蒼く輝く夏の日の再会の物語 ClariSが音楽で紡いだフェアリーテール

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ClariS Photo by 平野タカシ

2022.8.11(Thu)ClariS HALL CONCERT 2022 〜Twinkle Summer Dreams〜 @LINE CUBE SHIBUYA

それは2年10か月ぶりに実現した、夏の日の再会の物語。朝からツイッターを覗くと、Clarisのハッシュタグを付けた同志が飛行機で、新幹線で、全国各地から続々と渋谷を目指している。午前中から猛暑の中の待機列で、「ClariSの二人からですという伝言を添えて、スタッフから「アメちゃんもらった」と嬉しそうな報告が積み重なる。気配りと優しさ。誰もがこの日を待っていた。『ClariS HALL CONCERT 2022 〜Twinkle Summer Dreams〜』の初日、LINE CUBE SHIBUYA。1日二回公演の第一部、開幕は13時だ。

物語は天空の世界のファンタジー。天の川をはさんで惹かれ合う恋人同士の会話から始まる。スクリーンに映し出される幻想的な星空。ナレーションは櫻井孝宏だ。二人の思いを乗せ、遥か彼方に青く輝く美しい星を目指す二つの星座――クララとカレン。映画を見ているような静けさと暗がりを切り裂いて、青い閃光がまたたき、音楽が鳴り響く。クララとカレンが光の中に歩み出て、1曲目「Twinkle Twinkle」を歌い出す。止まっていた時間がいま急激に動き出す。

二人の衣装は、銀のラメを散りばめた、かすかにゴールドがかった優雅なドレスに銀のヒール。クララが歌えばカレンが踊り、カレンが歌えばクララがステップを踏む。バレエのパ・ド・ドゥのような、それは二人で一つの計算され尽くしたパフォーマンスだ。ピンクとグリーンのペンライトが、地上の星空のように客席を埋める。「Twinkle Summer Dreamsへようこそ!」(クララ)「会いたかったよ!」(カレン)――短い挨拶もそこそこに、アップテンポの「アリシア」「CLICK」「Fight!」「新世界ビーナス」と、ノンストップで歌い継ぐスピード感が心地よい。久しぶりすぎて、初めて見るようなフレッシュな感覚。

ナレーションと映像が物語の展開を告げ、青い闇と波の音が広いホールをゆっくりと包み込む。ここからは海のシーンだ。衣装替えを済ませた二人のドレスは、エメラルドグリーンとターコイズブルーの中間のような深みのあるカラーと、たっぷりとした裾や袖が波の揺らぎを思わせる。最新アルバム『Parfaitone』(パルフェトーン)から、GLAYのTAKUROが楽曲提供した激しいロック調の「瞳の中のローレライ」から、サビで一気にテンポアップする劇的な曲調の「マーメイド」へ。「瞳の中のローレライ」は、事前にツイッターで「BLUE系のペンライトで」というスタッフからのお願いがあったが、もちろん全員がチェック済みだ。ダンスも歌も照明も、ライブ序盤とはうってかわって緊張度の高いパフォーマンスが続く。

「Summer Delay」は夏をテーマにした盛り上げチューンで、クララとカレンが手振りを求めてペンライトが大きな波を作る。そしてこの日初めてのスローチューン、ClariS×TrySailの名義で世に出た「オルゴール」は、歌詞に合わせてカタカタ動くぜんまい仕掛けの人形のような精密なパフォーマンスで魅了する。1曲ごとの歌とダンスと振付の完成度の高さ、これがClarisのライブだ。一転して「アワイオモイ」では明るく楽しくハッピーに、「ホログラム」ではクララはピンク、カレンはグリーンのペンライトを片手に、ファンと一体化した光のパフォーマンスで魅了する。あっという間にライブは中盤だ。

シリアスなナレーションがクララとカレンのピンチを伝え、魂を失った二人の物語は一気に不穏な展開へ。ここからは暗闇が支配するダークファンタジーの世界だ。赤と黒のゴシックドレスに着替えた二人が、仮面をつけて踊りだす。まさかこの曲をいち早くここで聴けるとは思わなかった、TVアニメ「シャドーハウス2nd Season」エンディングテーマ、9月14日リリースの新曲「Masquerade」だ。クララはうさぎの耳、カレンはねこの耳をつけた白い仮面が、可愛らしくも妖しい。ワルツのリズムと、二人が作詞を手掛けたゴシック趣味たっぷりの歌詞が、Clarisの新境地を切り拓く。シルクハットをかぶった謎の男が二人表れ、華麗なダンスパフォーマンスに加わる「シニカルサスペンス」も、薔薇やナイフや人形など、スクリーンに映る映像もゴシック&ホラーな凄みいっぱいだ。

またもシーンが変わり、「アイデンティティ」と「missing you」の2曲は、スタンドマイクを使ってじっくりと歌を聴かせる。照明はあたたかなイエロー系に変わり、スクリーンに歌詞が流れ出す。特に「アイデンティティ」は胸に沁みる。『Parfaitone』の実質的なラストチューンだったこの曲の、「辿り着いたこの場所から見える景色が私の宝物」というフレーズほど、今この時にふさわしいものはないだろう。

