HYDE、「LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」ファイナル公演のライブレポート到着

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HYDE「LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」ファイナル公演

今年でソロ活動20周年を迎えるHYDEがその幕開けとして昨年末から年をまたいで開催したツアー“HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE”のファイナル公演が3月6日・7日、大阪城ホールにて行なわれた。当初、本公演は1月16日・17日に開催予定とされていたが、大阪を含む10都府県に再度発出された緊急事態宣言を受けて延期、今回の2日間はその振替公演。本来ならば2月13日の札幌公演が最終日となるはずだった今ツアー、コロナ禍といういまだ明けぬ危機に信念を持って立ち向かい、無事たどり着いたゴールだけに感慨もひとしおだろう。

今ツアーの成功は行政の定める感染拡大予防のガイドラインを遵守し、さらに独自でも万全の感染予防対策を施すこと、それを来場者をはじめ、ライヴに関わる全員にもれなく告知し実行することで、現状では白眼視されがちな“ライヴ”という場を確固とした安全のもとに共有できるという証明にもなるはずだ。HYDE本人、バンドメンバー、スタッフへの定期的なPCR検査および抗原検査の実施、各会場とも場内の至るところにアルコール消毒薬が配備、入場時やトイレなどあらゆる場面でソーシャルディスタンスを保つための配慮工夫がなされ、観客の対応にあたるスタッフはみなマスクはもちろんフェイスシールドも併用する等、徹底した対策を全公演において行き渡らせるのはけっして容易ではなかっただろうが、そうまでしてでもHYDEは音楽を、ライヴを、そしてそれらをこよなく愛する人たちの想いを守り抜きたかったに違いない。ついに迎えたフィナーレの瞬間、大阪城ホールを満たしていたのは音楽を心ゆくまで味わい尽くせたという幸福感と、ステージと客席とが一丸となって掴んだ達成感、どんな状況にあっても自分次第で未来は作れるという確とした希望だった。

開演時刻と同時に紗幕が落ち、立ち現われるステージ。ファイナルのスタートを飾ったのはここまでの6都市9公演同様、「UNDERWORLD」だ。荒廃した近未来都市〈NEO TOKYO〉が描かれた緻密なステージセットを背に、椅子代わりのドラム缶に腰掛けてフロアタムを打ちつけながら不敵な歌声を轟かせるHYDEの姿が露になるや、会場いっぱいに声なき歓喜が一斉に広がる(今回のツアーでは全会場、アリーナ席にも座席を設置し、スタンド席もすべて収容率50%のガイドラインに従って1席おきに着席、オーディエンスは座ったままでの観覧が求められており、マスク着用の上、歓声や歌唱も禁じられた)。続いて「AFTER LIGHT」に突入、通常のライヴではシンガロングが巻き起こる場面に差しかかるとHYDEは「エブリバディ、ハミング!」と口を開けずに声が出せる方法を示唆、恐る恐るといった様子で客席から届いたか細いハーモニーに途端に相好を崩した。なんとかして彼の要望に応えようとするファンたちがかわいくて仕方がないといった表情だ。その後もことあるごとに「クラップ! クラップ!」「鳴らしていこうぜ!」と客席を煽り、狂騒を先導するHYDE。

オーディエンスは声を出せない代わりに持ち込みが許可されたタンバリンなどの楽器類や予め歓声を吹き込んだヴォイスレコーダー、その他音の出るオモチャなどを駆使して演奏を盛り上げる。まるで会場全体で楽曲を奏でているような特別な一体感が実に心地好く、ライヴとは観客と一緒になって作られるものなのだとつくづく知らされた。ライヴは即興芸術だと常々口にしているHYDEだが、このファイナルで大阪城ホールに響き渡った音色もまたこのとき限りの奇跡の芸術なのだろう。そして芸術とはこんなにも人々の心を満たすものだと“HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE”によって改めて教えられた気がする。これほどのものが不要不急であっていいはずがあろうか。

