元シカゴのビル・チャンプリン TOTOのジョセフ・ウィリアムス、AORレジェンズによるジャパン・ツアーライヴ・レポートが到着
元シカゴのヴォーカリストにしてLAミュージック・シーンのレジェンド=ビル・チャンプリン、TOTOの名リード・シンガー=ジョセフ・ウィリアムスという二人のAORレジェンドと、’80年代のウェストコースト・サウンドに限りないリスペクトと憧憬を寄せる北欧の凄腕ギタリスト/プロデューサー/ソングライター=ピーター・フリーステットの3名によるスーパー・プロジェクト、Champlin Williams Friestedt(以下CWF)。最新3rdアルバム「CWF3」 のリリースにあわせ、8年ぶりの来日公演が遂に実現した。
ライヴ・レポートTEXT:金澤寿和
8年ぶりに日本へ戻ってきたチャンプリン・ウィリアムス・フリーステット。このフォーマットでは2度目、前身のウィリアムス・フリーステットを含めると、計3度目の来日になる。実は2020年に来日がほぼ決まっていたが、ご存知の通り、新型コロナであえなく中止。その後パンデミックが収まって、ジョセフ・ウィリアムスは昨年TOTOで来日を果たした。が、ビル・チャンプリンは2021年に13年ぶりのソロ・アルバム「リヴィン・フォー・ラヴ」を出したものの、来日は、18年にCTA(カリフォルニア・トランジット・オーソリティ/シカゴのオリジナル・ドラマー:ダニー・セラフィンが主導)に帯同したのが最後。それゆえ「CWF3」リリースに合わせての来日は、まさに待望にして絶好のタイミング。今だから明かせるが、ジョセフがTOTOのツアーで動けないため、今回の日程が決定するまでは何度もスケジュール設定のし直しが行われた。その結果フロント3人が揃い踏みとなったのが感慨深い。バンドのラインナップも、ビルの愛妻タマラ、キーボードのステファン・ガナーソンなど、ベース以外は8年前と同じ顔ぶれ。プロジェクト・リーダーであるピーター・フリーステットの統率力がよく分かる。
今回のジャパン・ツアーは、東京・大阪のBillboard Liveで3日間6ステージというスケジュール。幸い東京での4公演すべてを見ることができたが、各公演とも終盤のヒートアップぶりは、見事、彼らのキャリアと実力を証明するモノだった。
ライトが落ちると、気持ちが早ってしまうのか、いつもビルが真っ先にステージ上がってくる。そしてジョセフを除くメンバーがスタンバイすると、1stからのNightflyでショウ・オープン。TOTOとシカゴを掛けたようなこのシャッフル・チューンは、もともとジョーとビルのデュアル・ヴォーカルの楽曲だが、今回はジョーの代わりにkydのステファンとビルがフィーチャーされる。スタジオ・ヴァージンでもタマラやステファンが参加していたし、前回公演でも好んでプレイされたCWFらしい楽曲なのだ。
続いてビルがギターを手にすると、ニュー・アルバム「CWF3」からの<Almost Had Me There>で、彼のR&Bルーツが剥き出しに。ギター・ソロもビルが取り、無骨で豪放なプレイを披露した。大病を乗り越えただけに、見た目はサスガに老けた感があるが、その歌声は健在そのもの。70年代後半とは思えぬ存在感がある。いまCWFがうまく回っているのは、ビルが息子のようなピーターを強力にバックアップしているからに相違ない。
するとココで雰囲気が一転、最初のサブライズが。リー・リトナー「RIT」からの<Is It You?>をカヴァーしたのだ。取り上げたのはAORヒットという単純な理由ではなく、ビルがリトナー、エリック・タッグと共作した曲だから。しかもステファンのリード・ヴォーカルをフィーチャーし、彼を改めて紹介する狙いがあったと思われる。ステファンはピーターの右腕とも言える実力派で、ソロ作もリリース。ウィリアムス・フリーステット期から3度のライヴすべてに参加してきた。ジョーの参加が危ぶまれる中、実はかなり大事なポジションを担っていたと言える。その流れで「CWF2」からのスロウ・ナンバーBetween The Linesを、再びビルとステファンのツイン・ヴォイスで。
またビルがギターを手にすると、今度はタマラがリード・ヴォーカルを取るYou Won’t Get To Heaven Aliveへ。これは彼女が94年に出したソロ作のタイトル曲。彼女らしいロック姐ちゃん全開の、ハード・エッジな楽曲だ。どうせなら「CWF2」で彼女が歌ったPrice Of Loveを演ればいいのに、と思ったが、要はライヴで歌い慣れているのだろう。このあとインストOcean Driveでピーターの抑制されたギターをフィーチャー。CWFの多彩さが演出される。ハイスキルは言うまでもないが、自由に弾き倒すのではなく、あくまで楽曲にフィットしたプレイを展開するのが彼の信条。ほどよくコントロールされたギター・ワークに、ピーターの優れたプロデューサーぶりが表れていた。
するとここでピーターがマイクを握り、メンバーを紹介。最後のビルが「ヘイ・ジョー!」とジョセフを呼び込み、「みんな、乗ってるかい?」などと軽口を叩いて、<Stop Loving You>へなだれ込む。当然オーディエンスは大興奮。看板通り、やはりジョーがいなきゃCWFにはならない。TOTOのツアーでいつも歌っているためか、ハイトーンも無理なく出ている。前半ステージに現れないので、心配した方もいたかもしれないが、何ら問題なし。ジョーはひたすら絶好調だ。
