The Songbards 撮影=阪東美音
The Songbards pre. 『ミックステープ ツアー編』「AUGURIES」リリース記念 Vol.4
2021.8.5 渋谷CLUB QUATTRO
The Songbardsがインディーズ時代から続けている自主企画ライブ『ミックステープ』が、初のツアー形式で現在開催中だ。ミニアルバム『AUGURIES』のリリースを記念して行われた今回の東名阪ツアーは、8月5日、渋谷CLUB QUATTRO公演からスタート。この日のゲストは、レーベルの先輩バンド・夜の本気ダンスだった。なお、2組は、今年5月の松山サロンキティ公演で初のツーマンライブを行ったばかり。つまり、わずか3ヶ月しか空けずに2度目のツーマンが実現したということだ。
『ミックステープ』シリーズが対バン形式で行われているのは、カセットテープに好きな曲を入れて友達同士で貸し借りをするように、素敵な音楽を共有し合えたら、という想いから。また、同様の想いから、出演者のおすすめの曲を掲載したZINEが来場者に配布されるのが恒例となっており、今回は、計8名の選曲による“今年の夏はこれを聴きまくるプレイリスト”が観客にも共有された。
夜の本気ダンス 撮影=石崎祥子
トップバッターは夜の本気ダンス。米田貴紀(Vo/Gt)、鈴鹿秋斗(Dr)、マイケル(Ba)、西田一紀(Gt)がセッションのように鳴らす音はみずみずしく、“これぞ、ロックバンド!”と胸を高鳴らせてくれるものだった。1曲目の「Crazy Dancer」から観客の体は揺れているし、中には腕を上げて楽しんでいる人も。夜ダンの鳴らすダンスミュージックの即効性を改めて思い知らされる。イントロのキメに合わせて米田がネクタイを外す「fuckin’ so tired」はライブアレンジも楽しく、曲間を繋げながら「Movin’」、さらに「Ain’t no magic」と続けていく。
MCを仕切るのは鈴鹿で、巷を騒がせたニュースに引っ掛けて“噛む”というワードをやたら使用するなどこの日も舌好調。また、夜ダンのライブが終わってもThe Songbardsのライブが待ち受けているというこの状況を「ステーキを食べてもめっちゃいいデザート残ってる感じ」と喩えるも、「むしろあっちがメイン。俺らが前菜」(マイケル)、「俺らはめっちゃいいキュウリにしよう。前菜にキュウリ出てきたら最高やん?」(鈴鹿)、「キュウリは結構好き嫌い分かれる……」(西田)とツッコミが相次ぐ。
夜の本気ダンス 撮影=石崎祥子
「やつらがどれだけ羽ばたけるかは俺ら次第。滑走路作ろうぜ!」(鈴鹿)と後半に入ると、ギター2本のカッティングが気持ちいい「SOMA」で爽やかな風を吹かせる。一際ポップな「SMILE SMILE」は、鬱屈した日々を抜けた先にある希望を描いた曲で、拳をグッと握りながら歌う米田の姿が印象に残った。「Eternal Sunshine」は懐の深いバラードで、“ララララ”のコーラスがあるアウトロで大団円を迎えると思いきや、バンドのサウンドはまだまだ勢いを増していく。観客同士十分に距離をとるため、フロアに椅子が用意されていたこの日。最後のMCでは米田が「座席どう?」と観客に投げかけ、「その座席をいつか取っ払うために今こうして(ライブを)やってます。元通りにはならないにしても、心地のよい場所に戻れるようにやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」と、ライブを止めない意義を改めて言葉にした。
「Magical Feelin’」、「WHERE?」、そして「最後まで踊りませんか、渋谷!」(米田)とトドメの「GIVE & TAKE」まで観客の心と体を踊らせ続けて終了。「滑走路は十分温まりましたね!」(鈴鹿)と去っていった先輩バンドの頼もしいライブに、The Songbardsはどう出るか?
