空想と現実を飛び越えて、物語がいま一つにつながる『Songful days』with “三月のパンタシア”レポート

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撮影:大塚正明

『Songful days』と、三月のパンタシア。どちらも「物語」をテーマに、言葉の力で、音楽の力で、空想と現実を自由に行き来する、創造性溢れるコンテンツだ。合わないはずがない。しかも三月のパンタシアは、8thシングル「四角運命/アイビーダンス」をリリースしたばかり。新しい季節の始まりに、期待は高まる。役者は揃った。物語を始めよう。

旅人は、今日もまた深い森の中を旅している。季節は初夏。木漏れ日のまぶしい美しい午後だが、不注意から足に怪我を負った旅人は、森の中の小屋で休んでいるらしい。そこに一人の少年が現れる。ここはどこ?――どうやらここは、二人の住む二つの異世界が一瞬だけ交わる境界線。これまで以上に空想の翼を大きく広げた、ファンタジックな物語。ナレーションは、一人で二役を演じる声優の西山宏太朗だ。そして音楽が聴こえてくる――。

 撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

1曲目、いきなり新曲「四角運命」だ。マイナー調のアップテンポ、キレのいいピアノ、ドラム、ファンキーなスラップを叩きつけるベース、アコースティックギター。聴き慣れた三パシサウンドとは異なるフレッシュな音に乗り、エアリーな「みあ」のボイスがふわりと舞い上がる。夏らしい涼し気なショートパンツで、サブステージからメンバーの待つメインステージへ、走るように駆けだす姿がまぶしい。

新しい音楽の旅が始まる。そして、旅人と少年の身の上話が続く。少年は、横暴な父親のせいで家にいられず、この小屋によく来るらしい。そして、そこで出会った、一人の少女。彼女はギターを弾き、歌を作り、歌う。少年はその歌に、心をわしづかみにされた。その歌はきっと、こんな歌だったのかもしれない――。

今回の物語は8thシングルの初回生産限定盤に付属される、収録曲「ユアソング」の原案となった、みあ書き下ろしの小説「多分、私たちひとりじゃない」のアナザーストーリーとなっている。ギターを弾く少女は小説版の主人公とのことだが、物語の繋がりは「Songful days」では初の試みだ。アーティストとライブが密接につながっていく感覚が面白い。

軽快なアップビートで疾走する、「はじまりの速度」はせつなくも痛快なポップチューン。言葉に気持ちを込める部分になると、みあは目をぎゅっとつむり、願いをかけるように歌うのが癖だ。そして時折、ちょっとだけ見せる笑顔。続く「逆さまのLady」は、ピアノが刻むリズムを軸に、七色の風のように爽やかに吹き抜けてゆくアンサンブルがいい。前向きなメッセージを、にっこり笑顔で伝える表情がいい。細くしなやかな手の動きと、軽やかにリズムに乗るステップが、木漏れ日のようにきらめいて見える。

 撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

物語は続いている。どうやら小屋の中の古い柱時計が時の鐘を鳴らすと、ふたつの異世界をつなぐ扉が開かれるらしい。旅人と少年は再び顔を合わせ、少年はあの歌をうたう少女の話をする。「あなたはきっと、歌以上に彼女のことが好きですね」。旅人の言葉に合わせるように、また古時計が鳴った。ボーン、ボーン、ボーンーー。

ステージを包み込む、美しいブルーライト。鍵盤を転がすような、ミニマルでキャッチーなピアノ。「透明色」は、テニスボールのようにしなやかにはずむリズムを持つ、キュートなポップチューンだ。ファンキーなアコースティックギターのカッティングがリードする「青春なんていらないわ」は、タイトルの意味をひっくり返すように、青春をこのまま今に置き去りにしたいと願う切実な願い。そして「花冷列車」は、矢のように過ぎゆく時の流れに戸惑う心を綴る曲。三パシの曲の舞台は青春が多く描かれる。この大切な時期が速く過ぎてしまわぬように、今しか写せない写真のように、あざやかな瞬間を音楽という形に焼き付ける。

 撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

少年には、別れの時が迫っていた。母と共に東京に行くのだ。東京? 「Songful days」がこれまで描いてきた架空の時空の中で、初めて出てきた具体的な街の名前だ。空想は一気に現実に変わり、ファンタジーはよりシリアスな色彩を帯びる。旅人の勧めで、少年は彼女の手紙を書く。「さよなら、また会おう」――。

こちらの世界では、三月のパンタシアが素敵な演奏を続けている。月夜にはねるうさぎのように、夜遊びにたわむれる少年と少女の姿を描き出す、明るく幸せな空気をまとった「街路、ライトの灯りだけ」。メランコリックなシティポップ風のサウンドに乗り、淡くせつない色調へと沈み込む「群青世界」。美しいピアノの旋律がリードする、大らかなスローナンバー「あのときの歌」。それは旅人と少年と少女の物語と呼応する、現実世界から空想世界へのメッセージ。

 撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

そして物語はフィナーレに近づく。少年は高校を卒業し、念願だったカメラマンへの道を歩み出したらしい。そんなある日、ふとした偶然で耳にした未知のアーティストの音楽に息を呑む。「彼女の声だ」。片時も忘れなかったあの声とあの歌。それは過去の出来事を完結させるフィナーレではなく、新しい季節の始まりを告げるファンファーレだった。また彼女に会いに行こう――

ラストチューンは、最新シングルのカップリングになった「ユアソング」だ。いかにも三パシらしいスピード感あふれるアップテンポ、ドラマチックなブレイクの多い展開に沿って、みあの声が速度を増す。エアリー、クリア、ノーエフェクト、裸の声と呼ぶのがふさわしい、素敵な声。そしてこの歌詞は…まさにあの少女そのものじゃないか? 憧れていた世界で、また会えるように――。空想と現実を飛び越えて、物語がいま一つにつながった。

 撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

みあのMCは最後にたったひとこと、「ありがとう」。そして『Songful Days SEASON 2』の旅は続く。三月のパンタシアの旅も続く。物語は、次のアーティストを待っている。まるで大河ドラマのように滔々と流れゆく、「Songful DaysSEASON 2」の行く末には楽しみしかない。

レポート・文=宮本英夫 撮影:大塚正明

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