テノール・高島健一郎(リアル・トラウム) 本場ドイツのオペレッタ・ツアー『メリー・ウィドウ』22公演にカミーユ役として出演が決定

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2023年からヴォーカルグループ「REAL TRAUM」(リアル・トラウム)のリーダーとして活躍し、グループ結成一周年の東京・大阪ツアー(7月19日(金)住友生命いずみホール/7月20日(土)浜離宮朝日ホール)、旧友・藤川有樹とのソロ・リサイタル(9月29日(日)浜離宮朝日ホール)も控えるテノールの高島健一郎。

ドイツで2024年末から年明けにかけて上演されるレハールのオペレッタ『メリー・ウィドウ』に、カミーユ役でキャスティングされたとのビッグ・ニュースが飛び込んできた。この決定についての詳細を、高島本人にインタビューした。

――高島さんまずはおめでとうございます。この夢のような話がどうやって実現したのか、その流れをお聞きできますか? 高島さんはすでに何役かドイツでの公演を経験されていますね。

コロナ前の留学中に、ドイツのツアーで『ジプシー男爵』のバリンカイ役や『伯爵令嬢マリツァ』のタシロ役等オペレッタの主役をやらせていただいています。東京芸大在学中から、将来はウィーンに行ってヨーロッパの舞台でオペレッタを歌いたいと思っていた僕にとって、これらの経験はまさに夢が叶った出来事でした。

ウィーンでは、ドイツ語が母国語ではないアジア人がセリフや舞台映えを要求されるオペレッタの主役をやるのは難しい、と色んな先生に言われましたが、「大好きなオペレッタを作品が書かれた言語(ドイツ語)で、ドイツ語が母国語の人たちの前で、ヨーロッパの舞台で歌って演じたい」という強い想いだけは誰にも負けていなかったと思います。

――思いだけで実現するわけではないでしょうから、その道のりは大変だったのではないですか?

まさにおっしゃる通りですね。ウィーン市立音大のオペレッタ科に入学した時は補欠合格で、8人のクラスでビリの成績からスタートだったのですが、在学中は毎日のように新しい曲やダンスの振付に追われ、何よりも苦労したのがやはりドイツ語のセリフでした。セリフも演技もうまく出来なくて、ひたすら授業についていくのに必死でしたが、ある日先生からいきなり「『ジプシー男爵』のアリアは歌える? 明日のレッスンで歌ってみて」とメールがきました。

僕はてっきり次の課題かと思っていたのですが、授業で歌ったら「来週オーディションがあるから受けてみなさい」と言われました。オーディションを受けたら、ドイツ・ツアーの責任者の方が大変気に入ってくれてその場で合格になりました。でも、正直夢が叶った実感は全くなくて、ただひたすらその日の公演がうまくいくように必死に歌っていました。幸いにも各地の新聞の批評が良かったので安心しましたね。そしてツアーが終わる頃に責任者の方から、来年も是非出演して欲しいと言って頂けました。翌年には『伯爵令嬢マリツァ』という作品で、その主役タシロをドイツで出来るなんて本当に夢のようでした。この時に初めて「あ、夢が叶ったんだな」という実感を少し持てた気がします。

――素晴らしい体験ですね。うかがっている方も胸が熱くなる話です。次のツアーはどんな感じだったのですか?

翌年のツアーは俯瞰して見られるようになり、演技でも自分のアイディアを出したりセリフも工夫したりと少し余裕が出てきました。演出家の方も僕のタシロ役を気に入ってくれて、僕を初日(プレミエ)キャストに選んでくれました。

2年目のツアーも無事に終わり、レハール音楽祭にも毎年のように呼んでいただけるようになり、ヨーロッパでのキャリアが軌道に乗ってきた2020年に起きたのがコロナ禍でした。ヨーロッパの舞台はすべてキャンセルされ、翌2021年にカミーユ役で出演予定だった『メリー・ウィドウ』のドイツ・ツアーも中止になりました。

『メリー・ウィドウ』のカミーユ役はオペレッタのテノールを代表する役で、比較的若い年齢の時にしか出来ない役なのでこのチャンスを失ったことは本当にショックでした。夏のレハール音楽祭もキャンセルされ、ただ家にいるだけの日々で何か出来ないかと考えて始めたのが日本の方々に向けたYouTubeの配信でした。

――YouTubeでの活動はそんな事情で始まったのですね。

そうなのです。これまでウィーンやドイツで経験してきた事やオペレッタの魅力を日本の方にも知ってほしいと思って配信を始めましたが、ウィーンの友人であるピアニストの石井琢磨くんのチャンネルに出演させて頂いた事をきっかけに多くの方に僕の存在を知って頂く事が出来ました。そんなことがあって、2022年からは日本での活動も本格的にスタートし、舞台出演や東京大阪でのリサイタル、そして新たな活動として藝大声楽科時代の友人たちとヴォーカルグループ・REAL TRAUMも結成し様々なイベントに出演させて頂きました。

