ピアニスト・亀井聖矢、気品纏う音楽で表現豊かに 堂々の東京リサイタル・デビュー!

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亀井聖矢

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2020年10月2日(金)、浜離宮朝日ホールにてピアニスト・亀井聖矢が東京でのリサイタルデビューを飾った。感染症対策ゆえに客席は50パーセントの使用だが、14:00および19:00からの2公演(各回70分)の開催によってファンの期待に応えた。筆者が鑑賞した14:00の回の様子をレポートしよう。

亀井聖矢

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東京での初リサイタルとあって、緊張の面持ちで登場かと思いきや、マイクを手に挨拶の言葉から始めた亀井。「本日はみなさまお越しいただきありがとうございます。まずはベートーヴェンの『ワルトシュタイン』をお聴きください」といったシンプルなものだったが、演奏前からすでに客席とのコミュニケーションをはかりたいと願う18歳の溌剌とした声に、客席からも爽やかな拍手が起こった。

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そして幕開けの一曲、ベートーヴェンのソナタ第21番「ワルトシュタイン」へ。第一楽章は軽やかな和音の連打、起伏の鮮やかなダイナミクス変化により、古典派らしい清々しい推進力をもって展開させた。第2楽章はハーモニーの変化に緊張感を漲らせ、ところどころの旋律線はバス歌手やソプラノ歌手が歌うようであった。第3楽章はスケール、和音ともにバランスのよい美しさで、エレガントかつ雄大に曲想を伝えた。長調、短調、そしてまた長調へといった、ベートーヴェンが嬉々としてハーモニーの変化を楽しんでいるような箇所も、亀井はカラフルに音色を変化させ、輝かしい響きで締め括った。

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堂々とベートーヴェンを弾き切ったあと、ふたたびマイクを手に「ちょっといったん水分補給してきます」と伝え、微笑ましい報告(?)に会場からの笑いも起こった。舞台袖から戻ると、続くショパン作曲のソナタ第2番「葬送」への思いを語った。

「ショパンの内面的な心の葛藤、激しい感情の変化など、まだ自分の経験では想像しきれないものもあるが、コロナ禍における社会情勢などにも思いを馳せながら表現したい」と伝え、厳かにピアノに向かった。

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ロマン派らしい感情的な表現に重きを置いた演奏であることは、第1楽章冒頭からすぐに感じられた。ベートーヴェンの世界からは一転して、各モチーフの際立たせ方や、フレーズ間に置かれる間合いなどに、音楽的な必然性と演奏上の偶然性との狭間に揺らぐ、自由な感情表現が滲む。とはいえ、勢いに任せ、流されるようなことはない。第2楽章などはやや淡白に感じられなくもなかったが、音楽の形状そのものの美しさを伝えた。

白眉と言える瞬間は、第3楽章で訪れた。重々しい足取りで進む主部ののちに訪れる、穏やかな中間部である。メロディと伴奏に明確な音色の違いを持たせながら、淡々と歌い紡ぐ音楽は、どこか天上の世界と通じているかのような、ぞくっと来る美しさを称えていた。その中間部を経た再現部は、一段と深い呼吸を伴い、広がりと奥行きが増した。第4楽章は淡いグラデーションの妙。亀井のショパンは、これからさらに彩りを増していくよう思われる。

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ふたたび「水分補給」の後、最後のプログラム曲を前に「休憩がてら少しお話します」とマイクを持つ。「今日は夜の部にもいらしてくださる方はいますか?…あ、いた… いないと思っていたのですが…」などと自然体で客席とやりとりを交わす。

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続くリストの超絶技巧練習曲集について短く曲紹介のコメントしたあと、第1番の「前奏曲」へ。堂々と、華やかに、和音の厚みを響かせ、リストの悪魔的な魅力を伝える。第5番「鬼火」は、滑らかで美しい音色によって、物語るようなミステリアスな演奏。そして第4番の「マゼッパ」は、場面転換の生き生きとした展開。隅々までエネルギーに満ちており、どれだけ声部が分厚くなっても決して響きは混濁せず、際立たせるべき声部をしっかりと響かせ、立体的な音楽作りを見せつけた。どれだけ力強く和音を打ち鳴らしても、そこにはいつも気品がある。それこそが、亀井の音楽の魅力なのかもしれない。

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集中力の切れない70分のステージの締めくくりは、アンコール曲のリスト。しっとりと繊細な歌心に満ちた「ラ・カンパネラ」であった。クライマックスはバスの重要音を轟かせ、最後までエレガントかつスリリングに展開した。

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亀井の東京リサイタル・デビューは成功と言ってよいだろう。それは会場に響いた大きな拍手が表していた。

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取材・文=飯田有抄 撮影=池上夢貢

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