マカロニえんぴつ、結成の地・横浜から届けられたアルバム『hope』ツアー振替配信ライブを観た

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マカロニえんぴつ 撮影=酒井ダイスケ

マカロニえんぴつ 撮影=酒井ダイスケ

マカロック振替配信ワンマン~Zepp横浜から希望を込めて~  2021.1.27  KT ZEPP Yokohama

2021年1月27日(水)に、KT ZEPP Yokohamaにて、マカロニえんぴつが『マカロック振替配信ワンマン~Zepp横浜から希望を込めて~』を行った。新型コロナウィルス感染拡大により、全公演中止を余儀なくされた『マカロックツアーvol.10~わずかな希望を探し求める者たちよ篇~』の振替公演として開催した無観客配信ライブで、生中継の後、1月28日(木)12:00から1月31日(日)23:59の期間で、見逃し配信も実施された。

まず、アルバム・ジャケットの『hope』のロゴが画面に現れ、次に火の灯ったロウソクがアップになると、その火の奥ではっとりがギターを弾きながら「夜と朝のあいだに」を歌い始め、ロウソクからはっとりにカメラのピントが移り、やがてバンドの演奏が加わっていく──という演出で、ライブがスタート。
しっとりとこの曲を聴かせてから一転、2曲目はアップテンポな「遠心」。ステージ後方に映し出されるグラフィックは、LEDではなく投射式で、スクリーンと一緒にメンバーの身体も染めていく。次の「ボーイ・ミーツ・ワールド」では、低く飛ぶドローンがステージを捉える。途中ではっとり、歌いながらそのドローンを持ち、掌から放ってみせたりする。

昨年4月にリリースしたフルアルバム『hope』の全国ツアーを楽しみにしていたが、世の中が思ってもいなかったような状況になってしまい、中止せざるを得なかったこと。リリース・ツアーでみんなに会いに行って、やっと「ああ、こういうアルバムだったな」と俯瞰して見ることができる、だから『hope』はまだ未完成な気がしていること。なので、このライブを、マカロニえんぴつの結成の地である横浜でやることにしたことなどを、最初のMCで、はっとりが告げる。

リズムも曲展開もメロディも謎だらけな、マカロニえんぴつの中でも屈指の「どうかしてる曲」である「Mr.ウォーター」では、曲に合わせて「大丈夫」の3文字がメンバーの背後に現れる。続く「たしかなことは」からは、カメラワークが寄り中心に切り替わり、歌うはっとりの目線が、時々、まっすぐこちらに向けられるようになる。エモーショナルなメロディと、シンプルなバンド・サウンドのコントラストが美しい、6曲目「ヤングアダルト」で、ライブは一度目のピークを迎えた。曲が終わると画面が切り替わり、メンバー紹介の映像がスタート。4人の幼少期の写真が、次々と映し出される。

「あこがれ」でライブが再スタートすると、メンバーそれぞれ、さっきまでと衣装が替わっている……というか、仮装している。で、立ち位置も変わっている。ステージ中央のツリーを囲むように4人が立ち、外を向いて演奏……いや、これ、ステージじゃない、ドラマー以外はフロアで演奏しているんだ、ということに気がつく。曲のせつなさとメンバーのいでたちが、とてもアンバランスである。

曲を終えて、このコスプレは、各々がかつて「あこがれ」た格好であることを説明。ベース・高野賢也の青いカツラの女装は、生まれて初めてハマったアニメが、姉が観ていたセーラームーンだったから。キーボードの長谷川大喜は、クックパッドに投稿するぐらいの料理好きだから、コック帽に白衣。ギター・田辺由明は、ライブハウスで火を吹いて火災報知器を作動させたことがあるくらいのメタル・キッズだから、金髪ロン毛のカツラ。はっとりは今日のために阪神タイガースのネーム入りユニフォームを作ったこと、背番号の7番は今岡誠選手のそれであることを明かす。

「次は恥も外聞もなく、すべてさらけ出してやりたいと思います」という言葉から、キーボード・ソロを経て「この度の恥は掻き捨て」へ。数曲が集まって1曲になっているかのような(のは、この曲に限らないが)目まぐるしい展開に合わせて、照明やカメラアングルが激しく切り替わっていく。

はっとりがソロキャンプに挑戦するYouTubeの番組『少年キャンプ』等のCM画像数本をはさみ、メンバーがステージへ戻って、事前に投票を募った「ランキングのコーナー」へ。曲紹介なしでたて続けに披露された、3位・2位・1位の曲は、「愛の手」「ワンドリンク別」「MUSIC」。「愛の手」を歌い終えたところで、はっとり、「気持ち、入るね」。思わず口をついて出た感じだった。

「ワンドリンク別」は「世界中のライブハウスに捧げたいと思います」、「MUSIC」は「第1位です。うれしい結果」という言葉から曲が始まった。「MUSIC」の後半のブレイク部分で、はっとり、「みなさん、準備いいですか!」と、カメラの向こうのオーディエンスをあおる。

配信ライブを何度もやってきたので、目の前に人がいない緊張感や違和感はもうない、でもこれでいいとは思っていない、お客さんがいないと始まらないし、それ以前に音楽を愛するスタッフ陣がいないと始まらないことを、思い知っている──というMCから、後半へ。

最新作であり、メジャー・デビュー作であるEP『愛を知らずに魔法は使えない』から披露された「mother」では、さまざまな自然の景観がスクリーンに映し出される。そのビジュアルは、続く「愛のレンタル」で、オイルアートに変わる。<忘れていいのはいつからで 忘れていいのはいつまでだ?>など、はっとりならではの詩情で恋のままならなさを描いていく「恋人ごっこ」を経て、ラストの曲へ。

ギターを爪弾きながら「希望」についてMCするはっとり、「今日は本当に最高の1日でした。マカロニえんぴつという音楽でした。心から、どうもありがとう」と、それを締めくくり、「十三月の風に希望を託して、最後に届けます」という言葉から、アルバムのタイトル・チューンであり、このライブのテーマでもある「hope」に入っていく。今のマカロニえんぴつを構成するさまざまな要素が、ギュッと1曲に押し込まれたような、濃厚で、壮大で、混沌としていて、でもストレートでもあるこの曲は、確かに、ラストにしか置きようがなかったのだろう、と、聴きながら思う。

ライブのとき、はっとりは、歌いながら形容し難い表情になることが、たまにある。無心に歌に没頭するとああなるのか、あらゆる感情がスパークしすぎて逆に0になるのか、それ以外の理由なのかわからないが、なんともいえないヤバい目つきになることがある。今日のライブで、その瞬間が訪れたのは、この曲だった。

歌い終えたはっとりが「どうもありがとう。また、ライブハウスで会いましょう」と言うと、スッと画面が切り替わり、生配信は終了した。何か拍子抜けするほどあっさりした終わり方だったが、そういうところもマカロニえんぴつらしいのかもしれない、とも思った。最後にスタッフロールを流してもいいくらい、さまざまに演出を凝らした生配信だったのに、通常の「ライブハウスでのライブ」として終わった、その感じが。

取材・文=兵庫慎司 撮影=酒井ダイスケ

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