「次に進むため」「想像以上のものを見せる準備はできてる」VIGORMANがニューアルバム『DANCE』に込めた想い、4年ぶりワンマンへの展望

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撮影:Yuto Yamada

VIGORMANがニューアルバム『DANCE』を発表した。前作『SECRET FULL COURSE (Deluxe)』から約半年という短いスパンでリリースされた今作は、ダンスホールやアフロビーツ、ハウスといったダンスミュージックで構成されている。今回はアルバムの制作過程と、5月10日(金)に東京・WWW X、5月19日(日)に大阪・なんばHatchで開催するワンマンライブについて話を聞いた。

中止になったワンマンライブに
来てくれるつもりだった人にむけて

ーー昨年はいろんなことがありましたね。

はい。3月に2ndアルバム『FULL COUSE』出して、4月に逮捕されて、5月に無料のショートライブして、8月に『SECRET FULL COURSE (Deluxe)』を出しましたね。その後すぐに今回のアルバムに取り掛かりました。

ーー逮捕は活動にどんな影響を与えましたか?

4月末に逮捕されて20日留置場にいて、出て来た後も裁判があったりで。デラックス版に入ってる「Rhyme Talkin' (RedBull 64 Bars)」や「Leave it to me…」は逮捕や裁判にも触れてます。でも今回のアルバムにだけは、事件のことを持ち込みたくなかった。そういう意味では『DANCE』は気持ち的に抜けた状態で制作しました。

ーー今作はダンスホールやアフロビーツなどダンスミュージックが中心ですね。

最初からダンスミュージックを意識してたわけじゃないんですけど、そういう曲ばかり作ってたので途中から今作は踊れる作品にして、最後に踊り疲れた後に聴く曲を入れることにしました。「DANCE」は抽象的な歌詞で、あえて英語をあまり使わず日本語で書いてます。聴いた人が自由に解釈できる。これに関しては、聴いて感じたことが正解って感じです。俺が今回のアルバムに込めた思いは、踊ってほしいってことだけですね。

ーー今(取材時)はジャマイカにいるんですよね?

去年の11月にGacha Medzと作った「Werewolf」のビデオシューティングをしてました。こっちは今、夜中の12時くらい。日本みたいにWi-Fiがあまり良くないのでちょっと電波悪いかもしれません(笑)。あとおもしろいコラボレーションができそうな感じもあったので、スタジオにも行ってました。そこは今後の発表を楽しみにしててほしいです。

VIGORMAN – Werewolf (Prod. by Gacha Medz) Official Music Video

ーー約半年でアルバムを完成させました。これまでと比べるとかなり早いペースですね。

早くワンマンライブをしたかったんです。逮捕されて去年大阪と東京で予定していたワンマンライブが中止になってしまった。30分だけ無料ライブをしたけど、あの段階でできる最大のことでした。北海道から来てくれる予定の人もいました。その場合、ライブのチケットだけじゃなくて、ホテルや飛行機も押さえていたわけで。そういう人たちに向けて見せたいものがあるんです。そうじゃないと次に進めない。当初はEPを作る予定だったんですけど、ワンマンの前に出すには物足りないと思ったのでアルバムに膨らませました。なんとか間に合った感じです。

ーー中止になった公演もかなり久しぶりのワンマンとなるはずでしたもんね。

そうなんです。2019〜20年から自分名義のワンマンをやってないので、歌いたい曲がたくさんあるんですよ。「Chemical Reaction」ってEPも出してるし、『FULL COUSE』の曲もいっぱいあるし。『DANCE』のリリパと銘打ってはいるけど、今言った2作も含めたリリパだと思ってます。新旧を詰め込んだセットリストになる予定です。

ーーかなりボリューム感あるライブになりそうですね。

それと東京と大阪でセットリストが違うしゲストも違います。メドレーもあるし、今回しか観られないライブになることは間違いないです。

このアルバムを聴いてる時は嫌なことは一旦忘れて踊ってほしい

撮影:Yuto Yamada

撮影:Yuto Yamada

ーーでは今作の内容について伺います。1曲目のプロデューサー・Gacha Medzさんはジャマイカ人なんですか?

いや、日本人なんです。もう15年ぐらいジャマイカに住んでて、俺が初めてジャマイカに行った17歳の時に出会ってセッションしてからの関係です。去年の11月にもジャマイカに来てたんですが、その時に再会して「Werewolf」を作りました。ガチャくんとはこれからも色んな面白いことを企んでるので期待しててください。

ーー現地のタイム感/トレンド感で制作されている方ですもんね。

そういう意味でも今回のアルバムはめっちゃ鮮度高いです。同時に今の俺の音楽って感じ。ダンスホールやアフロビーツはどの作品にも意識的に入れるようにしてるんですが、一度自分の好きなテイストに特化した作品を作ってみようと思いました。「このアルバムを聴いてる時は嫌なことは一旦忘れて踊ってほしい」みたいな。制作期間にはシリアスな曲もできてたんですけど。

ーーということは次のアルバムも視野に入ってる?

