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【全文掲載】 Spotifyも大注目?中国テンセント・ミュージックの驚くべきビジネスモデル【榎本編集長のMusicman大学】

ビジネス 音楽業界

榎本: 今日からアシスタントでTamaさんがついてくださることになりまして、Tamaさんって実は僕の先輩にあたるというか、ミュージックマンで働いていらっしゃったんですよね?

MC: Tama: そうです、約30年ほど前に編集部の方でお手伝いさせていただいておりました。

榎本: 音楽業界というか、僕も音楽メディアにいたんですけど、そこでも大先輩というか、ラジオとかでご活躍だった…

MC: Tama:InterFMとかあとはHMVとかそういったところで、アシスタントDJとか音楽レポーターなどをさせていただいておりました。

榎本: ちなみにどんな番組を?

MC: Tama: HMVでは店内のDJ、TOKYO HOT100、皆さんご存知だと思うんですが、インターで裏番組にあたるソウル番組をさせていただいておりまして、SOUL BLENDSという番組だったんですけども、そちらでアシスタントさせていただいておりました。

榎本: TOKYO HOT100の裏番組、すごいですね!

MC: Tama: 80年代のディスコの伝道師とも呼ばれるDJオッシーがディレクターで制作していたんですけども、そこでR&Bソウル、そして週1回アーティストを呼んでインタビューするっていう番組のアシスタントで。

榎本: どんなアーティスト出てらっしゃったんですか?

MC: Tama: 安室奈美恵ちゃんも来たことありますし、AIちゃんとか。

榎本: ちなみにどんな音楽聴いてるんですか?

MC: Tama: 今は子供たちが大学生になったので教えてもらって、Vaundyとかマカロニえんぴつとかそんなの一緒にライブ行ったりとかして楽しんでますね。

榎本: ミュージックマンのサイトのニュースとか読んでます?読んでもよくわかんないとか、そんな感じですかね?

Tama: 最初この話いただいた時に資料を見せていただいたりとか、難しすぎて「なんじゃこりゃ」って感じで「私こんなの喋れないわ」って、すごい思いました(笑)。 ということで、生徒役に最適なんじゃないかということで、今回参加していただいている感じです。では榎本先生、今日のテーマは何でしょうか?

榎本: 今日は前回やった続きなんですけど、前回音楽サブスクの世界的なシェアっていうのが1位がSpotify、これは皆さんご存知なんですけど、2位がApple Musicじゃなかったんだよっていうのが当初はバズりました。3位がApple Music、2位にテンセント・ミュージックっていう謎の音楽サブスクがあった。これ何なの?っていうのをちゃんと喋ってなかったんで、これやろうかなって思ってます。

Tama: 全く聞いてて分からなかったっていうところもあるので、詳しくちょっと掘り下げていただきたいと思います。

榎本: これもバズったんですけど、「中国テンセント・ミュージック、高音質が鍵の高価格帯プランが好調、第一四半期が大幅増」、「こんなのなんでバズったんだろう??」っていう気分だったんですけど、多分「テンセントって何?Apple Musicよりもシェアがあるんだ!どうして?」っていうことだと思って、それで興味持ったのかと思ったんで、これを扱っていこうかなと思います。

MC: Tama: 早速ですが榎本先生、テンセント・ミュージックって何ですか?

榎本: 中国の代表的な音楽サブスクで、中国って今音楽サブスクに加入している人が1億人以上、その中で一番強いのがテンセント・ミュージック。世界の音楽シェア、Spotifyが32%、中国のテンセント・ミュージックが15%、Apple Musicが大体12%ってなってますね。聞き放題なんですけど、かなりSpotifyやApple Musicと違うところがあります。これが今注目を浴びています。

Tama: どういったところが違うんですか?

榎本: 聞き放題が基本ではあります。ただ聞き放題の他にいろいろ付いてるんですよ。それが例えばカラオケを一緒に楽しむ機能。これはカラオケの機能は最近SpotifyやApple Musicもついてるんですけど、まずボーカル抜きます。それに自分で歌ってみるんですよ。それを投稿するんですね。それを友達が聞くとか、他の音楽ファンが聞いて、それに投げ銭するという仕組みがあって、これがめちゃめちゃうまくいったんです。

Tama: 楽しそう!

榎本: 本当に楽しくて、これは中国のおばちゃんたちがブームを起こしたら、それが若者たちにも広まっていって、サブスクよりも儲かるという状態ができたんですよ。ただあまりにも儲かりすぎて、日本でもソシャゲやとかスマホでやって課金する仕組みありますよね。あまりにも課金しすぎて、子供が5万円とか10万円とか使っちゃうっていうので、ちょっと社会問題化しましたけど、中国でもそれは「けしからん」ってことになりまして、共産党が規制をかけたんですね。あんまり大っぴらにできなくなったっていうか、売上がすごい下がっちゃったんで、新しいサービス内容をやらなきゃいけないってことで、それがスーパーVIPっていうプランを始めました。

Tama: そのスーパーVIPプランって何ですか?

