撮影=河島遼太郎
英米のインディロックに共鳴するロックサウンドをスタイリッシュかつアンセミックに鳴らす3ピース・ロックバンド、Newspeakが大きな転機を迎えようとしていることは、これまでライブレポートやインタビューを通して、たびたびお伝えしてきたとおり。そんな彼らにとってSawanoHiroyuki[nZk]:Rei名義の「INERTIA」(テレビアニメ『TO BE HERO X』オープニングテーマ)に続いて、飛躍のチャンスと言えるのが7月16日に配信した新曲「Glass Door」だ。ディズニープラスにて全世界で配信されるアニメ『BULLET/BULLET』のエンディングテーマとして書き下ろした同曲は、彼らが持つアンセミックな魅力がさらにスケールアップしたことを思わせると同時に、今回のReiの発言からも明らかなようにアニメのタイアップでありながらNewspeakの新しいテーマソングと言える曲になっているところも聴きどころとなっている。
この曲とともに新しいステージに向かうバンドの姿を想像するとワクワクせずにいられないが、8月1日(金)には同曲のリリースパーティーとなるワンマンライブ『Glass Door』を東京・代官山のライブハウス、SPACE ODDで開催。そして、「Glass Door」に「Lifedance」と「Coastline」というそれぞれに異なる魅力を持つ新曲をカップリングしたデジタルEP「Glass Door」を8月13日(水)に配信リリースする。進境著しいNewspeakの今現在を、「Glass Door」他、今回の3曲からぜひ感じ取っていただきたい。今回SPICEでは、Rei(Vo)、Yohey(Ba)、Steven(Dr)の3人に3曲の聴きどころと8月1日(金)のリリースパーティーの意気込みを訊いた。
ーーライブで盛り上がること必至のかっこいい曲がまたNewspeakのレパートリーに加わりました。『BULLET/BULLET』のエンディングテーマとして書き下ろした「Glass Door」を作り始めるとき、朴性厚監督から「作品から感じ取ったことを自由に表現してほしい」というリクエストがあったそうですね?
Rei:はい、僕たちの曲を色々聴いてくださっていただいたようで、その中でも「特に『Be Nothing』にハマり、好きになりました」と言っていただき、最初の打ち合わせの段階から、すでにNewspeakの音楽を受け入れてくださっていたことがすごくうれしかったです。そう仰っていただいたのもあり、「Be nothing」のエッセンスは取り入れようと意識した部分はありましたけど、朴監督のキャラクター的にも、何か別のインスピレーションを、作品から感じたものを自由に表現してほしいって思いがすごく強い方なので、だったらとことん自由にやろうっていうのは決めていました。
Yohey:テーマそのものは、けっこう重たいんですけど、作品としてはすごくポップかつキャッチーで、なおかつスピーディーなんですよ。それを考えると、「Be Nothing」のイメージだけにこだわらずに、もっと幅を持たせたほうがいいと思ったんですよ。
Rei:監督と最初に話したとき、世界がおかしいと思っている人が立ち上がるような作品にしたいんだけど、同時に次の日、ちょっとがんばってみようと思えるようなポップな作品と言うか、最後はポジティブな気持ちになれるような作品にしたいってすごく言っていたんですよね。でも、「Be Nothing」はそこまでは行けていないと言うか、どん底で微かな光が見えて、これかみたいなところで終わっていると思うんです。だから、監督が言っていた、明日ちょっとがんばってみようってところに行きたいなと思って、光を見つけられるところまでを、アニメのエンディングで流れる90秒の中で表現したいっていうのはけっこう強くあって。そのストーリーは曲を作り始める時からはっきりとあったかもしれない。Aメロでは鬱屈としていた主人公がBメロで走り出して、サビで戦った結果、ポジティブな気持ちでフィナーレを迎えるみたいな構成もすぐに出てきたんです。
ーーそこに曲を当てはめていったわけですね。
Rei:そうですね。アンセミックなフィナーレから逆算したりもしながら、そのイメージでコードも付けていきました。
ーーアニメのティーザーを見たんですけど、それだけでもワクワクすると言うか、拳をぐっと握りしめたくなると言うか。
Rei:そうなんですよ。少年心をくすぐるアニメって言うか、ストーリーなんですよ。男の子が同級生と「めっちゃおもしろいよな」って盛り上がれるようなバイブスをすごく感じて、そこには合わせたかったと言うか、自由にやってと言われていたから、そこは表現したと勝手に思っていました。
ーーピアノバラードと思わせ、バンドインしたとたん、演奏がグルーヴィーになるという展開が意表を突きます。
Rei:ピアノバラードだった「Be Nothing」のエッセンスも入れつつ、いい意味で裏切りたかったんです。ただ、ライブで大変なんですよ、あそこは。いま、ライブのリハーサルをやっているところなんですけど、最初だけピアノを弾いて、途中からギターに変えなきゃいけないからちょっと忙しいんですよね。
ーーさっきおっしゃっていた構成を基にReiさんが作ったデモを3人で形にしていったんですよね?