「ようこそ、“ANTI WIRE”へ。大阪、待たせたね。待たせたぶん、溜まった毒をいっぱい出して、気持ちよくなって帰ってもらおうかな。せっかく久しぶりに会えたんだから、一緒に楽しもう!」

そんなHYDEの呼びかけに熱狂はますます色を深めていく。

アコースティックライヴを謳った今ツアー、何をおいても特筆すべきは1曲1曲に宿った尋常ではない熱量だろう。コロナ禍による制限も多いなか、今できる最高のパフォーマンスとは何かを追求した結果、HYDEが出した答えがこのアコースティックスタイルのライヴとなったわけだが、1曲1曲に施された大胆かつ最強のリアレンジはもはや“アコースティック”と聞いてイメージするそれとははっきりと異なる。例えば「DEFEAT」など最新リリース曲でありながら、持ち味であるヘヴィにして剣呑な疾走感を削ぎ落とし、フリースタイルジャズを想起させる洒脱でスリリングなアンサンブルと艶めいたヴォーカルがオリジナルの印象をあっさりと塗り替えてしまいそう。エスニックな音像と呪術的な歌声が聴く者を延々とトランス状態に導いた「SET IN STONE」。ライヴの鉄板チューンとしてアグレッシヴにオーディエンスを駆り立ててきた「ANOTHER MOMENT」はひたすら流麗なバラードに、中島美嘉への提供曲として話題を呼んだ「KISS OF DEATH」のセルフカヴァーは洒脱な肌触りをたたえたシティポップに生まれ変わり、「DEVIL SIDE」のデモーニッシュな凶暴性はボッサ風の官能的なアレンジの前にすっかり影を潜めて新しい輝きを燦々と放つ。しかも、どの曲をとってもまったく違和感を覚えないのだから見事としか言いようがなく、HYDEをして「どのアレンジも大好き、音源が欲しくなるよね。ホントいい20周年だなと思って」と言わしめるほど。HYDEとともにリアレンジを練り上げた彼自慢のバンドメンバーによる卓抜したスキルとセンスの賜物でもあり、どんなアレンジを加えても揺るがないメロディと確立された世界観もまたそれを可能にしたのだろう。各地で演奏されるたび、よりしなやかに、いっそう自由に成長してきたリアレンジバージョンの集大成が朗々と鳴り渡って、オーディエンスを陶酔させる。

ソロ20周年の幕開けと呼ぶに相応しく、セットリストを眺め渡せばHYDEの音楽人生が浮かび上がってくるかのようだ。そして今、コロナ禍によって図らずも彼の音楽人生には新たな展開が訪れようとしているらしい。

「もともと1年前にやろうと思っていた計画はとうに白紙になって、2つ目の計画もちょっと考え直しました」

ファイナル公演初日のライヴも終盤に差しかかった頃、HYDEはゆっくりと、そう明かした。新型コロナウイルスに対する受け止め方は本当に人それぞれで、こうしてツアーを開催することにマイナスな意見もあるかもしれないけれど、文句を言っていたって誰も助けてくれないし、自分の身は自分で守らなきゃいけない。1年前はどんなウイルスか全然わからなかったからステイホームが必要だと思ったけど、今はいかに安全にみんなで生き残っていくかが大事だと思っていると語った次の言葉だった。2つ目の計画とは昨年末から今夏に向けてアグレッシヴな楽曲を次々にリリース、夏にはアルバムを出してツアーをしたいと考えていたという。だが、冷静に現況から鑑みるに自身が求める激しいライヴの開催は難しいと判断。アメリカのロックシーンに本気で挑むリミットをあと2年と定めていたものの、それも今は厳しく、だったら2年後にやりたいと思っていたことを今やろうと気持ちを切り替えたと告白する。

