福山雅治、デビュー30周年記念ツアーを完走「まだまだ音楽は止まりません」

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写真:Itabashi Junichi、Nishimaki Taichi

福山雅治が、デビュー30周年を記念する約3年10か月ぶりの全国アリーナツアー「WE’RE BROS.TOUR 2021-2022」を完走した。当初は2020年の開催予定がコロナ禍で延期、「“Promise for the Future”」と題して丸1年後の2021年11月にスタート。2022年1月に予定していた東京・国立代々木競技場 第一体育館公演は、当時の感染拡大状況を鑑みて4月に延期、その上で「裸の音」と名付けた新企画を無観客ライブとして同会場から生配信した。感染拡大防止への配慮はもちろん最大限に行いながら、コロナ禍に屈せず、クリエイティブなトライアルを重ねてきた福山。全国13か所28公演を廻り終えたその集大成として、埼玉・さいたまスーパーアリーナで6月16日・18日・19日の3日間にわたって実施したのが、「”光” ₋HIKARI₋」という新コンセプトでのライブである。

ファイナルの6月19日、開演は15:00。暗闇にライトバングルで色とりどりの光を灯すオーディエンス。ステージ中央の階段から福山雅治がゆっくりと上ってくるシルエットが見えただけで、歓声の代わりに特大の拍手が鳴り響く。遂に姿を現した福山は、四隅でミラーボールが輝くセンターステージへ早々にダッシュ。「Message」「All My Loving」「HELLO」と自身のヒットポップチューンを連打して沸かせ、圧倒的に明るい祝祭ムードで会場を満たした。

「最終日ですね、埼玉!」とオーディエンスに語り掛けた福山。ツアーを振り返りながら、その核となっていた最新アルバム「AKIRA」のタイトルは17歳で失くした父の名であること、父の享年53歳を自身が迎えた今、その名を冠した作品を携えライブツアーを行なっている運命的巡り合わせに想いを馳せていく。命の重み、受け継がれる血の意味を真正面から捉えた表題曲「AKIRA」に始まり、恐れに立ち向かう勇気に鼓舞される「暗闇の中で飛べ」、妖艶なパフォーマンスで惹き付けた「Popster」、そして幻想的な光の演出も相まって全てを浄化するような「心音」まで、同アルバムからの4曲を連続披露。「“Promise for the Future”」ツアーでつくりあげてきた世界観を凝縮して届けていく。

「福山雅治のライブに初めて来た人?」「「今までも来たことありますよ」っていう人?」と来場者に問う恒例の“出席”確認にも、声の代わりに拍手で応答を求める。これまでの30年(実質32年)の応援に感謝を述べ、いずれのオーディエンスにも「これからの30年もよろしくお願いします」と挨拶。30年後の「83歳になっても歌っていると思います」という未来へのうれしい約束も飛び出して、続くバラードコーナーへ。「お掛けになってゆっくりお聴きください」と呼び掛けながら、福山はデビュー当時からの軌跡に言及。「AKIRA」で表現した死生観は、「技術が追い付いていなくて、表現できていなかっただけで、デビュー当時から歌いたいこととしてあったんだな」と気付いたという。避けられない“死”を意識するからこそ、浮き彫りになる“生”の表現。福山が描いてきたそんな歌詞の具体例をピックアップしつつ、初期のレコーディング風景などと併せて映像で振り返ると、まずは「桜坂」を披露。桜色の光に満ちた眩い世界に引き込んでいく。リリースは2000年であり、言わずと知れた大ヒット曲だが、巡りゆく季節の描写はたしかに生命の循環を投影。そんな事実を再発見する。ピアノソロで滑らかに曲間を繋ぎ、次に届けたのは2011年にリリースされた「家族になろうよ」。他人同士が出会って結びつき、やがて増減を繰り返して形を変えていく家族という生命の営み。順に点灯し増えていくライトの数が、ファミリーツリーを思わせる。死生観を描いた「AKIRA」をリリースし、ツアーでその作品の深部に向き合い続けた果ての2022年の今だからこそ可能な、過去の代表曲群の再定義と発見。この「光」という新たなライブは、過去も現在も未来も、全てを一本の線で結んでいく。

