですよね。インディーズで出してたホコ天のバンドがすぐデビューみたいな。だからもうクオリティーとかじゃないですよね。青田刈りの世界でしたから、何でもかんでも。ライブハウスはライブハウスでどんどんホコ天的なバンドが出れば事務所も付いてる、レコード会社も付いてるでみんなお金落としてくれるし、ライブハウスのシステムも変わってしまった。ノルマがそこから生まれたんですよ。それまではノルマなんて無かったですよ。「何十人チケット売れなかったら出さない」とか無かったですよ。そこでライブハウスがその日の補償額っていうのを決め始めたんですよ。だから一日50万の売り上げがないとやらないとか。

--バンド数とか演りだしたやつが一気に増えちゃった。

ホッピー:だから資力のないバンドっていうのは出られないっていう事にどんどんなってきて。でもまぁバンドブームが去った時にライブハウスもパンクしたわけですよ。バンドも減って。お金もまわらなくなってきて…。そこで状況は変わったんですけど、バンドブームが終わったところで私がずーっと80年代の日本の音楽の中で疑問に感じてたこと、私が純粋に思ってた70年代に音楽に入り始めた時のこだわってやってた、好きにやってた、好き勝手にやってたっていうようなロックの在り方っていうのがだんだん無くなってるじゃないかっていう。BOOWYが売れたっていう時点でもうそれは全く無くなったっていうか、商業的に売れるのが目的だみたいな。

--成功例が出てきたところからみんなそっち見ましたよね。

ホッピー:だからビジュアル系バンドが出て来て売れたっていうのはもちろんそこですけど。

--やっぱりみんな「儲かるんだ」っていうのがわかっちゃったみたいなとこがあって。

ホッピー:そうですね、目的がそこになっちゃいましたから。レコード会社の目的だけじゃなくバンドの人間の目的がそこになったっていうのが大きいですね。自分達が「お金を稼ぐ為にバンドをやるんだ。だからマーケティングをして売れるメロディーを掴んで曲を作ってライブをやりましょう」みたいな考えになってきましたから。もう本末転倒ですよねそうなったら。それは今までディレクターが一生懸命「こういうのやってみなさい」なんて言って四苦八苦してたものが自分達が最初から始めるっていうか。

--ビジュアル系とかは自分達でプロデュース出来ちゃうところまでいっちゃってますよね。

ホッピー:そうですね、プロデュース出来ないバンドは上手くいかない。プロデュース出来るとかそういうところに長けた人間が一人いるかどうかが、売れるかどうかの分かれ目ですよね。

--でも、そういう人達が出現しちゃいましたよね。

ホッピー:だからミュージシャンじゃなくてプランナー及び営業マンみたいなミュージシャンが90年代の頭からどんどん増えた。

--新人類が登場しましたね(笑)

ホッピー:そうですね、だから音楽を純粋にやるんじゃなくて、ビジネスの方を…。

--頭が良いですね。

ホッピー:そういう意味での頭ですよね。いわゆる昔からの「好きな事やって何が悪いんだ」っていうじゃなくて、自分からプレゼンテーションをする、自分から企画を作ったりするような事が出来る人がミュージシャンとして成功するっていう事になってしまった。だから当然今の大物プロデューサーと呼ばれる人達はプロデューサーとしての企画を作って、内容はどうのこうのよりそういう新しい企画を作ってそれをどんどんまわしていく事が出来る頭の人が今のプロデューサーの資格じゃないですか、だから業界ではそういう人が求められるわけじゃないですか。

 

6. 海外によく出るようになってクリアーになったもの

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--音楽が出来るビジネスマン?

ホッピー:そうですね、成功するにはそれが一番必要なわけで、だけど私の疑問っていうのは「そういうのだけで良いのか?」っていう。例えばロックだけじゃなくジャズにしても現代音楽とかアヴァンギャルドなものにしても昔だったらメジャーの中にも変わったディレクターがいてこだわって「こういうのがやってみたい」っていうのがありましたけどそういうのがどんどん無くなって、そういう本来ある自分で頑張ってる人達にとっての表現する場所が無くなってきてる。それで音楽っていうものを作って演奏する時、ショーアップされたものが良いっていう風にどんどんそういう風潮になってきますから、私はPINKなんかやった時もそうですけど、だんだんシステマティックになってるようなエンターテインメントの世界じゃなきゃ駄目なのかなっていうような疑問が。好きに適当にやってるロック。でも外タレ見に行くと確かにマイケル・ジャクソンとかマドンナ級のものはシステマティックに練られたエンターテインメントをそれが目的ですからやってますけど。そうじゃないロックのもの見に行ったら全然チンタラやってるじゃないですか。MCもなくずーっとやって一時間ぐらいやったら飽きて終わったみたいな(笑) 結構それでも売れてるしおかしいなみたいな。日本のものっていうのはインディーズのものもだんだんシステマティックになってきたところで自分のやってるものが本当に良いのか悪いのかっていうのが日本の中にいるとわからなくなってくる。私が東芝で『音楽王』を作ったのを機に海外によく出るようになって、海外のミュージシャンとやったりとか海外の空気を吸うようになって、だんだん自分の変だなと思ってたものが自分の中でクリアーになってきたっていうか、自分の思った事は間違いじゃなかった、だから自分で無理をして日本のやり方に乗っかってかなきゃいけないっていう事はしなくて良いんだっていう。

--海外に出ていって気が楽になったんですね。

ホッピー:偉いとか偉くないとか有名だとか有名じゃないとかそんなものは関係ないんだなっていうのもそのあたりでわかりましたし、ミュージシャンのクオリティーと音楽が良ければ、どんな人間でもコミュニケーションとれてやれるんだなっていう事が。日本の中だとこれはこれっていう場所が出来ちゃってて、なかなかみんながその壁を取り払っていくのは難しい…。

 

7. ゴッド・マウンテンレーベルの誕生

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--その場所に行かないとまた売れないとか…。

ホッピー:それが変だなと思ってたものが非常にクリアになりました。90年ぐらいを境に私の考えが楽になったっていうか。「これは自分のやり方」っていう。だからプロデュースのやり方にしてもすべてにおいて自流でガンガンいって平気だって。そこからはイケイケ状態ですから。だから当然生活するために音楽業界で食べていく事も大切ですけど、半分は自分の好きな事をやっていきましょう。日本にいるって事の窮屈さとか日本の中でわからなくなってしまう事が多く出現するわけですから、なるべく海外でやれる事があれば海外でやれば良いんじゃないかと思って。自分が求められるところであればどこでもいいやと思って海外にもどんどん出るようになって。ちょうどその時に、海外に出て認められて良い音楽を作っているにも関わらず、日本の中ではなかなか活動する場所が少ない同じ様な年代のミュージシャンにいっぱい出会えたんですよ。それがゴッド・マウンテンをつくるきっかけですけど。みんな自主レーベルでやっていた例えば大友良英君がやってるようなグランド・ゼロにしても、自腹で作って。彼の音楽はメジャーの音楽じゃないですから、でもインディーのところに色々持ち歩いた。今だったら大友良英って言ったら「どうぞどうぞ」って言うじゃないですか。でもあの頃は例えばWAVEとかDISC UNIONとかそういところでさえ断られちゃって。それで私のものも色んなところにプレゼンテーションしても同じだった。海外のものは何でもアリなのに日本のものは下に見ちゃうんだなみたいな。ダメだなと思って。大阪だとアルケミーとか面白いレーベルがあって、東京にもP.S.F.なんてのもありますけど、自分でそういうミュージシャンを集めてそういう音楽作らないと出すとこがないなと。だからちょうどその頃に出会った良いバンド例えばRuinsやってる吉田達也君のバンドとかティポグラフィカって今でも今堀君がやってるバンドとか。そういうクオリティーがすごく高いにも関わらず、日本の音楽業界の中で認められない状況で苦しんでいるようなバンドをなんとかまとめてレーベルって事にすればプロモーションし易いですし、ショップに置く流通の事も簡単になりますし、雑誌に載るチャンスも増えますから、それでレーベルのファンが付けばバンドのファンじゃない人間も興味を持って買ってくれるチャンスもありますから、レーベルとして作りたいと思ったんですよ、それがきっかけで92年ぐらいにそうしようと思って。

 

8. 『音楽王』はそれまでの音楽活動の清算

ホッピー神山9

--『音楽王』を作るのとゴッド・マウンテン始める事で90年代始まっちゃったんですね。

ホッピー:『音楽王』を作った直後にそうしようって。私にとって『音楽王』っていうのはそれまでの音楽活動の清算として出したんですよ、一応メジャーで出す事ですからあんまりアヴァンギャルドでぐちゃぐっちゃなものを出しても発売禁止になっちゃうじゃないですか(笑) これから自分がやろうとしているものだったらなかなか認めてもらえないだろうから、発売出来る範囲のものでそこまでの自分の音楽をなんとかまとめましょうって事で2枚作ったんですよ。それでも2枚目に関しては次のステップをちょっと臭わせながら作るという。それでそのまま臭いが出たもんですから東芝から切られました(笑) 「わからない」って(笑)

--「こいつはアカン」みたいな(笑)

2枚目のデモテープを聴かせた時から向こうは「わからない」って(笑)

--ホッピーさんとしては覚悟の上だったんですか?

