2012年の音楽業界を振り返って〜業界関係者が昨年の音楽産業を総括

ビジネス

2012年はどのようなトピックが音楽業界や世間をにぎわせたのでしょうか。そして2013年どのような動きが予想されるのか。各方面の皆さんからコメントをいただきました。

ピーター・バラカンピーター・バラカンさん
(ブロードキャスター)

 

——2012年の音楽業界を振り返って。

あまりよく分かりません。業界全体の動向が分かっても必ずしも参考になると思っていませんから、特に追っかけていません。自分の役目はいい音楽を共有することだと思っています。

——印象に残った出来事。

26年間全く一人で仕事をしてきた自分が久しぶりに企業に関わりを持つことになって、9月からインターFMの編成の責任者になったことが、個人的には大きかったです。

——2012年の各チャートに関して。

悲惨です。これでも音楽と呼べるのでしょうか。

——音楽業界、2013年の展望について。

業界の展望はよくないでしょうが、金銭的なことはさておき、少なくとも質のいい仕事をしたいです。
 


Musicman’s RELAY 第96回

高橋裕二高橋裕二さん
 

——2012年の音楽業界を振り返って。

ユニバーサルミュージックによるEMIミュージックの買収が完了。これでアメリカのレコード業界は2.5大メジャーになった。

業界誌ヒッツが今週(2012年12月21日時点)に掲載した2012年年間の市場占有率。カッコ内は前年。
1位)ユニバーサルミュージック 31.1%(29.6%)
2位)ソニーミュージック 30.4%(29.3%)
3位)ワーナーミュージック 15.1%(15.4%)
4位)EMIミュージック 7.8%(7.3%)

2.5大メジャーになるとどんな結果になるか。

新人アーティストはメジャー入りを目指しても2.5社しかないので大変難しくなる。
メジャーにいた大物はコスト・カットの為、リストラされる恐れが多い。

また、さらに新しいテクノロジーやビジネス・モデルとの付き合いは、ユニバーサルミュージックとソニーミュージックの2社がOKすれば前に進む。

アップルのインターネット・ラジオ・サービスは極端に言うとこの2社との契約でビジネスが成立する。その一方でワーナーミュージック以下インディーズは、ユニバーサルやソニーが決めた条件には入れて貰えず、使用料が低くなる可能性がある。アップルに言わせれば、ユニバーサル(EMIミュージックを含む)とソニーで約70%の音源を確保するので、高い事いうなら、うちは要りませんという事になる。

いずれにせよ様々な局面でユニバーサルミュージックとソニーミュージックの発言力が増す(日本のユニバーサルがどうかは私は分からない)。

——印象に残った出来事。

やはり「アデル」です。アメリカではソニーミュージック傘下のコロンビア・レコードと契約したが元々本国イギリスではインディーズの「XLレコーディングス」。昨年発売されたアルバム「21」がアメリカで今年だけで420万枚売れた。

宣伝手法は従来通りの「ラジオ局を攻める」。ツイッターやフェイスブックは殆ど関係ない。奇をてらったやり方は全くない。通勤途中の人達はラジオで聴いて好きになってレコードを買った。良い音楽だったら購入する。

プロデューサー指導のポップ・ソングはなくならないが、アルバムのビッグ・ヒットにはつながらない。作品が消耗品化している。

——音楽業界、2013年の展望について。

1番大きな出来事は「アップルのインターネット・ラジオ・サービス参入」です。これはアップル全体の未来をも決める、又スマートフォン市場と音楽業界がどう関わるかの最も大きな出来事になります。
 


洋楽天国
高橋裕二さんインタビュー

榎本幹朗榎本幹朗さん
(コンサルタント)
 

——2012年の音楽業界を振り返って。

国外は底打ちの年。スウェーデンほかSpotifyで回復に入った国も出てきました。国内は後ろ向きの話が一段落し、変革へ踏み出した年です。日本はこれからです!

