【オフィシャルインタビュー】ストリートとYouTube、ふたつの世界を魅了するよみぃのピアノ

アーティスト

SPICE

よみぃ

よみぃ

日本の各地でストリートピアノが設置され、多くの人が気軽にピアノへ触れられるようになってきましたが、そのストリートピアノの世界で圧倒的な存在感を示しているのが、YouTuberのよみぃさん。YouTubeメインチャンネル登録者数271万人超、サブチャンネル同56万人超、動画総再生回数8億回超えを誇る、圧巻のトッププレイヤーです。 音楽との出会いや人生初めてのお仕事、あこがれや新たな挑戦まで、幅広いお話をたっぷりうかがいました。


耳コピを武器に、6歳で初仕事!?

―― 音楽との出会い、ピアノを始めたきっかけを教えていただけますか?

4歳のときに、習いごととして近所のピアノ教室に通い始めたのがきっかけです。両親は音楽好きで、それなりに音楽に詳しい人たちではあったんですが「家がピアノ教室です」みたいな、ピアニストを育てる環境ではなかったです。教育の一環、習いごとの一環で始めました。

―― プロフィールにある「最初の仕事は6歳のときにクラスメイトから引き受けた採譜」というのが気になります。どんなきっかけだったのでしょうか。

教室にあった電子オルガンでクラスメイトからリクエストされた曲を弾くという遊びをよくやっていたのですが、「なんでその曲弾けるの?」というところから始まりました。「聴いて覚えて弾いた」と言ってもあまり信じてもらえなくて、「楽譜あったらちょうだいよ」と言われたので「じゃあ70円で」と引き受けました。 2~3日後に譜面を持っていったのですが、実はいまだにその70円は支払われていません(笑)。

―― あれ!?

結局その譜面もあまり信じてもらえなくて、「親に書いてもらったんでしょ」みたいに言われちゃったことを覚えています。まぁ、よくある子ども同士の話です。曲はマリオ系の、みんなが知っているゲーム音楽でした。

―― よみぃさんの武器として“耳コピ”があると思いますが、リトミックやソルフェージュ(西洋音楽の基礎理論や訓練)も習っていたのでしょうか?

ソルフェージュは、音楽教室に通えばみんなやっているくらいのものしか習っていません。ほかに特に変わったこともやっていなくて、どちらかというと小学校のころに見ていたニコニコ動画の影響が大きいです。そのころ、まらしぃさんがすごい速さでゲーム音楽を弾いているのを見て、かっこいい! と思ったんです。

―― まらしぃさんの影響だったのですね。

自分の知っている曲をピアノで弾けるって、単純にすごくかっこいい。小学生の自分にとっては一番わかりやすい衝撃でした。当時のニコニコ動画はピアノで「弾いてみた」動画がとても盛り上がっていた時期で、インパクトが強かったです。2010~2011年くらいのころかな? ドレミファソラシドくらいはピアノ教室のおかげで聴き分けできるようになりましたが、速いメロディーはまったく聴き取ることができなかったので、何百回、何千回と同じ曲を聴きまくってようやく能力が身についてきました。

やっぱりきっかけは“耳コピ”

―― その後、動画投稿を始められたわけですが……

実はニコ生(ニコニコ生放送)出身なんです、僕。

―― そうだったのですか。2011年にYouTuberデビューとおうかがいしているので、ニコニコ動画最盛期にYouTubeとは先見の明があるなと思っていました。

中学生のときでしたが、ふたつ始めたほうが見てくれる人も多いだろうと思って、ニコニコ動画とYouTubeと同時に始めました。 ニコニコ動画はピンポイントでコメント投稿できることもあって、ちょっと殺伐としていたんですよね。少しイマイチなものをアップするとすぐに「下手くそ」とマイナスコメントがつくので……それが嫌でYouTubeに拠点を置きました。

 

―― そして15歳のときにゲーム「太鼓の達人全国大会課題曲公募」にオリジナル曲《D's Adventure Note》が採用され、最年少受賞を記録しています。ピアノを始めてから10年とちょっと期間がありますが、そのあいだも曲を作ったり書き留めたりしていたのでしょうか?

いえ、ちゃんとした作曲はまったくやっていません。それこそ音楽教室の「曲をつくってみましょう」みたいなコーナーで多少やったかな、程度です。仮に作っていたとしても、覚えていないくらいのよくわかんない曲です(笑)。 きちんと作った曲は《D's Adventure Note》が初めてでした。

―― 最初から譜面に書き起こして作曲していったのでしょうか。

いえ、パソコンのDTM(Desk Top Music)で、紙の五線紙は使っていません。でもやっぱり、曲を作れるようになったきっかけは耳コピが大きいかな。当時、流行っていた曲やゲーム音楽を50~100曲くらいはコピーして演奏していたので、その引き出しのおかげで作れたんだと今になって思います。クラシックだけ習っていてもできなかっただろうし、逆に独学だけでも難しかったでしょうね。

―― ちなみに、音楽教室はいつまで続けられていたのでしょうか。これだけ弾けると、音高や音大を勧められたのではないですか?