Rei:そうです。
Steven:でも、フル尺じゃなかったよね?
Rei:最初の90秒だけ。
Yohey:最後、余韻を残したいからってことになってテンポを調整したり、頭をちょっとカットしたりとかそういう細かい作業は後でやりましたけど、最初のデモの段階でほぼ出来上がっていましたね。
Steven:Bメロもサビもほぼそのままだけど、Aメロはけっこうモメたね。
Rei:Stevenのせいでね(笑)。
ーーどんなふうにモメたんですか?
Rei:シンプルに好きじゃないって言われたんですよ(笑)。
Steven:何かもっとあるんじゃない? これじゃ普通すぎない? 最初のバージョンの時は、たぶんそういう意見だったね。憶えてないけど。
Rei:俺は憶えてるよ。イラっと来たから(笑)。
ーーそれで変えたんですか?
Rei:変えたんですけど、1回、すごく複雑なメロディーになったんですよ。でも、何か違うと思って、2~3週間、Aメロだけ作っていました。『BULLET/BULLET』ってけっこうディストピアな内容なんですけど、さっきYoheyも言っていたように、けっこうポップで、その塩梅が僕はすごく好きなんです。それに合うものしたくて、試行錯誤しながらさらに何案か出したら、これ、いいねって満場一致で今のメロディーになったんですよ。
ーー2番からリズムがさらにグルーヴィーになるじゃないですか。そこも聴きどころではないかと思うんですけど。
Rei:それも最初から考えていたと思います。2番のコードはもっと明るくして、進みだしたストーリーが見えるようにしたかったんです。
Steven:こんなふうにしたいってアイデアを持ってきたの憶えてる。
Rei:そこが「Glass Door」のスペシャルなところの1つかな。1番と2番のAメロが同じメロディーなんだけど、聴こえ方とか感情とかが全然違うっていうのが。普通にしたくなかったと言うか、もっとおもしろいものにしたかったと言うか、そういうバンドらしさみたいなところはタイアップでもって言うか、タイアップだからこそ出したかったんですよ。たとえばビブラートで鳴らしているサビのシンセっぽい音色のギターとか、そういうバンドの意地みたいなところはけっこういろいろなところに加えているんです。なんか、そういう時期でした。
ーーそういう時期というのは?
Rei:まだアルバム(2024年7月発表のメジャー1stアルバム『Newspeak』)を作っている最中だったんですよ。
ーーそうか。そうでしたね。
Rei:「Glass Door」の制作って、去年の2月か3月とかなんですよ。だから、何かイライラしていて。まだアルバムも完成させていないうちから、これ、始めなきゃいけないのかって。でも、朴監督の熱量だけにはすごく共鳴していたから、それには絶対応えたいって思いながら、ちょっとヒネくれていたっていうのもあって、それで2番は裏切ってやろうって考えてたところもあるかもしれないです。思い通りにはやらないぞっていう時期ってあるじゃないですか。
ーーでも、それが結果、良かったんじゃないですか? アニメの世界観に寄り添いつつ、Newspeakらしさも感じられる曲になったと思います。
Rei:そうですね。アニメの主人公もけっこうそういうキャラなんですよ。主人公を含め、登場人物がバンドっぽくて、共感する部分が多いせいか、主人公になったつもりで、自分の生活に落とし込んで、特に歌詞は作っていたんで、フル尺で流れてもいい感じになりそうで。
Yohey:さっき言っていた2Aも含め、アニメにぴったりの曲になったと思います。
Rei:追加で全国の劇場での公開も決定し、フル尺で流してもらえることになったんでやってよかったです。
ーーそうなんですか。それはすごい。
Rei:最後、劇場版のエンドロールでフル尺で流れるんです。
ーー歌詞を書く時、自分の生活に落とし込んだというのは?
