クリープハイプ 撮影=渡邉一生
『RUSH BALL 2025』クリープハイプ
「やっと、このステージ立てました」開口一番、尾崎世界観(Vo.Gt)は言った。2023年は会場まで来ていたのに雷雨で舞台に上がれなかったこと、2024年は会場にすら来ることができず台風で中止になったこと。だからこそ、むちゃくちゃ、この日を待っていたことを訴えかける。
「死ぬほど溜まっているから、全部ぶちまけたいと思います」歌い出しから凄い歓声が起きる1曲目「HE IS MINE」。曲間での素敵なお約束<セックスしよう!>という観客からのコール。死ぬほど溜まっていて全部ぶちまけたいのだから、そう一筋縄にいくわけがない。一発目<セックスしよう!>に「今の2023年の分」と返す尾崎。なるほど……。二発目の<セックスしよう!>に「ちっちゃいな」と言いながらも「やっと追いついた今年に」と返す尾崎。そして、三発目<セックスしよう!>。死ぬほど溜まっていた三発全部がぶちまけられた。
続く「社会の窓と同じ構成」でも尾崎は両手で「来い!」の手振りをして観客を煽る。決まりきった煽りではなくて、本気で煽るというか挑発するというか鼓舞するというか……、こちらは観て聴いているだけなのに異様にたぎる。「大好きやで大阪」という何気ない言葉も、単なるリップサービスではなくて本気で大好きと思ってくれていると嬉しくなってしまう。何をしても絵になる男である。
気が付くと5曲目くらいだが、いわゆるMCパートがない。曲中で演奏を止めて、尾崎は「やりたいことを詰め込んでるので無愛想に見えるけど8分くらいMCを聞いたと思って」と話す。誰も無愛想だなんて思ってないし、充分に愛されていることは伝わっている。
「暑かったな。よく頑張った」このひとことだけでも不愛想でも何でも無くて、充分に愛されていると思えるだろう。「ラブホテル」が終わり、ラストナンバー直前で話し出す尾崎。長くバンドをやり続けてきたけど、簡単に誰かの思い出になってたまるかという本音を、それこそぶちまけてくれる。車から流れてきて懐かしい音楽ではなく、その場でできれば聴いて欲しいという本音を包み隠さず明かす。
「自分だけの思い出を焼きつけて帰って下さい」そう言ってからのラストナンバー「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」は、すっかり夜も更けて涼しくなってきているのに、尋常じゃない熱で朦朧としてしまうほど焼きつけられた……。これは夏のせいでも何でもなく、クリープハイプのせい、そして尾崎世界観のせいである。こんな幸せな「せい」はないだろう。最後の最後までドラムの音が脳内で鳴り響いている。死ぬほど溜まっていた思いをぶちまけられた凄まじい夏の夜……。
取材・文=鈴木淳史 撮影=渡邉一生
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