秋山黄色 バンド vs ソロ、自分対自分の対バンライブに見た大きな一体感と大団円にふさわしい熱狂

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秋山黄色

秋山黄色

秋山黄色presents 「BUG SESSION」
2024.04.12 Zepp Haneda(TOKYO)

「このライブした後に秋山黄色って人間が登場するらしいですが、負ける気はありません!」

シンガーソングライターの秋山黄色の自主企画による対バンツアー『BUG SESSION』が4月12日、Zepp Haneda (TOKYO)でファイナルを迎えた。4月4日の大阪、5日の名古屋ではそれぞれ緑黄色社会、PEOPLE 1との対バンだったが、前掲の秋山の言葉どおり東京公演は秋山によるバンドセットとソロセットの対バンに。

「設定がとっちらかってますけど」と苦笑いしながら、「このライブはワンマンじゃない。しっかりツーマンですから。秋山黄色って人間が秋山黄色をぶっ倒すっていうストーリーの中で、みなさんの思い出に刻みこむ」と秋山は前代未聞の(?)自分対自分の対バンライブの趣旨を説明したのだが、この日、「アイデンティティ」の演奏中に語ったとおり、常に自分と向き合いながら、自らの深層心理を歌ってきた秋山らしいと言えば、実にらしいのかもしれない。個人的な話で申し訳ない。2022年の『ツタロックフェス』で秋山のライブに衝撃を受けてから2年。この日、筆者は改めて秋山黄色というアーティストの底力を見せつけられた気がした。

「3か所あっという間だと思っちゃいました。それだけもりもりとスキルやら体力やらがプロらしくなっているんだと実感しています。みなさんのおかげです。ありがとう。ライブ会場って思ったより体調悪くなる人が出ちゃったりするんで助けてあげてください。無事故無違反でケガもゼロでよろしくお願いします。身の回りの半径1メートルの人間だけ大切にしてください。(周りに対して)ガチガチやったらダメだよ。でも、多少はしょうがない。(だって)今日は盛り上がりますから!」(秋山)

先攻は秋山黄色(バンド)。2018年6月にリリースした1stシングル「やさぐれカイドー」から新旧の代表曲の数々を、爆音を鳴らす井手上 誠(Gt)、藤本ひかり(Ba)、田中駿汰(Dr)という秋山曰く“奇跡のメンバー”とともに披露しながら、胸を焦がすメロディと胸をえぐる言葉で観客の気持ちを鷲掴みにしていく。

ファンキーな「Bottoms Call」、ポップソングの「燦々と降り積もる夜は」、ラップも交えるR&Bの「シャッターチャンス」。楽曲の振り幅も楽しませると同時にヘッドレスのエレキギターとエレキとアコギのハイブリッドギター(フェンダーのアコスタソニック)を曲ごとに使い分け、耳に残るリフやテクニカルなプレイでも魅了するソロをバリバリと奏でながら、秋山はギタリストとしてのプレイヤビリティも存分にアピールする。

ヒップホップと生のバンドサウンドの融合なんて言ってみたい「SCRAP BOOOO」から、ドラムソロで繋げたダンサブルな「PUPA」でバンドの演奏は轟音を鳴らしながら、一気に白熱! そこから一転、バラードの「モノローグ」に繋げ、リバーブを深めに掛けた音色でギターソロをたっぷりと聴かせると、さらに一転、バンドの瞬発力を見せつけるようにベース、ギター、ドラムのソロをリレーしながら、再び演奏の熱をぐっと上げていく。そんなジェットコースターさながらの展開が観客の感情を揺さぶる中、秋山がアコギの音色で奏でたリフが観客に声を上げさせたのは、「Caffeine」だ。

シリアスな歌詞とは裏腹にバンドの演奏はさらに白熱。秋山はギターをかき鳴らしながら、勢いあまってぶっ倒れる熱演でパフォーマーとしてのガッツを見せつける。

そこからラストスパートをかけるように繋げたファンキーな「アインデンティティ」。

「人生なんて最後の最後までわからないものかもしれないけど、わかりたくねえよと啖呵を切りながら、少しばかりの光を見せながら生きていきたいと思います。飽きるまでセッションにお付き合いください!」と声を上げた秋山に観客が大きな歓声で応えた光景は、まさにクライマックスという言葉がふさわしいものだった。