ライブは後半へと突入。MCで福山は、2020年以降のコロナ禍だけでなく、今年2月に始まった戦争にも触れていく。加えて、30年超のキャリアの中で見舞われてきた天災に関しても、「自分の力じゃどうしようもならないな、という無力感」(福山)に苛まれたと吐露。そんな中で辿り着いたのが、「ファンの皆さんに育ててもらってきた、エンターテインメントをするしかない」という、自分が為すべきことへの答えだったという。故郷が長崎であること、原爆投下の直接的な被害をご先祖様が免れ、生き延びて今の命に繋がっているという重み。「そんな自分にしかできないソングライティングをしなければ」(福山)という想いから生まれた、「群青~ultramarine~」をここで満を持して披露。先のツアーの候補曲として挙がりながらも、披露のタイミングを思慮してきたというこの曲。何を正義とし、命を奪うのか。戦争に対する根源的な問いを投げ掛け、普遍的な祈りと愛に昇華していく詞世界を、切々とエモーショナルに歌唱する福山。海、山など雄大な自然をモチーフとした映像演出と、会場を染め上げていく碧い光は神秘的でドラマティック。オーディエンスはじっと佇み、碧い水底に深く潜り込んでいるようだった。

続いて披露したのも、命の逞しさ、平和への願いを歌うメッセージソング「クスノキ」。核廃絶の実現を目指す高校生約120人が参加するメッセージ動画「ピースブックリレー」の一部をまずは上映した。長崎の被爆樹木を題材とし、「すべての命が等しく生きられる世界を願う」というテーマで福山が制作した「クスノキ」(2014年発表)に高校生たちがインスパイアされ、映像を自主制作したのがプロジェクトの発端。この曲が生んだ波及効果を知った福山が、「ピースブックリレー」のプロデュースとディレクションを申し出た、という背景がある。高校生は日本全国16都道府県に加え、韓国、ハワイ、ロシアの学生も参加している。柔らかな歌声で、どこか唱歌のようなノスタルジーを宿したメロディーを歌う福山。歌い終えた後、沸き起こったのは大きな拍手。福山は、高校生が動画中で述べている「微力だけど無力ではない」を引用しながら、プロジェクト立ち上げの経緯、込めた想いを語っていく。福山雅治という日本を代表するトップアーティストが、このような平和を求める活動に携わる意義はとてつもなく大きい。先の「群青~ultramarine~」もそうだが、自身の30周年記念ライブの集大成として新たに盛り込んだメッセージが、社会貢献への意志に貫かれていることに、深い敬意を抱いた。

「KISSして」、ギターインストナンバー「vs.2022 ~知覚と快楽の螺旋~」と自身主演の人気シリーズ「ガリレオ」にまつわる楽曲群で沸かせると、「ステージの魔物」「零₋ZERO₋」「革命」とロックなナンバーを畳み掛けて圧倒。オーディエンスのハンドクラップが、もはや欠かせない楽器のパートのように曲に溶け込んでいたのも印象的だった。燃え上がる炎、次々と爆ぜる特効。最高潮に達したテンションは、さざ波のように穏やかなピアノのフレーズが鳴り始めると一気に沈静化し、スクリーンにはこれまでのライブのオーディエンスの姿が映し出されていく。マスクも無く自由に客席で発声できた時代に、輝く笑顔でステージを見つめるファンもいれば、感動で涙するファンもいる。やがて映像は現在の会場の客席に切り替わり、センターステージへと福山が歩いていく姿を映し出す。手にしていた発光する球体が天へと舞い上がり、霧散していくような神秘的な空間演出に見惚れていると、新曲「光」がスタート。<君がそこにいる>と歌いながらオーディエンスを指さし、エモーショナルに歌う福山。ファンが灯す光に包み込まれるようにして、センターステージでこの曲をパフォーマンスするのは、ツアー本編では無かった初の演出。「“光” ₋HIKARI₋」と名付けたこの3DAYSの意味、ファンのいるライブ会場という場所、もっと言えばファンこそが光であるという答えが、明確に具現化されている情景だった。本編ラストは「明日の☆SHOW」で穏やかに、楽しく。温かな一体感と多幸感がいつまでも会場に漂っていた。

