ピアニストござ、2ndアルバム発売記念インタビュー~こだわりの制作秘話や聴きどころ、今後の目標まで深堀り!

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YouTubeでの生ピアノ配信や作曲家、アレンジャーとしても活躍するピアニストのござが2024年5月1日(水)、2枚目のアルバム『Fantasia』をリリースする。自然を感じる瑞々しいオリジナル作はもちろん、ショパンの大胆な解釈、ジャズのエッセンスを盛り込んだ、ござならではのアレンジなど聴き所が満載。デビュー盤『EnVision』から2年半。成長を続けるござにアルバムの制作秘話や、『ござの日 2024』と題し、2024年5月3日(金・祝)に東京・紀尾井ホール、同年6月7日(金)に大阪・豊中市立文化芸術センター(小ホール)で行うステージへの意気込みなどを聞いた。

――できたてほやほやのアルバムを手にした印象からお話し頂けますか。

今日事務所に届いたばかりで、僕もたったいま手にしたばかりです。いやー、良いですね。ジャケットは全面にピアノが描かれているシンプルなデザインですが、いくつか候補があった中で、最初に目に飛び込んできたのがこれでした。色合いとかも、イメージした通りのものが出来上がって嬉しいです。ブックレットの中には1曲ずつ解説も入っているので、読みながら楽しんでほしいです。

――デビューアルバム『EnVision』では、オリジナルのほか、唱歌やクラシック、Jポップと盛りだくさんの内容でしたね。新作『Fantasia』はどのようなイメージで制作を始められたのでしょうか。

ファーストアルバムは、配信の活動を始めて10年目という節目でもありましたから、10年間の思いを詰め込もうという気持ちがありました。セカンドアルバムについては、この2年間にYouTubeで演奏したもの、アレンジを手がけたものなど成長や変化を感じていただけるものにしたいという思いがありました。

――その成長は1曲目の「リベルタンゴ」でしっかりと感じることができます。

このアレンジはYouTubeでも出していない、アルバムで初めて披露したものです。僕自身はクラシックとジャズを学んできましたが、この2年の間にクラシック、ジャズ、ポップスなどさまざまなバックグラウンドを持つ方と共演してきました。この「リベルタンゴ」という曲は、別のバックグラウンドを持つ奏者同士を繋げてくれる魔法のような曲。多くのアーティストから得たインスピレーションを込めたいと、リズミカルな演奏の中に僕が得意なジャズのアレンジを入れたりしています。フレーズはクラシカルなんだけど情熱的な演奏を心がけました。

――幕開けで圧倒されたのですが、2曲目の「トロイメライ」もまたアイデアが満載で、10指がどう動いているのか。超絶技巧をライブで見たい!と思いました。

この曲は10年ほど前にベースがありました。当時は原曲に味付けをしたという感じでしたが、ライブで弾くことをイメージして、激しいアドリブ部分などを追加しました。ジャズ的なアドリブを入れることを意識しました。

――ライブ感があって、とてもかっこ良い曲になりました。聴き終え時は、立ち上がって拍手をしたいと思うほど揺さぶられました。

レコーディングはライブ感にこだわっていたので、良かったです。スタジオで思いついたアドリブを入れて、それを聴き直してまた別のアドリブを考えてという繰り返し。正解がないので、延々とそれを続けていました。

――大変な制作期間でしたね。どのように進めて行かれたのでしょうか。

レコーディングは4日間のスケジュールで、始まる前はどうなるかなと思っていました。(レコーディング作業は)戦いの連続でしたが、なんとか予定通りに収まりました。おとなしめの曲と情熱的な曲を組み合わせて、初日から3日目までは3曲。最終日に2曲という形で進めました。初日に苦戦するだろうと思っていた「トロイメライ」を演奏して、案の定3時間くらいかかりましたね。

――1曲に3時間ですか!

そうですね。午後からスタジオに入って午後9時くらいまで演奏して。大体1曲に1時間から3時間くらいかかりました。

――最も苦戦されたのが「リベルタンゴ」ですか?