——印象に残った出来事。

今年は洋楽チャートが楽しかったです。ゴティエ、カーリー・レイ・ジェプセン、フォスター・ザ・ピープル、パッション・ピット、ワン・ダイレクションetc、元気な感じの年でしたね。カタログでは、ボサノヴァとヒップホップを混ぜたマルセロD2などをPandoraで発見。それと個人的には、アユ・ラトゥナや ピー・ウィー・ガスキンスなど、インドネシアを発見した年でした。

来年は邦楽を発見する年にしたいので、ミナミホィールなどに顔を出すよう努めようと思います。おすすめがありましたらぜひ、Twitterで教えて下さい(^^)。

——2012年の各チャートに関して。

チャートの革新が待望されます。UKチャートはイノヴェーションを重ね、CD、エアプレイ、ストリーミング、DLの総合チャートに。日本もエアプレイ、着うた、レンタル、ストリーミングを反映して、「音楽ファンを創るチャート」を目指しましょう。邦楽はTUTAYAレンタルのチャートがバランスいいですね。洋楽チャートはSpotifyが実感に近いです。

——音楽業界、2013年の展望について。

実現の年。将来の悲観論・楽観論を語る段階は今年で終わり。現実的なリスクテイクが始まる年です。トップレベルの水面下で起きた変革を、音楽ファンに気づいてもらえる所まで広げてゆきましょう!
 


榎本 幹朗さんの連載:『未来は音楽が連れてくる』

青木高貴青木高貴さん
(リアルロックス代表)
 

——2012年の音楽業界を振り返って。

Pandora、Spotify、Rdioなど未知の音楽に出会えることができるディスカバリ型の音楽配信サービスが躍進する海外に比べ、国内では未だにその役割は既存のマスメディアやSNSが担っている。内外格差が一段と広がった1年。

——印象に残った出来事。

ソニーミュージックがiTunes Storeにカタログを供給した事。

——2012年の各チャートに関して。

もはや、総合チャートというのは存在しなくなったという印象。iTunesの売上データが公開・提供されるのは想像しがたい。CDのセールス動向だけではもはや意味がない。

——音楽業界、2013年の展望について。

アップルのネットラジオ参入。ディスカバリ型の音楽配信サービスの国内ローンチ。
 


【特別対談1】 Spotifyの章を終え、Pandoraの話をしよう
【特別対談2】 アメリカはSpotifyではなくPandoraとiTunesで回復
【特別対談3】 Pandoraを日本の放送局がやるとしたら…
【特別対談4】 日本の音楽業界、タイムリミットは2年

acpc.jpg鬼頭隆生さん
(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会 事務局)
 

——2012年の音楽業界を振り返って。

国内では音楽ソフト市場が下げ止まり、夏フェスをはじめとするライブ・エンタテインメントも盛況、中堅~ベテランのアーティストが元気だったりと、明るい話題が印象に残っています。
その一方で、PandoraやSpotifyなどが浸透する海外市場との差異がだんだん大きくなっている気もします。

——印象に残った出来事。

フジロックが開催16年目にして過去最高の動員を記録(※)したこと。ラインナップの豪華さも要因のひとつですが、イノベーションや工夫を続けることで、まだまだフェスのユーザー層にも伸びしろがあると実証してくれたと思います。(※ http://www.musicman-net.com/artist/19098.html)

——2012年の各チャートに関して。

国内のあらゆるチャートに対して、Spotifyチャートの性質が完全に異なるのが興味深いです。

——音楽業界、2013年の展望について。

SNSを駆使して活きの良い若手がたくさん登場してくれることと、USではヒットチャートの定番になったEDM(Electronic Dance Music)が日本のメインストリームにも浸透して、盛り上がって くれることを期待しています。
 


一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC):http://www.acpc.or.jp/

ユーストリームUSTREAMロゴlogo筑田大介さん
(Ustream Asia 音楽担当)
 

——2012年の音楽業界を振り返って。

音楽業界全般については私が語れるところではないので、(Ustream)音楽担当として今年のUstreamの配信動向について。。

ここ数年、Ustreamはプロモーションの一環として、多数の視聴を目的に配信されることが多かったのですが、アーティストがライブ配信を行うこと自体がある程度定着化したことで、特に今年は「ファンの囲い込み」を狙うことが特に積極化した1年だったと思います。

