【SXSW】オフィシャル・ミートアップを東京で開催 ミュージック・フェスティバル総責任者とグローバルセールス/出展責任者が登壇

インタビュー フォーカス

6月26日に、五反田にあるInnovation Space DEJIMAにてSXSWのオフィシャル・ミートアップが開催された。

アメリカのテキサス州オースティンで毎年3月に開催されているSXSWは、1987年にインディーズ・ミュージックのフェスティバルとしてはじまり、今日ではミュージック、フィルム、インタラクティブ(テクノロジー)を軸にさまざまな要素を包括した世界最大級のクリエイティブ・コンベンションへと成長している。2018年には100カ国以上からおよそ43万人が参加、そのうち日本からは国別参加者数でアメリカに次ぐ1500人以上が参加している。ミュージック・フェスティバルにおいては、66カ国から集まった2000組以上のアーティストが多種多様なジャンルの音楽を披露。7日間にわたるオフィシャル・ショーケースで16万1000人を動員している。

今回のミートアップでは「今あらためてSXSWとはなにかを考える」をテーマに、モデレーターに若林恵氏(黒鳥社)を迎え、SXSW本部のジェームズ・マイナー氏(ミュージック・フェスティバル総責任者)とピーター・ルイス氏(グローバルセールス/出展責任者)、さらに過去日本からSXSWに参加した各界からのゲストを招いてのトークセッションが行なわれた。

ここではジェームズ氏とピーター氏を迎えて行なわれたQ&Aより、SXSW全体や音楽に関する部分を抜粋して取り上げていく。

>> 同日にジェームズ氏に行なったインタビュー記事はこちら

  1. 日本勢からのアイデア発信に期待
  2. 日本の音楽の強みはどこにあるのか?
  3. SXSWとコラボレーションするには?
  4. いかにコストを抑えることができるのか

 

日本勢からのアイデア発信に期待

SXSWのオフィシャル・ミートアップ

若林:日本の企業、日本からのお客さんがここ数年で増えてきています。そのことをどのようにご覧になっていて、そしてどういう期待を持っていますか?

ピーター:まず、日本の企業が参加していることは素晴らしいと思っています。SXSWには毎年、国外からそれぞれまったく異なるおもしろいテクノロジーや創造的なアイデアなどが集まってきています。引き続き、大小さまざまな企業からの参加者を積極的に募っていかなければと思っています。SXSWの期間中は自分の世界から飛び出して、知らない人たちと話したり、他の人たちとつながったりすることが成功につながる秘訣です。

若林:もう少し日本の企業にも、単純にトレードショーで自分たちの製品を展示するだけでなく、たとえば自分でパネルをオーガナイズするとか、そういったことをやってほしいという期待があるのですが、そのあたりはどうでしょう?

ピーター:完全に賛成ですね。いろいろな日本の企業が出展してくれていることはすごくうれしいことですが、今後はさらにパネリストとして、自分のプロダクトだったり、これからしようとしていることをみんなにプレゼンし、どんどん発信していってくれることに期待しています。ですから、パネルピッカー(※SXSWのセッション公募で採用されているシステム)はとても素晴らしい機会です。僕たちSXSW本部に連絡していただければ質問などにも答えますので、ぜひ「こういったアイデアがある」と相談してもらって参加してほしいですね(※2019年のパネルピッカー募集は終了)。

若林:音楽でもインタラクティブでも言えることだと思いますが、パネルに関してそのときの時代状況に応じた問題を的確に捉えているなという、主催者側のある種のジャーナリスティックな感覚が非常にうまく働いている印象を受けます。実際に主催者側として、そのあたりは明確に意識しているのですか?

ピーター:ファッションやテクノロジー、映画や音楽といったどのジャンルにも、パネルのアイデアやバンドをキュレートするスタッフがいて、そのキュレーション・プロセスが強みです。その時代のトレンドを踏まえながら、さまざまなことを世界に紹介するようにしています。たとえば、ドナルド・トランプ氏が大統領となったことを受け、2017年には「トランプとテクノロジーとは」をテーマにセッションを行なっています。毎年いくつかセッションに空きを作っておき、その時その時の情勢にすぐに対応できるような体制で取り組んでいます。

 

日本の音楽の強みはどこにあるのか?

