広告・取材掲載

広告・取材掲載

【ライブレポート到着】「MONTREUX JAZZ FESTIVAL JAPAN 2025」ジャズ界のアイコン ハービー・ハンコックによる2時間越えのスペシャルステージ 大喝采のうちに幕を閉じた2日間の模様をお届け

アーティスト

2025年12月5日~7日まで開催された「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン2025(MJFJ 2025)」の模様をお伝えする第2弾。今回は、神奈川県横浜市のみなとみらい地区に位置する“ぴあアリーナMM”で行われた6日と7日のステージを振り返ります。

Musicmanのプレイリストを再生

“JAPAN ARTISTS EVE SHOW”と題した6日は、2024年にメジャー・デビューした新世代5人組バンド<luv(ラヴ)>の演奏から始まりました。メンバー全員が2003年生まれの彼らはオープニング曲「脳におまじないなme」を皮切りにタイプの違う楽曲を次々と送り出しながら個性を炸裂。レトロ感もあるサイケな衣装をまとったヴォーカル&ギターのHiyn(ヒン)を中心に、各メンバーがクールに音を重ね合わせてホットなグルーヴを放出していきます。そこから連発するボーダレスなポップ・チューンに観客のカラダは自然と縦横にユラユラ。こだわりを感じるサウンド作りと生きの良い演奏、キャッチーなメロディは“はじめまして”のリスナーも瞬時に引き寄せるパワーがありました。フレンドリーなMCも含めてエンターテインメント性も兼ね備えた<luv>は、ぴあアリーナMMの室温をアップさせ、トップバッターとしての役目をしっかりと果たしたのです。

luv (c)SHUN ITABA

続いては、オルタナティブ・ファンク・バンド<BREIMEN(ブレイメイン)>にバトンタッチ。2024年にメジャー・デビューしたメンバー5人がステージに並ぶはずでしたが、ヴォーカル&ベースの高木祥太がこの日の朝に発熱、つまり、体調不良ということで出演不可になってしまい、ギターのサトウカツシロ、キーボードのいけだゆうた、サックスのジョージ林、ドラムのSo Kannoの4人だけが登場。サトウ曰く“出演辞退も脳裏をよぎった”そうですが、仲間のミュージシャンがサポートを名乗り出てくれたということで、急遽、スペシャル・セッションを決行することに!

BREIMEN (c)SHUN ITABA

エールに代わる盛大な拍手を送ったオーディエンスは、楽曲によって入れ替わるゲスト・ミュージシャン~ベースのオオツカマナミ、ラッパーのSkaai(スカイ)、ベースのケイティ、シンガー・ソングライターのDinoJr.(ディノジュニア)、この日のラストに出演するバンド、Kroi(クロイ)のヴォーカル、内田怜央との貴重な瞬間をキャッチ。ぶっつけ本番、もしくはリハーサルなしに近い状況とは思えぬクオリティの高いプレイによる全5曲。BREIMENは欠席した高木祥太のマインドも昇華させながら、ゲスト・ミュージシャンと共にピンチを乗り越え、この日ならではのパッションを見せてくれました。

“好き放題やるんで好きに揺れてください”と言って始まったのはNulbarich(ナルバリッチ)のヴォーカリスト、JQこと<Jeremy Quartus(ジェレミー・クォータス)>のパフォーマンスです。今年の7月からソロ・プロジェクトを始動した彼は、キーボードのヤマザキタケルとBREIMENのサポートも務めたベースのケイティと共にそれまでとは違う景色を浮遊させ、オーディエンスを一気に自分の懐へと吸引。気持ちを解き放つビートに同化した言葉&ヴォイスは心地良く、無重力空間にワープした気分。ソロ名義になってからの3曲、Nulbarich時代のナンバー、さらにはエルヴィス・プレスリーの名曲「Can’t Help Falling in Love」やディアンジェロの代表曲「Brown Sugar」などのカヴァーも織り交ぜた構成で、JQの音楽的背景も垣間見られる内容でした。

Jeremy Quartus (c)SHUN ITABA

彼の音楽と同じぐらいに印象的だったのがMCの中で若いオーディエンスに向けて発したメッセージです。自らの経験を通して実感した“生き方”について語った締めには“どうぞ、良い人生を!そして、きみと僕がどこかでまた交差した時は一緒にセッションしましょう”と叫び、観客は盛大な拍手で応えていました。

MJFJ 2025“JAPAN ARTISTS EVE SHOW”のトリは2018年にデビューして以来、躍進が止まらない5人組バンド<Kroi>です。R&B、ファンク、ソウル、ロック、ヒップホップなどが混在する音楽は力強く、聴き手のカラダを激しく揺さぶり、心拍数は上がりっぱなし。今年7月にリリースされた「Method」からアクセル全開、2019年発表の「Monster Play」でさらに加速し、疾走感溢れる「Amber」に繋いだ後、ジャジーな要素も漂う「侵攻」では内田怜央の歌唱も変化し、全方位から聴き手に刺激を与えます。