榎本: 通常の月額、日本だったら1000円ぐらいですけど、それの3倍ぐらい出すんですよ。3倍出すと何がおまけがつくかって、まずいい音になります。いい音になるっていうのと、もう一つがチケット先行で、もう一つが先行配信。先行配信っていうのはつまり、このVIPプランに入っている人が好きなアーティストのアルバムなり新しいシングルをいち早く聴ける、そういう仕組みですね。チケット先行は、だからライブやるとかツアーやるって時に、最初にその一番いい席っていうか、それを先に応募できる。そういうことを始めたら、これもまたうまくいきまして、これが伸びてるっていう感じですね。

Tama: テンセント・ミュージックってすごいですね!

榎本: 実はすごいんですよ。Spotifyも参考にしていると言われてまして、Spotifyが今年ミュージック・プロっていう新しいプランを始めようとしてるんですね。

MC: Tama: Spotifyのミュージック・プロって何なんですか?

榎本: Spotify通常1000円ちょいかな、今それの1.6倍ぐらい払うと、まずSpotifyがいい音になります。もう一つがチケット先行が付きます。あと他にAIのDJ機能とか付くんですけど、売りはその2つです。高音質、これさっきお話しした通り、テンセント・ミュージックがやってうまくいってるんですね(※その後、Spotifyで予定変更があり通常プランでロスレスが聴けるようになった「Spotify、なぜ無料サービスを改善? MBWが幹部にインタビュー」)。

ミュージックマンで記事にしたものもタイトルに「テンセント・ミュージック、高音質が鍵の高価格帯プランが好調」ってつけたんですけど、音質が良かったらそれが受けたっていうのは、Spotifyに音楽を出してる音楽業界にとっても朗報なわけです。なんでかっていうと、音良くしたぐらいで高いお金出してくれるかなって思うじゃないですか。でも中国はそれうまくいったっていうのは、先行事例として使えるなっていう話で。あとそのテンセントはチケット先行ってのもやってた、チケット先行もやって武器になるんじゃないかってことですね。

付け足すとしたら、中国もう1個先行配信やってるって言ったじゃないですか。その話はまだSpotifyとかには出てないですね。ここはやった方がいいんじゃないかなと昔から思ってたんですけど。

Tama: なるほど、ということはSpotifyがテンセントの様々なそういったところをお手本にして事業を拡大してるっていうことなんですね。

榎本: そうですね。これってもちろん先行事例としての理由もあるんですけど、実はSpotifyってテンセント・ミュージックと大きな関係があって、お互い株主になってるんですよ。かなりの割合だから、お互いの情報を共有してるんですね。

なんでお互い株主になってるかっていうと、中国行ったら例えばGoogle検索って使えないですよね。Xも使えない。代わりに中国の検索エンジンだったらBaidu、あとSNSだったらWeChatとか使ってると思うんですけど、中国は自国のIT産業やコンテンツ産業を育てるために、そこは国外のサービスをポンと入らないようにしてあったんですね。だから代わりにお互いに資本関係を結ぶことで協力するっていうことをSpotifyもやったし、あとその世界最大の音楽レーベルのユニバーサルミュージックもテンセントミュージックとお互い株を持ち合っています。そういう深い関係があるんですね。

Tama: テンセント・ミュージックとSpotifyの違いっていうのはどこなんでしょうか?

榎本: さっき説明したんですけど、聞き放題っていう意味では一緒なんですよ。で実はそのテンセント・ミュージックを作る時っていうのも、Spotifyをお手本にしました。なぜかっていうと、中国って無料で音楽聞き放題っていうか、音楽を聞くというカルチャー自体はそもそも存在しなかったんですね。

先進国でもMP3のダウンロードというのが蔓延してそれを解決する手段として、Spotifyの基本無料というのが出てきたんですよ。基本無料で使ってもらって、皆さんスマホで今Spotify使っていると思うんですけど、スマホで自由に聞くというか便利に使うんだったら有料会員になる、うまくいったんですね。

中国の人がこれやれば、中国でちゃんと音楽ビジネスが立ち上がるかもしれないと思って、それでSpotifyを真似したんですけど、うまくいかなかったんです。で代わりに試してみたのがさっき言ったカラオケを足してみた、それに投げ銭を足してみたら、超うまくいったっていうか、うまくいきすぎちゃった。そしたら共産党に怒られてやれなくなっちゃった。代わりにこのスーパーVIPプランっていうので聞き放題プラスさっき言った高音質・先行配信・先行チケットっていうのをつけたプレミアムプランを作ったらうまくいったっていう、そういう流れですね。

そしてね、今世界の先進国の音楽サブスクってちょっと停滞してるんですよ。

Tama: なぜそれは停滞してしまったんですか?

榎本: 簡単です。理由は普及が大体終わっちゃったんですね。これ以上サブスクに入ってもらうってだけだと伸びなくなっちゃったんで、なんか新しいの足さないとなっていうので、見渡してみたら中国がいつの間にか新しいことやってると。それは中国でSpotifyそのまま真似したらうまくいかなくて、さっき説明したようにいろんなことやってみたらうまくいったと。

でそれなら、じゃあそれを新しいSpotifyのミュージック・プロっていう1.6倍高いプランでも参考にしたらどうかっていうことになったんじゃないかなっていうのが、いろんな業界の人が見立ててるところです。

Tama: しっかりとわかりました、ありがとうございます。

プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載。

@musicman_nusicman