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とてつもない強度の新作を携えた、GRAPEVINE『TOUR 2025』ファイナルの熱狂と興奮

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撮影=fujii taku

ニューアルバム『あのみちから遠くはなれて』を携え、6月21日に神戸を皮切りにスタートしたGRAPEVINEのツアーが、9月23日(火祝)大阪城音楽堂でファイナルを迎えた。「夏至に始まって秋分の日に終わる美しい締め」とMCで田中和将(Vo.Gt)が話したが、観測史上もっとも暑かった夏の3か月間にわたったツアー。その最終日にすごいものを見てしまった。見たというか浴びた。食らってしまった。CRAFTROCK BREWINGとタッグを組み、GRAPEVINEの3人も仕込みに加わったクラフトビール「AZS PILSNER(アザスピルスナー)」の先行開栓もあり、ぱらりと降った雨も開演前には止み、秋の風が頬をなでる申し分のないロケーションが用意された野外会場でのファイナル。約2時間、会場にいた私たちはとんでもなく、それはもう途轍もなくすごいライブを全身で味わうことになった。

GRAPEVINE『TOUR 2025』2025.9.23(TUE)大阪・大阪城音楽堂

会場に入って真っ先に目が止まったのは、入り口近くに並んだテントとそこに連なる大行列。テントではこの日初開栓のAZS PILSNERを販売するテントと、隣は心斎橋のライブハウスJANUSスタッフによるJANUS飲料所。こちらは芋焼酎「天使”ちゃん”の誘惑」(正式名称は「天使の誘惑」)、「”ど”阿呆」(前述同「阿呆」)などが並んでいて、両テントとも売る人も買う人も今日がよき日であるゆえか、はじけるような笑顔なのがいい。「天使ちゃん」の歌詞から名をとったAZS PILSNERを飲んだ人によれば、香りもよくふわっと軽い飲み口ながらしっかりとした飲みごたえがあるそう。大阪ではライブ翌日の24日(水)から販売され、東京都内や仙台、京都のCRAFTROCK BREWING系列店舗でも26日(金)から販売される。

そのAZS PILSNERを求める行列が絶えない中、開演時刻を過ぎたところで亀井亨(Dr)を先頭に高野勲(Key)、金戸覚(Ba)、西川弘剛(Gt)、田中和将がステージに登場。大きな拍手で迎えられる中、「はいこんにちはー!」という田中の第一声に客席のテンションがグッと上がる。「ビールも売ってますんで」という呼びかけには続々とカップを持つ手が挙がった。1曲目の「わすれもの」を歌う頃はまだ空は昼間の名残のある明るさで、晴れやかなストリングスも祝祭感を漂わせていて、歌詞の<のばした手は髪にふれて>に差し掛かるところで田中が客席に手を差しのべたり、<〜雪が肩で光ってた>で肩をはらう仕草をしたり、クラップをしたり。すべてが作用しあい、なんて素晴らしいファイナルなんだと1曲目にしてじんわりと込み上げてくるものがあった。

「Suffer the child」ではギターで「スパイ大作戦」(世代によっては『ミッション・インポッシブル』な人も。どっちも正解)、「ビバリーヒルズコップ」のテーマ曲を大胆に引用。この日は他にも「1977」を始める前アコギに持ち替えたところで上田正樹の「悲しい色やね」を朗々と歌い上げたり、終盤の鬼気迫りまくる「カラヴィンカ」の曲中、田中がスタイロフォンで円広志の「ハートスランプ二人ぼっち」(これに続きアンコールで円広志の「夢想花」がやたら登場しまくる)と浪花のモーツァルト、キダタローの「プロポーズ大作戦」を演奏するなど大盤振る舞い。「ある世代以上にしかわからん」と笑ったが、客席の反応は親密で上々だ。

「夏至の日に始まり、秋分の日に終わる美しい締めを迎えようとしています」といい感じの挨拶を交えたMCに拍手が涌くと、「先ほどまで雨もぱらついてましたが、見てください」と空を指す。澄んだ秋空にはトンボも飛んでいて、「これが晴れバンドのパワーです」と笑顔。このMCに限らず、田中の言葉の端々には終始笑みが含まれていたように感じた。今日までのツアーが充実していたことを物語ってもいるし、お客に媚を売ることはしないバンドだからこそ、今この瞬間、今日のライブを心から楽しんでいる喜びが溢れ出ているのだと受け取った。田中に限らず、開演早々おもむろにステージ前方へ出てきた西川も、長身を心地よさそうに揺らして演奏する金戸も、亀井も高野も、5人全員がそんな気配を放っていたように思う。

冒頭の「わすれもの」「どあほう」をはじめ、最新アルバム『あのみちから遠くはなれて』のキャラが立った or クセの強い曲たちが、これまでの楽曲とどう絡み、混ざって化学反応を起こすのか。今ツアーの楽しみはそれに尽きる。

