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【全文掲載】Spotify、AIリミックス・カバー機能を導入を検討 既存IPの多重活用で「音楽の二次利用市場」を開拓【榎本編集長のMusicman大学#13】

ビジネス 海外

Tama:榎本編集長、本日のテーマを教えてください。

榎本: 本日は、SpotifyがAIリミックスとAIカバーの導入を検討しているという話題を取り上げます。有名な曲をSpotify内でカバーしたりリミックスできるようにするというものです。今やSunoを使えば誰でも曲が作れる時代になりましたが、そうした音楽生成AIの機能をSpotify内に組み込み、ユーザーが人気曲をリミックス・カバーして楽しめるようにするという構想です。

Spotifyの新しい共同CEOに就任したセーデルストレム氏、創業者のダニエル・エク氏から引き継いだ方が、この構想について話し始めました。技術的にはすでに実現可能な段階にあり、あとはレーベルとアーティストから許諾を得られるかどうかという段階です。リミックスやカバーには著作権が関わりますので、関係者のOKが出ればサービスを開始できると説明しています。

Tama: アーティスト側にとっては収益になりますし、歓迎できる話ではないでしょうか。

榎本: そうですね。これまでのAIをめぐる議論は、AIで大量に楽曲が生成されることで、地道に音楽を作り続けているミュージシャンの作品が聴かれなくなるという懸念が中心でした。楽器も弾けない、歌も得意でないという人でも、センスさえあればSunoのようなAIを使って曲を作れるようになったこと自体は、ある意味で画期的なことかもしれません。しかし現実には、「ストリーミング詐欺」と呼ばれる問題、詐欺集団がAIを悪用して大量に粗製楽曲を登録し、音楽売上の約1割を不正に搾取するとも言われる状況が生じていました。

一方、リミックスやカバーはそもそも人気の曲でなければ成立しません。多くの人が聴きたいと思う楽曲だからこそリミックスされ、名曲だからこそカバーされていくものです。つまり人気アーティストの楽曲がベースになる。そうしたアーティストの多くはメジャーレーベルに所属しているわけですから、この仕組みはむしろプラスに働くのではないかという提案をSpotifyは始めたわけです。

Tama: レーベル側の反応はどうでしょうか。

榎本: 正式なコメントはまだ出ていません。ただ、ある程度ポジティブな反応が見込まれるという前提で話が進んでいますSpotifyはすでに3大メジャーレーベルのユニバーサル、ソニー、ワーナーとAI活用について共同で検討していく旨の提携を結んでいます。その後にこうした構想が出てきたということは、おおむね了承を得た上での話だと見てよいでしょう。

ただし、世界の音楽売上の6割を握る3大メジャーレーベルが賛成したとしても、残り4割を担う独立系アーティストやレーベルの存在も重要です。6割の大手が決めたからといって、残りの全員が従うべき話ではありません。だからこそSpotifyはこうした形で広く提案する姿勢をとっているのだと思います。

Tama: 音楽生成AIの有料モデルの動向についてはいかがでしょうか。

榎本: Sunoに次ぐ人気の音楽生成AIであるUdioの動きが注目されます。ソニーを除くメジャーレーベル、ユニバーサル、ワーナー、そして「第4のメジャーレーベル」とも呼ばれるヨーロッパのインディーズレーベル連合であるMerlinがUdioと和解・提携を結びました。この3者だけで世界の音楽売上の約6割を占めます。ソニーが加われば8割に達する計算で、業界的にはほぼ方向性が定まったと言えるでしょう。

Udioはこの和解を経てサービス内容を変更し、有料会員のみが楽曲を利用できる、いわゆる「ウォールドガーデンモデルプラットフォーム内で楽しむ形に移行しつつあります。Spotifyは世界の音楽業界の売上の約3割を占める巨大プラットフォームです。Udioのような限定的な有料サービスと、Spotifyという全世界規模のプラットフォームとでは、影響力のスケールが全く異なります。

Tama: SpotifyがAI音楽に注目し始めた背景は何でしょうか。

榎本: 根本的な理由は、Spotifyの成長が先進国では頭打ちになりつつあることです。日本の場合、サブスクリプションサービスの普及はイギリスより7年、アメリカより5年遅れてスタートしましたので、まだ成長の余地はあります。しかし世界全体で見ると、先進国では普及が概ね完了しています。