ホッピー:そうですね。でも、ここでまたわかりやすいものより東芝EMIみたいな大きな会社を利用するっていうかそういうところから自分の音楽で出すって事の方が大事ですから。そこで本来の自分はこういう事なんだよっていう事をわからせないと恥ずかしいっていうか。1枚目は完全な清算でしたけど、2枚目は少しはそういうものもいれないとイカンと思ったんですよ。だから後がどうなろうとしょうがないと思って。実際問題レコーディングは「勝手にやんなさい」って言われて、バジェットだけ教えてもらってマルチ・テープ持って一人でニューヨーク行って。ディレクターも来なかったですし、日本に帰ってきてからの制作報告会議っていうのを営業と宣伝の人間を会議室に集めてを私が黒板に説明してやったり(笑) 「こういう企画で作って、こういう風なんで、じゃこれからのプロモーションはこういうやり方で良いですか」って企画まで私が言って。それはレコード会社として野放しっていうか、どうしていいかわからない。でも、私と佐久間さんに関しては、東芝で出すっていうのが、東芝としてもその時のディレクター井ノ口氏(現・アンリミテッドレコード取締役 井ノ口 弘彦 氏)としても、二人の大物を出すっていうのが彼らのプライドとしてすごく大切な事だったんですよ。自分のやりたい方向性っていうのを東芝っていう単位では認めてはくれなかったですけど、そういうチャンスをくれたっていう意味では感謝してるっていうか、井ノ口氏に関しては私は彼の人間性は好きなんですよ、バイタリティがあって、いつでもギラギラしてるところは好きなんですよ。彼は自分のやる事に迷いがないところも好きです。ただ最終的に音楽的なところで自分のやってた『音楽王』で組めなくなったのは残念ですけど、だから彼は今の様に成功すると思ってましたよ。大体ビクターにいた時に泉谷をあれだけリバイバルさせたっていうのは彼一人の力でしたから、それも偉いなと思ってました。自分で一人でやったんですよ。メンバーも集めて「こんなメンバーと泉谷をくっつけたら売れる」って言ってやったら売れましたから。彼の動物的な観点は素晴らしいです。だから彼みたいな味方が横にいると本当は良いんでしょうね、ビジネスとしてね(笑)

--ただ音楽の方向性が違った。

ホッピー:まぁね、彼の中では私の音楽にビジネスとしての価値観が持てなかった。

--井ノ口さんの考えもわかる気がします(笑)

ホッピー:まぁそれは当然だと思う。私はそれに対して文句もないし、私はJ-POP的なものを提供したわけじゃないですから、それはしょうがないです。だからそこを機に私は自分はインディーズで生きようって事じゃなくて活動出来る場所を日本だけじゃなくてワールドワイドにレーベル替えつつ切り開いていかないと、自分はただの音楽に関わっているだけの雇われプロデューサーっていうか、都合良く使われるような人にだけなってしまって、まぁ例え自分が好きな事だけして出したとしても、なんか自主制作で寂しく出すだけになってしまうんじゃないかって危機感もありましたから、実際まわりの状況もそんな感じがしました。その時期は良いアーティストもどんどんメージャーから切られましたし、今もまたそういう時期ですけど、だからそういう意味でアンチ・メジャーっていうよりは、自分達の場所も自分で作るっていう事。やっぱり最終的には誰も頼れない。今で言うベンチャー企業みたいなのをやるんであれば、自分で作るっていうよりいろんなものを巻き込めば企業って作れるじゃないですか、お金も出てくるだろうし。ただ、自分の音楽っていうのは企業じゃないですから日本の場合それに投資をするって事はなかなか有り得ないですよね。海外みたいにスポンサーが出て来てパトロンとかグラントがお金を年間1000万あげるから好きな事やりなさいみたいな人が出てくればとてもいい事ですけど・・。だからいい事をすればそういう人間が出てくるっていうのがアメリカ。特にニューヨークなんかそうですけど、ジョン・ゾーンなんかはちゃんとグラントがいるんですよ。実際に商売もとても上手い人ですけど、年間ちゃんと納めてくれるグラントがいる。そういう資金源がある。だから彼が自分のレーベルとか好きな事を続けられる。

--アートに関しては理解がいい国ですね。

ホッピー:いい国ですよ、お金の使い道をお金を持ってる人達がわきまえているっていうか。

 

9. ミュージシャン兼アメリカ担当プロモーター、ホッピー

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--何度もアメリカの音楽業界の現場を踏まれてると思うんですが?

ホッピー:アメリカの場合は国が大きいので州ごと町ごとっていう単位の音楽の在り方があります。例えばニューヨークで売れるものがロスで売れるかって言ったらそうでもないし、西海岸、東海岸っていう大都市にある音楽っていうものがミッドウエストって呼ばれる真ん中のあたりで売れるかって言ったら全く売れないわけですよ、やっぱりミッドウエストではカントリー&ウエスタン一色で、それしかないんですよ。

--国が違う様なもんですよね。

ホッピー:そう。特にテキサスなんかは大きい一つの国ですから、他の州と相容れない考え方とか人間性があって、まだ開拓精神があっていわゆる「白人以外は敵だ」って言って銃をバンバンやるところですから (笑)、またメキシカンがすごく多いですから、普段我々が考えるアメリカとは違う像がありますよね。だから日本みたいに東京から発信した情報がその日のうちに日本中の田舎まで網羅して、テレビを見た人間が翌日にCD屋に行くって事は有り得ないんですよね。要は情報源とすると大きすぎて、幾つかのメジャー雑誌っていうのもありますけど、ラジオにしても国営放送や全国ネットはありますけど、ほとんどが地域ごとのラジオで。

--ローカルメディアですね。

ホッピー:ローカルのほとんどがカレッジラジオとコミュニティーラジオで、構成されてるんですよ。しかもスポンサーの息のかからないDJが自分の判断で好き勝手に流せる。だから日本みたいにスポンサーが全て曲を決めるなんて事は有り得ないですから。そういう事で言うと、リスナーが良いと思えるようなものとか音楽がわかってる人間が良い音楽を電波に乗せられるっていう。情報源とするとそれしかない。あと娯楽もあんまりないですから、ケーブルテレビ以外はラジオ聴くしかないんですよね。だから家にいない時はみんなラジオを聴いている。

--ラジオがしっかり生きているんですね。

ホッピー:それで日本みたいに電化製品がすぐ新しくなったりしないですから。例えばMDなんて未だに全然ないですし、未だに大きいカセットウォークマンを聴いてて、CDウォークマンを聴く人もあんまりいないです。だからラジオを聴いててもメディアとしては全然問題ないっていうか、それで充分。それとラジオ局もいっぱいありますから、このラジオ局を聴いてれば自分は満足なんだっていうチャンネルさえ探せば、それを一日中聴いてれば楽しいわけですよ。コマーシャルは無いは、DJのしゃべりもちょっとしかなくて、ほとんど曲が流れてて、ニューウェーブかかってるチャンネルだったら一日中ニューウェーブかかってて。自分がCD買うより聴いてた方が楽しいぐらいで。それを聴いてる人間がそこから情報を知って、CD屋に行ったり、もちろんライブに足を運ぶって事もありますから、雑誌の告知よりは非常に強力ですね。DJが「良い」って言ってかけたものが地域的なヒットに繋がる。その地域的なヒットが他の地域とリンクした場合は全国的なヒットになる。だから、なぜグラミーを取ったかわからないBECKみたいなものが全国ネットで広がったのは地域ごとに同じ現象が起きてそれがリンクした結果だと思うんですよ。

--向こうではPUGSとしてやられたんですか?