今年はEXILEやDIR EN GREYなど大型の有料配信も実施しましたが特に新しい試みだったのは、ファンクラブサイト内での会員限定での配信(福山雅治、Superfly、スピッツ、吉井和哉など)や、CD購入者限定のライブを行い、CD内にUstreamの視聴チケットコードを封入して販促に繋げる(L’Arc〜en〜Ciel、MISIAなど)など、視聴者を限定することで配信の価値を高める動きで、特にクローズド配信には多くのお問い合わせを頂きました。

また、既存のメディアがUstreamを配信インフラとして活用し、新しいメディアをインターネット上に創ることも本格化していった感があります。エムオンのJamboriii、MTVのMTV TALK SESSIONS、kampsiteのリニューアル、アメーバピグの仮想空間でのパブリックビューイングなど、既に複数のメディアさんにも配信インフラとしてUstreamを活用頂いていますが、こちらもコンテンツの属性に近いユーザーを自社メディアに囲い込む施策のひとつとして、動画配信を検討されたのではないかと思います。来年はこういった生中継や動画を絡めたメディアの動きがさらに加速することを期待しています。

——印象に残った出来事。

Ustreamでは新しいサービスとしておひねりができる機能「Ustreamチップ」を実験的に坂本龍一さんとスタートさせました。
これは路上ライブの投げ銭のようなサービスで、配信は無料で視聴が可能ですが、視聴者から配信者(アーティスト)に向けて任意の金額をUstream内の決済で送る事ができるものです。(金額の大小に関わらず対価として特典動画が視聴できます)坂本さんの時は、設定した最低金額の100円を送る方もいれば、感動したので1万円以上をおひねりする方もおり、こういったクラウドファウンディングに近いサービスも、今後可能性が非常にあるのではと思います。

また、個人的には新しい試みとしてOrigami Productionsを中心にスタートした音源、ラジオ、アーティストコラムや動画などを取り込んだ新しい有料メディア、Oshiteが面白いと思いました。

大規模なビジネス展開ではなく、ニッチでも趣味趣向の近しいコンテンツを集めて有料サービスを展開して行くことは、これからさらに細分化して増えていきそうです。

——2012年の各チャートに関して。

個人的にはチャートにあまり興味が無く。。ですが山下達郎さんのベストは特典とリマスターにひかれて購入しました。スイートラブシャワーでの山中湖のライブも涙が出るくらい素晴しかったです。

——音楽業界、2013年の展望について。

実はコンサートの中継を無料で見せる事で動員が減ったケースは聞いた事がありませんので、私の立場としては、より多くのアーティストの方がUstreamなど生中継をうまく活用していただくこと、オープンに見せる部分とクローズドでファンの囲い込みをする部分をうまくハンドリングしてライブ配信自体の総数がもっと増えて行けばと思います。

また、ソーシャルメディアにはもちろん可能性があると思っていますが、それによって経済が動くかどうかはまだ何とも言えないので、ソーシャルへの過度な期待は危険だと思っています。

動画配信もある程度認知が増えたとはいえ、まだまだ視聴しているのは一部のリテラシーが高い層が中心ですので、スマートフォンも含めて生配信の動画をさらに快適に見られる、配信する側もより手軽に高品質の配信ができるようになるといいですね。

WEB上での課金もまだまだ増えて行くと思いますし、時間はかかると思いますが良い形のビジネスモデルを成立させられればと思います。
 


USTREAM:http://www.ustream.tv/new
USTREAM 2012年年間最大同時接続数ランキング:http://www.ustream-asia.tv/news_20121221.html

jaykogamiジェイ コウガミさん
(ブロガー:Jay Kogami’s posterous)
 