一応音大受験コースに在籍していて、音大進学も考えていたのですが、そこまで楽器一本で進むと選択肢が狭まってしまうのは少し気になっていました。当時すでにインターネットでの活動をしていたので、クラシックとYouTubeのどちらに主軸を置こうか悩んでいたのもあります。 音楽教室ではツェルニーやバッハなどもひと通りやって、ショパンのエチュードやラヴェルなども勉強していました。なので、「音大あるある」的なクイズがあったらたぶん100点取れると思います(笑)。 いくつか仕事を進めていくうちにだんだん仕事の幅が広がっていって、18~20歳くらいまでに全国各地へ足を運ぶものが増えていきました。そして、20歳過ぎあたりに札幌を出て上京することになります。

―― お仕事が増えていって、このまま音楽でいけると思ったポイントはありますか?

いや、何の根拠もなく当時はいけると思っていました(笑)。 上京して、環境を変えたら上手くいくだろうという安易な心境だったんですが、本人は何も変わっていないのに、ただ場所を変えただけでは上手くいきませんよね。東京で家賃が高くなっただけで、ちょっと窮屈になったりして。いろんな案件を見つけては食いつないで、でもギリギリ家賃が払えなくなりそうなくらいまでいったこともありました。 でも、音楽や楽器で食べていこうと思ったらよくある話なんじゃないでしょうか。

―― その後、ストリートピアノがあちこちで目を引く存在になります。最初に弾いてみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

最初はリスナーさんに「ストリートピアノというものがあるから行ってみてください」と言われたのがきっかけでした。そのときはゲームの曲を弾いたんだったかな。めちゃくちゃ緊張しました。というか、一期一会的に1回しか弾けないので今も緊張して弾いています。でも意外と緊張しているときの方が指が動いたりします。

―― 多くのストリートピアノを弾いてきたよみぃさんですが、これまでに一番「空気が変わったな」と思ったのはどの演奏でしたか?

「日本の曲を海外で弾く」という企画で中国と韓国に行ったときです。 そもそも海外は日本と比べてストリートピアノが日常に溶け込んでいて、誰も足を止めないことも多いんです。よほど目立ったり、みんなが興味を持つような演奏をしないとお客さんも集まらない。 そのときはいつもよりも派手さを意識してボーカロイドの曲を弾きましたが、おかげで空気がガラッと変わったのを感じました。道行くひとたちが「あれっ?」と足を止め始めるんです。

 
 

 

―― では、一番印象的だったピアノ、場面は?

さっぽろ雪まつりのステージ上で弾いた時です。マイナス5度の極寒のなか、雪に囲まれて弾く経験はなかなかないですよ。さすがに指もなかなか動かなくて、でもそれがちょっとおもしろい感覚でした。

ピアノは人生の相棒

―― アレンジに際してこだわっているポイントを教えてください。

誰かの作品を演奏したとき、多くはその原曲を好きな人が聴くと思うので、あまりに原曲からかけ離れたアレンジをするとリスナーには刺さらないことが多いです。メロディーとベースラインは原曲リスペクトを心掛けています。いろんな演奏家が同じく耳コピしてアレンジしているので、その中でどういった差別化をしていくところのバランスが大切かなと考えています。

―― アレンジした曲は譜面に書き留めたりDTMに残しているのでしょうか。

あまりやらないですね。少なくとも最近やった10曲は譜面に起こしていないです。 みなさん、メロディーを覚えるとカラオケでその曲を歌えるようになりますよね。それと同じ感覚で、メロディーとベースだけを覚えたらその曲の構成の8割くらいは頭に入っていることが多いです。残りの2割はアドリブですが、アドリブが「構成の8割」を超えることはないなぁ。

―― 演奏する曲を選ぶ基準はありますか?

やっぱりYouTuberなので、世間で話題になっているものを扱います。音楽も、音楽以外のニュースもトレンドは気になっちゃいますね。なので、逆に「自分としてはとても刺さっていて推したい曲」を弾いてみても、流行っていないものはあまり伝わらなかったりもします。 あとはあまり長くない曲、アップテンポで盛り上がるような曲ですね。クラシックホールで静かに聴くといい曲でも、ストリートピアノだと長く感じてしまうものが多いです。

―― その時々での「最大瞬間風速」みたいなものが多いのでしょうか?

そうですね。そのなかでアレンジやテクニックで差がついて……いるといいなぁ。

―― 動画で投稿されている以外にもこっそりストリートピアノを弾きに行くこともありますか?

ありますよ。本当にふらっと立ち寄って弾いています。サングラスをかけていないこともあります。

―― トレードマークのサングラス無しの状態でも、よみぃさんだとばれちゃったことはありますか?