ホッピー:PUGSでもやってますし、ビジネスとして関わってるインディーのバンドも私がオーガナイズしてラジオ局と雑誌とパブシスト( 媒体に対してプレゼンテーション・プロモーションする人達)とやりとりして。カレッジラジオでヒットが生まれてくるのは間違いないので、どのラジオ局でも新人バンドとかインディー、メジャーを問わずCDが送られてくるわけですよ。そんなものは全部聴けないですから、そこをどうやって選ぶかっていうとほとんど個人的なコネクションとかになるので、私は個人的にDJと仲良くしてDJ名指しでどんどん送ったり、コンタクトとったり。

--インディーズの数もラジオ局の数もすごいわけだし、大変ですよね。

ホッピー:ニューアルバムが出た時にプロモーションで配る枚数は最低200枚ですよね。それで200ぐらいを網羅すればめぼしいところは全部行く。500ならほとんど網羅出来る。

--全米ですか?

ホッピー:ええ、ロック、ポップスかけるところは。

--手慣れてる人がやってもすごくハードですよね。

ホッピー:何百って規模になるとパブリシストって規模じゃないと出来ないですね。影響力のあるカレッジラジオのステーションもあるんですよ。そこでかかったものはすごく信用があって他のカレッジラジオに飛び火する事がある。そういうキーステーションになってるようなところを攻めていけばそこから枝分かれしていくのは間違いないのでその中でも一番面白い番組作ってる人間には個人的になるべく情報を流すようにしてるんですよ。

--ミュージシャンの傍らそのへんの事をやるのが大変ですよね。

ホッピー:でもこちらから行動を起こさない限りは向こうは何もわからないですから、お金があれば、プロフェッショナルなパブリシストやそういう人材を使いますけど、お金が無い状態では心意気と忍耐しかないんですよ。

--でも、アメリカの音楽の育ち方には真っ当さがありますよね。

ホッピー:そうですね、新しいものが生まれてくる土壌の中にはその真っ当さはあります。ただ、それを越えたところのビッグビジネスのところは日本以上に厳しい。日本ではなあなあで済むところが済まないようなビッグビジネスの領域がある。アメリカ人でも難しいと思いますが、私なんかメガヒットで売れてるような部分には全く入り込めない。

 

10. 日本ではNHKが面白い?

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--日本ではベーシックなインディーズの育ち方っていう突破口がラジオの力が無いだけに難しいところがあるますよね。

ホッピー:そうですね、若い連中もラジオはまったく聴かないですし、聴いたところで面白くないですから。大体ラジオ局が出来た時はスポンサーが少ないんで自由に好きなものかけてるじゃないですか。インターFMも最初良かったんですけど、今なんかかなり日和見になってきて、「あぁ、そういう事なんだな」みたいな (笑) あれだけ日本のものはかけないって断ってたのに今は日本のポップス相当かかるじゃないですか。だから日本のものかけないとお金にならないっていうのはあったと思うんですよね。今一番面白いのはNHKなんですよ、NHKっていうのはスポンサー関係ないですからディレクターの意志とNHK内で会議をした時にOKが出ればとりあえずインディー、メジャーを問わず好きなものがかけられる、レコ倫、放送倫的な規制は他のラジオ局より厳しいですけど…。

--NHKはインディーズかけないって事は無いんですね。

ホッピー:何でもかけますね。よっぽど倫理的に怪しいものじゃなければかけられる。昔のNHKは深夜はなかったんですけど、今は深夜枠があって結構無法地帯になってますよ。面白いディレクターがいて、今やってるかわからないですけどライブビートって公開ラジオ番組があって、月に5バンドぐらい呼んで300人ぐらい客の入るホールみたいな何スタって所でライブやってそれを放送するんですよ。それはメジャー、インディー問わず面白いバンドだったらディレクターの意志で…。

--お眼鏡に叶えば?

ホッピー:というか、そういう人間が自分で探してきたり、むこうからオファーが来たり。だから、インディーでやってるバンドと新人バンドが出るんですけど、今はディレクターが代わっちゃったんですけど、そのディレクターが変わった人で彼が出したものは必ず良いヒットに繋がる。日和見じゃないのに後でヒットする。それで有名な人間がいたんですけど、辞めてしまって。そういう音楽を理解してて、メジャー、インディーを問わずそういう番組を作れるのはNHKならではですね。私も何回か行きましたけど、ライブ自体が楽しめるんですよ。

--そう言えばナンバーガールを聴いた覚えがありますね。

ホッピー:えぇ、ナンバーガールもそうですし。その時にナンバーガールと私がプロデュースしたセンチメンタル・バスと椎名林檎を同じ日に出したりしてたんですよ。

--すごいなと思いましたよ。

ホッピー:あれはみんなデビューした時で売れるかどうかわからない、ナンバーガールは枚数いってないですけど評判良いじゃないですか。そういう商業的に狙ってないようなところからヒットが出るようなアーティストに目を付けるってところは偉いなっていうか、ああいうディレクターのようなものが海外ではラジオで言えばDJが皆って事になる。自分が見つけたものには誇りを持ちますから。自分が愛情込めてプッシュする事してそれが売れる事によって自分が達成感を覚えるような人間が多いですから。

--リアル・MUSICMANと言いたいですね。

ホッピー:そうですね、お金を注ぎ込まないパトロンっていうか、そういうボランティア精神があって。アメリカ人の学校教育の中にもボランティアで色んな事をやりましょうってあるんですけど、例えば向こうでフェスティバルとして機能しているサウス・バイ・サスウウエストとかあの類はボランティアからスタートしてますから今も動いてる人間はボランティアなんですよ、だから上でオーガナイズしている人間以外はほとんどの人間がボランティアなんですよ。そういう自分達が作り上げたものからシーンが出来てていく事に意味を持つというか、別にそれが金にならなくてもそれは自分としてはOK。

--そういう人さえいれば、意識さえあればNHKのディレクター的立場だったら出来るって事ですよね。

ホッピー:NHKのディレクターは給料貰ってますから、それは給料もらってるからやるって事もありますけど、精神的には一緒ですよね。

--フラットなスタンスで日和無くて良いですからね。音楽は文化という捉え方でボランティア出来るわけですけど、日本の場合は商業ベースっていうのが先に来ちゃってメディアの人間が文化的な意識で動いてるのかどうかは疑問があって、あれはさみしいですよね。

ホッピー:そうですね。本当は両方あって、片一方によってはいけないんですよね。だからバランスが取れてるのが一番良いと思うんですけど、だからメジャーの今の在り方もメジャーでデビューさせる商品っていうかアーティストにしても、昔は両方ありましたよね。売れなくてもこだわってるものがある程度大赤字じゃなければ「出してる事に意味がある」って言って出したり、そのバランスの取り方っていうのが一番良いと思うんですよ。お金が無ければ会社も維持出来ないですから当然売れるものっていうのは作らなきゃいけないですけど。

 

11. CD店の事情は90年代後半に変わってしまった!

ホッピー神山12

--お店も今はせっぱつまっていて売れる物しか置かないっていう状況ですよね。

ホッピー:そうですね、それはきっと大型店が多くなったいう事もありますし…。

--生き残りをかけてるところで「売れない物を置いてどうするんだよ」っていう話になっちゃうみたいな。

ホッピー:あと店員の質ですね、大型店は音楽を知らないバイトの店員がほとんどですから自分の意志で自分が良いと思ったものがオーダー出来ない。例えば我々が買い行って「こういうのありますか?」って聞いても「なんですかそれ?」って言って、あるのにあるのも知らないみたいな。そういうような状況がしょっちゅうあるわけですよ。だから今は大型店は本部と呼ばれるところが全部管理してて、後は店長クラスの人間が割ってる。だから90年代に入って最初の頃は良かったんですけど、特に90年代の真ん中から後半にかけてTOWERにしてもWAVEにしてもそこに就職した音楽を知っている質の良いバイヤーなり店員がこぞって辞めたんですよ。

--入れ替わったんですかね。急激に方向転換しましたよね。

ホッピー:自分がやりたい事や企画が通らないとか。別にそういう音楽のわかってる人間達は売れない物を締め出して良い音楽だけ並べたいのではなくてそのコーナーが作れれば良いだけなのに、「売れない物は全部返品しろ」みたいな世界になっちゃいますから。

