マドンナ新作の実売枚数を米ビルボード誌が検証

コラム 高橋裕二の洋楽天国

先週業界誌ビルボードが発表したアルバム・チャート。マドンナのニュー・アルバム「MDNA」が初登場1位になったが、ビルボード誌自体がすぐさま検証し記事を書いた。レコード実売調査会社サウンドスキャンからの実売枚数データは359,000枚。2位のライオネル・リッチー「タスキーギ」の199,000枚に大差を付けた。

しかし本当に359,000枚が売れた訳ではない。米国在住者はアメリカで行われるマドンナのコンサート・チケットをオンライン上で購入すると自動的にiTunesにアクセス出来、無料でアルバム「MDNA」をダウンロードすることが出来る。実物のCDがただで貰いたかったらコンサート・チケットを買った「チケットマスター」に住所をメールすれば送ってくれる。コンサート・チケットのおまけで「MDNA」がもらえる。レコード会社や音楽事務所は、無料とかタダと言うのは間違っていると主張。あくまでもコンサート・チケットとアルバムMDNA」を「バンドル(Bundle)」して発売したものだと強言した。

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TVゲームの世界では「バンドル」はよくある手法だ。ひとつの製品に他の製品を付属させるという意味。任天堂が新しいゲーム機を発売する時に「マリオ」のソフトを「バンドル」する。消費者は人気の「マリオ」が付いていて、ゲーム機単体と値段が変わらないので大きな購買動機になる。

ビルボード誌はバンドル(おまけ)によるマドンナの「MDNA」を、実売調査会社サウンドスキャンのデータから185,000枚以内とし、359,000枚から例えば180,000枚を引くと消費者が有料で買ったアルバム枚数は179,000枚だと指摘、そうなるとライオネル・リッチーの「タスキーギ」の199,000枚がビルボード・アルバム・チャートの1位になっただろうと書いた。チャートを作ったビルボード誌自身が言うのもなんか変だが。

ビルボード誌によると、過去のマドンナのオリジナル・スタジオ・アルバムの発売1週目のセールスは以下だ。

1998年 「レイ・オブ・ライト」 371,000枚
2000年 「ミュージック」 420,000枚
2003年 「アメリカン・ライフ」 240,000枚
2005年 「コンフェッションズ・オン・ア・ダンス・フロアー」 350,000枚
2008年 「ハード・キャンディー」 280,000枚

多少の高低差はあれ、オリジナル・アルバムが発売1週間でこれだけのセールスというのは大したものである。

53歳のマドンナ。ニュー・アルバムの宣伝の為に今年のスーパーボウルのハーフタイム・ショーに出演、試合よりも高い視聴率を稼いだ。しかしシングルはヒットしない。ファースト・シングル「ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴィン」はビルボード・シングル・チャートの10位に終わった。すぐさまセカンド・シングル「ガール・ゴーン・ワイルド」を発売したが、アメリカのFMラジオ局は全く反応しなかった。サード・シングル「アイ・ファックド・アップ」はラジオ局に見向きもされなかった。若者が聴くFMラジオ局は、もうマドンナでリスナーを惹きつける事は無理だと、選曲するディレクター達は分かっている。

先週木曜日(4月5日)、ラジオ業界誌ヒッツが実売調査会社サウンドスキャンの速報を報じた。それによると今週のビルボード・アルバム・チャートの基データになるサウンドスキャンの1位はニッキー・ミナージュのニュー・アルバムで、そのあとにアデルやライオネル・リッチー、ワン・ディレクションや映画「ハンガー・ゲーム」のサウンド・トラック盤が続く。2週目のマドンナの「MDNA」は実売がわずかに40,000枚から45,00枚の範囲内で、ベスト10内に留まれるかどうかは難しそうだという。

昨年(2011年)12月、マドンナは経済誌フォーブスが発表したアメリカの女性ミュージシャンの稼ぐ金額ランキングの10位にも入らなかった。しかし間もなく「MDNA・ワールド・ツアー」がスタートする。キック・オフは5月29日イスラエル最大の都市テルアビブ。4万人収容のサッカー競技場「ラマト・ガン・スタジアム」からツアーがスタートする。同競技場では31日の追加公演も発表になった。マドンナはイタリア系だがアメリカのメディアは圧倒的にユダヤ系。ユダヤ人最大の都市テルアビブでのマドンナ公演は(多分)恣意的に、そして大変好意的にアメリカのTVニュース番組や大新聞で報道されるだろう。その結果アルバムが売れるかどうかは定かではないが。だがチケットの売り上げだけで間違いなく今年の「稼ぐ金額ランキング」のベスト10にはランク・インするはずだ。

レコードが売れなくてもいい。話題になって宣伝になればいい。マドンナの場合、マドンナの全部が商売になればいい。マドンナが興行最大手のライブ・ネイションと交わした「360度契約」。ライブ・ネイションの会長はイーグルスのマネージャーでもあるアーヴィング・エイゾフ。レコードをバンドルしたコンサート・チケット販売会社「チケットマスター」の最高経営責任者でもある。

結論からすると今回の事件、デジタル・ダウンロードという手法がなかったら100%ありえなかったという出来事であった。

記事提供元:Musicman オススメBlog【高橋裕二の洋楽天国】

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