Rei:バンドを始めた頃の自分に近いのかな。「White Lies」もそうなんですけど、この世界がおかしいとまでは思わないにしろ、バンドを始めたとき、世間が言う正しい道を歩いて、本当に幸せになれるのみたいなことをずっと若いながらに考えていて。まず、そのスタートの地点がアニメとまったく同じなんですよ。主人公はこの世界は何かおかしいと思っているけど、誰も聞く耳を持ってくれない。「これが正しい」と言われることに、ふつふつとフラストレーションを溜めているところも似ていて。そこから仲間が増えていくところもバンドっぽいって思うし、その仲間達がそれぞれに自分のためのゴールを見つけ出すんですよ。それもなんかバンドっぽい。誰か1人が「俺についてこい」ってやっているバンドもいるけど、Newspeakはそうじゃないんですよ。それぞれの目的があって、音楽をやってる人間が集まって、1つのエネルギーになっているから、そういうところもすごく共感できるんですよ。だから、歌詞を書きながら、途中からアニメのことはそんなに考えてなかったです。なんかもうバンドの話とか、自分の話とかになっていましたね。と言うか、そうしたいと思っていました。アニメのタイアップだからってアニメに寄りすぎると、おもしろくないから。絶対に。
Steven:僕達がやる意味がなくなっちゃうしね。
Rei:そうそう。
Yohey:フル尺のアレンジの終盤に差し掛かった時もアニメの話は一切出なくて、最終的にNewspeakの作品っていうところでまとめていきました。
Rei:生身の人間じゃないですか。バンドって1番。生々しいと言うか、人間が鳴らした音で構成されているものだから、アニメと現実社会のブリッジみたいな曲になればいいなっていうのも思っていました。
ーーじゃあ、すごく作りやすかった?
Rei:そうですね。出だしはけっこう考えましたけど、バンドでアレンジしている時とか、歌詞を書き始めた時とかはそんなに考えてなかったかもしれない。いつも通り、いい曲、かっこいい曲をどうやって作るかってことだけ考えていましたね。
ーーところで、この曲のベースはシンセベースなんですか?
Yohey:いえ、イントロと1番のAメロだけシンベが入っていますけど、あとは普通にエレキです。
ーーそうなんだ。ベースの音色が倍音を含んでいて、シンベっぽく聴こえるなって。
Yohey:あー、そうかもしれないですね。Bメロはちょっと違うんですけど、サビなんかはロングトーンをずっと鳴らしているみたいなスタイルで弾いていて、そのフレージングも含め、普通に弾いちゃうと、音が小さくなっていくから、もう1回ピッキングを入れたくなるんですけど、長い音で、広く聴かせたいから、実際、ちょっと倍音多めに歪んでいたりとか、コンプをけっこうきつめに当てていたりとか、生のベースって言うよりは、ちょっとギターに近いフレージングの入れ方になっているんですよ。それをベースでやると、この曲にハマるし、Stevenのドラムがよりオープンに聴こえるしってところで、それがもしかしたらシンベっぽく聴こえるのかもしれないです。
ーーサビのベース、すごくかっこいいですよね。サビの前半はおっしゃっていたように白玉の音符をロングトーンで鳴らしているけど、後半はけっこうフレーズが動いていたり。
Yohey:そうですね。歌にユニゾンさせに行ってますね
ーー音階がずんずんずんと上がっていったりというところが耳に残ります。
Yohey:ありがとうございます。やっぱりサビの中でも抑揚はあったほうがおもしろいかなと思って、ちょっと試してみました。
ーーあと、サビの直前にStevenさんが入れるフィルがめちゃめちゃかっこいい。
Steven:めっちゃシンプルだけどね。そんなシンプルなドラムを、どうやったらかっこよく叩けるのかわからないから、ただ叩いただけなんだけど、そんなふうに言ってもらえるなんて、ありがとうございます(笑)。
Rei:Stevenの強みですよね。シンプルに叩いたものがここまでかっこよくなるっていうのは。
Steven:この曲は、そういうマインドだったんですよ。この曲には何が合っているのかって考えていたら、やっぱり解放感とか、自由な気持ちとかって思ったから、やっぱり手数は多くならないね。だから、曲の気持ちを伝えたいと思って、ただパワフルに叩いただけ。
ーーサビの《We were born to run free outside your glass door》という歌詞にも《glass door》という言葉が入っていますが、「Glass Door」というタイトルはどんなところから思いついたんですか?