バンドセットの最後を締めくくったのは、3月20日にリリースしたシングル「ソニックムーブ」。

「くそでかい声を出してくれ!」(秋山)

90sのミクスチャーロックを思わせるダンサブルでポップなロックサウンドがスタディングのフロアを揺らす。そして、曲の最後のキメの合図を最前列の観客に任せると、秋山はコードストロークを振りきった勢いのままステージにひっくり返って、50分の演奏を見事、完全燃焼――したことは20分ほどの転換後、1人でステージに立った秋山がさっきまでとは別人に感じられたことからも明らかだった。

後攻の秋山黄色(ソロ)は、前述のハイブリッドギターでリフを奏でながら、「やさぐれカイドー」でスタート。そのリフにルーパーを使って、ギターのボディを叩いて鳴らしたビートとさらにリフを重ねながら、コードをかき鳴らす秋山の歌はやがて絶叫に変わっていく。ソロセットの1曲目に敢えてバンドセットと同じ曲を持ってきたのは、表現方法の違いを見せるためだったのだろう。そこから、ほがらかな正調フォークナンバーの「夕暮れに映して」、エモいロックンロールの「ナイトダンサー」の2曲を、その振り幅とともに弾き語りで聴かせると、「さっきとは別人がやって参りました。ご心配なく」と笑いながら、秋山は「これが本来のスタイル」とバンド対ソロのツーマンライブの趣旨を改めて語る。長くなるが、重要なことだから記しておく。

「本当はバンドをやりたかったですけど、やっぱりね、奇跡に近い。バンドメンバーが揃うってことは。だから、ワンルームでこういうことをやっている人は多い。僕もその中の1人でした。6畳間でジャカジャカってやってたんですよ。そんな人が(バンドメンバー、対バン、お客さんと)セッションできるなんて恵まれてる。みなさんのお陰です。独りぼっちで音楽を作っていると、愛してるよなんてわざわざ歌わなくても大丈夫なんです。元々は僕と友達が聴ければ満足だった。あとはネットに上げて終了。そういう状況だと、本当に好きなことを歌える。人と喋るよりも本音が出るのが歌詞。さっきまでの(バンドセットの)人は営業と言うか、僕は本来、あんな人じゃない(笑)。本来の僕をお見せするのは珍しい場面でありますので、篤と焼き付けてご堪能あれ。僕も童心に戻ったつもりで演奏します」

だからと言って、弾き語りだけとならないところが秋山黄色の秋山黄色たる所以。

ルーパーやエレキとアコギ両方の音色を奏でるハイブリッドギターに加え、傍らに置いたPCから鳴らすバンドサウンドも使いながら、アンセミックなエレポップナンバー「Night park」をはじめ、バンドセット同様、振り幅の広い代表曲の数々を披露していった。

「ワンマンに行こうって気持ちになっても、最新の曲やるよね。そういう気持ちわかるのよ。昔の曲を聴きたいみたいのあるんだよね。俺もそう思うのよ!」

そんなふうに言いながら、イントロのギターリフが観客に快哉を叫ばせた「クラッカー・シャドー」ではルーパーでリフとビートを重ねながら、シンセを思わせる音色でギターソロをプレイ。観客にシンガロングをハモらせるという同曲の大技からは、観客が秋山の歌をどんなふうに受け止めているのか、両者の関係性が窺えたが、「人生の中の好きなことランキング。1位は靴下を脱ぐこと、2位は目薬を差すこと、3位はライブでおまえらのでかい声を聴くことなんだよ」と秋山もうれしそうだ。

