Pandoraの席巻がもたらしたミュージシャンの勝利「未来は音楽が連れてくる」連載第31回 

コラム 未来は音楽が連れてくる

▲ビルボード誌に掲載された公開質問状。Pandoraと地上波ラジオ陣営が支持するインターネットラジオ公平法案に反対しており、132組に及ぶメジャー・アーティストの署名が載っている
Image:Home | musicFIRST Coalition

 

インターネットラジオ公平法案にメジャー・アーティストたちが反対表明

全米を巻き込んだ怒濤のSaveNetRadio(セーブネットラジオ ネットラジオを救え)運動から5年。Pandoraの名は再び、メディアを騒がせようとしていた。

2012年11月。

Pandoraに対して、メジャー・アーティストたちが署名を連ねた公開質問状が、ビルボード誌に掲載された。

「僕等はPandoraの大ファンです。だからPandoraには、ディスカウント価格で楽曲を使用してもらってます(法定楽曲使用料は毎年上昇し、現在0.19セント/再生だが、Pandoraは2007年の0.11セント/再生で8年契約している)。なぜ、楽曲使用料をもっと下げようとするのですか? なぜ僕等に相談せずに、また議会に働きかけようとするのですか? それがパートナーのやることですか? フェアなやり方なのですか? 」

公開質問状には132組のアーティスト名が記されていた。

ビリー・ジョエル、ブライアン・アダムズ、エイミー・グラント、ナタリー・コール、ドン・ヘンリー、キス、ドアーズ、ピンク・フロイド、TOTOといったベテランたち。

そしてマルーン5、Ne-Yo、ジェイソン・ムラッズ、アウル・シティ、ケイティ・ペリー、ミッシー・エリオット、リアーナたち、今をときめくミュージシャンの名があった。

5年前、Pandoraが率いる運動を支持したミュージシャンとマネージャーは7,000名を超えた。それと比べると随分数字が落ちるとはいえ、かつて救世主のようにもて囃されたPandoraに少なからぬミュージシャンが、抗議しているのだ。

いったい、何が起こっているというのか。

この公開質問状は、11月末に米連邦議会で開かれる、ある公聴会に対する牽制だった。公聴会の議題は「インターネットラジオ公平法案」の是非についてだ。

2007年、CRB(Copyright Royalty Board 楽曲使用料評議会)が決定したインターネット放送の楽曲使用料は、全てのインターネット放送が廃業するほどの法外な金額が設定されており、全米を巻き込む大混乱を招いた(連載第29回)。これを調停すべく議会が介入し、インターネット放送調停法案(WSA of 2008)が制定された。

だが、この調停法は時限立法で、2015年には失効することになっていた。つまり、3年後には、CRBの定めた高額な楽曲使用料がふたたび有効になる。また騒ぎが起こり、二の舞となることが予想された。

つまり2015年までに、今度こそ恒久法で著作権法を改正する必要が、議会にはあった。

Pandoraを代表としたインターネット放送陣営は議会に働きかけた。そして、ジェイソン・チェイフェッツ下院議員(Jason Chaffetz, 共和党ユタ州)が改正法案をとりまとめ、議会に提出した。

それが、「インターネットラジオ公平法案」(Internet Radio Fairness Act)、通称IRFAだ。

公平法と名が付いているのには理由がある。

現在、Pandoraは売上の50%以上を、楽曲使用料に支払っている。その金額は莫大で、2年後には米ミュージシャンの収入は、iTunesから得る金額よりも、Pandoraから得る金額の方が上になるほどだ(連載第26回)。

楽曲使用料は1回再生される毎に要求される。そして、ひとりあたりの広告売上単価というものは、いくらインターネット広告市場が拡大しても、そうそう簡単に上昇するものではない。結果、PandoraはMTVの4倍に至る人気を得ながら(連載第23回)、なかなか黒字化できないでいる。

いっぽう、インターネット放送のライバルたちは、これほどの楽曲使用料を義務付けられていない。衛星ラジオのSirius XM(会員数200万人)は売上の7.5〜8.0%を支払っている。地上波ラジオに至っては、ビタ一文もミュージシャンに支払っていない。結果、衛星ラジオと地上波ラジオは潤沢なキャッシュフローを持つ一方、リスナー数では遙かに勝るPandoraは赤字のまま、という不公平な状態に陥っている。

