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SHE’Sが史上最多13名の特別編成で届けた4度目の“シンクロ”。過去最高を更新した一夜をレポート

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SHE’S

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SHE’S Sinhonia “Chronicle” #4  2025.10.2  昭和女子大学人見記念講堂 

確認してみたら、SHE’Sが初めてシンクロこと『Sinhonia “Chronicle”』を開催したのは2018年。デビュー当初から必ずしもバンドサウンドのみで完結させるわけではなく、必要に応じてさまざまな楽器を取り入れて構築されてきたSHE’Sの音は、管弦楽や弦楽が加わることで水を得た魚のように煌めきを増す。それを初回から観てきた立場の人間が、こうして4度目を迎えたシンクロを目の当たりにすると、当時は今思えばちょっぴり背伸びしたチャレンジだったのかもしれないな、と感じてしまうくらい、歳月を重ねてきた今のSHE’Sが13人編成で奏で合う音は成熟した豊潤さに満ちていた。彼らが初めてシンクロを企画した頃に思い描いていたであろう音空間が、いよいよ完成しつつあった。

東京公演の会場は本シリーズ初となる昭和女子大学人見記念講堂。バンドのライブで使用されることも珍しくはないが、元はコンサートホールであり音響の良さは折り紙付き。開演を告げるビーーッといういにしえのブザー音も味があるなぁ、などと思っているとスッと暗転。生演奏でオープニングSEの演奏がスタートし、紗幕が上がる。菱形に並んだメンバー4人に一つずつスポットが当たり、その背後に3名のホーン隊、4名のストリングス、2名のコーラスがずらりと並んだ布陣は音の厚みだけでなく視覚的にも高揚を誘う。

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明るく開放的な雰囲気が場内を包む中、井上竜馬(Vo/Pf)が流れるようなピアノとともに歌い出した1曲目は「Super Bloom」。この日は曲によってストリングスのみ、ホーンのみなど可変式フォーメーションを採っていたのだが、まずは全員での演奏からスタートだ。厚みやボトムの強固さを存分に担保しつつ、曲が持つ軽やかなニュアンスは損なわないバランスに回を重ねてきた強みを思い知るとともに、今回から新たに加わったコーラス隊がめちゃくちゃ効いていることにも一発で気づく。既存のコーラスパートを担うだけでなく、要所でメインメロディにハモリを入れたりブーストをかけていくことで歌の存在感が際立ち、普段より音数の増えた演奏にも力負けしない。ビリビリと肌で感じるそれとは別方向の、包み込まれるような音圧に心地よく身を委ねる立ち上がりだ。イントロから一斉にクラップが起きたのは「追い風」。《誰の目の厭わずに歌おうぜ》と歌詞を変えての呼びかけにはホール中から大音量の歌声が飛び、間奏では服部栞汰(Gt)の勇壮なソロを筆頭にロックバンドのダイナミズムも存分にアピール。元々ストリングスがメインリフを担う「Masquerqde」「Raided」では、それらが生演奏になったことでクールな装いに内在する有機的なグルーヴが前面へと押し出され、ロー域中心で淡々と攻める広瀬臣吾のベース、パーカッションや打ち込みのニュアンスを取り入れた木村雅人のドラムと相互作用していく。「No Gravity」では、井上がハンドマイクでステップを踏みつつステージ上を闊歩。語りかけるような低音からハイトーンのフェイクまで、その歌声は揺るぎない。

井上竜馬(Vo/Key/Gt)

井上竜馬(Vo/Key/Gt)

木村雅人(Dr)

木村雅人(Dr)

原曲にストリングスやブラスが入っているか、いかにもそれが似合いそうな曲調か、といった条件はそこまで気にせず選んだであろうセットリストは、曲調も生まれた時代も千差万別。「All My Life」は2017年の2ndアルバム収録曲だし、「フィルム」や「Night Owl」なんてインディーズ時代の楽曲なのだが、このあたりの楽曲が持つ近作とはまた違った風合いは良いアクセントになっている。いかにもピアノロック然としたアプローチや、洋楽ロックやダンスミュージックへの素直な憧憬もまた、SHE’Sを形作ってきた重要な要素に他ならない。また、深い海の底を思わせるライティングの下、井上がポツリと歌い出した「Silence」の、チェロとヴァイオリンのみを伴奏としたミニマルな演奏と、厚いハーモニーのなんと美しいことか。

広瀬臣吾(Ba)

広瀬臣吾(Ba)

服部栞汰(Gt)

服部栞汰(Gt)

井上から「夏の終わりに自分が聴きたくなる曲」との言葉が添えられたのは「花雨」。深遠なテーマとは対照的に軽やかでさえある8ビートに始まりドラマティックな展開を迎えるサビ、全体を通して安らぎにも似た感覚を与えるサウンドに、死生感や根本に抱く美学をリリカルに表現した最新のナンバーを、観客たちは身じろぎせず受け止めていた。ライブはここから一段階エモーションの度合いを上げ、4つの小さな灯りが演奏が進むにつれステージ全体へと伝播していく演出が見事だった「Set a Fire」、曲全体を通してバンドの仕事量を最小限にとどめるという大胆なアレンジ(広瀬がウィンドチャイム、木村がマレットでフロアタムを叩くなど)がめちゃくちゃ効いていた「Letter」など、より一層シンクロの特別感を味わえる時間が続く。「Alright」ではほぼアカペラの歌い出しに場内からのクラップが加わり、ゴスペル的な音像を会場全体で作り上げていく光景に感動すら覚えた。

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初日公演の後、帰宅する際に満員電車で目の前がファンと思しき人だったため焦った──という箸休め的エピソードを語る木村のトーク力がなんだか安定してきていることに、一抹の寂しさを感じたのも束の間。「Blue Thermal」から一気にライブのギアが上がり、バンド自身のテーマでもファンとの絆の証でもある「Four」、井上と広瀬が最前まで進み出てスタートした「Over You」へと繋いでいく。この日のライブ中ずっと、単にリッチな特別感を演出するだけでなく、曲ごとに宿る喜怒哀楽プラスアルファをことごとく増幅させる役割を果たしていたシンクロの特別編成は、そもそもずっと人の心模様とその集合体である人生を歌い続けてきたSHE’Sというバンドと、相性が悪いはずがない。このシリーズがファンに愛され、回を重ね続けている所以はそこにこそあるのだろう──いつも以上の歓喜に沸いた「Grow Old With Me」「Dance With Me」の連打、本編ラストに華やかに歌い届けた「Memories」を聴きながら、僕はそんな当たり前なことを噛み締めていた。

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アンコールではたしか#2の時に見た気がする懐かしいバックドロップが掲げられたステージで、なんだか久しぶりにも感じる「Un-science」を演奏。この日のライブがU-NEXTで配信される旨の告知と、年明けに対バンツアーを回るという嬉しい報せを届けた後、大団円の「Stand By Me」へ。過去3回がそうであったように、SHE’Sはこの日を糧にしながらまた新たなステージへと4人で赴く。場内のシンガロングに包まれた幸せなエンディングは、その背中を優しく押すようであった。

取材・文=風間大洋 撮影=タマイシンゴ

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