というか、サングラスをかけて弾くと、むしろ僕じゃなくてもよみぃだと思われることは結構あるらしいですね(笑)。 そもそもサングラスをかけ始めたきっかけが、高校生のときに学校に動画投稿がばれてしまって、ちょっと顔を隠す的な意味合いでした。それがいつのまにかトレードマークになっています。

―― 影響を受けたピアニストはいますか?

やっぱりインターネットの弾いてみた系の方たちですね。先ほども名前が出てきましたし、わりと公言しているのですがまらしぃさんの影響は大きいです。彼がいなかったら僕はいまピアノを弾いていなかったと思います。

―― なんだかとても納得です。よみぃさんの演奏からは「まらしぃイズム」のようなものを感じます。

まらしぃさんご本人とセッションしたときに、息やテンポ感がとても合ったんです。彼のピアノを聴いて育ったからですよね。あまりにも「合う」のでおもしろかったです。 まらしぃさんがピアノではない楽器を弾いていたとしたら、その楽器をやっていたかもしれないくらいには影響を受けています。

―― よみぃさんにとって、ピアノや音楽とはどういった存在ですか?

言語の壁を越えられるのがすばらしいですよね。まったく言語が異なる海外で弾いても、音楽の良さを一緒に分かり合えることがたくさんあるので、それが最大の魅力かな。 あとは、20年以上弾き続けているので生活になじんでいて、ピアノは日常の一部というか、人生の相棒的な存在になっています。良いことも悪いこともありますが、今後もずっと弾き続けると思います。

YouTuber × フルオーケストラのレアな公演

よみぃ

よみぃ

―― ここからは2024年4月23日(火)に開催される「Brand-New-Classics よみぃ×神奈川フィル」公演についておうかがいします。神奈川フィルハーモニー管弦楽団とはちょうど1年ほど前の2023年3月にも共演されていますね。

オーケストラの曲を作曲してみたいと考えていたときに企画のお話をくださったのが、神奈川フィルハーモニー管弦楽団さんでした。「僕が書いた曲をオーケストラで演奏してください」とお願いしましたが、「僕が書いた曲をプロのアレンジャーさんに託したら、はたして名曲になるのか?」の検証でもありました。

―― 当日はどんなようすでしたか?

「オーケストラのコンサートに出させていただく」形だったので、当然オーケストラファンの方がお客さんとしてたくさんいらっしゃっていました。そこに「いちYouTuberであるよみぃがピアノを弾きます」というものだったので、不思議な空気感ではありましたし、全体としてはふだんの僕のファン層とは少し違っていました。 公演アンケートではクラシックファンの男性から「非常に満足した」とコメントがあったそうで、とてもうれしかったです。

―― 神奈川フィルと初めて合わせをしたときの感想を教えてください。

フルオーケストラとの合わせが初めてだったのですが、本番の数日前に1~2回合わせました。集合したと思ったらすぐに始まって、あっという間に次々とものごとが進められていくので、テンポ感の速さにおどろきました。

―― 今回も《D's Adventure Note》が演奏されますね。

そうですね。前回は緊張もあったので、今回はより自由に演奏できるかなと思います。僕も今回の公演に期待していますし、聴きに来てくださる方も期待していてください!

―― プログラムにある《ネットで流行った曲メドレー》がとても気になります。

ただいま絶賛制作中です(※インタビュー時点)。僕がオーケストラで聴きたい曲をピックアップして、それをメドレーにしてみようと10曲前後選びました。それぞれの曲のおいしいところ取りをしています。

―― ではいわゆる、本当に「THE ネットで流行った曲」なのですか?

そうですね。ここ10年くらいに流行った曲が入っています。「あぁこの曲あったね!」と思ってもらえるんじゃないかな。インターネットをずっと見ていた方は全曲わかるかと思います。

―― 本公演のための新作もあるとのことですね。聴きどころはどんな部分ですか?

これについては当日のお楽しみということで(笑)。

―― ますます気になってしまいますね。今回のコンサートの、よみぃさん的お楽しみポイントを教えてください。

クラシックの曲も前半に演奏されますが、ふだんオーケストラではなかなか演奏しない曲も多いので、オーケストラのファンの方には別のジャンルの異色感を楽しんでもらえたらと思います。逆にオーケストラをあまり聴いたことのない方には、この公演をきっかけに、響きの豊かさや大編成の楽しさを味わっていただきたいです。

―― ありがとうございました。最後にコンサートを楽しみにしているファン、ららら♪クラブの読者へメッセージをお願いします。

今回の公演はいままでにありそうでなかった、“オーケストラとYouTuberの共演”です。ジャンルを問わずさまざまな有名曲が演奏されるなかなかレアな公演なので、ぜひ聴きに来ていただきたいです。 そして、この公演で初めてよみぃを知った方は、ぜひ僕のYouTubeチャンネルにも遊びに来てくださいね。チャンネル登録・高評価もお願いします!

Brand-New-Classics よみぃ×神奈川フィル

Brand-New-Classics よみぃ×神奈川フィル

取材・文=浅井彩

関連タグ

関連タグはありません

オススメ