そこは未定です。ただ今後は生きていく中でできた曲を「ここやな」ってタイミングで出していきたいなと。今回の『DANCE』は半年で作ったアルバムってことを踏まえて、楽しく聴いてもらいたいフレッシュなアルバムですね。

ーー本作には過去に制作した曲は入ってない?

そうですね。「謳歌」だけはちょっと前に作った曲ですが、今回のアルバムに合わせてほぼ全部変えました。ビートを担当してくれたのは変態紳士クラブやGeGのバックバンドでドラムを叩いてるジンです。それがめっちゃかっこよかったので新しいトラックに合わせたフロウにしたくなって、フロウが変わるなら歌詞も変えよう、みたいな。変える前のも気に入ってたんですけどね。

ダンスホールやレゲエの伝統に則ってたとしても
カッコよくないとジャマイカ人は聴かない

撮影:Yuto Yamada

撮影:Yuto Yamada

ーー「Diva」は完全にアフロビーツですね。

これはPeyote BeatsっていうLAのプロデューサーと一緒に作った曲です。TygaとかJhene Aikoとかとも曲作ってて。

ーーどうやってコンタクトをとったんですか?

GeGがLAで一度リンクしてて、大阪にある自分たちのスタジオに遊びに来てくれて。夜は一緒に酒飲んで、朝起きたら普通に一緒にスタジオ入るみたいな感じ。その日たまたまYoung Cocoもスタジオにいて、Peyoteとも知り合いだったのでみんなで一緒に作りました。ドラムとギターはPeyoteで、ベースとホーンはヤンココが担当してます。

ーー大阪のミュージシャンシップを感じさせるエピソードですね。

ほんとたまたまなんです。もしあの日ヤンココがスタジオにいなかったら、この曲自体できてないだろうし。しかもこっちからお願いしたわけじゃないのに、PeyoteはLAに帰った後も大阪で録ったデータを細かく修正してくれたものを送ってくれて。

ーーPeyote Beatsさんも大阪の滞在が楽しかったんでしょうね。

「Diva」はアルバムの中だと序盤にできてるんですが、この曲があったから俺の意識も今作のテーマに向いていったところがあったと思います。Peyoteとは「Daughter of Lucifer」も制作しました。

ーー「またとない日々を」は今年1月にリリースされたGeGさんの『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』にも収録されてましたね。

ですね。俺のアルバムにGeGの曲が入ったり、WILYWNKAのアルバムに俺の曲が入ったりっていうのは毎回やってることなんで。1曲1曲にすごく思い入れがある。「またとない日々を」もすごい気に入ってるけど、まだみんなに届いてない気がしたので自分のアルバムにも入れることにしました。「Neon」も同じ。もっといろんな人に聴いてもらいたいので、新たに唾奇とSAMI-Tさんにも入ってもらいました。

ーーMighty CrownのSAMI-Tさんのシャウトが入ってるのにはかなりびっくりしました。

「Neon」はジャマイカ人のプロデューサーに聴かせて「ヤバい」ってお墨付きをもらいましたから(笑)。これは最近わかってきたことなんですけど、アフロビーツやアマピアノとか今流行ってる音楽ってダンスホールの派生というか。ドラムの打ち込み方や音色をちょっと変えるだけなんだなって。

ーーもうちょっとわかりやすく教えてほしいです。

いわゆるダンスホールの基本は「タッタ、タッ、タッタッ」ってビートなんです。それこそ「Neon」のドラムですね。ここからスネアを抜くとアフロになって、キックをいじるとアマピアノになる。「ダカッタッ、ダカッタッ」って音色を変えるとレゲトンになる。超有名な曲だとリアーナとドレイクの「Work」は、アフロっぽい音とメロディーだけど、ドラムの打ち込みはダンスホールです。当たり前だけど、ジャマイカ人はアメリカの音楽をめっちゃ聴いてるんです。最近はトラップダンスホールとかドリルダンスホールみたいのもあって。みんな自分がかっこいいと思う曲を聴いて、自分がかっこいいと思う音楽を作ってる。なんていうかすごい柔軟なんですよね。ジャンルとかも全然気にしてない。

ーー良い話だなあ。

たとえばダンスホールやレゲエの伝統に則ってたとしても、ジャマイカ人はカッコよくないと聴かない。そういう人たちに「ヤバい」って言われる音楽を作りたいなって思いましたね。

事件を起こしてから今回のワンマンのために1年間走ってきた

撮影:Yuto Yamada

撮影:Yuto Yamada

ーージャマイカ滞在は大きな刺激になってるようですね。

そうすね。タイミングもよかったです。どんなにかっこいい音楽をやってても、自分の国すらボスれないやつはこっちじゃ相手にしてもらえないから。

ーーちょっと話が戻るんですが、SAMI-Tさんが参加したのはどういう流れだったんですか?