--コンビニ化ですね。売れる物だけとって並べて。

ホッピー:組織だったところの命令ですから、本部は末端のところで何が求められていて何が良いかっていうのは判断しないといけないですから、数字だけですから。例えばTOWERの日本の元締めになってるキース・カフーンっていう男がいるんですけど、彼はアジア圏の取締にいるんですけど彼が好きなものは日本のアンダーグラウンドなんですよ。やっぱり西洋人として日本の音楽に「面白いな」と思ってキャラクターを見出すような人ですから。だから恵比寿の”みるく”なんていうクラブのイベントに必ずいたりするんですよ。酔っぱらって (笑) それは彼の趣味として見に行ったりとか、アンダーグラウンドに接するのがすごく楽しいみたい。たまに家に電話してきて「ゴッドマウンテン最近どんなのリリースしてるの?」とか「ホッピーは最近何やってるの?」とか聞いてきたりして。でも彼は昔ビジネスとして日本の中っていうのは自分と自分以外のTOWERの人間っていうのはすごい距離があると、それを自分でハンドリングする事は難しい。彼は一応統括ではいるんですけど、どの外国人のビジネスマンが日本に入って来ても同じですけど、日本ビジネスの中に入り込んで西洋のビジネスをやるのは本当に難しいと。だから彼は日本にいるとすごくストレスがある。でも日本なんかいると面白いですし、実際アンダーグラウンドが好きでそれを見たりとかそういう接し方をしていれば彼としては良いと思いますから。ただ本来であれば、そういう物もヒットしてきてそういう物が店頭に並んだりするのも良いと思ってると思いますけど、そこまで彼が日本の音楽の組織だった中でハンドリング出来るかっていったらそれは難しい。だから日本の音楽業界の顔ってあるじゃないですか、でも外国人はその顔になれないっていうのがかなりあると思うんですよ。ただユニバーサルとかワーナーみたいな完全に外資系になってるところは上での管理だけはやっぱり海外でやってますよね、でもそこから下に降りるとまったくそうじゃない。海外のタイムワーナーにある本部の方では数字でしか判断してない。数字が悪ければここの社長、会長切るだけっていう話ですから、そういう上層部はビクビクしてるだけですよね。

-- …(苦笑)。

ホッピー:そうですよ。だって数字が落ちたらクビなんですよ。だから遠い”FarEast”の事ですから、とりあえず内容の事より数字の事だけです。だから日本の中で西洋の人間が仕切っているのは難しい。半ば諦めてるって事もありますよね。

 

12. 日本の音楽業界はアメリカ人を相手にビジネスしようとしていない

ホッピー神山2

ホッピー:日本は日本で、海外でビジネスをしようとしないって事あるじゃないですか。特に音楽、文化をもってビジネスをしない。これは私はいつも思ってる日本のすごく悪いところだと思ってるんです。例えばアメリカとか海外にいる日本の音楽業界のビジネスマンは日本人を相手に金を取ろうとする。アメリカ人を相手に金儲けをしようとしない。「何故同じ国の人間から金をまきあげて回してるの?ムカっ」っていう。すごく不憫でならないですね。やっぱり違う国の中で勝負するんであれば、アメリカの会社からお金を取ってビジネスをするのが私は真っ当だと思うんですけど、逆に日本の音楽業界を含めたそういうところでは海外と真っ当なビジネスをして金儲けをしようとは考えない。だけど他の自動車業界とかコンピュータ業界は海外やってますよね。ただ文化面、特に音楽に関しては全く受け売りでこっちから攻め込んで日本のもので商売しようとする気が全くない。だから私はインディーやってますけど、インディーの人間は向こうに攻め込んでるわけですよ。ただ資本がないから攻め込むにも気合いと心意気だけでしか攻め込めない。ただそれでも興味を持ってくれて、例えば昔ボアダムスが向こうのワーナーと契約したとか、少年ナイフがむこうのMCAと契約したって事が起こり得るわけじゃないですか。だからバンド単位のパワーだけでもそういう事は起こり得るわけだから、きっとこっちの会社がビジネスとして動いたら出来るような気がするんですよね。

--幾つかメジャーがアメリカに進出という事でやったのはことごとく失敗してますよね。

ホッピー:それはマーケティングをしないで物を持って行ってるからですね。日本で売れてる物が海外でウケるかっていったら向こうに持って行ったものはコピーだったじゃないですか。コピーは世界で通用しないですよ。日本の物で海外で受けてる物は日本ならではのコピーじゃないもの。だから例えば、古典芸能とか日本古来の物ですしね、日本のインディーズも日本にしかないねじれた音楽の在り方なんですよ。だから海外では絶対出来上がらない様な音楽構造が日本のアンダーグラウンドでは出来上がる。

--インディーとかアンダーグラウンドなものはバンド単位だとか単独で出ていった方が成功を収めてますよね。

ホッピー:彼らにとってみれば日本で自分のやる場所がないんですよ。だからたまたま日本で面白い音楽やってて、例えメジャーのレコード会社にテープ応募したとしてもそんなものはデビューさせようとかいう声はなかなかかからないわけですよ。でも色々チャンスが欲しいから海外の雑誌とかラジオに送ってみたら向こうにはすごい良い反応があって、向こうのボランティアの人間が「手伝ってあげるから来なさいよ」「ツアーしなさいよ」って人が出てきた。それでそういう人が出てきて話が盛り上がって来たからとりあえずバイトして旅費の航空チケット5万円だけは稼いでむこう行ってやろうかなってところから始まるんですよ。だから本当のチャンスを自分達で掴むっていうやり方だと思うんですよ。ただお金のないインディーズの人間がアメリカのような大きいところでそういう小さいボランティアの人間達と一緒にやったところで音楽をある程度マニアには知ってもらう事は出来るんですけど、商業的なものに結びつけるのは不可能なわけですよ。それは日本でも同じですけど。やっぱりそうした時に資本がいる、それをバックアップするのは別に音楽業界じゃなくても日本の政府でも良いわけですよ。こう言っちゃ怒られちゃうかもしれないですけど、文化交流基金とか日本の政府も色々ありますけどあんなのみんな真っ当じゃないですから。

--フランスはそういうのにお金使ったりしますよね。

ホッピー:ヨーロッパは使いますね。例えば日本人がフランスでパフォーマンスをしようとしてもそういう所( 基金)からツアー費が出ますよね。だけど日本の文化交流基金なんかは古典芸能とかクラッシクとかそういうお約束のものにしかお金を出しませんから。

 

13. 自分で物が判断出来ない日本人、批評出来ない評論家

ホッピー神山3

--まだ国も自分たちも自分たちのポップ・ロック音楽を誇りに思ってないっていうところがあると思うんですが。

ホッピー:そうですね。やる方の身にとっては自分のやってるものが良いものなんだって自覚するのはやっぱりリアクションがあった時だと思うんですよ。みんな初めに作ったときは「これは最高だ」って誇りに思ってると思うんですよ。

--売れないと自信持ちにくくなったりする?

ホッピー:とりあえずリアクションです。「良い」と言ってくれる人が出てくるかどうか、ライブをやった時に「良い」って言ってくれたかどうか、そこで”シーン”としてたら「やっぱり受けないんだな」と思っちゃうじゃないですか (笑)

--それは自信持てないですよね (笑)

ホッピー:でも日本は”シーン”となるんですよ。新しい音楽とか聴いた事ない音楽が出た時に西洋人の様にいきなり「面白い!」「良いね!」って言わないでいきなり”シーン”ってだまりこくって引いちゃうんですよ。やった身にとってはすごいがっかりくる「だめだったな」みたいな (笑)

--でも、同じ音楽でも誰かが「良い」って言い出したら、「俺も良い」って言うみたいな (笑) 右へならえ的な自分の判断力は自信ないけど、みんなが良いなら良いのかなみたいな。

ホッピー:それが日本人の在り方っていうか、一人が持ったらみんな持たなきゃいけないみたいな心理的なものだと思いますね。私が思うに特に評論家、ジャーナリストの質が非常に悪すぎる。だから自分で物が判断出来ない。レコード会社が配ってくるプロモーションの紙を書き写してるようなことが多いですから、そんなんで音楽が好きで音楽を評論する資格なんかないですよ。

--いつからか知りませんけど、今評論家って言わなくなっちゃいましたよね。ライターって言いますね(笑)

ホッピー:そうですね。インタビュアーみたいなもんですね。でも、インタビューしててもほとんど雑誌から来る人間なんていうのは何にもわかってないですよ。だから逆にアーティストに馬鹿にされちゃってて、「こいつには何を言ってもしょうがないな」って言って本質的な事は喋らなくなるんですよ。だから中身のないインタビューになって雑誌に載ってる内容が非常に悪い。それが今の雑誌の内容だと思うんですよ。

--批評とかいうのが消えたって感じもありますよね。

ホッピー:悪いって言ったらクビですから。だからライターって呼ばれてる人達も「良くない」じゃなくて「最高傑作とは言えない」とかそういう書き方でも事務所とかレコード会社からクレームが入って降ろされちゃうんですよ。それが怖いから悪くは書かない。

--二度と使ってもらえないって事になりますよね。それじゃあ、どこまでいっても音楽文化は育たないじゃないですか。

 

14. アメリカが面白いのは健全なジャーナリズムのせい?