はい。一番苦戦しました。1日目に録ったのですが、ちゃんと仕上がるのか少し不安に感じながらでしたね。なんとか次の日に持ち越さずに満足して録り終えました。1曲の中に色々な展開があるので、納得のテイクが録れるまでに時間がかかるんです。

――どんなところに苦戦されたのでしょうか。

最初に弾いた展開が次に関わってくるので、弾けば弾くほど変化して、アイデアも増えていきますし、一方で改善点も見えてくる。磨きをかけていく中で、まとまりがつかないと感じたりもして……。でも1曲目にハードルが高い曲を持ってきて、それを超えることができたからこそエンジンがかかったというか。高いモチベーションのままレコーディングができたので、良かったと感じています。

――オリジナル曲のことは、後ほどゆっくり伺いますので、先に「スケルツォ第2番」、「エチュードOp.10-2『革命』」、「舟歌」などショパンの楽曲22曲を繋いだ「CHOPIN SYNDROME」について教えてください。アレンジの複雑さ、リズムやテンポの変化のユニークさに圧倒されました。

1枚目のアルバムから2枚目のアルバムを出すまでの間の印象深い出来事として、「ショパン・コンクール」がありました。僕の配信ライブへのリクエストもショパン作品を挙げる方が多かったですし、別の奏者とコラボレーションしたコンサートでもショパンの曲を取り上げる方が多くいまして、弾きたい気持ちがふつふつと沸いたといいますか。でもただ演奏しても面白くないなぁと思いまして、22曲を繋いでみました。僕の得意なことの1つに、前の展開を手がかりにして次の展開を考えていくということがあるので、まずイントロを決めて、そこから次はこの曲、次はこれというように数珠つなぎで考えていきました。

――ショパンはござさんにとって、どんな存在ですか。

楽曲はもちろん好きですし、練習曲をよく弾いています。リクエストされることも多いですし、演奏映えもする曲が多いなと感じています。ピアノ上達のためのトレーニング曲としても、とても重要な楽曲が多いですね。

――YouTubeなどでは、ござさんの指をしっかり捉えた映像もアップされていますが、正確でなめらかな指の動きは圧巻です。エネルギッシュな楽曲の中で、オリジナル曲はどのようなことを大切に制作されたのでしょうか。タイトルに「森」「空」などが入っているので、自然をイメージされているのかなと感じました。

そうですね。自然の中に身を置いているとインスピレーションが沸いてきます。花粉症なのでいまは窓を開けることができないけれど、家で演奏するときにはピアノの後ろ側に窓があるので、外の様子を眺めながら演奏しているんです。演奏を続けている最中に空の陰影を感じたり、流れる雲に目をやったり。かなり影響されているので、空や風などの自然が題材になることが多いですね。

――「森の出来事」はどのようなイメージで制作されましたか。

オリジナル曲は、いろいろな曲を収録する中で一息ついてもらうためのものとして位置づけています。この曲は幻想的な雰囲気を大切にして、アルバムのタイトルとして付けた『Fantasia』の世界を感じてもらいたいなと思っています。森を歩いている途中で小動物との出会いや、森ならではの不気味な空気もありつつ。そういう空気感を感じてほしいです。他の曲もそうですが、イメージを限定しないことで聴き手に想像する楽しさを味わってほしいといいますか。色で言うとパステルカラーのような。わざとぼかした印象にしているので、聴き手がそれぞれの情景や思いなどを重ねながら楽しんでくれたらと。包容力が高い1枚になっていると思います。

――ポップスからは、Official髭男dismの「ミックスナッツ」(※配信には未収録)、そして菅野よう子さんの「Tank!」が収録されました。ヒゲダンは4名、「Tank!」はサクソフォンなどスリリングな駆け引きが楽しい楽曲ですが、1人で演奏されていますね! 驚きです。

YouTube配信でも演奏していた曲ですが、よりクオリティーを上げたいと挑戦しました。僕はアニメソングが好きなのですが、キャッチーな曲が多い中でハイテンポな「ミックスナッツ」は特徴的に聞こえたんです。