Rei:《I’m ready for the world in my own reflection》っていう自分自身と向き合う準備はできたみたいな歌詞があって、これは自分自身と向き合う曲なんだろうなって考えていたんですけど、自分を映し出すものって言ったら、普通、鏡じゃないですか。でも、鏡だとちょっと世界観に合わないし、歩き出す画も見えないしって思って、何かアイコニックな言葉を探していたんですよ。その中でガラスのドアだったら、向こうも見えるし、そこから出て、歩き出したり、走り出したりって、それはアニメのテーマでもあるんですけど、そのイメージにも繋がるし、自分と向き合うこともできるしって思いついたんです。自分の心に火が灯っていたら、夜中に自分の姿が見えて、その先に朝日が見えてみたいな画も見えるような流れの歌詞だったんで、「Glass Door」ならぴったりだって。まぁ、心の扉みたいなことでもいいんですけど、単純に「Glass Door」って言葉の響きもおもしろいし、他に聞いたことがないから、「Glass Door」にしました。
ーーその「Glass Door」はNewspeakを代表する大きな曲になっていきそうですね。
Steven:I hope so. 期待してます。
ーーさて、その「Glass Door」を含めた3曲をデジタルEPとして、8月13日(水)にリリースするわけですが、カップリングの「Lifedance」と「Coastline」は去年末に作ったという25曲の中の2曲なんですか?
Rei:そうです。
ーー25曲の中から、なぜその2曲をカップリングに選んだんですか?
Rei:ぶっちゃけ僕は「どれがいい?」って感じで、みんなが選んでくれたんですけど、振り返ると、やりたいことがすごくはっきりした2曲なのかなって思います。こういうのやってみたとかじゃなくて、これ、やりたいよねみたいなね。たぶん、それが2人にも伝わっていたと思うんですけど、だからタイトルもデモの時から変わってないんですよ。
Steven:「Glass Door」がけっこう意味深い曲だったから、その反動で、クラブで開放的な気持ちになるみたいな「Lifedance」、夏の海を思わせるシンプルで気持ちいい「Coastline」を選んだと思う。「Glass Door」で意味深いことをもう言っているから、そこにさらに意味のある曲が入っていたら、ちょっとディープすぎるでしょ。
Rei:そんなところもNewspeakらしいなと思います。「Glass Door」ってポップだけど、自分と向き合った、けっこうシリアスな曲だと思っているんですけど、僕らの二面性と言うか、シリアスじゃない、音楽なんて体を動かすだけのものでしょみたいな時期もあるし、もう全部を忘れて、海に行って、要らないものを削ぎ落して、もう1回シンプルなマインドになって、また音楽をやろうっていう時期もあるし。だから、「Glass Door」対カップリングの2曲みたいな。その矛盾と言うか、バランス感覚もまたNewspeakだなと思うんですよね。
Yohey:だから、「Glass Door」に比べて、カップリングの2曲は楽観的だったり、緩い部分があったりするんですけど、僕ら的にはどっちも全力投球しているんですよ。今回、アニメのタイアップでもあるので、僕らが今まで戦ってきた場所とはまた違うところでも聴いてもらえるかもしれないっていうかなり大きなチャンスなんだから、全力投球しないわけにはいかないでしょってところで、この3曲になりました。もうちょっと緩い感じで聴かせられる曲という案もあったんですけど、やっぱりさっきReiが言っていた二面性も含め、これがNewspeakだって全力で投げられるものを選んだところはあります。
ーーやりたいことがはっきりしていたという意味では「Lifedance」はダンスロックをやりたかったんですか?
Rei:それもあるし、イントロからクセ強な曲をやりたいっていうのもありました。
Steven:この曲は最初の2、3秒でめっちゃ好きになった。
ーーゆがませたシンセがギュインギュインと鳴るイントロは確かにインパクトがありますよね。
Rei:この曲を作ったとき、「Cosmic Zoom」っていうショートフィルムに出会ったんですよ。8分ぐらいしかないんですけど、最初、ボートを漕いでいるんです。そのボートを漕いでいる人からどんどんズームアウトしていって、地球になって、太陽系になって、銀河系になっていって。今度は逆にズームインしていって、ボートを漕いでいる人の手についている蚊のところまで辿りついて、そこからさらにズームインして、DNAにまで近づいていくんです。あまりにもスケールが大きすぎて、それを見ていたら、あれこれ考えたってしょうがない。音楽なんて楽しいだけのものでいいでしょって気持ちになっていた時期だったから、何か遊びたいとか、新しいことやりたいとか、そういう欲求がけっこう強かったかもしれないですね。
ーーReiさんのボーカルもちょっとラフな感じですね。
Rei:あー、力が抜けている感じはあります。
ーークセの強い曲を作りたかったとおっしゃっていましたが、中でもベースが際立っていますね。
Yohey:Aメロのベースは、元々Reiがデモに入れていたフレーズを、これいいじゃんってそのままリテイクしているだけなんですけど、サビはまた別の曲があって、それのサビを「Lifedance」のAメロとくっつけたらおもしろいんじゃないかって話になって。
ーーあ、前回のインタビューで2曲をがっちゃんこしたって言っていたのは。
Yohey:そうです、この曲のことです。だから、Aメロとサビが想像つかないような繋がり方をしているんで、そこはけっこうおもしろくなったかな。音作りはけっこう苦労しましたけどね。
ーーどんなふうに?