ホッピー神山4

ホッピー:アメリカなんか面白いのはニューヨークタイムズとか大メジャーな新聞であっても音楽欄が2ページあるんですけど、そこで時によっては写真入りで「悪い」って載ってるんですよ (笑) 「このバンドは悪かった」って (笑) 悪いんだったら書かなきゃ良いのにって (笑) ジャーナリストがそのバンドに興味を持って取材しようと思って足を運んで見たら悪かった、それを素直に書いちゃうんですよ。写真入りで「このバンドに未来はない」ってはっきり (笑) それ見たら頭抱えちゃうじゃないですか。でも、それが普通。両極端に言われるのが普通なんで、書く方、見る方、やる方もそれが当たり前だと思ってますから、逆にバンドの人間もそういう風に言われちゃったら「違う風にやってみるか」って、そういう風に言われたからってダメっていう事じゃなくて。

--昔からローリングストーン紙とかそうでした。

ホッピー:それが普通ですよ。みんな「良い、良い」って言われちゃうと本当に良いっていう風に思えないじゃないですか。

--今時の若いやつはそういうのわかってますよね。

ホッピー:わかってますよね。だからCDレビューの欄っていうのはただレコード会社が出してるだけであそこを見て買う人はいないですよ。あそこに書いてあるのは信用出来ないですから。だから昔みたいにあの評論家が書いてある事は信頼出来て「あいつの言う事だったら買ってみよう」なんていう買い方は一時期までだったらMUSIC MAGAZINEとか権威があってMUSIC MAGAZINEに載ってる新譜は良いんじゃないかって思ってましたよね。でも今やMUSIC MAGAZINEでさえ業界誌と化して業界情報誌みたいな雑誌になって。今や中村とうようさんの精神はどうしたんだっていう感じはありますけどね。

--片やそういうところからはじめた渋谷陽一は成功してますね。

ホッピー:そうですね、彼は日本のやり方に乗っ取ったやり方をしたっていうか、まず彼はラッキーだったですよNHKの媒体を自分が持ってたっていう事で。彼はNHKっていうものを最大限に上手く使えたっていうことが。未だにNHKの番組プロデューサーでもあるじゃないですか。それはとても大きかったですね。ロッキンオンっていう雑誌がどういう風に動いたかっていうより彼自体のメディアの中での影響力。NHKっていうものをバックグラウンドにそれが出来たって事がとてもラッキーだったと思います。羨ましいですよね。

--実に良い成功の仕方してますよね。

ホッピー:そうですね。だから彼とするとロッキンオンジャパンで今何が起こってて何が載ってるかっていうのはたぶん興味ないと思いますね (笑) それより彼が70年代に評論家兼ラジオのDJやってた時の精神は彼の中にあるだろうし、それを自分の中で温めてキープ出来てればそれで良いと私は思ってますよ。でもビジネスとしてはそうじゃなくて今のロッキンオンジャパンのようなやり方をとればそれなりにお金にはなるし、だから個人の中と会社は別に切り離す。

--キース・カフーンみたいに。

ホッピー:でもキース・カフーンの場合は日本に住むこと自体楽しいっていうのもあると思いますけど、日本の音楽業界に接する事に対してはストレスがあると思うんですよね。ただ渋谷陽一さんの場合はストレスっていうのは飛び越えてもう無いような気がしますよね。彼自身のステータスがありますから、渋谷さんに楯突く人もいないだろうし、彼が嫌だと思うような状況が毎日起こるというような事もないだろうけどキース・カフーンの場合は色々あると思いますよ。文化的に彼の思想、考え方が通用しないですから「ま、いっか」と思えるような状況が彼には起こり得ないじゃないですか。
—次回第3部:「ユーモアを含んだ音楽を通して日本人のアイデンティティを世界に」では大いなる心意気でアメリカに挑戦している現在形のホッピー戦略を披露、その胸奥に秘められた◯◯◯が、やっぱりいちばんのハイライト!

 

15. 女装の意図するところ

ホッピー神山5

--女装が有名ですが、何か意図するところがあるんでしょうか?

ホッピー:音楽をエンターテインメントとして見せる・聴かせるって事をしないと一方的な押しつけになってしまうっていうか楽しめない。自分も実際音楽を受けとめる時にその方が全然楽しいですし、そういう意味が一つ。まぁ女装は嫌いだったら出来ないですけど (笑) それともう一つは男でもなく女でもない人間が作ってるものっていうようなものにしたいんです。バイセクシャルっていうかジェンダー(社会的・文化的につくりあげられた性別)として真ん中のもの。あんまり性別を感じさせないものとして音楽を表現するもの、男だからやったものっていうわけじゃなくて。

--そういう価値観をぶちこわす手段にもなってるって事ですか?

ホッピー:そうです、だからそこで私が女装してやってればある人はもしかすると声出さなければ女かなと思って聴いてる人もいるわけだし。男ってわかってる人はもちろんいるから、色んな聴き方が出来るじゃないですか。でも最終的には私の音楽であって、それが大事ですけど、でもそういう全然知らない人間達が性別、ジェンダーを感じないで聴けるっていうのが理想なんですよ。だからホモセクシャルとかレズビアンの人間達に非常に興味を持てるっていうか、彼らの考え方は形としては変わった形になってますけど、彼らも私みたいに真ん中にはなってはいないんですけど分け隔てがあんまりない。彼らはいつもニュートラルな状態で物事を見れる。だから彼らの文化って面白いじゃないですか。私は彼らの生き方とか作品とか好きです。そういう意味ではすごくオープンなところにいられる人達っていう。すごい羨ましいですけど。だからなるべく聴き手の人もニュートラルでオープンじゃないと音楽なんて入ってこないじゃないですか。私はそういうような見せ方としてきっかけを出したいんです。「こんな楽しみ方もあったんだね」っていうようなのが一つでもわかったところですごいノイジーな事をやってたとしてもそのノイズがポップスとして入ってくる事もあるわけじゃないですか。それはその時の状況とか見え方によって音楽の聴こえ方って違いますから。

海外みたいに例えばドラッグカルチャーがあって聴いてる人間がドラッグで常にオープンマインドなんていうところもあれば話は別だと思いますけど、そうじゃない状況でもある程度ニュートラルな状態で音楽を捉える事も出来るんじゃないかっていう試みではあるんですよ。それはまず音楽を演奏する側がそういう事を見せて提供していかないと言葉では言っても何もわからないんで、たぶんそのきっかけを出す役目として私は常にそれはやっていきたいいう事を海外のインタビューでも必ずそういう風に答えて「なるほどね」って言われます。海外の方は日本より非常にオープンな聴き方してくれる人が非常に多いですから、私としてはそこまで窮屈な思いはないんですけど日本なんかでは「女装して馬鹿やってるね」みたいな感じがあっても音楽が最終的に良ければそれで良いわけですよ。でも音楽が良くても見え方がつまんなかったら、音楽が良く聴こえないじゃないですか。だからそういう意味ではそういうチャンネルっていうか、場所を作っていくのはある意味での私のインディペンデントな音楽のやり方っていうか、インディーズのレーベルといっても色々で、ミュージシャンがやってるものもありますし、スタッフワークをやってるような人達がやってるものもありますから、でも私はミュージシャンとしてやってるレーベルとしてこだわってる。ミュージシャンとして演奏家はこんな気持ちで音楽をやってますよって事を聴いて欲しいっていうのが強いですね。

 

16. わが心のバイブル”SHAGGES”(シャグス)

ホッピー神山6

--産地直送型ですね (笑)

ホッピー:えぇ、自分がそういう風に例えばステージで演奏してて思ったとか、直接的に感じたものをすぐプロダクションしてくっていうか…。

--やりたい事がそのまま出るわけですね。

ホッピー:それが私の生き方で、それしかないんですよ (笑)

--何かそのホッピーさんの生き方に影響を与えた人っているんですか?

