Nothing’s Carved In Stone・村松拓がNAOTO率いる弦楽四重奏と織りなすライブ、初日配信をレポート

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ROCKIN' QUARTET vol.4  撮影=高田梓

ROCKIN’ QUARTET vol.4  撮影=高田梓

ROCKIN’ QUARTET vol.4  2020.11.29  Billboard Live Tokyo

2020年11月29日、ヴァイオリニスト・NAOTO率いる弦楽四重奏“NAOTO QUARTET”がロックボーカリストとコラボレーションするライブシリーズ『ROCKIN’ QUARTET』の第4弾がBillboard Live Tokyoで幕を開けた。

今回のボーカリストは、Nothing’s Carved In Stone / ABSTRACT MASHの村松拓。実は彼と『ROCKIN’ QUARTET』との間には紆余曲折が存在した。当初、今年の3月に予定されていたホール公演『ROCKIN’ QUARTET SPECIAL』に出演予定だったTHE BACK HORNの山田将司が声帯ポリープの手術を行うことになり、村松が“友情出演”することになったのが最初なのだが、同公演は新型コロナウィルスの感染拡大により延期に。急遽行われた配信には登場したものの、6月に振り替えられた同ライブが中止になったことから、観客を前にしてのライブは行われないままだった。そしてこの度ついに村松が、ピンチヒッターではなく第4弾の主役として、ここBillboard Live Tokyoのステージに立つというわけである。

第1弾から観客としてこの企画を観続けてきたという村松は、この企画初、自ら出演を志願したボーカリストだというだけあって、普段に比べればアクションは控えめながら気迫のこもったパフォーマンスを展開。アーカイヴ配信や大阪・横浜のライブがあるため詳述は避けるが、随所に「そうきたか」と思わされる選曲やアレンジの妙で楽しませてくれた。

Nothing’s Carved In Stoneサウンドの特徴であり魅力、醍醐味は、4人のメンバーが一歩も引くことなく(もちろん曲ごとに計算した上でのことだが)、テクニカルで手数の多いフレーズをぶつけ合うカオティックなアンサンブルや変則的な展開と、そういった特徴を持ちながらも過度にプログレ的にはならずポップな一面も併せ持つ点だ。果たしてそれらが弦楽に置き換わったときにどう再現されるのか?という疑問への一発回答となるオープニングナンバーで度肝を抜いたかと思えば、弾むように爽快な曲あり、生形真一のギターフレーズをヴァイオリンで再現・再構築するNAOTOの圧巻のソロに酔いしれる一幕ありと、起伏に富んだ展開でライブは進んでいく。

「前列の人が全員フェイスシールドをしている、今までの人生で見たことない景色ですからね」(NAOTO)

ライブは感染対策を万全に施した上での開催であり、フェイスシールドやマスク、キャパシティや座席のレイアウトなどイレギュラーな部分は多々あったが、村松は「細かいことは気にせず最後まで付いてきてください。楽しんでいきましょう」と力強く語りかけ、苦難を超えて開催にこぎつけたこの日のライブを楽しもうという空気をしっかり後押しする。

ゲストとして登場した山田将司との軽快なMCタイムでは、
「俺たちみたいな飛沫系ボーカリストは……」(山田)
「いま一番人前で歌ってはいけない」(村松)
と、自らの歌唱スタイルをネタに笑いを誘う一幕も。そんな両名がコラボして届けたのは、重厚で不穏なリフの醸し出すスリルを再現しつつメロディの哀愁が一層際立った「コバルトブルー」と、サビでのハーモニーや開放感溢れるサウンドが心地良い「Shimmer Song」だ。なお、大阪・東京で控える残りの公演でも、それぞれのゲスト(ホリエアツシ、大木伸夫)とのコラボコーナーが用意されているので、なんとも楽しみである。

そして何と言っても惹きつけられたのが、村松のボーカルの強靭さだった。それは単にパワフルというだけでなく、ハスキーに掠れさせたりファルセットを用いたりと技や味も持ち合わせた歌唱なのだが、存在感と揺るぎなさが群を抜いている。本人曰く、ストリングスを背負って歌うことで「覚醒していくのを感じる」とのことだったが、なんといっても普段、下手すると誰もコードのわかりやすいフレーズを弾いていない瞬間もあったりするバンドの音に乗せ、主軸となる歌を歌っている男なのだから、その実力を遺憾なく発揮したと言えるだろう。

後半にかけてはミドルテンポ以下のロックバラードをじっくりと堪能する時間も用意されていた。「今日開催できたのは本当にすごいこと」と改めてスタッフを讃え、来場者に感謝を伝えたあとのラストナンバーでは背後のカーテンが開き、冬空と夜景を背負う格好で情感豊かな演奏と歌を披露。全ての曲を終えると、村松は大きな拍手に送られながら、ちょっと照れくさそうに、けれど誇らしそうに、ちょっぴり名残惜しそうにステージを後にした。

次回は大阪でゲストにホリエアツシを招き、最後は横浜で大木伸夫を招いて、それぞれビルボートライブで行われる。どちらも現地観覧のチケットはソールドしているものの、両日とも2ndステージが生配信されるため、全国どこからでも視聴することが可能(ティザー映像も解禁されたので要チェック!)。『ROCKIN’ QUARTET』は基本的にビルボードでの開催ゆえ、これまで観覧が難しかったリスナーもいるはずで、そういう意味ではコロナ禍により配信ライブが一般化したことは嬉しい側面もある。

「ロックバンドの曲をストリングスでアレンジし直して、ロックボーカリストが歌うって、最高でしょ」

村松が語ったこの言葉こそ、このシリーズの魅力を端的に言い当てていた。百聞は一見に如かず。ぜひ、多くの音楽ファンに目撃してほしい。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓

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