でも、さぁここから!と思いきや、彼はさっさとステージを下りてしまい…。そこで歌われたのは、ビルのシカゴ時代のHard Habit To Break。パートナーはタマラが務める。これまでのCWFライヴではジョーが歌っていただけに残念至極。だがさすが名曲だけに、歌ってくれただけで充分満足である。ちなみに東京初日1st(大阪1stも)は、Hard Habit To Breakではなく、「CWF3」に収録されているビル夫妻のデュエットThe Last Unbroken Heartsが歌われた。どちらが良いかは個人の判断だけれど、それはそれで貴重ではないか。
「CWF2」からナイス・ミディアム10 Milesが歌われたあと、ここで最終日限定のサプライズ。ビルが最新ソロ「リヴィン・フォー・ラヴ」から、スティーヴィー・ワンダーにインスパイアされたA Stevie Songをピアノの弾き語りで歌ってくれたのだ。更に2ndショウでは、メドレーでAfter The Love Is Goneに繋げる、短くも嬉しい荒技を披露(2ndショウではStop Loving Youが歌われたあと)。1日2ステージの時間的制約から、今回はビル主導のレパートリーがセットから外されてしまったが、やはり歌い足りなかったのかもしれない。それでも前回来日で最後に歌っていたHeaded For The Top(92年「BURN DOWN THE NIGHT」から)で、気迫のヴォーカルとオルガンをダイナミックに。ピーターやステファンもパッショネイトなプレイで、アドリブ応酬に参戦した。
そしてようやくジョーが再びステージに。Pamera、Hold The LineというTOTOの代表曲連発で、ヴェニューを爆発させた。2ndステージは両日ともアリーナ総立ち。終始抑え気味のピーターも、自身のアイドル:スティーヴ・ルカサーのパートでは豪快にドライヴし。オーディエンスから拍手喝采を浴びた。気がつけば、ステージ後方には六本木の夜景が。メンバーは出ずっぱりだったが、実質的にこの2曲がアンコール扱いだったのである。
結局ジョーが歌ったのは、TOTOのナンバー3曲のみ。シビアな目でセット・リストを俯瞰したなら、彼はメンバーというより、ゲスト格とするのが妥当だろう。その分ビルが頑張って、看板を維持したと言って差し支えない。でもそのビルにしても、自分のライヴではデフォルトで歌っていたであろう有名曲を、CWFの曲に差し替えた。そういう意味で、彼らにとっては決してベストのショウだったとは言えないのかもしれない。ニュー・アルバムを出した直後なのに、新曲が少なかったのも残念なポイントだ。
だがCWFは元より、北欧の実力派ミュージシャンが、自分たちのリスペクトする米のAORレジェンド・シンガーたちにアプローチして誕生した多国籍プロジェクト。裏事情を探れば、スウェーデンとL.A.からそれぞれに別個に来日し、日本で初めて全員が揃うパターンでライヴに臨んでいる。バンド、ヴォーカル陣、それぞれに現地でリハーサルしたそうだが、全員揃ってのゲネプロは1回こっきり。多忙のためCWFのレパートリーを自分のモノにしきれないと考えたジョーが、TOTO以外の楽曲を回避したのも納得できる。彼が考えるプロフェッショナルなスタンス、完璧を期する主張の表れなのだ。対して60年代から激動のキャリアを積んできたビルは、臨機応変、その場の状況に自らをフィットさせていく。そうした違いをお互い尊重し合っているからこそ、CWFが成立する。
歓喜に沸いたオーディエンスも、意外なTOTOのヒット曲連発に心踊らせつつ、そうしてプロに徹した彼らの演奏、ハイレヴェルのライヴ・パフォースンスにこそ、感動したのだと思う。願わくは、次回の来日は1ステージのフル・ライヴで。フェスティバルへの出演でも、きっと盛り上がると思うなぁ。
Photo: Masanori Naruse 9/12東京公演より
Champlin Williams Friestedt|LIVE IN JAPAN 2024 SETLIST
1.Nightfly(「CWF」)
2.Almost had me there(「CWF3」)
3.Is it you (Lee Ritenour「RIT」 (1981))
4.Between the lines(「CWF2」)
5.You won’t Get to Heaven Alive(Tamara Champlin「You won’t Get to Heaven Alive」 1994)
6.Ocean Drive(「CWF」)
7.Stop Loving You(TOTO「The Seventh One」 1988)
8.A Stevie Song(Bill Champlin「Livin’ For Love」 2021)
9.After The Love Is Gone(「CWF」)(※最終公演のみ)
10.The Last Unbroken heart <1st Show> (「CWF3」) / Hard Hanit To Break <2nd Show>(「CWF3」)
11.10 Miles(「CWF2」)
12.Headed For The Top (Bill Champlin「Burn Down The Night」1992)
13.Pamela(CWF「Carrie」 EP)
14.Hold The Line(「TOTO」 1978)