ホッピー:昔の60年代にアメリカでSHAGGES(シャグス)ってあったじゃないですか。それもギャルバン3人で、60年代に2枚アルバムを出して解散してしまった。薄弱児のような少女3人のバンドなんです。プロデューサーが親父でお兄さんがマネージャーで家族でやってて、もう素人です。全然弾けないぐちゃぐちゃ。だけど、世界で最もピュアなバンドって言われてる。人間的にもピュアだし意図的なものも何もない。彼女たちが好きにヘタにやってるだけ。わざとヘタじゃないですよ、一生懸命やって。だから再発したCDのコメントなんかはフランク・ザッパとかその手の人が絶賛。「このバンドが世界で一番すごいバンドだ」って。

--日本じゃ絶対有り得ない事ですよね。日本でそういう評価は出しようがない。

ホッピー:わたしにとってもこのバンドは心のバイブル。というのもそれを聞くと、迷いが無くなるんですよ。「なんでもアリじゃないの」ってこういう風に純粋な音楽が存在してるっていう事は自分がやってるのはなんなんだよって事になるじゃないですか。彼女たちのことはアメリカ人の中でも非常に有名で誰でも知ってる。それから昔、ブライアン・イーノが好きだった70年代とかに、そういうような精神っていうのはイーノからも学びました。イーノがやってきた事はそこでした。彼のアマチュアの精神。彼は上手くない。だけどセンスだけで楽しくやればそれでOKっていうのが彼のやり方でしたから、彼がプロデュースしたものも彼が作ったものもみんな良かった。別に音楽的に何が難しいっていう事じゃなくて彼が作ったものはみんな良いじゃないですか。構築したものじゃなくて彼の人間性と彼の姿勢だと思うんですよ。だから私はとても彼のことを素晴らしいと思った。また彼の音楽にはとてもユーモアがあるんですよ、だからすごく暖かい。肌触りが良いっていうか、ピアノのポンだけで良いっていうか、私が本当に音楽と感じる音楽はブライアン・イーノですね。だからさっき言ったSHAGGES的なピュアなものっていうようなバイブルもありつつ、そういうものを実際コマーシャルのマーケットで実現していたのがイーノであって、私もそういう精神を引き継いで自分の音楽をやっていきたいなっていうのが現在進行中のかたちです。

 

17. eX-girlのアメリカ戦略

ホッピー神山7

--最近eX-girlのプロデュースに力を入れてらっしゃるそうで?

ホッピー:eX-girlは今、過酷なアメリカ・カナダツアーに行ってますけど。滞在は23日間ぐらいで普通のクラブが19本。ラジオとかインストアを含めると日にちを越える26〜27本あるんじゃないかな。それで雑誌とかラジオのインタビューが毎日の様に入りますからね。

--自分達だけで行ってるんですか?

ホッピー:今回5回目ですけど、今までの4回は私が付いて行ってマネージャーみたいな事やりましたけど、今回は3人に任したんです。アメリカ人の若い友達をローディー兼ボディーガードで付けて4人で回らしてるんです。

--ジャケットにカエルが出て来たりしますが、虫好き、動物好きだったりするんですか?

ホッピー:カエルに関しては私が個人的に好きなだけで、虫とかじゃなくてカエルは良いなっていう。カエルっていうのはインディアンの守り神でもあるんですよね。なんかねカエルの存在っていうのは落ち着くよね (笑) 意味は別にないけどすごく落ち着くんですよね。カエルをテーマにしたものが音楽に入ってるっていう事で単純に自分がすごく満足感があるっていう事はありますよね (笑) だから家はカエルだらけですよ。カエルの置物とカエルのおもちゃとか (笑) ラッキーなシンボルでとても良いんですよ、カエルは。

--メンバーは3人?

ホッピー:女性3人です。私が日本以外のところでの音楽を日本人の音楽として外国人が捉えた時の10年ぐらいマーケティングしたものの成果として作り上げてるバンドっていうか、外国人は日本の音楽のどこを求めてるのか。例えば向こうの人はアニメって好きじゃないですか。アニメっていうものをどういう風に捉えているのか、例えばピチカートファイブなんかもアニメのCartoonの主人公とのオーバーラップしたところでの興味はある。日本人でバービー人形みたいな人が出て来たら興奮しますよ。

 

18. やっぱり西洋人は日本の女性が好き!

ホッピー神山8

--それはピチカートも心得てやってるんでしょうね。

ホッピー:もちろんそれは商売としてね、特に西洋人は日本の女性が好きです。どの国の女性が好きかって聞かれたらまずみんな答えます。それは100%間違いないです。なおかつ日本のアンダーグラウンドのインディーズの音楽っていうものには特にアメリカ。まぁ、ヨーロッパもそうですけど。すごい影響を受けて、興味を持ってる。なぜか日本では全然知られてないようなものが向こうではすごいメジャーであったりとか、例えば、マイナーな領域ではありますけどメルツバウ(MERZBOW)のトリビュートが出たとか、そういうような事が有り得る。それで灰野敬二のボックスが出るとか、そういう事が海外では有り得る。

--有り得るんですか?

ホッピー:日本じゃそんな事知られてないじゃないですか。レコード屋行ったってないんですよ。海外だと灰野敬二有名ですから、向こうの音楽好きの人間は灰野敬二のものが全部手に入るだろうと思って来るんですよ。ところが日本のどこに行っても灰野敬二のCDなんかあまり無くて、「どこで買えるんだ」ってうちに問い合わせが来るんだけど、P.S.F.のモダンミュージックかなんか行けば当然あるでしょって。もちろん海外であんなに有名だから日本だったらスターだろって思ってるんですよ。ちゃんとした音楽をやってる人間として。ポップスじゃないですけど。ただそういうアヴァンギャルドだとかニューミュージックっていう領域では男性もすごく注目されますし、海外でとても有名ですけど、ポップなところのビジネスマーケットになった時はやっぱり日本の男性っていうのは落ちちゃうんですよ。

--少年ナイフとかもそのへんの走りでしょうね。

ホッピー:少年ナイフは日本の女優よりかわいく見えた。だけど彼女たちの弱点っていうと音楽が変わらなかった。詞がつまんなかった。初めは日本人の女性のギャルバンだと思って見ても次出るCDも同じで「また食べ物の話?」みたいな (笑) だから向こうで人気落ちちゃったのはバンドが発展しなかったから。ただ彼女たちは基本は作った。「日本の女性はかわいくて面白く良いんだよ」みたいな。向こうでは少年ナイフの本とか出てるの知ってます?

--知らないです。

ホッピー:いわゆる日本で言うと、アイドルとかが写真と文の入った本出すじゃないですか。それが出てるんです (笑) それには少年ナイフの文と写真が満載してて、Tシャツなんかも未だに着てるやつ多いですし、eX-girlを見に来るような客が以前少年ナイフのファンで少年ナイフのTシャツ着て来て、そうすると隣のやつが「eX-girl見に来てるのに少年ナイフのTシャツ着てくるなんてとんでもない!」とか言ってケンカしてるやつがいて (笑) 「わかった。じゃあ次から着てこないから」って。だからそういう意味では彼女たちは面白くて。だから私は可能性が高いと思っている。ビジネスとしても。今まで対バンしてる外タレのバンドも全てすごいファン。例えばバウハウスなんかもファンなんですよ。それと彼女達がゴングと一緒にツアーしたりとかそういう事が起きてしまうっていうか、彼女たちは海外でツアーして例えばサンフランシスコとか300人ぐらい入って人気があるんですけど、日本に帰ってくると10人もいないし、客のリアクションもあんまりないですし…。

--逆に言うと、日本は見ないで向こうを見てるわけですね。

 

19. ロラパルーザの体験を生かす

ホッピー神山9

--産地直送型ですね (笑)

ホッピー:私の考えとすると好き勝手な音楽をやる上ではやっぱり海外である程度成功したものをフィードバックするしか方法はない。日本の音楽業界に対して無理に「良いでしょ、良いでしょ」って言っても、前例がないものをそう言っても無理な話で。それだけの労力があったら、向こうでがんばってもらって。実際ヨーロッパでもアメリカでもCDがリリースされる事とか出版社がついたりとか信じられないような事が起きちゃうわけですよ。だから私としてはビジネスを勉強する上でもとてもおもしろい。こういう状況になった時にこういう出版社がついてきてそれでこういう出版社がこういうような事をやっていくんだっていうような事が。私はその前にPUGSで勉強した事が、あれもロラパルーザに出て大きな展開した時にそれに関わってきたアメリカの音楽業界の人からいろいろ勉強した事があったんですけど。

--ロラパルーザって何ですか?