夜の本気ダンス 撮影=石崎祥子
転換を挟み、The Songbardsのライブがスタート。この記事でレポートしている東京公演はツアーの初日にあたるが、以下、演奏曲目・演出に関する記述を多く含むため、セットリストをまだ知りたくないという方は、ツアー終了後に読んでいただければと思う。
The Songbards/上野皓平(Vo,Gt) 撮影=阪東美音
さて、今回のツアーは『AUGURIES』のリリースに伴うものであり、『AUGURIES』はSEをふんだんに盛り込んだアルバムだった。上野皓平(Vo/Gt)、松原有志(Gt/Vo)、柴田淳史(Ba/Cho)、岩田栄秀(Dr/Cho)がスタンバイする間に流れていた靴音のSEは、まさに『AUGURIES』の冒頭を彷彿させるもの。おそらくアルバムを聴き込んでいた人ならば“おっ!”と思ったことだろう。しかしこの日最初に演奏されたのはアルバム1曲目の「ビー・ヒア・ナウ」ではなく、「Engineered Karma」。意表をつかれたが、イントロの音声をライブの始まりを告げるアナウンスに変える演出にはワクワクさせられたし、2分以内のショートチューンを頭に持ってくるのは、夜ダンファンへの自己紹介としてはスマートだ。
The Songbards/松原有志(Gt,Vo) 撮影=阪東美音
気怠さを感じさせるサウンドはアウトロに入るとスパークし、例えば松原は、ギターのネックを揺らしながらステージ前方に出てきている。ここで上野が「The Songbardsです、よろしく!」と挨拶。さらに「来てくれてありがとう。楽しみましょう!」と「雨に唄えば」に繋げた。岩田が鳴らすビートが曲間を繋ぐなか、上野が「猿の鳴き声が聞こえる少し変わった曲ですが、みなさん楽しんでいただければと思います」と紹介したのは、「Monkey Mind Game」。“そろりそろり”と形容したくなるギター&ベースによるユニゾンのフレーズのあと、リフやワウギターとともに進む1曲で、メンバー同士アイコンタクトをとりながら楽しげに鳴らす姿が印象的だ。長いアウトロを終えると、リズムを刻むバンドサウンドがクレッシェンドしていき、やがて「悪魔のささやき」に辿り着く。
The Songbards/柴田淳史(Ba,Cho) 撮影=阪東美音
最初の4曲を終えるとMCへ。ここでは上野が、観客や夜ダンへの感謝や無事ライブを開催できた喜びを言葉にしつつ、夜ダンメンバーから「ごめん、お前ら飛行機ちゃうのに飛行機みたいに言うてもうて」と謝られたことを明かした。新曲初披露の貴重なシーンはまだ続き、このMC中には松原の前にキーボードが登場。そして「夕景」が演奏された。MCでも語られたように、「夕景」は、山陽電車から見える景色が基になっている曲。電車の発車音のSE、夕焼け色の照明、3声のハーモニーによる歌い出し……ノスタルジックなサウンドが、彼らの地元・神戸の風景をイメージさせてくれた。また、そのあとに続くのが「窓に射す光のように」という堪らない展開。歌心に満ちた2曲で聴き手を包み込むこのパートは、今回のセットリストにおけるハイライトと言えそう。今後の2公演を経て、歌や演奏の深みがもっと増していけば、さらに良くなっていきそうな予感がした。
The Songbards/岩田栄秀(Dr,Cho) 撮影=阪東美音
そうしてライブ終盤に入ると、その後は、“松山のときにチョネさん(夜ダンの米田)から「めちゃカッコいいね」と言われた”という「ブルー・ドット」などを演奏。本編ラスト曲「夏の重力」、そして「The Songbardsでした、ありがとうございました!」と叫んだがために上野が最初のフレーズを歌いそびれたアンコール曲「太陽の憂鬱」からは、メンバーのテンションの高ぶりが読み取れた。この高揚感を連れて、ツアーは8月26日・梅田CLUB QUATTRO(w/mol-74)、8月27日・名古屋CLUB QUATTRO(w/the shes gone)へと続いていく。ツアーを終えた頃、『AUGURIES』収録曲群がどう成長しているのかが楽しみだ。
取材・文=蜂須賀ちなみ
撮影=石崎祥子(夜の本気ダンス)、阪東美音(The Songbards)
The Songbards 撮影=阪東美音