昨夏、この日と同じ場所で「NINJA POP CITY」が披露された時は、ベースとドラムのみのイントロ部分で田中が手裏剣を投げるアクションをするなどしていたが、今ツアーではギターもキーボードも混ざるアレンジが加わり曲が進化しているのを目の当たりに。続く「なしくずしの愛」「Silverado」は田中が恐ろしいほどの声量で濁りのない太い声を鳴り響かせる。たびたびロングトーンを聴かせていたが、一貫して揺るぎない強さをキープしていた。

ライブ中盤の「ドスとF」は新作の中でも極めて舌鋒鋭い曲だが、ライブとなるとファンクなのかニューウェーブなのかエクスペリメンタルなのか、そのどれでもないのかお手上げだ。たしかなのは、アルバムで聴いた時の衝撃がソフトに感じられるほどにライブではスリリングで、間違いなくGRAPEVINEの新しさを突きつけられる。こんな曲が続いては心臓がもたないというのは誇張ではなく、続く「こぼれる」のクールネスと歪んだギターが正気を取り戻させてくれる。その「こぼれる」の余韻が残る中、ステージに現れた黒服+蝶ネクタイ姿のスタッフが差し出すジュラルミンケースから田中がうやうやしくブルースハープを取り出す。「天使ちゃん」だ。

この時の歓声の大きさは、奇抜なトーキングブルース+美メロディーの「天使ちゃん」が、GRAPEVINEが一つ殻を破ったこの曲が、どれだけ聴き手に支持されているかを表してもいる。続く「追憶のビュイック」が聞こえ始めた頃はあたりは暮れかかっていて、ステージを取り囲む空の色や木々、吹く風の自然の演出も相まってこの曲の持つ広々とした世界に聴き手を連れ出してくれる。思い起こすのは映画『ギルバート・グレイプ』のラスト、何台ものトレーラーが連なり行く、どこまで続くのかわからない長い長い道。アルバムでは2分ほどだったアウトロはこの日はもう少し長く4分ぐらい聴けた。もっと長くてもいいくらいだ。

そして、「大阪城のアモーレたちよ」「いやさ上方のアモーレたちよ」といつもよりアモーレ大奮発の「実はもう熟れ」のチャラさが可愛いく感じるほどに、続く「カラヴィンカ」「猫行灯」の非情さは凄まじかった。イントロで次の曲がわかったお客さんたちがざわめき出した「カラヴィンカ」は粘りけをともない引きずるようなギターが図太く、怪しげなエフェクトもふんだんに。この曲の途中に先ほどの田中のスタイロフォン遊びが挟まれるのだが、それがあることで呼吸がラクにできたといってもいいぐらい、巨大な狼煙を上げるような演奏のダイナミズムに息をするのも忘れそうになる。「猫行灯」は妖(あやかし)と幻想の入り乱れる音像がえもいわれぬサイケデリックな世界を展開。田中のボーカルは疲れを知らないどころかここにきても滑らかで強い。

「会いに行く」で現実に戻りクールダウンしたところへ、ラストの「my love,my guys」は間違いなくこの日何度目かにして最大のクライマックス。何度も拳を突き上げる田中に続くように、客席も拳で埋まってゆく。「猫行灯」でもトランシーな音の渦に巻き込まれてしまいそうだったけれど、ある意味オーセンティックなロックの「my love,my guys」は、ただただ曲の持つ熱量に圧倒される。ステージ向かって左に西川が、右に田中がいて2人ともが前方にせり出て、火を噴くようなギターを鳴らし続ける。野外でよかったとさえ思った。左右天地を囲まれたライブハウスやホールでこの終盤の流れを浴びたら、ちゃんと立っていられただろうか。それほどに強靭なグルーブを生み出していた。デビューから28年、折に触れてGRAPEVINEのライブを見てきたけれど、膝を折りステージに座り込んでギターを弾く田中を見たのはこの日が初めてだ。ツアーで体に染み付いた熱狂と興奮と、演奏の深度、他にも5人の中にみなぎっているもの全てが結実し、極みに達したといっても差し支えないこの日のステージ。結成から30年を経てこんなライブをやれてしまうバンドは、世界を見渡してもそうそう出会えないのではないだろうか。

リラックスした面持ちで登場したアンコールでは、「風待ち」「疾走」「真昼の子供たち」を披露。すでにアナウンスされている2026年1月に東名阪で開催する対バンライブ『SOMETHING SPECIAL』を紹介した際に田中は、1月15日(木)にLOSTAGEを迎えて行う大阪公演を「その日私の誕生日です。みなさん盛大に集まってください!」と告知。照明がステージを煌々と照らす中、幕引きは清々しく晴れやか。「また帰ってくるぜ大阪!アリガットさん!」の言葉を最後に5人がステージを後にした。終演後の場内アナウンスが「どなたさまもお忘れもののないよう、そして今日のことも忘れないよう、十分にご注意のうえお帰りください」と言ってくれたが、この夜のことはそう簡単には忘れない。

取材・文=梶原有紀子 撮影=fujii taku

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