映像とナレーションがさらなる物語の急展開を告げる。絶体絶命の二人を救う、海の中の優しい生き物。そして二人は再び力を得て歌い出す――曲は8月3日にリリースされたばかりの新曲、TVアニメ「リコリス・リコイル」オープニングテーマの「ALIVE」だ。青、黒、銀のドレスに銀のヒール、目にも鮮やかな衣装に着替えた二人が激しいビートに乗って歌うのは、未来を切り拓くための果敢な挑戦をうながすメッセージ。BLUEに染まったペンライトの応援に応え、これまでにない力強い意志を込めた歌声と、切れ味鋭いダンスがかっこいい。カレンがまるで格闘技のような前蹴りポーズを決める。優雅なクララとソリッドなカレン、二人のバランスは最高だ。そのまま「コネクト」に突入して一気に突っ走る、ここは間違いなくライブのハイライト。二人が激しく交錯する難度の高い振付を軽やかにこなし、指切りポーズで締めくくる最後の瞬間まで、ハイテンションがまったく下がらない。

さあ、いよいよライブは最終ブロックだ。櫻井孝宏のナレーションが物語のハッピーエンドを告げ、クララとカレンが天界のファンタジーから現実の世界へと戻って来た。この日の物語を暗示するような歌詞を持つ「Starry」で幕を開けたラストブロックは、明るいアップテンポの「SHIORI」で一気にスパーク。ライブ序盤の笑顔と勢いをさらにパワーアップさせ、「ケアレス」から「reunion」へ。ここまで歌い続け踊り続けても、びくともしない歌声とダンスのキレは本当に凄い。透明でエアリーなハイトーンと、長い四肢を生かすしなやかなダンスで魅せるクララ。ミドルレンジが太く強い声質と、小柄な体をめいっぱい使った切れ味で勝負するカレン。スペシャルとしか言えない特別な組み合わせ。

そしてアンコール。グッズのTシャツをあしらった涼し気な衣装でステージに戻って来た二人が、ダンサー二人を従えて歌い踊るは「ナイショの話」。明るくはじける二人の笑顔に、無事に本編をやり切った安堵がにじむ。だがまだライブは終わらない。

「こうしてみなさんと直接会って、歌を届けられるのが2年10か月振りで、会いたい気持ちを積み重ねてきたので、今日は思いのたけをすべてぶつける気持ちでステージに立ちました。こんなにきれいな景色が見れて、マスクはしてるけどみんなの顔が見れて本当に幸せです。ライブって最高に楽しいなと思える時間でした」(クララ)

「3年前のツアーが中止になってしまって、そこで味わった寂しさと悔しさが、ずっと続いていたので。そんな中でもファンのみなさんがたくさんメッセージをくれて、それがすごく支えになっていました。こうして会えるだけで最高だと思っていたけど、それ以上のワクワクやドキドキを感じながらステージに立ったので。今日は来てくださって本当にありがとうございました」(カレン)

およそ20分にわたるトークは、客席に掲げられた「おかえり」というボードを見て二人が涙ぐむシーンあり、グッズ紹介ではしゃぐシーンあり、二人の素顔が見える等身大なもの。今日のライブを彩った物語の原案はカレンが、衣装デザインのアイディアはクララがリードして制作したという。カレンの語る、七夕の伝説と、コロナ禍で会えない人たちとを重ね合わせたというストーリーには、今の時代にふさわしいメッセージ性がある。自らの言葉で語る二人の笑顔を見ていると、ついこの間まで顔もプロフィールも謎だったとはとても信じられない。ClariSはいまこの瞬間を確かに生きている。ファンタジーの世界で遊びながら、現実を生きる力を伝えてくれる。

今後のインフォメーションも盛りだくさんだ。9月19日、「イナズマロック フェス 2022」出演決定。12月16,17日、TOKYO DOME CITY HALLにて『ClariS HALL CONCERT 2022 WINTER』開催決定。さらにフジテレビのCSでClariSの特番が放送されることも発表(詳細は後日発表)。そして、それまでに新曲の予定もあるかも?と意味深な匂わせを投げかける。2022年秋/冬シーズン、Clarisの動向から目が離せない。そしてこの日の本当のラストチューン、23曲目を飾ったのは「PRECIOUS」だった。明るく元気にはずむリズムと旋律が、ハッピーエンドにふさわしい。二人が笑顔でハグするシーンに、笑いながらも胸がじんと熱くなる。

今日は久しぶりに会えて嬉しかったよ。待っててくれてありがとう。――エンドロールの最後に書かれた二人のメッセージは、新しいステージの幕開けを告げるはじまりの合図。止まっていた時計が再び動き出した。ClariSともに過ごす季節がまた巡ってきた。

レポート・文=宮本英夫 Photo by 平野タカシ 

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