この不平等な状況は、現行の著作権法が、インターネットラジオ・衛星ラジオ・地上波ラジオを、それぞれ別の基準で裁いていることに起因している。

「われわれインターネットラジオの楽曲使用料も、地上波ラジオのようにタダにしてくれとはいいません。少なくとも衛星ラジオと同じ基準で定めて欲しいのです」

これが、インターネットラジオ公平法案の主旨だ。

ミュージシャンにとってiTunesに等しい収益源となりつつあるPandoraの楽曲使用料。これが、衛星ラジオと同じ料率になったとしたらどうだろう。楽曲使用料が売上の50%から、Sirius XMと同じ7.5%になると仮定すると、Pandora経由のミュージシャンの収入は、85%のダウンになる。

だから一部ミュージシャンたちは、Pandoraに抗議した。

ビリー・ジョエルたち132組のメジャー・アーティストから賛同を得た公開質問状は、musicFirst(ミュージックファースト)という団体が出した。パフォーミング・ライツ(連載第29回)の確立を目的とした団体だ。

実はこのmusicFirst、SoundExchangeが創立に関わっている。

SoundExchangeは元々、米レコ協(RIAA)のいち事業部だったとはいえ、現在は公共団体だ(連載 第29回)。公共団体が民間の団体創設に関わったことは違法だと訴えられ、現在、係争中となっている

SoundExchangeがインターネット放送から徴収する楽曲使用料は、レコード会社とミュージシャンで折半されている。楽曲使用料の大幅減は、ミュージシャン、レコード業界の双方にとって痛い。レコード業界とミュージシャンの利害は、この件では一致した。

この公開質問状の本質は、SoundExchangeの背後にいる米レコード協会(RIAA)がPandoraに投げた牽制球、と見ることも出来るかもしれない。

 

ジャム&ルイスのジミー・ジャムが公聴会で証言

連邦議会の開いた公聴会には、ネットラジオと地上波ラジオ、レコード産業とミュージシャン、そして投資ファンドと学界の代表が集い、証言を競い合った。

ミュージシャンを代表して立ったのはジャム&ルイスのジミー・ジャム。サウンドプロデューサーの頂点と言っていい存在だ。

80年代にジャネット・ジャクソンをヒットさせ、90年代にはメアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ボーイズ・II・メンを手がけてきた。アカデミー賞を主催するレコーディング・アカデミーの名誉教授も務めている。

ジャムは証言の冒頭で「レコーディング・アカデミーに属するメンバーの大半は中堅ミュージシャンです」と述べた。

彼らの生活を守るために、自分はここに来た、と。

Pandoraの楽曲使用料がミュージシャンの中産階層を創出しつつある、と自負するティム・ウェスターグレン(連載第26回)を意識した発言だ。

続けて、iTunesやAmazonが1曲あたりレコード産業とミュージシャンに70セントを支払うのに対し、Pandoraはわずか0.12セント(楽曲使用料0.11セント+作詞作曲料0.01セント)しか支払わないのだから、今でも十分安いではないかと述べた。

Pandoraの楽曲使用料を売上の50%から、衛星ラジオと同じ売上の8%にしたら、ミュージシャンがPandora経由で得てきた収入は、84%ダウンする。中堅ミュージシャンの生活を破壊するのではないか。

終わりに、公平を謳うのなら、なぜ法案の中に地上波ラジオが入ってないのかと指摘した。インターネットラジオ公平法が施行されても、依然、地上波ラジオはパフォーミング・ライツ料(楽曲使用料)を支払わなくてよいのは不公平ではないか、と。

カリスマの核心を突いた発言は、議員たちの心にさざ波を引き起こした。

 

公平法案が通過しても、Pandoraの楽曲使用料が大幅に下がる可能性は低い

連載第31回 Pandoraの席巻がもたらしたミュージシャンの勝利
▲米連邦議会の公聴会に、ミュージシャンを代表して出席したジャム&ルイスのジミー・ジャム。「Pandora陣営の押す公平法は地上波ラジオを除外しており、公平でない」と核心を突き、議員たちに印象を残した
Image : Wikimedia Commons

ジャム&ルイスのトラック・メイキングに憧れて育った筆者だが、読者のために、ジャムの証言に含まれたポジション・トークを指摘しておく必要がある。

まず、ラジオとダウンロード販売を同列にして、料率を話すのはフェアでない。先にも述べたが、一見雀の涙に見える0.11セントも、積もり積もればiTunesに匹敵する金額になって中堅ミュージシャンの生活を支えている(連載第26回)。

