Takuya IDE『So Far So Good』
Takuya IDE『So Far So Good』
2020.6.13 渋谷チェルシーホテル
新作内で伺えた「贈り物のような楽曲たち」の直接の披露。この事態が故、逆にそれを特別なものへと変換して届けようとする機転。この日ならではのサプライズや視聴者とのコミュニケーションーーこの日のTakuya IDE久々のワンマンライブからは様々な形での我々へのギフトを感じた。そして我々もそれらを歓んで感受。まるで自身へのご褒美や贈り物のように響き届くラップや歌たちを共に交歓し合った。
Takuya IDEが6月13日に初の無観客生配信ライブを行った。元々同日時や場所は彼の新作発売記念ワンマンを予定していたもの。この状況下、みなの安全と安心を最優先に通常のライブは断念。とはいえ、進み続ける気概も込め今回の試みへと踏み出した。
Takuya IDE『So Far So Good』
Takuya IDE『So Far So Good』
ライブは定刻にスタート。スモークの中、青白く浮かび上がったステージと明滅するストロボの向こう、Takuya IDEとDJ HIRORONが表れる。まずはIDEがCVを始め楽曲提供やラップにて参加しているスマホアプリ『ブラックスター 〜Theater Starless』から「雷神」のイントロが登場SE代わりに独特の緊張感を場内に漲らせていく。それを突き破るように現れた「雷神」では、バウンス性溢れるBPM高めなブロークンビーツが起爆。トリッキーで攻め攻めのIDEのラップと共にリスナーも並走を始める。オーバーサイズのオレンジ色のコート姿にブロンドの髪という出で立ちのIDE。つけていたサングラスを外し、続いては攻撃性と社会性の高いラップの数々で我々に詰問してくる。「ライブノチケットヲタテマツル」でのレスポンスでは視聴者も一斉に「タテマツル」とチャットにて応答。ケロらせたモチーフフレーズのロングトーンも印象深い「ズットマッテル」や「Dante」のワンフレーズが次々と同曲にブレンドされ、トリッキーな波状攻撃が始まる。
その後も新作から「Black Sheep」がグイグイと胸倉を掴んでくれば、コートを脱ぎ突入した「DAY 1」では、「自身の成功も失敗も未来や人生は己で決める。外野はとやかく言うな」「後世に自身のラップを残すことが課せられた使命や宿命だ」との強い啖呵に、画面がグイっと現場ステージへと引き寄せられる様を見た。
ここでMC。ライブDJとしてもエンジニアとしてもIDEとサウンドを追求し続けるHIRORONが、この日特製のインタールードを用意。そこに乗せ、まずは画面越しのコール&レスポンスが。想定はアリーナだ。リスナー側もチャットを通しリアクション。視聴者も自宅ながら環境を妄想できるのも配信ライブならではだ。
Takuya IDE『So Far So Good』
Takuya IDE『So Far So Good』
ここからはオレンジを基調とした暖色系の照明が場内を柔らかく優しく包む中、新作『So Far So Good』の曲たちが次々と贈られる。振り返ると『So Far So Good』は、前作アルバム『ONCE』がIDE当人のアイデンティティとフィロソフィ、アイロニーやいい意味でのエゴが全開だったのに対し、どこか聴き手を想う「贈る感」が色濃い印象があった。そして以降それは次々と確信へと変わっていく。
ファンキーで軽快なシティポップ感溢れる「So Far So Good(feat.⼩林太郎)」では、プリセットされた小林太郎の歌声もジョイン。IDEも自らバウンスしながらオートチューンを利かせた歌声と弾んだラップを織り交ぜ場内をアーバンクルーズへと誘う。対して「Gift」では、HIRORONの声ネタスクラッチも炸裂。君が今生きていくこと自体が美しいと改めて教えてくれているように響いた。また「ドクター」では、ここまで一生懸命やってきたことをしっかりと見守ってくれ、認めてくれるご褒美のような同曲が心に沁み込んくるのを感じた。
ここでIDEから改めてライブが出来ることへの謝意が伝えられる。そして大好きな作品を大好きな人たちとライブで出来る幸せも告げ、全国各地や国外でリアルタイムで視聴している方々からも無数の返礼のレスポンスが寄せられる。
Takuya IDE『So Far So Good』
この日は特別な施策も用意されていた。同日に向け誰もやっていない上に面白く、みなが驚き喜ぶものを思案。それが超高性能コンデンサーマイクにてより視聴者の近くや傍らで歌われているように、といった試みであった。いずれは言わなくてはならない大切な言葉を思い浮かべ、実際に伝えるように歌った「Silent」、自分を応援してくれている方々に「それも間もなくだから楽しみにしていて欲しい」と伝え、いつか自身を保ったまま世界の方から自分を見つけてくれる密かな誓いを確信に変えてくれる「特別な星」らが、実際に耳元で歌われているように響いた。また、この施策ではあえて目を閉じ聴いていた方々もおられた模様。