現在Spotifyが伸びているのはインドやインドネシアといった新興国ですが、平均所得が低いため月額料金も日本円換算で100〜200円程度になります。ユーザー数が増えても売上の伸びは先進国ほどではなく、現状は投資フェーズです。先進国のSpotify株は、電力・水道のような成熟インフラ企業と同様に、もはや「どれだけ配当が出るか」という目線で見られるようになっています。そこで次の成長エンジンとしてAIに着目するのは自然な流れです。

具体的にどう収益化するかという点では、音楽の二次・三次利用をいかに促進するかがカギになります。セーデルストレムCEOは映像業界を例に挙げています。映画は劇場公映に始まり、配信、テレビ放映と、同じIPを多重に活用して収益を積み重ねます。音楽にはそれができているかという問いです。AIリミックスやAIカバーによって大量の二次利用を生み出し、音楽全体の売上を底上げする。それがSpotifyの成長にもつながるという論理で、この提案が始まったわけです。

Tama: 今後の注目ポイントはどこになりますか。

榎本: メジャーレーベルがいつ正式にGoサインを出すか、という点に尽きます。ただ、レーベルが「分かった、やろう」と言えばそれで完結するわけではありません。レーベルはアーティストから音楽を預かっている立場ですので、アーティスト一人ひとりに納得してもらう必要があります

Spotifyが日本に上陸する際にも、「サブスクはCDより儲かるのか」「CD売上が落ちるのではないか」というアーティスト側の不安を解消するために、各事務所への説得に多大な時間がかかりました。AIカバーやAIリミックスについても同様のプロセスが必要です。レーベルの社長がOKを出しても、それだけでは済まない。だから「いつ実現するか」が重要な問いになってくるわけです。

Tama: ミュージシャンのAI活用という点では、現状はどうなっているのでしょうか。

榎本: SunoのシュルマンCEOがイギリスの有力紙のインタビューで率直な発言をして話題になっています。彼の周囲のプロデューサーやアーティストは皆Sunoを使っているが、使っていると公言してくれないと。AIで作っていることが知れ渡ると「AIに頼っている」と思われかねないからです。

音楽クリエイターへの調査でも、LANDRというプロフェッショナル向けAIツール群を提供する企業がアメリカで実施したアンケートで、音楽クリエイターの87%が制作プロセスのどこかでAIを活用していると回答しています。10人中9人が使っているわけです。もはやAIを使うことが良いか悪いかという議論の段階は過ぎており、すでに業界の標準ツールになりつつあるAI音楽をひとつのジャンルとして捉えると、すでに相当なシェアを形成しているという話も聞こえてきます。

これはウェブ検索の変化と構造的に似ています。Google検索で調べていたことを、今は生成AIに聞くのが当たり前になりつつある。そちらの方が手軽で情報も豊富だからです。私自身も生成AIを活用していますが、AI同士にファクトチェックをさせるという使い方をしています。互いに相手の出力を検証させると、誤りをかなり発見できます。AIが嘘をつくと言われますが、それは使い方の問題です。

音楽はそもそも3〜4分という短い形式です。小説1本を丸ごとAIに書かせることは現状困難ですが、音楽はその短さゆえにAIが得意とする領域に入ってしまっている。ただ、短い形式であれば誰でも傑作を作れるかといえばそうではありません。短歌や俳句は誰でも書けますが、歴史に残る作品を生み出せる人は限られています同じことが音楽にも言えるでしょう。

シュルマンCEO自身、ガーディアン紙のインタビューで「Sunoで音楽が簡単に作れるようになったのは確かだが、何千時間もかけて鍛え上げた音楽が結局勝つ」と語っています。何千時間も訓練を積んだ人がAIを使えば、当然いい作品ができる。そういう意味での発言ですが、Sunoのトップ自身がそう考えているというのは示唆的です。

Tama: 本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

榎本: ありがとうございました。

プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載。

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「Musicman大学」は世界の音楽業界の最新トピックスを解説。講師は『音楽が未来を連れてくる』の著者、Musicman編集長・榎本幹朗。「Talk&Songs」は月間500組ものアーティストニュースを担当するKentaが選ぶ、今聴くべき楽曲と業界人必聴のバズった曲を解説。

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