「声の肖像権」認めるエルヴィス法可決、生成AIでアーティストに収入の道

コラム 榎本幹朗

アメリカで、アーティストが生成AIで稼ぐ道が切り拓かれつつある。

去る3月21日、アメリカのテネシー州で「声の肖像権」を認める法案(通称エルヴィス法)が可決された。同法は、生成AIが声や顔を真似る「ディープ・フェイク」から市民を保護するため超党的に起草されたが、全米の音楽業界がこれを歓迎したのには理由がある。

昨年後半からTikTokやYouTubeで、音楽ファンがアーティストの声を無断で利用して、好きな曲を歌わせる「AIカバー」が流行している。AIカバーを生成できるサイトは検索すれば容易に見つかり、無料で手軽に生成できることから半年ほどで広がった。

現行の著作権法では、声の肖像権(Rights of Likeness)は認められておらず、声を使用されたアーティストがAIカバーに削除要請を出したり、使用料を求めようとしても法的な根拠がなく、楽曲側からの削除要請を待つほかなかった。

しかし「声の肖像権」が認められれば、アーティストは声の無断使用を禁じることも、AIの生成物から利用料を得ることも法的に可能となる。自らアーティストAIを作って、稼いでもらうこともできるだろう。

かつてレコードやラジオが普及したとき「演奏の機会を奪われる」とミュージシャンたちが抗議して著作権法が改正され、複製権や放送権が認められた。

結果、録音や放送は転じてミュージシャンの新たな収入源となり、インターネットも送信可能化権で音楽配信がミュージシャンの収入源に変わった。生成AIも同様の道を辿るのではないか。

なお法案の通称「エルヴィス法」はEnsuring Likeness Voice and Image Security Actの略であり、「ロックンロールの王様」プレスリーとは関係ない。

施行日は7月1日の予定。国家レベルでも動きがあり、1月には超党派がアメリカ下院議会にテネシー州と同様の法案(通称No AI FRAUD Act)を提出しており、音楽産業が歓迎のメッセージを発している。同国でこの法案が可決されれば、日本ほか各国の議会も追従すると予想される。

生成AIは音楽に何をもたらすのか?

メディアは「社会問題を報じる」という役割上、ネガティブな現象を報道し勝ちだが、逆に私は音楽とAIの可能性を連載で追っているので、興味のある方はお読みいただきたい。

(Musicman編集長 榎本幹朗)

著者プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。

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