「それが20年前に作ったアルバム「ROENTGEN」の第2弾、「ROENTGEN II」を作ること」

HYDEが告げると場内は万雷の拍手に包まれた。記念すべき1stソロアルバムにして、この上なく静謐な世界観をたたえた異色の傑作「ROENTGEN」。誰のためでもなく自分の欲しいものが欲しいと、自分好みの家具を、設計図の作成から材料の手配まで、何もかも自分でいちから手掛け、組み立てるようにして作られたという本作は今なおファンの間で熱狂的に支持されている。20年前の初期衝動が呼び覚まされたのか、20年を経てじっくりと培われた音楽的欲求が新たに芽吹こうとしているのか、今から楽しみでならない。そんなふうに彼が気持ちを切り替えることができた要因のひとつとして、この“HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE”も少なからず作用しているのではないかとも勝手ながら憶測する。開催が発表されたとき、今ツアーの設定をHYDEは『映画でいう「Episode.0(エピソードゼロ)』、ここから物語が始まり、「Episode.1」となる“ANTI”につながっていく。つまり僕の世界観の始まりの物語が今回のツアー」だと語っていた。ならば今まさに向かおうとしている「ROENTGEN II」への取り組みは“ANTI”とは別ベクトルで繋がる次の物語、「Episode.1’(エピソードワンダッシュ)」となるのかもしれない。

さらに翌7日のステージでは、それに先駆けてソロ20周年記念として1stアルバム「ROENTGEN」を引っ提げたオーケストラツアー“20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021”が来たる6月末より開催されることがHYDEの口から発表された。当時はアルバムを作れれば満足で、ツアーをする予定はもともとなく、それにまつわるライヴもほぼほぼ行なわれていないという。はたして20年の時を超え、この2021年に「ROENTGEN」はどんな音色で鳴り響くのだろうか。きっとその頃にはHYDEが思い描く新しい物語の一端を垣間見ることができるだろう。思いがけないうれしい知らせに色めき立つオーディエンス、“ANTI WIRE”が終わってしまう寂しさもひととき和らいだようだ。

「ああ、美しいな。この光景が見られるだけでも幸せ者だなと思います。この1年、何もかもが変わったね。こんなことが待ってるなんてまったく思いもしなかった。でも、この状況は、これまでの当たり前の生活がなんて尊くて幸せだったのかと気づかせてくれた。いつか、あの頃のような日々が来ると信じて、魂を込めて歌います」

そうして“HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE”ファイナルを締めくくったのは「ORDINARY WORLD」だった。2019年リリースのオリジナル4thアルバム「ANTI」でもラストを飾るDURAN DURANの名曲のカヴァーだ。客席一面にオーディエンスが掲げたスマートフォンのライトが白く瞬いて揺れる。“昨日のために泣いたりしないよ/普通の世界へ向かうために”“普通の世界を目指す時に/僕は生きる方法を覚えるんだ”——サビの和訳がスクリーンに映し出され、最後にHYDEは“I(=僕)”を“We(=我々)”に替え、観客一人ひとりに力強くメッセージを手渡した。コロナ禍という逆境が今の世界ならば我々はその世界を生き抜くための方法を覚えて一緒に歩いていこう、全身全霊を賭したタフな歌声が会場の隅々にまで沁み渡っていくようだ。

「ありがとう。みんなのおかげで無事にツアーが終わろうとしています。今回のツアーはこれまでと意味が全然違いました。みんなも会場に来るだけで大変だったり、スタッフもいつもとまったく心構えが違う状態だし、メンバーもそう。でも、この1つの目標に向かって僕たちは歩んで来ることができて、僕は今回はコロナに勝てたと思っています」

目を潤ませ、名残惜しそうに何度もキスを投げたあと、HYDEはそう晴れやかに告げると、再会を約束してステージを後にした。凛としたその背中の向こうには彼が築き上げていくだろう新しい未来が果てしなく広がっていると思えた。

最終日の終演後には“HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE”がDVD / BDとなって5月26日にリリースされること、また、ツアー“20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021”のスケジュール詳細も告知された。この先も続々と届くだろうニュースを心して待ちたい。

取材・文:本間夕子

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