次に、Pandoraの「公平法案」だと85%減のディスカウントになるという指摘だが、公平法案は、PandoraとSirius XMの料率を同じにする法案ではない。

Sirius XMの楽曲使用料は、1976年に成立した著作権法の801(b)条項を判断基準にして設定された。Pandoraの楽曲使用料も、この801(b)条項を基準に設定してもらいたい、という要望が公平法案だ。

1998年、Sirius XMほか衛星ラジオの楽曲使用料率を設定する際、市場調査が行われ、売上の13%が市場価格として相応しいと結論づけられた。これが8%になったのは、この801(b)条項による。

801(b)には、「(放送事業者に※)悪影響をもたらさないように」という指示がある(ノン・ディスラプション項目)。価格設定が、放送事業者の財務状況や、放送業界の成長力を損なわないように、情状酌量しなさい、という指示だ(※802を801に訂正 2013年1月7日)。
(※ 本来は放送事業者に限ったものではなく著作権利用者を対象とするが、ここでは話を限定した)

これに基づき、衛星ラジオの楽曲使用料は、想定された市場価格(売上の13%)から4割ほど情状酌量された8%となった。

衛星ラジオ技術を育てる国益や、衛星ラジオの受信機の費用、衛星事業の成長力の保証、そして衛星事業に投資した投資家の利益に「悪影響をもたらさないように」することが考慮された。

インターネット放送の話に戻ろう。

2015年、時限立法のインターネット放送調停法が失効するとどうなるか。CRBが「想定される市場価格」と考えた0.23セント/再生(※ 76 FR at 13048)が、法定楽曲使用料となる。

この市場価格を、801(b)条項に従って情状酌量すると、衛星ラジオの前例に従えば4割減で、0.13セント/再生となる。

Pandoraの現在の楽曲使用料は0.11セント/再生。むしろ現在より若干高い。

もちろん、上記の通り進むとは限らない。

前回の「想定される市場価格」を決定する時、レコード産業側は、オンデマンド配信の相場を最高値の参考値として提出し、これが(少なくとも当時)法外な楽曲使用料の根拠となった。公平法案ではこれを禁じようとしている。オンデマンド配信はCDやダウンロードを喰うため、放送型配信より相場が数倍高い。

そうすると「想定される市場価格」は0.23セント/再生より低く設定されることになるだろう。そこから801(b)条項のノン・ディスラプション項目に従って情状酌量してゆけば、Pandoraの楽曲使用料 は、現在より下がる可能性が高い。

とはいえ、Pandoraの主張が「楽曲使用料を売上の50%から、衛星ラジオと同じ8%にしろ」という極端な話ではないのは事実だ。この点を留意して動静を見守った方がよいだろう。

 

Pandora陣営と地上波ラジオ陣営が呉越同舟

公平法案には地上波ラジオ陣営も賛同した。AM/FM陣営は4年前、インターネット放送調停法の成立を妨害し、Pandora陣営を潰そうとした(連載第30回)。

その地上波ラジオ陣営がなぜ、今回はPandoraの味方についたのだろうか?

その理由は逆説的に聞こえるだろう。Pandoraがより大きな脅威になったからだ。

アメリカのラジオ市場は巨大だ。レコード産業の4倍を誇る。このラジオ市場の3割がインターネットラジオのものになると予測されている(連載第23回)。放っておけば、地上波ラジオの市場は縮小する。Pandoraを一人勝ちさせていくわけにはいかないのだ。

Pandoraのヒットで、地上波ラジオもインターネット放送に参入を試みている。日本で言えばRadikoのようにサイマル放送を始めたラジオ局も随分増えた。

850局を傘下に収める米ラジオ業界最大手クリアチャンネルは、Pandoraクローンとサイマル放送のハイブリッドをサービスインさせた。現在、クリアチャンネルの創ったiHeartRadio(アイハートレディオ)は、Pandoraを追撃している。三大放送ネットワークのひとつCBSも、イギリスのソーシャルラジオLast.fm(第3章)を340億円で買収し、傘下に収めた。

ということは、これまでビタ一文、楽曲使用料を払ってこなかった彼らも、これからはPandoraと同じく高額な楽曲使用料を支払わなければならない立場に立った、ということになる。

