英EMIレコード部門はユニバーサルが音楽出版部門はソニーが買収

コラム 高橋裕二の洋楽天国

【EMIミュージック、レコード部門はユニバーサルへ音楽出版部門はソニーへ(売却話その13)】

アメリカ時間の金曜日(日本時間の土曜日)朝、経済新聞ウォール・ストリート・ジャーナルがEMIミュージックの売却を報じた。前日(11月10日)ニューヨーク・ポスト紙が可能性について伝えたとおり、EMIミュージックは分割され、レコード部門はユニバーサルミュージックへ、音楽出版部門はソニーへ売却されるという記事。その後米英の報道各社が相次いでこの買収を伝えている。

EMIミュージックのレコード部門にはビートルズやピンク・フロイドを始め、先週米英でアルバムがチャートで1位になったコールドプレイや、最近では女性ポップ・シンガーのケイティ・ペリーや3人組のカントリー・グループ、レディ・アンテベラムといった新しいミリオンセラー・アーティストを抱える。

業界関係者が驚いたのは、本命ではないユニバーサルミュージックとソニーによって、レコードと音楽出版の2部門がそれぞれ買収されたという事よりはその買収金額だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ユニバーサルミュージックが支払う買収金額は約1463億円(1$77円換算)。ワーナーミュージックを保有する本命アクセス・インダストリーズの最終提示金額は約1155億円だった。

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また音楽出版部門の本命はドイツのBMGライツ・マネージメントで約1540億円(1$77円換算)を提示していた。今回ソニーが落札した価格は約1694億円。ソニーの場合、ソニーのレコード部門であるソニーミュージックや音楽出版部門であるSony/ATVによる買収ではなくソニー本体による買収だ。但し買収後はSony/ATVに組み込まれると思われる。

Sony/ATVはソニーが75%、マイケル・ジャクソンの遺産管理団体が25%の株を保有する。ビートルズの主要楽曲をほぼ所有する音楽出版ノーザン・ソングスを含む超優良な音楽出版社だ。またEMI音楽出版はモータウン・レコードのヒット曲を含む、ワーナー/チャペルと並ぶ世界の2大音楽出版社。

因縁めいた話がある。Sony/ATVの会長兼最高経営責任者はマーティン・バンディアー。友人と作った音楽出版社SBKをEMIミュージックに売却。その後17年間EMI音楽出版の最高経営責任者だった。2007年、Sony/ATVの最高経営責任者に就任。今回の買収となる。

レコード部門を買収したユニバーサルミュージックのルシアン・グランジ最高経営責任者は、「ユニバーサルミュージックにとって、歴史的な買収だ。私はイギリス人だ。EMIは傑出したイギリスのレコード会社。EMIのアーティストとヒット曲は私の10代のサウンドトラックそのもの。ユニバーサルミュージックはEMIの音楽文化を継承する事を誓う」とコメントした。

ローリング・ストーンズのミック・ジャガーは、「とても前向きな出来事。EMIが再び血の中に音楽が流れている人達によって買収された事を本当に歓迎する」とコメント。コールドプレイのマネージャーであるデイヴ・ホルムズは、「ユニバーサル・チームとの仕事に期待する。ユニバーサルミュージックには優秀な幹部が揃っている。この事はEMIレコードのアーティストや幹部にとってとてもポジティブな事だ」とコメント。アンドリュー・ロイド・ウェバーは、「レコード業界の未来にとって刺激的なニュースだ」と話した。(業界誌ヒッツより)

今年(2011年)のアメリカのレコード業界の近直の市場シェアは以下だ。(10月11日現在。業界誌ヒッツより)

1位)ソニーミュージック 29.8%
2位)ユニバーサルミュージック 29.3%
3位)ワーナーミュージック 11.0%
4位)EMIミュージック 9.3%

ユニバーサルミュージックがEMIミュージックを買収する事で、3大メジャーといっても2強1弱の様相になった。

1位)ユニバーサルミュージック(含むEMIミュージック) 38.6%
2位)ソニーミュージック 29.8%
3位)ワーナーミュージック 11.0%

世界全体では、国際レコード製作者連盟(IFPI)によると、2010年の市場シェアはユニバーサルミュージックが27%、EMIミュージックが9%なので、買収によってユニバーサルミュージックの市場シェアは36%ということになる。今後のポイントは世界各国、特にEU諸国での競争法(独占禁止法)に抵触する恐れが高い事だ。クリアーするのには長期間かかる。

ソニーにとってソフトウェア企業の買収は1988年のCBSレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)、1989年のコロンビア・ピクチャーズ(現、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)に続く大型買収。金曜日のニューヨーク証券取引所でソニーの株価は、前日の終値に対し0.43ドル(2.51%)アップの17.54ドルで引けた。

現時点(11月12日07時)でユニバーサルミュージックと親会社のヴィヴェンディは正式にプレス発表したが、ソニーはまだプレスを発表していない。

 


【一夜あけて(EMIミュージックの売却話その14)】

米国ソニーも11日、EMI音楽出版を買収したと正式に発表した。それによると今回の買収は米国ソニーの主導のもと、複数の企業や個人の投資家がコンソーシアムを組み成功したものだという。米国ソニーのロブ・ウィーゼンタール副社長が語った。

それによるとEMI音楽出版を取得したことにより新会社を設立する。新会社の株式の持ち分は米国ソニーが38%。加えてマイケル・ジャクソンの遺産管理団体、早くから買収の為に投資を決定したアブダビの投資ファンド「ムバダラ」、アメリカの投資会社「ブラックストーン」や「Jynwel Capital Limited」に加え、イーグルスを世に送り出した伝説の音楽マン、デヴィッド・ゲフィンも投資する。

このやり方はエドガー・ブロンフマン(現ワーナーミュージック会長)がタイム・ワーナーからワーナーミュージックを買収したときと一緒。エドガー・ブロンフマンは自身の資金に加えいくつかの投資ファンドをまとめた。

米国ソニーによると、EMI音楽出版の実務は故マイケル・ジャクソンと共同で保有する音楽出版社のSony/ATVが担当することになる。既存のEMI音楽出版の制作(A&R)スタッフはそのままだそうだ。現Sony/ATVのマーティン・バンディアー最高経営責任者は17年間EMI音楽出版の最高経営責任者を務めたベテラン。EMI音楽出版は自分が育て上げたという自負がある。当然EMI音楽出版の隅から隅まで知っている。

今回の買収がもたらしたもの。EMI音楽出版はジョベット(Jobete)音楽出版を持っている。モータウン・レコードの創設者ベリー・ゴーディーが作った音楽出版社で後にEMIに売却した。この出版社には勿論ジャクソン5のヒット曲「ABC」や「帰ってほしいの」他多数のモータウン・レコードのヒット曲がある。 Sony/ATVはソニーとマイケル・ジャクソンの会社。曲名通りマイケルのもとに帰ってきた。

記事提供元:Musicman オススメBlog【高橋裕二の洋楽天国】

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