アンコールを求める自然発生的なウェーヴと拍手に誘われ、ステージに再登場した福山。映画『おしりたんていシリアーティ』とのコラボレーションで2曲を賑やかに披露。自身が声優を務めるシリアーティ教授をゲストに迎え、賑やかでコミカルなパーティータイムを繰り広げた。教授を送り出した後は、打って変わって重厚に、ツアーを象徴する1曲である「道標2022」を披露。2009年、みかん畑で懸命に働いていた祖母への想いから生まれた名バラードが、2021年末の「NHK紅白歌合戦」での披露を経て今年2月6日、福山が53歳となった誕生日にデジタルリリース。時を超え、アレンジも変わって、新たな命を吹き込まれた曲である。死生観をテーマに、命のバトン、繋がれてきた命の役割を自問自答した8か月に及ぶツアーを廻りこの曲を「皆さんに育ててもらった」と語った福山。冒頭の独唱からして、歌声には深い情感がこもっているのが伝わってくる、説得力に満ちた歌唱だった。

メンバー一同ラインナップして挨拶し、最後に一人残った福山。オーディエンスの鳴り止まぬ拍手に対し、「皆の心の声がよく聴こえます」と胸と耳に手を当てて、「もっと聴きに行っていいですか? 光の中の、その海へ」とセンターステージへ。「世界が一つになれる曲です」との紹介から「幸せなら手をたたこう」をまずは披露。老若男女誰もが知っていて、声を出さずとも楽しくコミュニケーションを取れる曲だ、という気付きはコロナ禍での思いがけない発見。オーディエンスと福山も共に手を叩き、足を鳴らし、ほっぺを叩き、ウィンクをして一体感を楽しんだ。「もっとそばにきて」を最後に披露して「長いツアー、お付き合いいただいてありがとうございました!」と挨拶。しかし拍手は鳴り止まず、福山は想定外の事態に笑いながらも、スタンバイ。最終日だけ1曲多かったのは秘密にしてほしい、と冗談めかしてファンに語り掛け、「最愛」を弾き語りで披露するというサプライズを贈った。

最後のMCでは、「ライブができなくなった2020年……想像していたものとは全く違う30周年にはなったんですけど。想像通りっていうのはなかなかならないものですよね。思った通りになったこと、たぶんほとんどないんじゃないかな?と思います、自分自身の人生を振り返ってみても」と振り返った福山。「ただ、その時その時に「何を信じるか? 何を支えに前に進めていくか?」というのは、僕にとってはライブであるし、30年間一緒に付き合ってくれた、伴走してくれた、並走してくれたファンの一人一人の皆さんがいて。その皆さんが「僕ライブをやりますから来てください」と言ったら来てくれる“はず”、という信じる心、信じる想いで、このツアーを再開して8か月にわたってやってきました」と語ると、大きな拍手が送られた。「一人でできるわけじゃないんですよ、本当に。賛同してくれるからできるわけで。遠くから時間を使ってわざわざ来てくれるからライブは成り立つわけで、ここに来てくださった一人一人、一人一人一人……全ての方のお陰です。深く深く感謝いたします。本当にどうもありがとうございました!」と挨拶。オンラインで参加したファンにもしっかりと感謝を述べる。「ツアーは一旦ここで終わりますけども、まだまだ音楽は止まりませんから。2022年を走り切りたいと思います」と誓い、「また逢いに来てくださいよ」と親愛のこもった口調で語り掛けると、何度も「また逢いましょう!」と叫んでステージを去った。長い間、大きな拍手は鳴り止まなかった。

30周年という記念すべきタイミングを、未曽有の事態に見舞われながらも、ライブ活動続行の道を模索して来た福山。コロナ禍に加え戦争も始まった2022年2月以降、ツアーを廻りながら彼はエンターテインメントの役割を自問自答し続け、「ライブを、心を取り戻す時間にしていただければ」とMCでファンに語り掛けていた。一連の30周年ライブを締め括るこの「光₋HIKARI₋」は、想定以上にセットリスト・演出を大きく変えたことにまずは驚愕。そして、「この時代に届けるべきメッセージは何なのか?」を熟考し、あくまでもエンターテインメントの担い手らしい矜持と手腕で、ヴァージョンアップしたショウを送り届けていたことに感動した。それは、トップスターとしての使命と社会貢献を実現すると同時に、自分を育くんでくれた音楽、エンターテインメントへの最高の恩返しにもなっていたのではないだろうか? ツアーを無事に走り終え、2022年末・2023年始には3年ぶりに「福山☆冬の大感謝祭」が復活することも発表されている。福山の音楽の旅路は、これからも続いていく。

文:大前多恵

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