かくてPandoraと地上波ラジオの呉越同舟は成った。

ラジオ業界を代表して公聴会に登壇したのは、NAB元会長ブルース・リース(Bruce Reese)だ。NABは地上波放送の代表的なロビイ団体だ。リースは、20のラジオ局を持つハバード・ライオ (Hubbard Radio)の経営者でもある。

ハバード・ラジオも地上波放送をインターネットに同時配信している。したがって、CRBの定めた法定楽曲使用料をSoundExchangeに支払って運営している。

「正直申しまして、トークがメインのインターネット放送で創った若干の黒字で、音楽メインのインターネット放送の赤字を埋めている、というのが現状です」

もちろん、広告営業の努力は怠っていない、とリースは補足した。しかし音楽メインのインターネット放送では、どうやっても楽曲使用料が売上を超える、という。

そしてリースは、ラジオ業界はイノヴェーションを起こすことに前向きだが、売上を超える楽曲使用料ではイノヴェーションに参入しようがない、と核心を突いた。レコード産業がラジオ産業のイノヴェーションを阻害している、という論法だ。

今の仕組みのままでは、地上波ラジオの事業者はインターネット放送への本格参入は不可能だ。そうなれば、いずれ衰退する側に追い込まれてしまう。

だから地上波ラジオ業界は、インターネットラジオ公平法案に賛成する、というのがリースの主旨だ。801(b)項目に基づき、インターネット放送事業の財務状況や成長余力に「悪影響をもたらさない ように」、情状酌量が加わるなら、安心して参入出来る。

証言の終わりに、リースもまたポジショントークを加えた。

「公平を謳うなら、地上波ラジオもこれからは楽曲使用料(パフォーミング・ライツ料)を払うべきだ」という論調に反対する、と述べたのだ。ラジオは一世紀に渡ってレコード産業と互恵的関係を築いており、プロモーションで常にミュージシャンを助けてきたのだからいいじゃないか、と。いつもの言い回しだった。

公平法案から地上波ラジオを除外した真意は、このポジショントークから透けて見えた。Pandora陣営と、地上波ラジオ陣営が組むためだ。

 

Pandoraの席巻がもたらしたミュージシャンとレーベルの勝利

公聴会は3日に渡って続いた。

各陣営は白熱し、証言は相当な分量となった。本稿のために筆者が目を通した資料だけで、100ページはあったように思う。

中でも、ミュージシャンの代表を務めたジミー・ジャムの証言は議員たちの心を捉えたようだ。「地上波ラジオをえこひいきする公平法案」という核心を突いた指摘は、法案の政治的な色彩を炙り出した。

広大な国土に1万7000のラジオ局を持つアメリカはラジオ大国だ。ラジオ産業はその巨大な政治力を背景に、パフォーミングライツを拒み、楽曲利用料の支払いを拒み続けて来た。

我が国を含め、世界では当たり前となったパフォーミングライツを、アメリカでも確立する。そのためにレコード産業が前世紀末に仕掛けた第一作戦が、デジタル・パフォーミングライツの確立だったと先に詳説した(連載第29回)。

21世紀の現在も、アメリカの地上波ラジオはパフォーミングライツを認めようとしない。

だが、Pandoraが起こしたインターネット放送の席巻で、地上波ラジオもまた、インターネット放送へ参入を余儀なくされている。インターネットに削られる売上を維持するためだ。

ラジオ市場の3割はいずれインターネット放送にかわると予測されている(連載第24回)。そしてラジオ産業は、リースの証言にある通り、インターネット放送に関しては楽曲使用料(デジタル・パフォーミングライツ利用料)を支払うことに同意している。

これは、既にレコード産業とミュージシャンの勝利といえる状況ではないか。

しかも、ミュージシャンがいちばん有利な状況になっている。インターネット放送の楽曲使用料は、iTunesやCDのようにレーベルや流通が売上の大部分を持って行く仕組みではない。レーベルとミュージシャンで折半だ。

2011年、米レコード産業の総売上は3,520億円(44億ドル)だった。このうちミュージシャンへ分配された割合はいくらだろうか。20%は切るだろう。仮に20%で換算しても、レコード産業からミュージシャンに分配された金額は、704億円(8億8000万ドル)となる。