——2012年の音楽業界を振り返って。

SpotifyやDeezerなどクラウド型音楽配信サービスが世界的に拡大する等、新しいテクノロジーやビジネスモデルに関して明るい話題の多い年でした。また、DIY的アプローチのアーティストやレコード会社の台頭が顕著で、クリエーターの独立が益々進みました。さらに、海外ではSNSがインフラとして一般的に浸透し、ソーシャル熱が一段落した気がします。SNSの使われ方が変わり、結果に直結する施策も現れています。この分野では国内と海外市場と差異が広がったと感じます。

——印象に残った出来事。

Spotifyなど音楽サービスの規模拡大、アップルのインターネット・ラジオ参入、PSYの「Gangnam Style」、EDM人気、ユニバーサルミュージックによるEMIミュージック買収、クラウドファンディングで120万ドルを調達したアマンダ・パーマーの取り組み。それから音楽業界外ですが音楽とは切り離せない、Facebookの動向(株式上場やInstagram買収)も印象的でした。

——音楽業界、2013年の展望について。

音楽について発言する人やメディア、機会が増えてくれればと願っています。業界内外を問わず活発な発言が増えれば、業界全体が盛り上がるのではないでしょうか。又、一般消費者向けの新しい音楽体験にも期待しています。従来のモデルとは完全に違う、音楽を取り入れた企業のブランディング戦略や、モバイル・ソーシャル・ライブ分野での新しい音楽プロモーションの登場に注目しています。
 


Jay Kogami’s posterous:http://jaykogami.posterous.com/
Jay Kogami Twitter:http://twitter.com/jaykogami
Jay Kogami facebook:http://www.facebook.com/jaykogami

石角隆行 六角堂石角隆行さん
(パブリシスト/有限会社六角堂 代表)

——2012年の音楽業界を振り返って。

邦楽ではMr.Children、松任谷由実、桑田佳祐、山下達郎のベスト盤CDが、洋楽ではレッド・ツェッペリンのライブ盤CDなどが売れた年。ミスチルを除けばアナログ盤からCD時代にかけて音楽界を牽引してきたアーティストであり、購入ユーザーも40代以上が中心と考えられます。
アイドル系のCDは聴くメディアではなく、グッズの一部なので、この世代は聴くCDというメディアを買ってくれる最後の世代。今後はこれ以上のセールスを記録出来るアーティストも限られてくると思えますので、2012年はCDというメディアが売れた最後の年になるのではないでしょうか。

——印象に残った出来事。

2012年12月22日、朝日新聞に掲載された『自曲カラオケをヘビロテ、著作権料1,700万円不正受領』の記事。
自宅や知人宅など16ヶ所にカラオケ端末を置き、自作曲を再生し続けたそう。注目すべきは、大手カラオケ社のチャートTOP3に度々ランクインしてた点。(カラオケ・チャートに限った事ではありますが)個人でも簡単にチャート・イン出来るという、チャートの脆弱さを露呈させてしまった。このケースは著作権料金の不正取得が目的でしたが、例えば○○社のチャート○位!というネタでメディアに売り込む事だって出来ます。そこそこの組織力あるインディーズ・アーティストなら誰でも、世に出るチャンスを作れてしまうという事で考えさせられる記事でした。

——2012年の各チャートに関して。

錚々たるアーティストに混じって本人演奏ではないカバー曲で構成されたコンピ『セツナ系泣き歌R&B~BEST 50LOVERS COUNT DOWN ~』が、iTunesの年間ランキングアルバム6位に入っていた事が面白かったです。50曲900円という価格設定の勝因のひとつだとは思いますが、ユーザーは曲が良ければオリジナル・アーティストじゃなくても構わないという事をデータで見せつけられました。私も『ブラバン!甲子園』、『ヤンキーロックスNON STOP-MIX』といったカバー企画のシリーズをリリースしており、このジャンルの可能性に少し自信を持てました。

——音楽業界、2013年の展望について。

アルバムの価格は40年前に比べて殆ど変わっていません。一方コンサートやライブのチケット価格は当時の4~5倍にあがっています。物価変動を考えても、これは異常。
近年定額聴き放題など、ソフトの安売りが目立ちます。そろそろ、リリース数を少なくしCDアルバムの価格を¥4,000~¥5,000ぐらいに設定するという我慢も必要なのではないでしょうか。

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