JASRAC、世界の主要なデジタル配信サービスのコンテンツ情報と楽曲情報を共有・交換する新プラットフォーム「GDSDX」をリリース

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日本音楽著作権協会(JASRAC)は5月31日、デジタル社会におけるクリエイターへの対価還元に関する課題への取り組みとして、グローバル展開する動画・音楽の配信サービスのコンテンツ情報と著作権管理団体が管理する楽曲情報を共有・交換するプラットフォーム「GDSDX」をリリース、運用を開始した。

近年、JASRACが扱う音楽著作権において配信分野の使用料収入が拡大しており、総徴収額(1290.1億円)に占める配信利用分の割合は2022年度実績で34.6%(446.6億円)となった。特に、グローバル展開する音楽サブスクリプションや動画配信サービスは、膨大な量の楽曲を世界中で聴くことができるため、利用の対価となる著作権使用料を確実に得ることが、国内のクリエイター・権利者を始めとする音楽関係者にとっての重要な課題・関心事となっている。

デジタル音楽配信事業者(DSP)は、各国・地域ごとにJASRACなどの音楽著作権管理団体らと契約を結び、著作権使用料を支払うとともに利用した楽曲を報告。JASRACは各国・地域の著作権管理団体との契約を通じて相互に楽曲を管理している。例えば、JASRACが管理している楽曲が海外で利用された場合、各地の管理団体がDSPから使用料の支払いを受けJASRACに使用料を送金、JASRACが国内のクリエイター・権利者へ使用料を分配する。外国からJASRACへの使用料送金額は、2022年度実績で18.9億円となり、コロナ前の2019年度比で約3倍となった。

一方、音楽サブスクリプションや動画配信サービスでは膨大な楽曲を利用するため、使用料分配に際して行う楽曲の特定が課題となっており、JASRACでは、演奏、放送、配信、複製等多くの分野で音楽の利用者から利用楽曲の報告を受け、これをもとに管理楽曲を特定し、委託者から届け出られた権利関係(分配割合等)に基づいて各権利者に使用料を分配している。年間報告数は合計32.4億件で、このうち配信分野が全体の93.5%、30.3億件を占める(2022年度)。

配信分野では、報告された音源情報:ISRC(International Standard Recording Code/国際標準レコーディングコード)をもとに楽曲を特定しているほか、タイトルや作家名、アーティスト名などの楽曲情報(以下メタデータ)をもとにシステム上で特定。システム上で特定できない場合は、専門スタッフによる特定を行う。この結果、JASRACにおける楽曲特定率は音楽サブスクリプションにおいて95.3%(2022年度)となっている。

日本では、音楽サブスクリプションなど大規模配信事業者を中心として著作権情報集中処理機構(CDC)を活用して効率的に報告データを作成。また、一度楽曲を特定できた場合、報告データに楽曲の識別子(作品コード)を付与して配信事業者へフィードバックしている。配信事業者が、以降の利用において作品コードを含めて報告データを作成することで、正確性も確保される。このように日本では、配信事業者と著作権管理事業者それぞれの取り組みを通じて、クリエイター・権利者への対価還元が実現されている。

しかし、新たに配信される楽曲数が多いことなどから、特定できていない分(4.7%)は、約95億のリクエスト回数(PDや非管理楽曲を含む)に相当する。このような配信利用における楽曲特定は、世界はもとより日本においても課題となっている。

この楽曲特定に関する課題のうち、特に自国の楽曲が海外で利用される場合、現地には音源情報(ISRC)に関連付けられる楽曲情報がないことが多く、また、タイトルが現地表記に変換されることで、特に独自の文字体系を持つアジア地域での利用においてメタデータによる特定を困難にしている。そこで、この課題解決を図るためにJASRACは、CISACアジア太平洋委員会に所属する「FILSCAP(フィリピン)、KOMCA(韓国)、MUST(台湾)、WAMI(インドネシア)」と連携し、GDSDXプロジェクトを立ち上げた。

GDSDXは、各DSPからJASRACなどの著作権管理団体に報告される情報のうち、各DSPが配信するコンテンツ(楽曲や動画)ごとに作成しているユニークコード(下図「配信楽曲ID」)と、音源情報(ISRC)をキーとして、各著作権管理団体の管理楽曲の情報を関連付けたデータベース。

各DSPから各国・地域の著作権管理団体には、DSPごとに世界共通で使用している配信楽曲IDが報告されるため、このIDをキーとして、利用楽曲を正確に特定でき、各地でタイトルが現地表記に変換されるなどしても、GDSDXを通じて的確に楽曲を特定できるようになる。さらに、CISAC内で共有しているISWC(International Standard Musical Work Code/国際標準音楽作品コード)や作品届(権利者から著作権管理団体に届けられる資料)のデータとも関連付けが行われるため、各団体で行う分配までの作業効率を高めることができるとしている。

今回のリリースにおいては、グローバル展開する配信サービスのうち、YouTubeを対象にJASRACが管理する楽曲情報43万件と他のプロジェクト参加4団体の楽曲を合わせた計140万件の楽曲情報でスタート。今後は、Apple、Spotify、TikTokなどYouTube以外の配信サービスにも拡大する予定とのこと。

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