いっぽう、インターネット放送の広告市場は最大で4080億円(51億ドル 連載第24回)。この広告売上の、少なくとも25%(Pandoraの半分だ)が楽曲使用料として入ってくるだろう。

これを折半するならアメリカのミュージシャンの収入は、先の704億円に加えて、510億円(6億4,000万ドル)もの収入増となる。

敬愛するジミー・ジャムの言う通り、地上波ラジオを除外したインターネットラジオ公平法案は、真の意味で公平とは言えない。また、楽曲利用料のディスカウントを要求するインターネットラジオ

また、楽曲利用料のディスカウントを要求する公平法案は、一時的にミュージシャンの生活費を損なうかもしれない。

だが大幅なディスカウントにせず、ラジオ陣営をインターネットのフィールドに誘い込む程度(売上の25〜30%ではないだろうか)に値引きすれば、大きな収入増をもたらすことになる、といえる。

「放送業界は、改革について議論する機会が到来したことを喜んで受け入れる」

ラジオ産業の代表として証言に立ったリースは、そう述べた。

公平法案に地上波ラジオが乗ってきた時点で、最大の勝者はミュージシャンだ。ミュージシャンはすでに勝利している。そのきっかけを創ったのは、全米を席巻したPandoraであることは間違いない。そう、歴史は語るようになるだろう。

 

対案の「インテリム・ファースト法案(Interim FIRST Act)」が登場

公平法案に対抗するため、レコード産業とミュージシャン側も議会に働きかけた。そして、ジェロルド・ナドラー下院議員(Jerrold Nadler 民主党 NY州)が、公平法案の対案となる「インテリム・ファースト法案(Interim FIRST Act)」を議会に提出するに至った。

インテリム・ファースト法案では、衛星ラジオや地上波ラジオを例外にしない。インターネット、衛星、地上波すべてのラジオにパフォーミング・ライツ料を求める。それも、市場取引を唯一の判断基準にして法定利用料を定める、という主旨のものだ。801(b)の適用は廃止し、情状酌量は一切無しとなる。

「ネットの楽曲利用料に合わせて全て値上げすれば公平でしょ」という訳だ。

レコード産業側による改正法案の提出は同時に、「大騒動を引き起こした現行法は、2015年以降も通用しそうにない」という予測の表明でもある。

ジミー・ジャムの指摘に対する議員の反応を見る限り、Pandora側の公平法案は通りそうにない。だが対案のファースト法案の方も、政治的に無理筋と言わざるを得ない。

しかしそれは同時に、インターネット放送、地上波放送、そしてレコード産業とミュージシャンのすべてが、変革の必要を感じている、ということでもあるのだ。

誰もがみな、音楽産業の復活を願う点では一致している、といえるだろう。

次回は、この連邦議会で繰り広げられたPandoraとSoundExchangeの一騎打ちを追う。火花散らす鍔迫り合いのうちに、Pandoraが日本に来ない本当の理由が見えてくる。

著者プロフィール
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)

 榎本幹朗

1974年、東京都生まれ。音楽配信の専門家。作家。京都精華大学講師。上智大学英文科中退。在学中からウェブ、映像の制作活動を続ける。2000年に音楽TV局スペースシャワーネットワークの子会社に入社し制作ディレクターに。ライブやフェスの同時送信を毎週手がけ、草創期から音楽ストリーミングの専門家となった。2003年ライブ時代を予見しチケット会社ぴあに移籍後、2005年YouTubeの登場とPandoraの人工知能に衝撃を受け独立。

2012年より『未来は音楽を連れてくる』を連載・刊行している。Spotify、Pandoraをドキュメンタリーとインフォグラフィックの技法を使って詳細に描き、 日本の音楽業界に新しいビジネスモデル、アクセスモデルを提示することになった。 音楽の産業史に詳しく、ラジオの登場でアメリカのレコード産業売上が25分の1になった歴史とインターネット登場時の類似点 や、ソニーやアップルが世界の音楽産業に与えた歴史的影響 を紹介し、経済界にも反響を得た。

寄稿先はYahoo!ニュース、Wired、文藝春秋、プレジデント、NewsPicksなど。取材協力は朝日新聞、Bloomberg、週刊ダイヤモンドなど。ゲスト出演はNHK、テレビ朝日、日本テレビなど。音楽配信、音楽レーベル、オーディオメーカー、広告代理店を顧客に持つコンサルタントとしても活動している 。

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