Nothing’s Carved In Stone
Nothing’s Carved In Stone “Hand In Hand Tour 2025”
2025.7.19 Zepp Haneda(TOKYO)
いずれもロックシーン屈指の技巧派であり、歌と演奏で全て語り切るストロングスタイルのライブでスペクタクルな瞬間を生み出していくバンドだ。手数の多さや複雑な展開、かといってポップスとしての効力を損なわない点など、共通する要素はかなりあるけれど、似ているのか?と問われれば全くそんなことはない。というか、周りを見渡しても誰にも似ていない個性的で孤高の存在である。Nothing’s Carved In Stoneがおよそ2年ぶりに開催した対バンツアー『Hand In Hand Tour』の最終公演に迎えたのは、UNISON SQUARE GARDEN。2025年7月19日(土)の19時ちょうど、興奮必至の夜が始まった。
UNISON SQUARE GARDEN
いつものドリーミーなアンビエント調のSEで登場したUNISON SQUARE GARDENは、鈴木貴雄(Dr)の叩き出す雷鳴のようなビートを合図にいきなり激烈セッションを展開。バンド名だけを告げる斎藤宏介(Vo/Gt)の挨拶を合図に「fake town baby」が始まった。当たり前のように飛び出す変拍子にてんこもりのフィルと、各要素は複雑極まりないのだが、骨格そのものは実はシンプル。そしてキャッチーだ。歌い出しから大歓声が起こった「ガリレオのショーケース」は比較的手数の少ないビートを軸とする代わりに、アクティヴなベースラインで動きをつけていく。もちろん、弾いているのが田淵智也(Ba)だから、回転したりステップを踏んだりと視覚的なアクションもド派手である。ギターソロでは斎藤もステージ前端まで出ていってキレキレの演奏を見せつける。
斎藤宏介(Vo/Gt)
冒頭の歌詞の通り<高らか>に歌い出した「Invisible Sensation」では、強靭なダンスビートとスウィートなメロディラインの合わせ技で場内を揺らしに揺らす。こういった初見にも優しい(?)アプローチをしてきたかと思えば、何回聴いても構造を把握しきれないほど複雑怪奇な楽曲も当たり前のように飛び出すのがUNISON SQUARE GARDENのライブ。その極致は鈴木がヘッドフォンを装着したのを合図に投下された「カオスが極まる」だろう。轟音シーケンスを響かせながらのヘヴィかつオルタナティヴなサウンドで、フロアは瞬く間に混沌の渦へと叩き落とされる。理解は追いつかなくても肌で感じられる凄味、それによって味わう痺れるような興奮、彼らのライブで味わう一番の醍醐味はそこだ。それを持ち時間いっぱいまで持続させきる要因である、息つく間もなく次々に楽曲を並べていくライブ運びも唯一無二。
鈴木貴雄(Dr)
田淵智也(Ba)
「傍若のカリスマ」の怒涛の演奏から一転して、曲が始まった瞬間に会場全体が飛び跳ねて応えた「シュガーソングとビターステップ」。彼らのポップサイドを代表する名曲を遊び心も交えながらの演奏で届けたあと、ラストはここへ来て一段とポップスとしての強度が高い「春が来てぼくら」。どれだけ演奏がラウドでも厚みがあっても決して埋もれることのない、まるで全く別のチャンネルから出力されているかのような斎藤の涼やかなハイトーンボイスが輝度の高いメロディをなぞり、会場全体を華やいだ空気で包んだのだった。
UNISON SQUARE GARDEN
お次はNothing’s Carved In Stoneの番である。実力を認め合う盟友たちと全国で繰り広げてきた熱戦を締めくくる日、しかも直前にあれだけ強烈なライブをやられたとなれば、気合が乗らないはずがない。1曲目は「Freedom」。低重心で芯の太いサウンドとそのど真ん中を真っ直ぐ抜けてくる村松拓(Vo/Gt)の歌声には、UNISON SQUARE GARDENのシャープなそれとはまた違った形で、磨き抜き研ぎ澄まされた音の美学が宿っている。「You’re in Motion」ではイントロから盛大なオイコールを誘発し、生形真一(Gt)のメタリックな高速ソロでもオーディエンスの頭のネジを何本か吹っ飛ばす。早くもフロアのあちこちで人が人の上を飛んでいく光景が見られた「Spirit Inspiration」では、生形と日向秀和(Ba)が明滅するスポットを浴びながらソロの応酬。ファンにはお馴染みのシーンだけれど、やはりどうしたってブチ上がらずにはいられない。
Nothing’s Carved In Stone
「やっぱユニゾン、超かっこいいよね。3ピースバンドがこの世で一番かっこいい説を提唱してるんで、俺は(笑)。でも4人も悪くないと思ってるんで。魂込めていきます。ついてきてください」
対バン相手に賛辞を送りつつ、不敵な自身も滲ませた村松の挨拶を挟み、「Isolation」から再びラッシュ開始。ギター2本が呼吸を合わせての細かな刻みに、大喜多崇規(Dr)の叩く加速感を煽るビートが加わって始まったのは、「(as if it’s)A Warning」。跳ねたニュアンスとノンストップな疾走感、基本はループに徹するベースにはエレクトロミュージックの気配も感じるが、こういう曲でもあくまで人力中心でやってくれるのがNothing’s Carved In Stone。筆者含め、このタイプの曲でしか得られない栄養を求めている人、いると思う。ダンサブルな快楽という面で言えば「Milestone」も同様だが、こちらは生き物のように蠢くベースラインを筆頭にどこか有機的で肉体的なサウンドだ。同時にヘヴィロックの凶暴性まで持ち合わせているから、音の立体感がとにかくすさまじい。
村松拓(Vo/Gt)
大喜多崇規(Dr)
村松のギター始まりの「Challengers」からライブはクライマックスへと突入。低音をしっかり効かせたスケールの大きなサウンドにキレキレの演奏、ところどころラフな崩しも入れつつのハイテンションな歌唱でも加速感をもたらし、フロアの熱はさらに上がる。続け様に繰り出した「Out of Control」では筆者のいた2階席まで震撼するほどバッチバチに火花を散らす演奏を継続しつつ、大喜多と日向が戯れあっていたり、村松が満面の笑みを見せていたり。曲だけ聴けばとことんアグレッシヴでストイックなところに、確かに宿った感情や人間味もまたNothing’s Carved In Stoneの魅力だ。「最高。みんなの笑顔が世界で一番大好きです」(村松)。そんな言葉とともに最後に届けたのは、現時点で最新のミドルバラード「May」だった。音と音との隙間や、哀愁を帯びた音色で描き出す詩情。いわゆるライブチューンではない方向の、大人な魅力をじっくりと堪能しながらのフィニッシュとなった。
生形真一(Gt)
日向秀和(Ba)
アンコールではまず大喜多が登場して、着ていたTシャツ(ユニゾンのバンドT)をオーディエンスにアピール。ドラムセットに戻ろうとしたところへ村松と日向がハグしにいくという微笑ましい光景に、フロアの至る所から「オニィ!」の声が飛び、それを受けて大喜多がマイクを持つという珍しい一幕も。「東京最高だ! ユニゾンも最高だ!!」との叫びには全員がもれなく心の中で頷いたはずだ。そこから披露されたのは、バンドとリスナーとの絆を象徴する曲であり続ける「きらめきの花」、そして「Dear Future」。真っ白い光に照らされたエンディングは、刺激とリスペクトに満ちたひとつのツアーの終わりの時であると同時に、ここからまた4人が未知なる未来へと向け踏み出した力強い一歩目でもあった。
取材・文=風間大洋 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
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