R&Bナンバーの「ホットバニラ・ホットケーキ」を、同期を使いながら歌い終わったタイミングで、複数の機材を操作しながらの演奏はスポーツみたいだから、こういうライブは二度とやらない!と思いながら、なぜやるのか、その理由を語った秋山の言葉が興味深い。

「フェスとかで、俺が出てきただけで、みんな盛り上がってギャーってなるでしょ。ギャーって言わせてるんだけど(笑)、そういうとき、ミュージシャンとしての地力を確かめたくなるんだよ」

もしかしたら、そんなふうに胸の内を吐露したMCもソロセットの見どころ(聴きどころ)だったのかもしれない。地元の友人2人とバンドを組んで、その2人を含む4人と秋山とでラジオ番組をやりたいという夢が秋山にはあるという。

そして、「そんな夢がある中で作った曲。今の話を聞いた上で聴いたら、音楽に命を掛けているとなまじ言葉で伝えるより、ラジオをやりたいという目標があるのにこんな曲を作れるんですねって気持ちになりますから」と言って演奏したのが、《一人で泣いた現実は狂っていなくて》と孤独と対峙した冷徹な言葉が聴く者の胸をえぐる「Caffeine」だった。

観客の大きな拍手を受け止めながら、「BUG SESSION」を続ける気満々であることを秋山が伝えると、拍手はさらに大きなものに。

「こういう交流を持ちつつ、ライブができるようになりました。ツーマンライブの主催は(2019年以来)2回目。これまで1人でやったり、フェスに出たり、孤軍奮闘してきました。お陰でこんなにたくさんの人々に観てもらえるようになりました。けっこう長かったと思ってるけど、まだまだこれからのほうが長いので、ずっとセッションしようぜ。みんなで」

その言葉からは、さらなる転機に繋がっていきそうな心境の変化が窺えたが、そこに続いたのはミュージシャンとしての秋山の新たな決意だった。

「ツーマンライブをやるにあたって、呼びたい人が何人かいたんだけど、コロナ禍で亡くなってしまって、俺、もたもたしてたって思いました。(その人達からもらった)やさしさを返したいが、もういませんから、もらってしまうしかない。いやいや、それじゃダメだろうって思いながら、ありきたりなことに着地しますけど、もう歌うしかない。本当に。それをみんなが聴いて、明日がんばる。それで、助けられるようなら誰かを助けてください。助けたくねえ時は寝てていい。みんなが思っているより、あなたが助かれば、歓ぶ人は周りにいる。そういうことがわからない時間がある。それが人を追い詰めるのかもしれない。だから、ライブに来てください。ライブに来れば、みんなばっちり生きてますよ。いつだってセッションしに来てください。俺はでかい声を聴きに来てるんだからね。でかい音を出しに来てるんじゃなくて、おまえらの声を聴きたくてやってるんだから!」

歌い続けるという意思を新たにした秋山黄色がここから踏み出すに違いない新たな一歩が楽しみになった。

ソロセットの最後を飾ったのは、崖っぷちでようやく声を上げた魂のSOSである秋山の歌の最たるものと言える「PAINKILLER」。このバラードを同期のバンドサウンドに加え、パートパートでキーボードとギターを使い分けながら歌い上げる秋山の歌声にじっと耳を傾けていた観客を、音の洪水を思わせる同期のトラックが飲みこんでいく光景は、まさに圧巻の一言だった。

「オマケじゃなくてガチでやるからな!」と言ったアンコールは、「心開き三週間」と「猿上がりシティーポップ」の2曲を披露した。ともに弾き語りながら、前者は一部ボーカルにエフェクトをかけ、単に弾き語りの一言にとどまらない深い世界観を作り上げ、曲をデザインするセンスをアピールしてみせる。そして、後者は「バンドセットの時よりも客がでかい声を出してたってライブレポートに書かせようぜ!」と言いながら、終盤、敢えてマイクをオフって、観客のシンガロングを会場中に響き渡らせた!

最後の最後に秋山がそこにいる全員に味わわせたのは、大きな一体感と大団円にふさわしい熱狂だったのだ。

取材・文=山口智男 撮影=Yuri Suzuki

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