――「ミックスナッツ」はどんなところに、刺激を受けましたか。

ウォーキングベースが取り入れられている曲なんですが、これはちょうど僕の得意なスタイルでもあるんです。原曲を大切にしつつ自分なりのアレンジをして、盛り上がれる曲を目指しました。

――ライブ映えすると思います。「Tank!」もそうですね。

「ルパン三世のテーマ」と並んで、インターネット上で演奏している人に人気の曲の1つで、僕も憧れていた一人でした。実は結構前に1分ほどの短いバージョンを作ったことがあったのですが、近年になって「この曲にもう1度向き合おう」と思い立って練り直したんです。サクソフォンのソロパート部分を、ピアノでどう表現するかに苦心しました。原曲は数人で演奏しますが、アルバムでは1人何役もやって1つの演奏として集約するので、大変でしたね。レコーディングにあたっては全体を通しての展開を大切にしながら、細部にまでこだわったので、1音1音聴いても楽しめる曲になりました。

――前作では滝廉太郎の「花」をフィーチャーしましたが、今回は「大きな古時計」を選ばれましたね。

この曲も、最初に編曲をしたのは10年前で、そこからどんどん形を変えていった曲でした。僕の配信を見てくれている人にとっては、BGMとしてもおなじみの曲。演奏をする時は「今の自分を弾く」という気持ちになるので、自分の現在地を知ることができる、とても大切な曲です。

――アレンジや楽曲のアイデアは、どんな時に沸いてくるのでしょう。

僕は演奏中に膨らむことが多いですね。自分の演奏から着想を得るといいますか。自給自足みたいで変な感じですけど。自分が弾いたフレーズに合うものはと、突き詰めていくという感じです。

――アルバムの最後はオリジナル曲「そして鐘が鳴る」で締めくくられます。解説文に「アルバムの終着駅のような曲」とありますね。

この曲はライブでも終盤に演奏することをイメージして作りました。アルバムにとってもそうですし、ライブにおける終着駅でもある。鐘って鳴った後に余韻がありますよね。空気の中に広がる音の余韻を楽しんでもらい、ライブではその心地よさを持って帰ってほしいと思ったので、鐘をモチーフにしようと思いました。

――ござさんの、成長をしっかりと感じられる1枚になったと思います。ござさん自身はどんなところに成長を感じていらっしゃいますか。

デビューをしてこれまで、いろいろなステージを経験させてもらった約3年間でした。いままで生きてきた中で最もステージに立った期間かもしれません。ストリートピアノの経験もあるので、連携だったり求められているものへのアクションだったりは自信がありましたが、もっと周りが見えるようになったなと感じます。ジャズで培った掛け合いについても、掛け合いながらも最後は包み込むような感じというのかな。トータルで見たときに、その空間を包み込むような表現に変わったなと感じています。

――5月3日には、東京・紀尾井ホールで、6月7日には大阪・豊中市立文化芸術センターで『ござの日 2024』と題したコンサートを行います。

最新アルバムに収録した11曲。そしてプラス……は、お楽しみに。口下手なところは変わらないので、そこはそこで楽しんでいたらけたらと思います(笑)。

――今後の目標も教えてください。

自分ができることを一つ一つ。ピアノ人間なので、もっと演奏がうまくなりたいですね。色んな表現を学んで、さらに自分を磨いて次のアルバムに生かしたいと思います。

――めちゃくちゃストイックですね……。リラックスタイムとかはあるのでしょうか?

起きているときは基本的にピアノのことを考えているんです……。ピアノの前にいる時はもちろんですが、移動時間も頭の中で「あそこはこうしたら良いな」とか考え続けています。ピアノを演奏した後は、どうしても興奮してしまって眠れないのですが、「ボサノバを聴くと眠れるよ」と聞いたので、最近はスマートフォンで2時間のタイマーをかけてベッドに入るようにしています。

――体を壊さないように、これからも唯一無二の演奏を楽しみにしています。最後にアルバムを楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

3年間で得たもの、感じたことを詰め込んだアルバムが仕上がりました。妥協のない完成度なので、ぜひ聴いていただきコンサートに遊びに来てください!

取材・文=翡翠 撮影=池上夢貢

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