HYDE、ツアー「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」をスタート 最新曲「DEFEAT」初披露

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Photo by 岡田貴之/田中和子

HYDEが、ソロ活動20周年の幕開けとなるツアー「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」を、12月26日土曜日、神奈川・ぴあアリーナMMからスタートさせた。

全国でアリーナ会場を含む7都市11公演を行う本ツアーは、アリーナ&スタンド共に座席ありのアコースティックライヴというスタイルだ。各公演とも、各自治体が設けたガイドラインを遵守することはもちろん、HYDEとそのスタッフたちは、独自でも徹底した感染防止対策を施した。本ツアーに関わる人々に対しての定期的なPCR検査の実施を筆頭に、その徹底ぶりは他に類を見ないほど。おそらくHYDEは、多面的に考えに考え抜いて、「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の開催を決断したのだ。

19:6、HYDE時間でいうところの6:66=666に、ライヴはスタートした。ステージを覆っていた紗幕が落ちると、目の前に現れた緻密なステージセット。それはまるで、未来のゲットーかスラム街、もしくはデストピアを彷彿させた。HYDEとバンドメンバーは、その世界の一角で音楽というエネルギーを放つ、ストリートミュージシャンみたいだ。

「ようこそ“ANTI WIRE”ツアーへ。今日はたまりにたまった辛かったこと、喪失感、恨みつらみを全部吐き出して楽しもうぜ、準備はいいか?」と観客の心を煽った後、12月25日に配信がスタートしたばかりの新曲「DEFEAT」を披露。艶っぽい吐息のような声。ポーンと響くピアノ。他の楽器もセッション前のアドリヴのような雰囲気だ。その空気が、ピタッと止まる。一瞬の静寂。次の瞬間、曲はハイスピードなジャズ調へ展開していった。激しさもあるが、グルーヴはスムース。トレンドをおさえたアレンジは、じつに洗練された現在進行形のニュースクール。スリリングで、心が躍った。

前述したように、今回のツアーはアコースティックライヴと銘打たれたサウンドである。しかしながら、既成概念にあるような、誰もが想像できるようなアコースティックライヴでは決してない。前述したジャズのアレンジひとつとってもそうだ。

他にも、いろいろ斬新なリアレンジがあった。HYDEが叩くドラム缶パーカッションのプリミティヴなリズムを軸にしたバンドアンサンブル全体がシンコペーションを繰り広げるようなファンキーなグルーヴの曲。スタイリッシュなポップスよりのアレンジ、それにより“あぁ、この曲のこの部分のメロディラインって、シティポップスって解釈もあるよなぁ”なんて新発見もあった。バンドメンバー全員が、コーラスをとれるというスキルも功を奏し、まったく古さを感じない。

要するに、アコースティックとはいえ、刺激ばかりだったのだ。2021年にソロ活動20周年を迎えるHYDEは、ずっと自らのアップデートを繰り返して来た。そしてこのツアーでアップデートしようとしているのは、アコースティックライヴという概念なのではあるまいか。だからこそ、彼は、着席というスタイルでも楽しめるような、声は出せなくても心の中で何これウワッとなるような……そんなアコースティックサウンドを作り上げてきたのである。

本ツアーのセットリストには、新旧のソロ曲に加え、VAMPSの楽曲、HYDEソロのライヴでもときおり演奏されてきたラルク アン シエルの「I’m so happy」や、中島美嘉氏(歌唱時はNANA starring MIKA NAKASHIMA名義)に提供した「GLAMOROUS SKY」なども名を連ねている。まさにHISTORY OF HYDEといった内容だが、特筆すべきは、これらの楽曲をすべてアコースティックバージョンで目の当たりにできるということ。たぶん、これから2度とない貴重なチャンスだが、無理せず、自分の心が悲鳴をあげないように行動してHYDEからのメッセージを受け取って欲しい。メッセージはひとつじゃない。受け取り方も、もちろん、ひとつだけじゃないから。

開演から2時間以上が経っていた。最後の曲の前にHYDEはマイクをとった。そして、ここ数年の自然災害の多さに対して“普通の生活に戻れますようにと思いながら歌っていた曲”と、この曲への思いを語った後、こう締め括った。

「僕らはこの試練を乗り越えられると思ってます。もう1度この願いが届くように。魂をこめて歌いたいと思います」

気が付けば、セットのスラム街の奥の方が、うっすらドーンパープルに染まっている様に見えた。夜明けの色とされるドーンパープル。夜明けが来たなら、また始まる。また新しく、HISTORYが始まるのだ。HYDEの、あなた達の。そしてすべての人の。

(文:伊藤 亜希)

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