SHE’S、”序曲”の意を冠したオンラインワンマンで『Tragicomedy』の世界を初披露

アーティスト

SPICE

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE’S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE’S Broadcast Live ~prelude~  2020.7.28

もともとライブに正解なんてないが、配信ライブは未だ誰もが手探り。年単位で計画している従来のライブと比べれば、準備期間だってそう長くはとれない状況下で、SHE’Sが初のオンラインワンマン『SHE’S Broadcast Live ~prelude~』で採用したやり方は、通常時と同じようにステージ上にセットを組み、ニューアルバム『Tragicomedy』の曲中心のセットリストでライブを行うことだった。小細工はなし。それは、最新作の出来栄えとバンドの現況に対する自信の表れと言い換えられるかもしれない。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

『Tragicomedy』は、当初は5月にリリースが予定されていたものの、新型コロナウィルス感染拡大の影響で延期となり、7月リリースとなった経緯がある。そもそも、3月あたりには音源として完成していたらしいし、収録曲の大半を先行公開してきていたこともあり、残念ながら観客を入れての開催は叶わなかったとはいえ、メンバーにとってもファンにとっても、本当に待望の新譜披露となったのがこの日のライブだ。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

配信はまず、楽屋裏での様子やスタンバイ風景をインサートしながら、4人それぞれの口からこの日のライブに賭ける意気込みが語られる、ドキュメンタリー風のシーンから。やがて静かに照らされたステージ上へと映像が切り替わり、「Lay Down (Prologue)」を登場SEに井上竜馬(Vo/Key)、服部栞汰(Gt)、広瀬臣吾(Ba)、木村雅人(Dr)が現れた。オープニングナンバーは「Masquerade」。アルバムリリース当日に行ったリリース特番と同様の立ち上がりだが、そこで一度配信での演奏を経験していることもあってか演奏の精度は増していたし、画面を隔てた距離感の測り方やリードの仕方の面でも要領を得た感がある。心の余裕みたいなこともあるのだろう、軽やかに揺らすサウンドと、不敵な笑みやジェスチャーを交えた井上の歌唱が冴えている。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

明るいサウンドとともに各々の晴れやかな表情が印象的だったのが「Over You」で、この曲を含め、ニューアルバム以外の曲は4曲。配信ならではの音のクリアさゆえか、「アレンジ変えたか?」というくらい跳ねたニュアンスが前面に出ていた「White」も良かったし、ノスタルジックな響きをもった「ミッドナイトワゴン」のようなタイプの曲はリアルのライブだとどうしても箸休め的な位置になりがちなところ、配信では良いアクセントになっていた。突き抜けた陽性っぷりで終盤の盛り上げに一役買った「Dance With Me」も含め、どれも必然的にセットリスト入りしたことがわかる。逆に、定番の「Un-science」あたりをやらなかったあたり、最新曲たちで勝負したい、勝負できるということだろう。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

ライブで初めて観たニューアルバム収録曲たちの内、「Unforgive」や「Ugly」、「Blowing in the Wind」あたりはSHE’Sの新機軸といっていい。「Unforgive」ではシンセベースとエレキベースを操る広瀬と、打ち込みのビートと共存する木村のドラムプレイがクールなグルーヴ感を醸成、「Ugly」のジャジーなコードに乗って服部の渋目のリフが唸るのもたまらない。洋楽エッセンスが色濃いチルでモダンなファンク「Blowing in the Wind」は、井上がハンドマイクで歌いながらフロアに降りてみたりと、だいぶ楽しい仕上がりに。リアルのライブでも人気となっていきそうな曲だ。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

個々のメンバーを大写しにするカメラワークが多めだった点も、配信ならでは。「キムはいつカメラに抜かれてもニコニコしてるな」「広瀬は基本ポーカーフェイスだけど、たまにカメラにアピールしてくれるな」とか、それぞれの個性がいつも以上によく分かる。僕が思うに、SHE’Sは音楽性だけじゃなくキャラクターでも愛されるバンドだから、こういう演出でテンションが上がったファンは少なくないと睨んでいる。あと、MC中に流すために歓声や拍手、コメディ風の笑い声などのSEを準備してきていた遊び心にニヤリ。配信ライブでのMCのやりづらさは、どのアーティストも口を揃えるところだが、これならだいぶ間が持ちそうだもんな。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

ピアノと歌のみの始まりから、コーラス、他楽器が重なりあっていく音像が美しい「Letter」、メンバーを手描きしたアニメーション映像からの繋ぎがよくはまった「One」、ブラスやストリングスの音色がステージを一層華やかな空気に塗り替えた「Higher」。様々な色が混在しながら形作られたアルバムの表題曲「Tragicomedy」は、ライブの最後に据えられていた。人と会えないことでこんなにも世界は変わってしまうものなのかと痛感した、それでも心的距離はいくらでも縮められる、とは井上のMC。そして、人の心を悲喜劇になぞらえた作品を象徴するバラードを、地声に近いトーンと柔らかなファルセットを使い分けながら歌う。それは誰かを想う心そのもののようなあたたかな響きだった。

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

この日のライブのタイトルは“prelude”。前触れとか序曲を意味する言葉であり、ライブ中には「前哨戦」という表現もしていたが、それは何のだろう?  秋から予定しているツアーへの序章という意味であり、配信という新たな表現手段の一発目という意味にもとれる。自信作を世に出した4人が、これから進もうとする新たなフェーズ(来年は10周年イヤーだ)の第一歩目という意志でもあったかもしれない。いずれにせよ、SHE’SはちゃんとSHE’Sらしい形で、2020年7月の彼らの姿を届けてくれたのだった。

取材・文=風間大洋  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S  撮影=MASANORI FUJIKAWA

SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

関連タグ

関連タグはありません

オススメ