ホッピー:ロラパルーザっていうのは、去年からなくなっちゃったんですけど、90年代の頭からあったロック・フェスで。全国を何十ヶ所もまわって全部何万人も入るアリーナで。私たちがPUGSで回った時は30何ヶ所。どの州も必ず大きなところはみんな。

--本当の全米ツアーやったんですね。

ホッピー:その時も一緒に出るのがDEVO、PRODIGY、TRICKYとかそういうメジャーなバンドが15ぐらい。それが家族のように集団移動するんですよ。それで順番に出てって。だからロラパルーザに出た日本のバンドはPUGSの前はボアダムスだったです。だからボアダムスの時はオルタナ系が多くてSONIC YOUTHとかBECKとか出てて、PUGSが出た時はテクノ系が多かったです。だからすごいステータスのある、アメリカ人のバンドでもなかなか出られないっていうような。その時に関わったビジネスの人達から色んな事を吸収出来た事も確かで。

--すごかったんですね。

ホッピー:日本の中だと全然知られてないじゃないですか。で、それを日本に帰ってきて「こんな事があったんですよ」って言っても「ああそうですか」で終わっちゃうんですよ。だって日本の音楽業界としてはなんの得もないじゃないですか。だからどっちかって言うと日本のつまんないバンドがお金かけてアメリカツアーとか何本かやらして、雑誌の人間も連れてって「ニューヨーク公演は最高でした」みたいなふうに書かせるのがオチでね。

--最近はBOOM BOOM SATELLITESすごいですよね。

ホッピー:そうですね。でも彼らは向こうをベースにしてるからっていうのはありますよね。

--あそこまで世界ツアーまわってるのはあんまり知られてないけどすごい事やってますよね。

ホッピー:彼らはソニーですよね、だからインディーズでも彼らは向こうで生活出来てるって事はたぶんソニーのバックアップが大きいんだと思いますよ。BOOM BOOM SATELLITESのように良いバンドが向こうに住めばああいうような展開は出来るんですよ。向こうで勝負するバンドは向こうにいない限りは仕事にならないですよ。良い話が来た時すぐのっかれないからそんなのはいつくるかわからないですから、日本にいて話が来てから考えましょうかじゃ間に合わないですから。今のインディーズの日本のバンドにとって一番大きなネックっていうか向こうでバイトをしないでも生活出来るようなお金をどうするかって事も非常に大きな課題ではあるんです。

 

20. 向こうのビジネスで頑張ってみようってバンドがいっぱい出てくるべき

ホッピー神山10

--eX-girlも在米型にするつもりですか?

ホッピー:eX-girlに関してはレコード会社なりスポンサーなりがつくのを待ってますけど。だから今はなるべく行き来をして年に2〜3回ぐらいツアーをさせて向こうにいるぐらいに思わせる感じに錯覚させて (笑) それでしょっちゅうコンタクトしていつでも行ける体勢はとっておくっていうか「1ヶ月後じゃないといけない」っていうんじゃなくて、例えばテレビの出演が来たら明日でも行けるぞみたいな体勢をとっておかないと。チャンスはどこにあるかわからないから。でもそうするとお金が問題になります。でも、日本ですから日本のインディーズの会社はお金の面でフォロー出来ないですから。

--大阪に行くのだって金かかるっていう時にね。

ホッピー:そうですね、車で行ったってガソリンと高速代で2〜3万かかる。

--でもここで踏んばっておけばその次の世界展開とかも見えてきますよね。

ホッピー:eX-girlに限らないですけどそういうような目的意識で向こうのビジネスで頑張ってみようってバンドがいっぱい出てくるべき。日本で良いってバンドはそれでも良いですけど、向こうでチャンスがありそうなバンドは向こうでやって欲しいと私は思うんですが。

--野球で言えば、野茂みたいな立場ですよね。

ホッピー:野茂は日本でも有名ですから注目されてますけど、やっぱりインディーズのバンドは日本で有名じゃないところで自分の音楽を認めてくれる場所として海外を選んでるっていうか。

--もう何年目ですか?

ホッピー:2年と8ヶ月目です。ただ私はこのバンドに関してはすごい盲点を突いたのはバンド始めた時は素人だった。楽器を弾いたことの無い人間に楽器を持たして。

--そこからやったんですか?

ホッピー:でもどうしてそこが良いのかっていうと、日本のバンドの弱点は演奏は上手いんだけど歌が全然だめだっていう。テクニカルなものはすごく上手く出来てるんだけど、ライブ行くと声が全然来ないじゃないですか。ロック系なのに。

--アメリカから来るのと比べると…。

ホッピー:全然違うじゃないですか。だから逆に歌が強くて歌が良いものの方が良いわけじゃないですか。特に海外で勝負するものに関しても。ごまかしがきかない歌が強いもの。彼女たちはボーカリストでしたから、当然ハーモニーも出来る。今ライブでもブルガリアンボイスみたいなの平気でやちゃいますから。

 

21. 歌・英語・アニメのキーポイントをしっかり押さえる

ホッピー神山11

--3人でビシッとやっちゃうんですか?

ホッピー:平気で。クロスハーモニーもやっちゃいますから。それをやりながらも演奏は素人でヘタ。

--ほとんど見え方ですよね?

ホッピー:だから我々が外タレ見てる時に演奏はがちゃがちゃやってるけど大したことなくて、歌は良ければ良いわけじゃないですか。それで演奏もセンスがあってムードがあればいいわけじゃないですか、上手くない方が良いんですよだから逆に演奏はセンスだけ、あとは歌は前にガッと出る。これは私の作戦。今まで色んな外タレとか見てきて、ハードロックとかのバリバリのテクニックのバンドじゃない限り、テクっていうよりは音楽が好きだっていうセンスだけで押し通してる。

--英語はどうなんですか?

ホッピー:なるべくネイティブな英語でやらしてます。真ん中の子は10代の時ラスベガスに住んでましたから、どうしてかって言うと、少年ナイフの英語はなまりがあって白人にとってはかわいいんです。かわいいんだけどそれはマニアの中でのかわいさでしかないんです。あれは一般的に通じないです。だからもうちょっと上のところのビジネスで勝負するにはネイティブなところまでいかないとワールドワイドは狙えないと。ヨーロッパの方でもみんな苦労するのはアメリカ的なネイティブな英語をどうやって歌うかっていうところでマーケット勝負するじゃないですか。だからそういう意味ではヨーロッパでも今はメジャーな音楽はすべてネイティブな英語がいけるかどうかっていうのがポイントですから、だからeX-girlがヨーロッパで勝負するにしてもネイティブな英語がとても大事で。それでなおかつカタカナ的な日本語を入れ込む。

--その上で日本ならではのオリジナリティ。

ホッピー:アニメーションで出てくる日本のアニメの姿をそのまま音楽に置きかえるっていうか、それは私が向こうの人間が一番求めてるところでもあるんで。アメリカ人とか外国人には出来ないんです。どうやって良いかわからないんです。日本でしか出来ないアニメ的な感覚なんですよ。話が前後しますが、私の音楽のポリシーとして一番大事なところはユーモアなんですよ、ユーモアの無い音楽はどんなにシリアスでもダメだと思うんですよ。例えばジョン・ケージにしても彼はユーモアがとてもあって好きなんですよ。そういう表現する人間がテン張ってるシリアスなものは入る余地がないですし、良い意味での笑えるもの、そういうエンターテインメントとしてのユーモアが音楽にも詞にもすべて反映されてるものじゃないと音楽としては一人立ち出来ないっていうか、つまらないと思ってるんです。だからふざけるって事ではなくていわゆる本来あるウィットとかユーモアとしての在り方っていうのを音楽の中に両立させるっていうのが私のテーマですね。

--案外ホッピーさんの集大成したアイデアがコンパクトにきちんと形になっているようですね。

ホッピー:そうですね、だから詞に対しても必ずひねりを入れるわけです。西洋人はひねりが好きだから、ジョン・レノンなんかしょっちゅうひねり入れてたじゃないですか。あのジョークが彼の個性だったわけで「なんであんな事まで言うの?」みたいなひねりが多かったですけど、そういうジョーク。いけないジョークっていうものを楽しむっていうのが西洋人の生活レベルにある。

 

22. “豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ”

ホッピー神山12

--日本人がネイティブイングリッシュでひねりを入れるっていうのは高等な技じゃないんですか?英語なりのジョークっていうか。

ホッピー:そうですね、でも英語のいわゆることわざをいれなくても例えばこの中に入ってる曲でブルガリアンボイスみたいなハーモニーのあるアカペラの曲で『とうふのうた』っていう曲があるんですよ。この『とうふのうた』って曲は”豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ”って日本のことわざじゃないけどあるじゃないですか。あれをそのまま英語に置き換えて。海外でも豆腐は有名ですからね。

--わかるんですかね?