Kroi (c)SHUN ITABA

2021年リリースのアルバム「LENS」に収録されているダンサブルな「夜明け」、歌も楽器も挑発的に攻めまくる「selva」、オーディエンスの手拍子がプレイを盛り上げた「Balmy Life」と汗が飛び散るオンパレードにテンションは鰻上り。後半戦も勢い衰えず「Noob」から2019年リリースのシングル「Fire Brain」、翌年発売された「HORN」、そしてラスト・ナンバー「Shincha」で<Kroi>のパワーを大噴射して終演。観客は昂揚した表情のまま、MJFJ 2025“JAPAN ARTISTS EVE SHOW”の会場を後にしたのです。

ここからはMJFJ 2025最終日の様子を順に振り返ります。

最初にステージを飾ったのは1983年生まれ、東京出身のアーティスト、蓮沼執太(はすぬましゅうた)が率いる、2010年結成の現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ<蓮沼執太フィル>でした。ピアノ、ギター、ベース、ツイン・ドラム、管楽器やヴァイオリン、スティールパンやマリンバ、和楽器、シンセサイザーなど多彩な楽器が織り成すサウンドは、オルタナティヴ・ロック、ジャズ、エレクトロニカ、ポップス、和の要素なども融合したジャンルレスな世界で、例えるなら新惑星から飛来したミュージシャン勢による進化系ラージ・アンサンブルとでも言いましょうか。インスト、歌モノ、ボイス・パーカッションをフィーチャーした楽曲などをランナップに組み込み、アナログとデジタルを見事に融合させた熱量の高い音楽を会場に響き渡らせ、オーディエンスに未知なる絵を大公開したのでした。

蓮沼執太 (c)SHUN ITABA

続いては、12月5日に東京・南青山にあるsong & supper<BAROOM(バルーム)>で行われたMJFJ 2025“An Opening Night”のオープニング・アクトを務めたスイス・ジュネーヴ出身の6人組バンド<L’Osmose(ロスモス)>のステージです。プロとしてのキャリアはまだ始まったばかりですが、母国はもちろん、ヨーロッパ各地でツアーを成功させている彼らは、100人限定の5日のライヴを経て、ぴあアリーナMMという1万人規模の大ホールで堂々、バンド・サウンドを送り出し、際立ったステージングで観客を沸かせました。

L’Osmose (c)SHUN ITABA

お次は、馬場智章がバンド・マスターを務める<MJFJ TB×ER UNIT with BIGYUKI>のパフォーマンスです。アニメーション映画『BLUE GIANT』の主人公・宮本大のサックス演奏を担当し、一躍注目の的となった彼は、昨年リリースした自身のデビュー・アルバム「ELECTRIC RIDER」の楽曲を中心に新曲も含めた構成で猛ダッシュ!レコーディング・メンバーでもある韓国出身の最強ドラマー、JK Kimと世界の第一線で活躍中、ニューヨークのミュージック・シーンにおいて最重要人物と言われているキーボーディスト、BIGYUKIが作り上げる音楽は時代を邁進する力強さに満ちています。

MJFJ TB×ER UNIT with BIGYUKI (c)SHUN ITABA

豪快なサックス、細かい技を連発するKim、選ぶ音ひとつひとつで世界を広げるBIGYUKI。そこにもう一つのエナジーを投入したのが馬場と同年齢、ふたりが出逢ってから来年は25年目を迎えるというゲストのドラマー、石若駿でした。ジャンルの枠を飛び越え、日本の音楽シーンを牽引する、それこそ、日本一多忙なドラマーが加わり、ツイン・ドラムとなった白熱合戦は大地の響きを想起させ、全ての音を聴き逃したくないと思ってしまったほど。そして、もうひとりのゲスト、Jeremy Quartusのヴォーカルをフィーチャーした1曲も当然、大盛り上がり。MJFJ 2025だからこそ目撃出来たスペシャル・タイムでした。

世界的人気のロール・プレイング・ゲーム「ペルソナ5」の音楽を演奏した<PERSONA5 Special Big Band>も最高のショウを見せてくれました。アレンジと指揮及び、音楽監督はグラミー受賞アーティストのチャーリー・ローゼンで彼は鍵盤やギターも演奏。来日したプレイヤー9名+世界を舞台に大活躍している最高峰トランぺッター、エリック・ミヤシロ率いるビッグバンドと弦楽器チーム及びコーラス、そして、「ペルソナ5」の楽曲でヴォーカルを担当しているLyn(稲泉りん)という約30名による夢のコラボレーションは全編に渡り、ゴージャスの極みとも言えるひと時。凄腕のプレイヤーが集結し、ダイナミクスを存分に効かせた上質で厚みのあるアンサンブルはポジティヴそのもので「ペルソナ5」の音楽を知らない人でも間違いなく楽しめたはずですし、同時にずば抜けた歌唱力のLynにノックアウトされた人も多かったと思います。思い切り口角を上げてくれた<PERSONA5 Special Big Band>に改めて拍手!

