中国への音楽配信、TuneCoreとCD Babyが中国テンセント・ミュージックと提携。音楽ディストリビューションが変える音楽家の収益モデル

コラム All Digital Music

インディーズレーベルやインディペンデント・アーティストに世界各地のストリーミングやダウンロードストアへ作品のディストリビューションサービスを提供する「TuneCore」が、中国最大のストリーミングサービスの「テンセント・ミュージック・エンタテインメント」(TME)と提携したことを発表した。同じタイミングで、インディペンデントアーティスト向けのディストリビューションサービス「CD Baby」も、中国へのディストリビューションを開始することを発表した。

DIYアプローチの代表的ディストリビューションサービスであるTuneCoreとCD Babyを利用するアーティストやレーベルは、TMEが運営する音楽ストリーミングへの楽曲配信が直接的に可能となり、中国の音楽市場へのディストリビューションにかかる仲介業者や手間を減らすことができるとされる。対象となるプラットフォームはTMEが運営する「QQ Music」「KuGou」「Kuwo」で、音楽ストリーミングやデジタルダウンロードでの配信が実現する。

テンセント・ミュージック

中国の音楽市場は、世界で売上規模が第7位になるほど急成長しており、ストリーミングの成長を機にビジネスチャンスを拡げる海外のレコード会社や音楽出版が増加している。

その中国でもTMEはプラットフォームに積極的な投資を進めている。

TMEは月間アクティブユーザー数が8億人以上となり、中国のオーディオストリーミング市場で84%のシェアを占めるほど大規模なユーザー獲得を行っている。

QQ Musicは月間アクティブユーザーが4億人以上を抱えている。フリーユーザーと有料ユーザー向けに、ストリーミングや動画コンテンツ、デジタルダウンロードなどを提供している。近年では、若者層ユーザー向けに新人アーティストのプロモーションも強化し始めた。また、自社によるオリジナルコンテンツの開発や、動画番組やショートフォーム動画などとの連携を図り、ユーザーと高いエンゲージメントを維持する仕組みを数多く開発している。

テンセント・ミュージック

しかし中国の音楽市場は、世界のその他の地域と同様に、成長フェーズにある。特に欧米の音楽業界が注視するのは、サブスクリプションの利用促進という大きな課題で、膨大なフリーユーザーに対する有料ユーザー数のバランスである。2019年第2四半期(4-6月期)にTMEは有料ユーザーを新たに260万人獲得し3100万人まで拡大させた。TMEやテンセントはサブスクリプション・モデルだけが収益源ではない。一方で、サブスクリプションの再生からのロイヤリティ料が大きな収益源となっている欧米の音楽業界にしてみれば、TMEもサブスクリプションでの収益率を高めてほしいとするのは自然の流れだ。

TMEはまた今年から、有料ユーザーに限定して海外アーティストのダウンロードや配信を行う「ペイ・フォー・ストリーミング戦略」を実験し始めている。TMEは有料ユーザーに対してアクセスできるコンテンツだけでなく、機能やサービス内容も将来的には変えると述べている。このような取り組みを通じてユーザーのエンゲージメントを高め、フリーユーザーから有料ユーザーへのコンバージョンという部分で成長を目指す。

また今回の発表では、中国へのディストリビューションをどのように行うか、また楽曲のプロモーションをどのように実現するかについて、TuneCoreもCD Babyも明らかにしていないため、実際に中国へ配信する際には確認が必要だろう。

さらに、中国のストリーミングからデータを取得したり、売上分配を確保するという部分もクリアにした方が良いはずだ。特に中国のストリーミングサービスからは再生データやリスナーデータの取得が難しいため、配信されても全く再生に繋がらない事態の改善策が打ちにくいという課題も見えてくるはずだ。

音楽ディストリビューションサービスの状況も2019年に入り、業界再編が続いている。CD Babyは3月、親会社のAVL Digital Groupがインディーズ音楽権利管理会社Downtown Musicによって2億ドルで買収された。Downtown Musicは音楽出版会社の大手Downtown Music Publishingを運営する。その他にはロイヤリティ徴収プラットフォームSongtrustも運用しており、SongtrustはDowntown MusicやCD Baby、ディストリビューション大手のThe Orchardなどが導入している。

一方DIYアプローチを続けるTuneCoreは、フランスの音楽ディストリビューション・レーベルサービスのBelieve Digital傘下で運営されており、現在ではTuneCoreは25万組以上のアーティストの作品を世界各地で配信するほど、多岐に渡るディストリビューション機能や音楽出版、アーティストサービスを展開している。

Marshmelloやビリー・アイリッシュ、チャンス・ザ・ラッパーなどがTuneCoreを使って楽曲を配信するなど、著名アーティストもTuneCoreユーザーのケースは後を絶たない。

CD BabyやTuneCoreは世界各地に事業を拡大するだけでなく、ビジネス領域の拡大も図っている。最近注目を集めているビジネスの一つは、映画やドラマ、テレビCM、ビデオゲームなどにCD BabyやTuneCoreの楽曲やアーティストを展開する「シンクロ・ライセンス」事業だ。

CD Babyでは今までもシンクロで実績を作ってきたが、今年に入ってもその勢いは続き、映画『名探偵ピカチュウ』や、Netflixの『ストレンジャー・シングス』など注目作品に楽曲が使われた他、大手企業のCMに楽曲が起用されている。

NetflixやAmazon Primeなどサブスクリプションの動画サービスや、拡大するゲーム産業やYouTubeオリジナルコンテンツなどを背景に、こうしたテレビ番組や映画、CM、YouTube動画への楽曲ライセンス提供は、ニッチなジャンルのアーティストやインディーズアーティストにとってストリーミングからの収入に加えて新たな収益源でもあり、自身のブランド向上に繋がっていくため、さらなる音楽活動を切り開く。

全体的な収益規模で見れば、音楽ストリーミングからの収益額は、シンクロからの収益を遥かに凌駕しているが、インディーズアーティスト個人の単位になれば、大きな収益源となっていくため、ライセンス提供に対する注目度や、メディアや代理店などにアプローチしピッチする手法への注目度はさらに高まっている。

CD BabyやTuneCoreは今後も世界各地のサービスと定形し、音楽をプラットフォームに配信するディストリビューション機能という重要な役割を担っていく。しかし、それだけでなく、メディアや代理店に対してピッチしたりコミュニケーションして、ライセンス管理を行う専門のシンクロ・ライセンスチームが存在しアーティストの収益拡大に寄与していることも、音楽ディストリビューターとしての役割に付加価値を与えている。

jaykogami
記事提供All Digital Music

Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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