ホッピー:豆腐は知ってます。食べ物としてすごくメジャーですから、豆腐って柔らかいっていうのも知ってます。”豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ”っていうのは死ぬわけないけど、すごく笑えるんですよ。しかもそれはアカペラで、下手な演奏だったのにジョーク入った詞でアカペラやられたらノックアウトですよ。その曲を機に見方が変わるんですよ。その後の曲も見方が変わるんですよ。私はずっとこの間までその曲は必ず真ん中でやれって。最初の4〜5曲はがちゃがちゃして「ヘタだな」って思わしといて、いきなりそこでそれをやれば、その後の客のノリ方が変わるんです。それは逆に頭からそれをやってもダメ。最後にやってもダメ。それは私のプロデュースしたステージのやり方として成功はしてるんですけど。だから、そういう意味でのユーモアっていうものの楽しみ方っていうのは日本の音楽の中でもあって欲しいと思ってるんですよ。だからこういうeX-girlみたいなものがユーモアもって海外で成功したりしたものがあれば、それもまた成功例として正当化できるような気がして。私は音楽をやる楽しみが一個増える。

--本来は音楽の中でひねりとか笑わせたりするのが良いんでしょうけど、日本の場合はしゃべりで笑わせようっていう魂胆が多いですからね。

ホッピー:音楽のライブを見に行ってMCで笑いをとるんです。それで演奏になったら真面目になっちゃって。そのギャップがありすぎちゃってなんか、MCがわざとらしいんですよね。だからこれは漫才みたいに狙って言ったなみたいな感じになっちゃいますから。

--何回見ても同じなんですもん。

ホッピー:そうですよ、同じネタでやってきますから。

--MCが大事とも言われているんですけれども、そのやり方が本道ですよね。そして、その時のノリで毎回MCは違う方が面白い。

ホッピー:彼女たちはMCの中ではくだらない事しか言わないっていうか「私たちはケロケロ星からやって来たのよ」みたいな事しかMCでは言わないんですよ。そいうキチガイみたいなMCしかしないところの徹底さ。

 

23. 日本の言葉とか文化を広めていくって事が面白い

ホッピー神山2

--向こうでは”ケロケロ”って言ってカエルだとわかるんですか?

ホッピー:英語だと”リベッリベッ”なんですよ。「”ケロケロケロ” means “リベリベリベ”」ってちゃんと言うんですよ、そうすると”ケロケロケロ” の意味がわかって、今度は日本語を言いたい白人達が “リベリベリベ”じゃなくて”ケロケロケロ” って言いたくなるわけですよ。最近のライブだと彼女たちが”ケロケロケロ” って言うと、客がコールレスポンスとしてアメリカ人達が「ケロケロケロ!」って叫んでますから。面白いでしょ。だから日本のものを海外に逆襲していくやり方っていうのは日本のインディーズ音楽が面白いというだけじゃなくて、日本の言葉とか文化を広めていくって事が面白いんですよ。例えば”ケロケロケロ”とか語呂としても面白いじゃないですか。逆に今あるジャパニーズ・イングリッシュの逆、イングリッシュジャパニーズみたいな感じで海外に出していくのは…。

--一見軽薄に見えてなかなか知的なものが感じられますね (笑)

ホッピー:だからそれっていうのはバカバカしいネタをビジネスっていうかエンターテインメントに持ち込むっていう事が面白いと思います。酒呑んだ時に出たようなくだらないネタっていうのが一番面白いんですよ。真面目に練ったようなネタっていうのはあんまり面白くない。

--それで世界に通用したら余計に面白いって話になりますよね (笑)

ホッピー:笑いが止まらないじゃないですか。真面目に音楽をやっただけじゃなくてそういう意味での、私はやっぱり最終的には日本人としてのアイデンティティをすごい大きく感じたいです。

--良いですねぇ。素晴らしいですね。

ホッピー:日本人っていうものがすごく素晴らしくて、日本人の音楽が良くて、日本人が良いんだよって事を感じてない日本人が多いんですよ。だからそういう事を自覚する為にも日本って良いねっていう事を海外の人間にはわかってもらって、なおかつそういう日本の文化が向こうに流れる事によって我々がもっと自信を持つ事を私はしたいんです。

--志がすごい高いところにありますよね。

ホッピー:そこでは確信犯ですから、やっぱり日本っていうもののそういう意味での愛国心っていうのは特に海外にいると日本っていうものがもっとちゃんとしてなきゃいけない。本当は日本人っていうのはもっと優秀で良いのに、なんであんなに情けないのかっていう気持ちになっちゃうのは、私はすごく悲しいんですよ。すごく弱気でね、NOと言えない民族ですから。世界で一番日本人が情けないですよね。我々のコミュニティーが海外にないって事もありますし、日本人として協力しあえる事がいっぱいあるのに、日本人としてのコミュニティーが作れない。チャイニーズにはチャイナタウンがあったりとかみんなあるのに、日本人としては何もないんです。だから海外では弱い。ただジャパン・マネーが欲しいだけの日本であって。だから私のお金がないところでの逆襲は文化で逆襲していくっていうか、それで彼らを洗脳したところで征服していくっていうか、それが一番自分としてはロックだけじゃなくすべての文化的なところでやっていきたいです。

--日本人て海外で日本人に会うと嫌がったりしますよね。

ホッピー:そうでしょ、本当はフレンドリーでいかなきゃいけないのに。本当に情けないことですよ。

--フランスでアメリカ人どうしが会ったら仲良しですよ「やあ、君はどこから来たの?」って。

ホッピー:私も観光で来てるようなしょうもない日本人が嫌な時もあります。地に足がついてないような人は困る時があります。でも、自分と同じ様な気持ちでいるような日本人だったら友達になれるんですよ。

 

24. 我々が海外で自信を持てる日が来なくちゃいけない

ホッピー神山3

--目と目でわかっちゃうんですよね。

ホッピー:わかりますね。だから妙に日本人どうしが牽制しあうような感じっていうのは無意味な感じがしますね。悲しいですね。でも、自信が無いんですみんな。自分達が成功したって事もないし、日本でダメだから向こうになんとなくいるけど成功してない。例えば松田聖子にしたって向こう行って成功してないわけですよ。日本に帰ってきた時は大スターですけど、やっぱり海外に行った時の自信の無さっていうのが根底にあるんですよ。そういう意味でもっと我々からスターを海外に生み出すっていうか、本来の意味でね、どんなジャンルにしてもしないといけない。でも、本当は出来ると思うんですよね。日本人てとても頭良いんですから。

--彼女達がライブやった場所に何ヶ月後に行って「オー、ケロケロ」なんて言われたら、面白いですよね。でも日本のメディアは日本のこういうものに対しては冷たいですよね。

ホッピー:冷たいですね、ただそういうものに対して何もないです。

--グチ言っても始まらないですしね。

ホッピー:しょうがないんです、日本人がグローバルに、ワールドワイドな考え方が出来ていないから、それは説明してもダメです。「全員向こうに行って勉強してこい」っていうしかないですから。「外から日本を見て見ろよ」って事じゃないですか。たまたま私は海外にいて、外から見てて、良く見えてる。その良いところっていうのをもっと海外に紹介出来れば良いですし、それがビジネスになれば一番良いんですよ。コンピューターとかは本当に優秀だから良いところとして海外では認められてますけど、文化的なものでも認められる事はあると思ってるんです。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

音楽をやる上での志の高さ、ここが圧倒的で素晴らしかったですね。お話ありがとうございました。「ホッピー神山」応援します。 さて次はタワーレコード極東総支配人、キース・カフーン氏の登場です。お待ちください!!

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