Yohey:Aメロはもこもこした音色のベースを無理やり沈ませると言うか、そういう圧力のある音にしたかったんですけど、そのままサビに行くと、音が全然出て来なくて。どうしようかってなったんですけど、結局、Aメロとサビで使うベースそのものを変えて、弾いたやつを、エンジニアのニラジ(・カジャンチ)がうまいことまとめてくれて、よりおもしろくなったと思います。
Rei:そんなところも含め、何か遊ぼうぜって感じがこの曲は最初からありましたね。
ーーベースソロがパーカッシブなドラムと入れ替わって、さらにシンセソロが鳴る間奏も聴きどころです。
Rei:あそこはStevenがもっと遊ぼうぜとか、悪い感じにしようぜとかって言ってましたね。
ーーその一方で、「Coastline」は歌ものって言うのかな。ちょっとメランコリックで、でも爽やかさもあって。
Yohey:Newspeakの中だと割と珍しい、アコギ主体の軽いタッチで聴ける曲ですね。
Rei:日本語で、こういう歌詞を書きたかったっていうのは、けっこうできたかもしれない。メッセージってところに囚われずに、もちろんメッセージはあるんですけど、気張ってない感じの歌詞がやっと書けたっていう手応えが、1年ぐらい日本語の歌詞を書いてきてけっこうあります。Newspeakってちょっと難しい曲が多いんですけど、この曲は本当に何も考えずに聴けるって言うか、気持ちよく聴けるって言うか、そういう気張ってないテンション感があるところがいいと思ってます。もちろん、曲的には強いんですけどね。
Steven:乗れる曲になってると思う。
ーーイントロのギターのリードリフとシンガロングのコーラスの組み合わせがすごくキャッチーで、いきなり耳を掴んでくるなという印象がありました。ところで、今回の3曲はどれもYoheyさんのベースがすごく良かったなと思って。
Yohey:ほんとですか? うれしい。ありがとうございます。
ーー以前よりも前に出てきた印象がありましたけど、「Coastline」も単純にリズムを刻むだけじゃなくて、Bメロでグルービーになるじゃないですか。
Yohey:やっぱり肩肘張らない感じを大事にしたいと思っていたので、「Glass Door」もそうなんですけど、音の粒をあんまり出さないとか、ピッキングの数を減らせるところは極力減らすとかして、逆にひっかかりのあるところにリフを入れて、軽さを出したかったんです。だから、もしかしたらシンベでもよかったのかもしれないですけど、やっぱりこの曲の軸はアコギにしたかったんで、BメロはStevenのドラムとバランスを取りながらやってみたんですけど、そのバランスの取り方がもしかしたら今回はうまくいったのかもしれないですね。
ーー「Coastline」は他の2曲に比べて、かなり生っぽいバンドサウンドになっていますね。
Steven:アコギがいっぱい入っているからね。
Yohey:最終デモの段階だと、もうちょっとロックなサウンド感だったんですけど、それこそレコーディングスタジオでアコギを生で録った時に音がめちゃくちゃ良くて、「これなら前面に出してもイケる」ってなって、ミックスでも、「アコギはもうちょっと温かい音で思いっきり出したい」って話しながら、全体の音像は最終的にレコーディングとミックスで今の方向に決まったと思います。
Rei:めちゃくちゃいいアコギを買ったんですよ。いや、アコギで曲を作るのにアコギって買ったことないな、俺と思って。
ーーでも、ライブでもアコギを弾いているじゃないですか。
Rei:もらったり、借りたりしたものなんですよ。だから、アコギでこんなに曲を作るのに相棒がいないのもちょっと変だなと思って。それで買ったんですよ。
Yohey:レコーディングしながら、珍しくニラジが「めっちゃいい音で録れてるな」って言ってたからね。
Rei:ほんとに? やっぱ買ってよかった。
ーーそんなに音って違いますか?
