「TOHO MUSICAL LAB.」新作ミュージカル2本、無観客配信上演!生田絵梨花、海宝直人、木村達成らがシアタークリエに美声を響かせる

アーティスト

SPICE

「TOHO MUSICAL LAB.」

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

2020年7月11日(土)、東京・シアタークリエにて東宝演劇の新プロジェクト「TOHO MUSICAL LAB.」が開催され、その第一弾として、根本宗子脚本・演出の『Happily Ever After』(生田絵梨花・海宝直人出演)、三浦直之作詞・脚本・演出の『CALL』(木村達成・田村芽実・妃海風・森本華出演)の2作品が上演、19時からイープラス「Streaming+」にて生配信された。この配信の模様をレポートする。

配信がスタートすると、まずは『CALL』のキャストと三浦が本作に想う事、また劇場の灯を再び灯す事への想いを、シアタークリエの客席の中から語っていた。
約15分ほどのインタビューの後、ついに『CALL』の幕が上がった。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

どこかの森が舞台。そこはかつて劇場だった場所。今は廃墟となっている。
そのステージ上にはバンドセットが置かれていて、ガールズバンド 「テルマ&ルイーズ」の面々がいる。長女のシーナ(森本)、三女のミナモ(田村)、次女のオドリバ(妃海)がバンドメンバーと共に演奏する。そして無人の客席に呼びかけ、当たり前のように「すごく綺麗な無音!」とつぶやくのだ。

妃海が爽やかな笑顔でこの言葉を口にするが、聴いているこちらとしては胸が苦しくなった。まさについ最近までどこの劇場にもこの“綺麗な無音”が流れていたのだから。このディストピアのような世界が一体いつまで続くのだろうと不安でいっぱいなこちらの気持ちなどまったく知りもしないシーナとオドリバは、廃墟の劇場から昔誰かが着ていた古い衣裳を掘り出し、嬉々として身に着ける。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

一人ステージに残されたミナモは、足で土を蹴り、台の上に飛び乗って足を踏み鳴らし、その音を誰もいない静寂の空間に響かせながらこう歌うのだ「誰かに届けたい、どこかにこの声を届けたい」と。
と、そこに「ヒダリメ」と名乗る謎の男(木村)が現れる。彼はこの劇場専用のドローンで今は羽根が壊れているので飛べないという。ヒダリメはミナモにカーテンコールと拍手を、それが持つ“意味”と共に教え、それはやがてバンドメンバーたちにも伝えられる。無音が当たり前だった劇場に、拍手の音が響く事で再び劇場に灯がともる……そんな一筋の希望を感じさせる芝居だった。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

拍手の意味、カーテンコールを知らないミナモと古き良き時代を知っているヒダリメとの会話はシアタークリエの客席通路、そして座席の中などを自由に動きながら交わされていた。無観客上演を上手く活かした演出だったが、是非観客が入ってからの公演でもなんとかうまく取り入れて欲しいと願うばかりだ。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

また配信映像ということで、すべてが特等席からの視界が確保され、時には思いっきりズームでキャストの表情をとらえ、唇のグロスのきらめきすら眺める事ができる。木村が演じたドローンの画面のような見せ方に一瞬切り替わる演出も粋だった。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

生演奏で繰り広げられる歌は女性三名と男性一名という混成ハーモニー。妃海の眩しい太陽のような明るい声、田村のキュートなシュガーボイス、森本の圧のある中低音に、木村ののびやかな歌声のコラボはまさに本格的オリジナル・ミュージカル。この顔ぶれでいつか別の作品でまた歌声を聴いてみたい。

2作目の『Happily Ever After』も、生田、海宝、根本のインタビュー映像から本編へと導かれた。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

とある少女マリア(生田)の寝室が舞台。彼女の父と母は家で暮らす時間が長すぎるせいか、毎日のように激しいケンカの連続。その音に耳をふさぎ、逃げるように眠るマリア。ふと気が付くと夢の中に知らない青年(海宝)が現れる。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

お互い警戒しながら「ここは私の夢」「いや、僕の夢だ」と主張しあうが、やがて青年は言い争う状態に嫌気がさして「あれもだめ、これもだめ、夢の世界が現実と変わらないのなら、寝る意味がない」と肩を落とす。その様子に共感、そして哀れに思ったのか、初めは彼と「離れてほしい」「近寄らないで」と距離を取ろうとしていたマリアは、やがてその距離を徐々に縮めて心を通わせるのだった―。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

こちらの作品はコロナ禍で生まれた基準=「ソーシャル・ディスタンス」を踏まえ、男と女、さらには人間の心の距離に置き換えて描いているように感じらせた。台詞の中で「誰かの事を深く知ると自分の事も知ってもらいたくなるが、その期待が大きくなりすぎるのが怖い」「簡単にわかるって言いたくない、もっと慎重にこの気持ちを伝えなくちゃいけない気がする」と恐れる気持ちから始まり、やがて相手に対する想いは「今伝えたい人が目の前にいる」「どの言葉を選んでも僕に伝わる気持ちは同じ」と変化してついには「とっても近づきたいけど、今触れてしまったら、朝起きてあなたがいない世界に耐えられなくなりそうで」と狂おしいほど相手を求める愛の呪文へと昇華しているのだ。例え夢の中の出来事であっても。

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

「TOHO MUSICAL LAB.」  撮影:桜井隆幸

初恋のドキドキから拗らせまくった女心まで(笑)、女性の心理を描く事に定評がある根本が描いた珠玉のラブストーリー。これにミュージカル界のホープである生田と海宝が加わり見事に世界を形作った。生田の甘く可憐な歌声と海宝の艶のある美声、そこに清竜人の音楽が重なるとまるで夢の世界にいざなうように美しい世界が広がる。こちらのチームについても将来同じ顔触れで共演してほしいと願うばかりだ。

取材・文=こむらさき
撮影=桜井隆幸

関連タグ

関連タグはありません

オススメ