Takuya IDE『So Far So Good』
HIRORONも着ていたジャケットを脱ぎ、「ここからはこれまでの雰囲気をいい意味でぶち壊していくから!!」とIDE。「飛び跳ねていく準備は出来ているか!!」と視聴者をバウンスさせるべく、ラップ映えする楽曲が立て続けに放たれていく。
リミットや上限を突き破り青天井へと変え、無限の可能性を信じさせてくれた「天井」、土の中からいつか出て羽ばたく日を「今に見てろよ!!」と言わんばかりに伝えた「MINMIN」、『ブラックスター』からは「駄犬」が、「雷神」同様、特別にフルバージョンにてダブステ交りのサウンドと共に吠え噛みついてきた。
「匿名でつぶやくよりきちんと歌にしちまおうぜ!」(IDE)と「MUSYOZOKU」が今の国政とのオーバーラップを叱責し、ダークファンタジーなトラックに乗せ、「俺は面と向かい遠慮しないでシッカリと伝える」と入った「HERO」では、強くラップされるその信憑性溢れる言葉たちが聴く者の明日を明るく照らしてくれた。
Takuya IDE『So Far So Good』
ここでMC。かなり息も荒い。無観客ながら全身全霊、真剣にライブしているが故だ。
『ブラックスター』の説明を挟み、「HPの全てをぶち込む!!」(IDE)と同ゲーム収録の「日蝕」をこちらもフルバージョンで放出。緊迫感とスリリングさと雅で和が織り交ざったトラックの上、ストイックでタフ、唯我独尊的な言葉の洪水が、「この目を見ろ!!」と言わんばかりにしっかり睨んでくる。
ここでこのライブを2人が振り返る。「もちろんみんなと共に生でやりたいのが本音だけど、このような日だったからこそ試したいことがたくさんできた」とHIRORON。「色々なチューンのブロックを経たけどあっという間だった。この試みだからこそのライブが出来たと思う」とIDE。
Takuya IDE『So Far So Good』
ここからは終盤戦。「最後はこの夏をハッピーに終わりたい」と、間もなくやってくる夏へと想いを馳せさせ、淡い期待を抱かせる「Saudade」がキラキラと放たれ、明るく軽快でファンキーな「調子 Ride On」ではHIRORONもトランスフォーマースクラッチを交え、「さぁ、このビートにライドオンしな!!」と誘ってくる。また、「コンプレックス」ではトラップサウンドと共に、HIRORONがリアルタイムでサンプラーのパットを叩きビートを生み出し、そこに半端ないIDEのトリッキーな自己レぺゼンを絡み合わせていく“凄さ”を見た。そして本編ラストは開放感と高揚感たっぷりな「Lucky Day」。同曲がみなを大団円と導いていった。
Takuya IDE『So Far So Good』
残念ながら我々が配信で観れたのはここまで。しかしライブはまだまだ続いたようだ。この後も、「T.G.T.」「YOU-TRICK」といった過去曲や、『ブラックスター』から「Judas」「monokaki」も披露。他にも「n」や「ホームステイ(feat.伊藤修平)」が合間合間のMCも含め披露されたと聞く。それらは後発のDVDに収録されるという。
意外にもライブDVDはIDEにとって初。目下それを制作するためのクラウドファンディングを実施中だ。こちらにはこの配信ライブがアンコールも交え完全収録され、インタビューやメイキングも収められるという。同支援のリターンとして、ライブで販売予定だったグッズたちも用意されている。
Takuya IDE『So Far So Good』
誠に幾つもの「贈る」の言葉が浮かんできたこの日のライブ。きっと多くの方々が彼が無人ながら、たゆまず全身全霊を込め、想いの丈をぶつけるように放ち、届け、差し出し、手渡すように贈られた数々ギフトを尊く受け取り大切にしたことだろう。合わせて“歌やメッセージを届ける”ことの尊さや大事さ、愛しさや逆に言うと難しさをなおのことIDEたちも感じたのではないだろうか?
自身のアイデンティティをさらけ出し、その空いた余白に今度は聴き手や伝えるべく人の想いまでも入れ込む懐の深さを見せ始めたIDEのラップ。今回のこの「贈り物」たちは、きっとさらにファンとの絆を強く、信憑性確かなものへと変えてくれたに違いない。そう、IDEからの歌やラップを通しての贈り物たちは、あなたのその空いた余白に向け、これからもたゆまず贈り続けられてゆく。
文=池田スカオ和宏 撮影=阿部稔哉