Rei:違いますね。特にキャラクターがあるアコギではあるんで。
Steven:値段の意味もあるよね。
Rei:曲が出来ない時期に何か変えなきゃと思ったっていうのもあるんですよ。
Yohey:あー、ポロポロと弾いて、気持ちいい音が鳴るって大事だよ。
Rei:ボディがめっちゃでかいんですよ。だから、弾いていると、ボディの振動が胸にずーんと響くんです。出てる音ももちろん気持ちいいんですけど、それだけでもすごく気持ちよくて、それが良かったですね。手にしたくなる楽器ってすごく大事だなと思っていて。だから、僕、楽器をよく買うんですよ。
Steven:ライブのドラムセット3年ぐらい変わってないから、そろそろ何か新しくしたいね(笑)。
Yohey:音が薄い楽器だと、それに追加して何かフレーズを入れなきゃとか、他の楽器を足さなきゃってなるけど、本当にいい楽器だと、たとえばアコギでコードをじゃらーんって鳴らしただけで、他の楽器は要らなくねってなる。そういうパワーを持っていると思っていて、それで言うと、そのアコギがすごくいい音で鳴っているから、「Coastline」もそういうシンプルなサウンドになっているってところはあると思います。
ーービンテージなんですか?
Rei:いや、96年だからそんなには。でも、30年か。ビンテージの域に入り始めているとは言えるかもしれないです。
Yohey:80年代の楽器がビンテージになっているからね。
Rei:あとちょっとしたらビンテージになります(笑)。
ーーもちろん高かったんですよね?
Rei:まぁ、それなりに。実はヤフオクで見つけたんですよ。僕、けっこうヤフオクで買っちゃうんですよ。
ーーえー、試奏できないじゃないですか?
Rei:でも、このアコギは以前持っていたし、楽器屋さんで弾いたこともあったし。それでやっぱりいいなと思っていたんですよ。個体差はあるかもしれないけど、同じモデルで、同じぐらいの年代だったらいいでしょって、すごくきれいだったから買ったんですけど、いろいろ見えないところに不具合があって。結局、大修理しなきゃいけなくて、その費用を考えたら、普通に店で買うぐらいの金額になっちゃったけど、ニラジとか、Yoheyとかに、うわ、いいなって思ってもらえたから、まぁ、良かったのかなって思います。
ーーもちろんライブでは使わないですよね?
Rei:使います。って言うか、使ってます。最初はそんな高いやつ、怖くて持ち出せないなって思ってたんですけど、やっぱね、音の良さを1回知っちゃうとね、それでやりたいなってなっちゃいました。
ーー8月1日に開催する「Glass Door」のリリース記念のワンマンライブは、そんなところも見どころではないかと思うのですが、ライブの意気込みを最後に聞かせてください。
Rei:こいつら、たぶん新しいステージに行くんだろうなってお客さんが思ってくれるようなライブにしたいし、お客さんにはライブが終わった後に明日、何か新しいことを始めてみようとか、上司に言い返してやろうとか、そんなふうに思ってもらえたらいいかな。
ーーこの間のSpotify O-nestのライブ(4月29日に開催したワンマンライブ『Newspeak presents “Your Songs”』)がよかったから、すごく楽しみなんですよ。
Rei:あのライブは有難いことにすごく評判が良くて、マネージメントとレーベルのスタッフたちからも、「こういうライブを続けていくべき!」って言ってくれたんですよ。
Yohey:僕らもめちゃめちゃ楽しかったです。
Rei:うん、めちゃめちゃ楽しかった。ライブをやりながら、雑念ゼロと言うか、何も気にならないと言うか、お客さんの表情だけしか見えてないと言うか、お客さんとバンドだけになる瞬間が続いている時は、めちゃくちゃいいライブになりますね。この間はそういうライブができたんで、だからこそ、「Glass Door」はそれを超えなきゃいけないですよね。
Yohey:O-nestのライブは、お客さんの熱量にも助けてもらったと言うか、ステージに上がった瞬間にバンドとお客さんが1個の共同体になっていたぐらいの感覚があって、そのままずっとそのノリで最後まで行けたっていうのがあったんで、それにはすごく助けられました。たぶん、みんなすごく楽しみにしてくれていたんでしょうね。だから、8月1日のライブも当日はもちろんですけど、ライブの前からみんなみんなにもっとワクワクしてもらえるようなことをどんどんやっていけたらなとは思っています。
取材・文=山口智男 撮影=河島遼太郎
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