オフィスオーガスタの新人発掘・支援イベント「CANVAS vol. 2」ライブレポート

アーティスト

撮影:永田拓也

オフィスオーガスタが立ち上げた新人発掘・開発プロジェクト「Canvas」のvol.2が東京・新代田FEVERで開催された。当初、有観客で予定されていたが、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえて急遽無観客オンラインライブ配信となった。

今回集まったのは4組。バンドあり、シンガーソングライターあり、マルチクリエイターありと、バラエティ豊かな才能たちが遺憾なくその片鱗を見せつけた。

最初に登場したNozomi Kannoは若干21歳のシンガーソングライターだ。「Canvas」ではデモテープを受け付けており、今回彼女はその中から選ばれて出演することとなった、まさに原石の才能だ。

アコギ弾き語りで披露された「悪魔が眠る夜」と題された1曲目。その声が会場に響いた瞬間、風景が変わった気がした。美しさの中にゾッとするような冷たさを含んだ声は、Nozomi Kannoが紡ぎだすメロディと絡まり合い、心象風景の奥へ奥へと引きずり込まれていく。続く2曲目「Give a bark」にしても、決して明るくハッピーな歌ではない。でもそこには、聴く者の心を震わせるという音楽としての真実が確かに含まれている。

「出演が決まってから夜も眠れないくらい緊張しました。少しでも自分の音楽を届けられたらいいなと思います」

「1990」でのレイドバックしたチルなビート感、「好きになれたらいいのに」で見せたピアノをベースにした深みのあるバラードなど、様々な音楽を吸収して自分のものとして鳴らしているのがわかる。また観てみたい、そう思わせるには十分すぎるほど鮮烈な印象を残した。

DADA GAUGUINは、映像チーム「’n STUDIO」の代表ninでもある。そのため、ライブで使用されるアニメーションのクオリティは圧倒的だ。曲ごとに作家やテイストが異なり、より作品世界で描かれたイメージやメッセージが伝わりやすくなっている。アニメーション作品としても秀逸な「春の日」は、同調圧力や社会的無関心といった身近にある問題がテーマとなっている。サビで歌われる〈拗ねてばかりじゃ視力は落ちるよ 地獄の果ては地獄ではないよ〉という言葉がキラキラと光のように降り注ぐ。おもちゃ箱をひっくり返したようなポップなサウンドは、ボカロ的な手触りも残すサウンドメイクで一瞬たりとも飽きさせない。2曲目「シンセリアリティ」はシンガロングがフィーチャーされている曲で、ライブ映えする1曲だ。自分らしさって何だ?というメッセージも真っ直ぐ突き刺さってくる。

「最初の頃の僕も知ってもらえたら」という「balloon」は、映像なしのパフォーマンスという初期の匂いを残す曲だ。ゆったりとしたメロディからサビで一気にテンポアップする展開はまるでジェットコースターに乗っているようで、その完成度に驚かされた。大きな会場で観てみたいと思わせるパフォーマンスだった。

シンガーソングライターのAlina Saitoは、耳の早い音楽ファンの間ではすでに話題となっている存在だ。まだ21歳という若さながら、今年1月にリリースした1st EP「Made of You」で確かな実力を見せている。疾走感が心地よいアーバンなネオソウル「Voice in the wind」では伸びやかで芯のあるボーカルの中に、独特のリズム感が備わっているところに天性のものを感じた。「最初に自作した曲」と言う2曲目「記憶のモノローグ」では、モノトーンな感触のメロディに一筋の光が差すようなサビへのグラデーションを見事に表現した。

「ライブって楽しいなって思うことのひとつに、一緒に演奏するミュージシャンと影響し合って、お互いのいいところを引き出し合いながら歌えるというのが素晴らしいですよね」

3曲目に披露した「Fly」では、Aメロの譜割りも鮮やかな印象を残しつつ、抑制しながらもエモーショナルに歌い上げる歌唱が素晴らしかった。EP収録の全編英語詞「Heartbeat」で配信上はライブ終了となったのだが、実はこの後カバー曲が披露された。権利の関係で彼女のYouTubeでの公開となったが、その曲はアリシア・キーズの「If I Ain’t Got You」。オフィスオーガスタよりデビューし今年8月に惜しまれながらも解散したバンドFAITHから、Gt.Voヤジマレイ・Gt.Voレイキャスナーの2人をゲストに迎え、ピアノ+エレキギター+アコギという編成で披露した後、「もう10回は歌いたい」と茶目っ気たっぷりに言ったその姿に、彼女の音楽愛がしっかりと伝わってきた。

トリを務めたのは、Vol.1にも出演して、いい意味でイベントを引っ掻き回した京都出身5人組バンド・Set Free。1曲目はディスコ+ギターポップな「TALK! TALK!」。5人それぞれの個性をそのまま音に反映したようなカラフルなサウンドは、タイトな演奏があって初めて成立するもの。ライブ巧者という表現がしっくりくるバンドだ。その中にあって、フリーな立場で踊ったりコーラスしたりカメラを煽ったりしてステージの主役に躍り出るワイニーの存在そのものが、このバンドがライブバンドであることを証明している。

「ヘヴィメタ」と題された2曲目は、当たり前だが(と言い切ってしまう)、ヘヴィメタルではなく、むしろ直球のポップソング。とは言え何にも関係ないかと言えばそんなことはなく、歌詞の中に散りばめられた〈地獄〉〈血〉といったワードが確実に刺さってくるというセンスはさすがとしか言いようがない。次に披露した新曲「レスラー」でも、マッチョなイメージはどこへやら、ジングルのような派手なイントロからゆったりしたAメロ、クラップや掛け声などを用いたサビといった具合に、まるでプロレスの試合のようにくるくるとイメージが変わっていく。

ワイニーのマイブームは「朝起きること」という告白から、「ねあかなこころ」「風にさらわれて」のアップテンポな2曲でフィニッシュ。「風にさらわれて」の途中に3・3・7拍子が入ったり、とにかく何が飛び出すかわからないセンスに溢れている。この日のパフォーマンスに敬意を評して京都風に言うなら、“けったいなバンド”だ。そして、“けったい”であるということはオリジナルだということ。それをさらりと見せつけたSet Freeに拍手を送りたい。

今回は無観客配信ライブとなった「CANVAS Vol.2」。さらなる新しい才能との出会いと有観客ライブに期待して次回開催のアナウンスを心待ちにしたい。

文:谷岡正浩

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