若林:ちょっと音楽の話をしたくて。90年代って日本のアーティストがグローバルですごくアクティブでした。というのは、Boredomsなどを例に、日本のインディ音楽が、結構世界とコネクトしている感じがあったと思っていて。それが2000年ぐらいを境に、ちょっと途切れるような感覚があります。ある海外メディアの編集長にインタビューしたときに「そういえば90年代までは日本の音楽をずいぶん聴いていたけれど、最近聴かないね。どうしているの?」といったようなことを言われたのです。とくにSXSWはわりと新しい音楽、それもオルタナティブを強く打ち出してきたイベントだと思うのですが、その主催者側からみて、日本の音楽のプレゼンスというのはどんな風に見えているのでしょう?

ジェームズ:おっしゃられることはわかります。それでも、日本の音楽による熱いパフォーマンスというのはSXSWでは見られまして、2018年に出演したYahyelのパフォーマンスもそのひとつです。僕も好きなバンドで、彼らのことを語りはじめたら止まらなくなるほどです(笑)。試験的な日本の音楽もすこし聴きはじめていて、だんだんハマってきています。

若林:そういった音楽はずっとあるというイメージですか? SXSWにおいて日本の音楽と言ったときの、ある種の特徴というか、強みはどこにあると感じていらっしゃいますか?

ジェームズ:日本のミュージシャンやバンドはとてもユニークで、なにかすごいことをするのだろうなというイメージを持っています。SXSWに来られるミュージシャンの方々も「日本からきたミュージシャンなんだ。じゃあ(ショーケースに)行こう」という方は多いです。

若林:それはどういう体験があるから行くのですか? かつてBoredomsとかが好きだった人たちの期待値なのか、それともきゃりーぱみゅぱみゅやアニメとかのイメージのものなのか。

ジェームズ:Boredomsのように、西洋ではみられない音楽を日本のミュージシャンたちが提供してくれる、そういったことが強みじゃないかなと思います。

若林:これを僕がしつこく聞いているのは、日本の音楽については、いわゆるポップスのレイヤーではなくて、非常にアンダーグラウンドなものだったりとか、ある種のエクストリームなものが、じつは海外においては一番強みを発揮すると考えていて。こういったことを行政機関の人にも言っているのですが、ノイズ・ミュージックというものがあることすら知らない人たちなので、どうにも説明にならないという問題もあって。そこを僕に代わって言っていただいていいですかね(笑)? 違うなら違うでいいのですが。

ジェームズ:まったくその通りです(笑)。

 

SXSWとコラボレーションするには?

若林:大手の企業がSXSWの動きのなかで気になっていることとして、昨年フランクフルトで開催された、メルセデスベンツとSXSWがコラボレーションしたイベントの「me Convention」が挙げられると思います。これはどういうきっかけで実施されたもので、今後どういう展開を考えているのか教えてください。

ピーター:じつはSXSWのヨーロッパ事務局がメルセデスベンツ本社の近くにあり、そこでいろいろと自然に話が進んでいきました。話をしていくうちに、企業とコラボするようなときのテストケースとしてメルセデスベンツとイベントをすることになりました。さまざまなところから、SXSWを「パリでやろう」「東京でやろう」などとオファーをいただいていたのですが、SXSWをほかのところでやるとオースティンに来てくれなくなってしまうのではないか、ブランドの価値を下げてしまうのではないかといった懸念があって、これまで行なってきませんでした。me Conventionは、ある意味でSXSWのテイストを味わえるようなイベントとして考えています。また、メルセデスベンツがただ単にイベントをするのではなく「未来のクルマってなんだろう」と問いかけるようなイベントをするということにわれわれも魅力を感じてイベントをおこなっています。

若林:下世話な話ですが、どれくらいお支払いすれば、SXSWとのコラボイベントはできるのですか?

ピーター:払えないくらいの額です。…冗談ですよ(笑)。お金がどうこうというよりも、しっかりとプロセスを踏んでいきたいと考えています。そのプロセスに必要とされる要素というのは本当にいろいろあると思うんですけど、例としてあげれば、地理的にメイクセンスするかどうか、企業がやろうとしていることとSXSWの理念とメイクセンスするかどうかなどですね。

若林:いま「理念」というお話がありましたが、SXSWの理念と合致するものとは、たとえばどのようなものでしょう?

ピーター:すぐには思いつかないのですが、簡単にいえば「インパクトがあることをしたい」、さらに「コミュニティと中・長期的な関係をつくりたい」といったことが思い浮かびました。

若林:me Conventionもかなりの豪華ラインナップだったと思いますが、ブッキングやキャスティングはSXSW事務局が行なったのでしょうか?

