INORAN、アルバム「Libertine Dreams」全曲試聴公開

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INORAN

INORANのアルバム「Libertine Dreams」全曲試聴動画が本日より公開された。

前作「2019」から約1年振りの本作は、彼がひとりで作曲&アレンジ、ギターやベースなどの楽器演奏、リズムトラックのプログラミングを行い、よりセルフ・プロデュース色の濃い作品となった。

「Libertine Dreams」の詳細が明らかになる中で、制作アプローチが従来のバンド・スタイルと異なることに、当初は少し驚かされた。しかし、本来INORANは曲や作品に明確なイメージを持ち、それをしっかり具現化するミュージシャンである。

この新作を含め、これまでにリリースされた13枚のオリジナル・アルバムは、どれも画然とした彼のビジョンが反映されていた。そう考えると、今回の制作スタイルも、決して奇をてらったものではないことが理解できる。

リリースに合わせてティーザー映像が公開されたリードトラック、「Don’t Bring Me Down」でも顕著であるが、本作は曲のビート、ハーモニー、音使いを含め、ロックやギターというカテゴリーに縛られず、ヒップホップ、ジャズ、アンビエント、エレクトロニカ、EDMなど、よりダンサブルな要素を巧みにブレンドしている。

このロックとダンス・ミュージックの垣根を超えたボーダーレスなアレンジは、本作に強い個性を生み出している。こういった音のイメージは、彼が過去に1stアルバム「想」、6thアルバム「Shadow」という、ダンス音楽のグルーヴを深く掘り下げた作品を発表し、そこで確かな手応えを掴んだことに起因するかもしれない。

「Libertine Dreams」は、コントラストの効いた3つのパートに分かれている。

M-1「Don’t Bring Me Down」、M-2「Soul Ain’t For Sale」、M-3「Libertine Dreams」に宿る今のINORANらしいロックさ、M-4「Purpose」、M-5「Missing Piece」、M-6「Soundscapes」、M-7「’75」のダンサブルなビートを主体としたアプローチ、M-8「Kingdom Come」、M-9「Shaking Trees」、M-10「Dirty World」という、色彩豊かでエモーショナルな展開である。

序盤の「Don’t Bring Me Down」「Soul Ain’t For Sale」「Libertine Dreams」は、前作「2019」から地続きに繋がるような、彼の現在進行形なロック・サウンドを宿している。そこに、ビートやエフェクトのアプローチを変化させ、踊りたくなる軽快なノリが加わることで、“ロック・リフが持つ熱量”と“ダンス・ミュージックの高揚感”が、ターンテーブルのフェーダーを切り替えるように、絶妙なタイミングで組み代わっていく。

中盤の「Purpose」「Missing Piece」「Soundscapes」「’75」では、ジャジーなヒップホップ、都会的なエレクトリック・ハウス、エッジの効いたトランス、きらびやかなアンビエント要素が全面に押し出されている。

「Purpose」と「’75」はヒップホップやアンビエントに傾倒した「想」「MissingPiece」と「Soundscapes」はモダンなハウスやトランスの影響を描き出した「Shadow」のニュアンスを感じ、実にダンサブルな仕上がりだ。特に、「Purpose」はINORANらしいメロディセンスとハーモニーが冴え渡る佳曲であるし、「Missing Piece」は「True」期のアヴィーチー、「Soundscapes」は「Random Access Memories」期のダフト・パンクといった、ダンス・ミュージックの偉大なレジェンドに対する、彼の熱いリスペクトを感じさせる。

終盤の「Kingdom Come」「Shaking Trees」「Dirty World」は、ライブでも非常に盛り上がりそうな、ドラマティックで力強い曲たちだ。

繰り返し聴く中で思ったが、本作のリズムトラックは、微妙なズレを“味”と捉えた、人間的なグルーヴに重きを置きプログラミングされ、その効果が活きたこの3曲の躍動感とストーリー性は、間違いなくハイライトのひとつである。

INORANのボーカルは、どのナンバーもその表現力を増しているが、「Shaking Trees」はそれが極まった曲。このピークを越えて、ラストに渾身のロックナンバー「Dirty World」を持ってくるのも、実に彼らしい終わり方だ。

かつて、INORANは「どんな時も決して止まりたくない。その先に続く景色に、いつもワクワクさせられるから」と筆者に語ってくれた。

だからこそ、彼は現在も続くコロナ渦の中で最善を尽くし、この制作スタイルで「Libertine Dreams」を完成させたのだろう。そう考えると、アルバム・タイトル“Libertine Dreams=自由な夢”は本作のメッセージ性、INORANの音楽に対する飽くなき情熱がとてもよく伝わるワードである。

本作の力強い楽曲がより多くの人々に届き、そして、いつの日かライブで最高の形で演奏される日を、今心から強く願ってやまない…。

Text by 細江高広

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