ある程度アルバムができあがってきた段階で、唾奇のヴァースが入った「Neon」をGeGと聴いてた時に「SAMI-Tさんのシャウトが入ったらヤバない?」ってアイデアが出たんです。SAMI-Tさんとは何回かお酒を飲んだことがあって。俺、湘南にサーファーの友達がいっぱいいて、夏は毎年1〜2週間遊びに行って、毎晩行き付けの居酒屋で朝まで飲んでるんです(笑)。SAMI-Tさんもそこの常連で。俺からすると「世界のMighty Crown」だし、どんだけすごい人かもよく知ってるから畏れ多いんですけど、お店では俺らと同じ目線で話してくださるし、同じテンションで朝まで飲んでくれる方なんです。

ーーかっこいいですね〜。

そうなんですよ。そのつながりがあったので、ダメ元で電話させていただいたんです。そしたらめちゃタイトなスケジュールなのにOKしてくれて、すぐに声を送ってくれました。Awich姉さんと唾奇も知らなかったから、完成版を送ったらすごくびっくりしてました(笑)。

ーーその話が「ショウナンクレイジー」につながっていくと。

ですです。湘南の人たちってみんな優しいんですよ。その感じを出そうと思って。ビートを作ってくれたホクちゃん(hokuto)も湘南の人だし。サーファーの友達の名前とか出てきます。

ーー今作にtofubeatsさんが参加しているのが意外でした。

このアルバムにのテーマはダンスなのでトーフさんが入ってたらいいなと思ったんです。あと初セッションの方にいてもらいたかった。それでこのアルバムも全曲レコーディングしたG.B.'s STUDIOつながりでマネージャーさんからお声がけしました。元々「Keep on Dancing」をリミックスしてほしかったんですが、『FULL COUSE』を全部聴いていただいて、気に入った曲をリミックスしてほしいとお伝えしたら、トーフさんも「Keep On Dacing」を気に入ってくれた、という流れですね。時間ない中でお願いしたのに速攻でやってくれました。

ーーBRON-Kさんとは「ろくでなしの唄 (Remix) feat. BRON-K & NORIKIYO」以来の共演ですね。

「Rock Climbing」に関しては、俺がBRON-Kさんの新曲を聴きたいって理由だけでオファーしました(笑)。まじでめちゃくちゃ大ファン。

ーー誰がプロデュースしてるんですか?

俺のライブのバックDJもしてるCOALA BEATS。俺と同じBRON-K信者っすね。俺らにとってはBRON-Kさんと一緒にやれること自体がクソヤバいんです。それに加えて、今回はこの曲のバースがBRON-Kさんから戻ってきた時、ビートのことも褒めていただいたんですね。ちょうどその日名古屋でライブだったので、会った時にそれを伝えたらめちゃくちゃテンション上がってました。朝9時まで飲み明かしたらしいです(笑)。

ーーお話しをうかがってるとかなり活きいきとした状態で制作できたみたいですね。

そうですね。『FULL COUSE』もリリース自体はインディーズなんですが、メジャーを離れる境目の時期だったので、制作期間の前半はまだメジャーの契約期間内でした。完全なインディペンデントで制作、プロデュースしたのは今回が初なんです。GeGも同時期に自分のアルバムがあったから、制作に関しては今回は自分で動いてて。大変だった分、妥協無しのアルバムが出来ました。

ーーでは最後にワンマンに向けた意気込みを教えてください。

俺は去年すごくたくさんの人に残念な思いをさせてしまいました。ライブも作品も毎回本気だけど、今回はこれまでとは違う温度感あります。事件を起こしてから、今回のワンマンのために1年間走ってきたと言っても過言じゃない。今回のアルバム『DANCE』もワンマンで歌うことを前提に作ってます。あれからクラブでもライブはしてたけど、30分では見せられないものがいっぱいあって。フルバンドで2時間。そんなライブは次いつやれるかわからない。今回に関しては、ちょっと無理してでも観にきてもらいたいです。想像以上のものを見せる準備はできてます。

撮影:Yuto Yamada

撮影:Yuto Yamada

取材・文=宮崎敬太 撮影:Yuto Yamada

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