ピーター:お互いに得意としていることを提供しあいました。メルセデスベンツは彼らの本社があるフランクフルトで行なったということで施設・場所の提供などをし、われわれはどちらかというとスピーカーのブッキングや、SXSWが持っているチケットやホテルのブッキングシステムなどを提供させていただきました。

 

いかにコストを抑えることができるのか

SXSWのオフィシャル・ミートアップ

来場者:改善したいことはなんですか?

ピーター:コストが高いという指摘をいただいています。それは、たとえば、ホテルの宿泊費や航空券など、われわれでコントロールできないものもあります。オースティンは街として年々大きくなっていますが、いかに街全体でコストを下げられるかということが課題となっています。

来場者:某日本人アーティストの海外マネジメントをしています。2019年のSXSWへの出演を検討しているのですが、やはりみなさん知りたいことは費用だと思います。海外からのアーティストで、たとえば、こういう企業とコラボレーションして費用を抑えたとか、現地でこういうことをしてすこし稼いだとか、なにか費用を抑える方法を教えてもらえますか?

ジェームズ:費用の抑え方についてですが、インターナショナル・ハウジング・プログラムというものがあり、これはアーティストがホストファミリー宅に滞在するというものです。費用が抑えられると同時に、いい経験になると好評です。もうひとつは、たとえばブランドとのコラボレーションや助成金の活用といったことですね。たとえば、レディ・ガガは、ドリトスのスポンサーでパフォーマンスをしています。日本のアーティストですと、Perfumeが広島市の助成金を得て出演したこともあります。もしスポンサーをつけて出演するなどとなった場合には、必ず事務局に連絡してください。また、もし稼ぎたい(アメリカ国内で働く)という場合には、もちろんワークビザが必要ですので注意してください。

若林:パーティなどでミュージシャンをブッキングすることもあると思いますが、そのブッキングなどでもSXSW事務局の判断が必要となるのでしょうか?

ジェームズ:日中におこなわれる企業のオフィシャルイベントに関しては、われわれは協働するもののキュレーションはしていません。夜に行なわれるイベント(ショーケース)については、すべてわれわれがキュレーションをしています。

若林:「Great Britain House(ミュージック・フェスティバルで行なわれているショーケースのひとつ)」はどこがキュレーションしているのですか?

ジェームズ:ブリティッシュ・ミュージック・エンバシーが一週間ひとつの場所をブッキングし、夜ごと異なるパートナーとコラボしてアーティストを選んでパフォーマンスをさせています。われわれもしっかりとキュレーションで携わっています。


SXSWの概要を説明するなかで、ジェームズ氏は参加することのメリットとして、「多方面におけるさまざまなネットワークの構築や発見、学びの機会を得ることができること」や「業界のトレンドを掴むことができること」、「将来の協同者や投資家、共同創設者と出会い」、「まだ見ぬ才能の発掘」、「自身のキャリアを次のレベルに進めるための人脈の構築」、「新しい作品や事業などのプロモーション」、「インスピレーションを得ることができること」といった事柄を挙げている。

SXSWは、大きくわけてカンファレンスとフェスティバルというふたつの要素からなる。ショーケース出演のアーティストには、ミュージック・カンファレンスのセッションやショーケースにアクセスする権利なども与えられ、自身の音楽の発信だけでなく、さまざまな知識や経験を得ることもできる。さらに、2018年開催分の統計によると、SXSW参加者の目的としてもっとも多いのは「ビジネスの機会を見つけるため(67%)」であり、参加者の95%が企業のなにかしらの判断をできる立場にあり、さらにそのなかの24%が経営判断を行なうレベルの立場(経営者)にあるのだという。つまり、SXSWでの出会いから、実際の協同へと結びつきやすい環境があるわけだ。

また、ミュージック・フェスティバルに出演するアーティストに求められていることとして、「一番大事なことは”Great Music(素晴らしい音楽)”であること。そして、”Passion/Work Ethic(情熱/労働観)”、”Groundwork(準備)”、”Timing(時機)”、”A reason to be at SXSW(動機)”」が大きな要素として挙げられた。SXSWでは事務局から参加費やホテル代、旅費などは支給されない。そのため、高額な参加費用を自分たちで工面することができる見込みがあるかどうかを含めた”Groundwork”が非常に重要視されているのだ。SXSWではアーティストとして活動していくうえでの総合的な力が試されるといえるだろう。

ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
大学を卒業後、カナダの日系情報誌とオーストラリアの日系PR会社にて勤務。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の記事執筆や編集、撮影などを行う。現在は日本を拠点にフリーランスフォトジャーナリスト/エディター/ライターとして活動。
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