PERSONA5 (c)SHUN ITABA

続いては1974年生まれ、バージニア州チェサピーク出身のドラマーで、作曲家&プロデューサーとしても手腕を発揮している<

ネイト・スミス (c)SHUN ITABA

>を柱に、大人気インストゥルメンタル・バンド<スナーキー・パピー>のリーダー兼ベースのマイケル・リーグとテキサス州ヒューストン生まれ、ニューヨークを拠点に活動しているピアニスト、ジェイムズ・フランシーズのトリオによる創造性豊かなプレイが繰り広げられました。3人が登場した途端、会場からは大歓声が沸き起こり、期待を寄せるファンの多さを実感。1曲目の「UNDEFEATED」から強烈なビートを送り出すネイト、ピアノとキーボードを自由に操るジェイムズ、軽やかに骨太なベース音を鳴らすマイケルはひたすらに繊細で自由度の高い瞬間を積み上げていき、トリオという形態が無限な広がりで音楽を構築できることを示していました。彼らのアイデアを音とリズムで具現化した約60分。それはスタイリッシュな美しさも兼ね備えた存在感のある演奏でした。

ハービー・ハンコック (c)SHUN ITABA

ハービー・ハンコック (c)SHUN ITABA

 さあ、いよいよ、<ハービー・ハンコック>の登場です!今年4月に85歳を迎えたイリノイ州シカゴ出身のピアニスト&キーボーディストで、ジャズ界のアイコンともいうべき御大はなんと可愛らしいお孫さんと一緒にステージへ現れました。嬉しそうに坊やを紹介するシーンに観客も笑顔となり、和みムードが漂いますが、サウンドエフェクト的な音の波がウネリ出した途端、演者同様、聴き手の集中力も一気にアップ。ステージにはハービーと同郷のサックス奏者、クリス・ポッター、バージニア州ハンプトン出身のベーシスト、ジェームス・ジーナス、西アフリカのベナン共和国出身でハービーに見出されてプロ・デビューしたギタリストのリオーネル・ルエケ、そして、ブルックリン生まれ、27歳の若きドラマー、ジェイレン・ペティノーという豪華メンバーが並び、度肝を抜くプレイがこれでもかと続きます。

ピアノから躍り出る音は非常にストロングでひとつひとつがクッキリ。淀みないアドリブはフリーキーでハービーの枯れない魂とフィジカルを提示、圧倒的という言葉では到底、追いつかない発信力の高さに驚きを隠せません。プレイヤー陣もみな、全身全霊のプレイから生まれる突発性の音楽を心底、楽しんでいるのがわかります。中でもクリス・ポッターの饒舌でスリリングな即興演奏には仰け反りました。ハービーの盟友で2023年に次世界へと旅立ったサックス奏者、ウェイン・ショーター作曲の「Footprints」はトランペット奏者のテレンス・ブランチャードがアレンジしたヴァージョンで演奏、1974年に発表されたアルバム「Thrust」に収められている「Actual Proof」や「Butterfly」などの名曲もフルスロットル!疲れを知らないハービーたちは「Secret Sauce」、そして「Hang Up Your Hang Ups~Spider」でもセンセーショナルに幾つもの見せ場で聴き手を興奮させます。

ラスト曲「Chameleon」ではハービーが“ベスト・フレンド”と紹介した日本が世界に誇るピアニストの小曽根真とサックス奏者の馬場智章、ドラマーの石若駿がジョインし、一夜限りのミラクル・セッションが展開。ショルダー・キーボードを弾きながらぴょんぴょんと飛び跳ねる(!)レジェンドはメンバーに“もっともっと”と煽り、ジャズが天井知らずであることを告げているかのようです。時を忘れたハービー・ハンコックのライヴは2時間超えで当然のようにスタンディングオベーションとなりました。大喝采がぴあアリーナMMを包み込み、「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン2025」は大成功で幕を閉じたのです。

(文:菅野聖)

ポッドキャスト概要:

Musicman Podcast — 業界の“今”を深掘り

「Musicman大学」は世界の音楽業界の最新トピックスを解説。講師は『音楽が未来を連れてくる』の著者、Musicman編集長・榎本幹朗。「Talk&Songs」は月間500組ものアーティストニュースを担当するKentaが選ぶ、今聴くべき楽曲と業界人必聴のバズった曲を解説。

Spotifyでポッドキャストを聴く

プレイリスト概要:

記事連動セレクション — エピソードと繋がる楽曲たち

月間500のアーティスト記事から厳選した楽曲と、業界人必聴のバズ曲をプレイリストで。最新シーンの決定版!

Spotifyでプレイリストを聴く
@musicman_nusicman