有難いことに日本での活動の機会も増えていきましたが、同時に少しずつ自分の中で「もう一度原語(ドイツ語)でオペレッタを歌いたい」という想いも強くなりました。

――そうですよね。コロナでやりきれなかった『メリー・ウィドウ』のカミーユをやれたら最高ですもんね。

とはいえ、せっかく日本での活動も軌道に乗ってきたタイミングだったので、日本で僕の活動を支えてくださっているプロデューサーの方に、もう一度ヨーロッパでの挑戦をするべきか相談したところ、チャンスがあるなら絶対に再挑戦するべきだと言って頂きました。

そこで久しぶりにドイツ・ツアーの責任者の方と連絡を取り、「次のツアーのオーディションを受けるチャンスがあるなら受けさせて頂けないでしょうか」とメールをしました。すると5分後に返信を頂き、「是非今のあなたの声を聞かせてください」と言ってもらえました。

さらに僕はオーディションのためだけにでもウィーンに行く覚悟でいましたが、ドイツ・ツアーに2回出演している実績をふまえて「今のあなたの声がわかれば良いのでビデオ審査で構いません」と言ってもらえました。

――高島さんの実力がしっかりと評価されていたのですね。

課題曲として出されたのが、なんと!!!『メリー・ウィドウ』のカミーユのアリアでした。次のツアーの演目が『メリー・ウィドウ』という事を知り、運命的なものを感じました。コロナ禍から4年が経ち、もう一度メリー・ウィドウのカミーユ役をドイツで歌うチャンスが巡ってきたのです。

ビデオを責任者の方に送り、指揮者や演出家を含めたキャスティング会議が行われ、先日正式に今年度のドイツ・ツアーに『メリー・ウィドウ』のカミーユ役として22公演契約したいと連絡をいただいたのです。

――22公演もですか? すごいですね!!

僕らアーティストは常に新たな挑戦の繰り返しですが、コロナ禍で中断してしまった夢の続きを再び追いかけられる事は本当に幸せだと思っています。そしてこのコロナ禍の4年間、ヨーロッパでのキャリアを失いかけた僕を支えてくれた日本のファンの皆様やプロデューサーをはじめとしたスタッフの皆様にも本当に感謝しています。

また日本に帰ってきた時に成長した姿を皆様に見て頂けるよう精一杯頑張って歌ってきたいと思います。

――このオペレッタのツアーはどんな雰囲気のものなのでしょうか?

年末から年始にかけてドイツ45箇所を回るオペレッタツアーは、オペレッタの本場・ウィーンの伝統プロダクションがジルベスター&ニューイヤーコンサートとして毎年オペレッタを1作品上演するイメージです。衣装や演出は伝統的なもので、ドイツのお客様は毎年このツアーを楽しみにしていて客席からもオペレッタを純粋に楽しんでいる事が伝わってきます。いわゆる堅苦しいクラシックの演奏会ではなく、純粋に舞台を楽しみに来ているお客様がほとんどという感じです。いつかこうした雰囲気のオペレッタを日本の皆様にも見てもらえるように出来るとさらに次の夢がかなう気がします。

リアル・トラウムの名前に恥じないよう、素晴らしい夢と現実にできるように活動を続けていければ嬉しいです。

プロフィール
東京藝術大学声楽科卒業後、同大学海外留学支援奨学生としてウィーンへ留学。  
ウィーン市立音楽芸術大学オペレッタ科在学中の2018年バートイシュル・レハール音楽祭にてオペレッタ 微笑みの国 / フー・リー役にてデビューし、2018/2019シーズンからルッケンヴァルデ市立劇場、ゾーリンゲン市立劇場、レックリングハウゼン祝祭劇場等ドイツ各地の劇場でジプシー男爵タイトルロール / バリンカイ役、伯爵令嬢マリツァ / タシロ役等オペレッタの主役を務めドイツ各地の新聞で好評を得る。
舞台活動の出来ないコロナ禍ではJAM MUSIC LAB音楽大学ジャズヴォーカル科修士課程にてジャズヴォーカルも学び、2022年夏にはヨーロッパ最大規模の野外フェスティバル・メルビッシュ湖上音楽祭にソリストとしてデビュー。
2022年春より日本でも活動を開始。オール・シューマン・プログラムの初リサイタルを東京オペラシティ・リサイタルホールで成功させ、2022年秋のコンサートチケットは発売開始5分で完売するなど現在最も注目を集めるクラシック系男声歌手の一人。23年にはリアル・トラウムを結成し、さらに日本での活躍の幅を広げた。
YouTubeチャンネル「Vocalist Ken Takashima」も開設し、ジャンルを問わず様々な歌を公開中。  アーティストビザを取得しウィーン在住。

取材・文=神山薫

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