なぜTikTokに音楽業界が集まるのか? TikTok発アーティストの「メジャー契約」が急増する理由

コラム All Digital Music

ユニバーサル ミュージックとTikTokは、UGC動画を生成する楽曲使用で、グローバル・ライセンス契約に合意したことを発表しました。

今回、ユニバーサル ミュージックが交わした契約には、同社のレーベルと契約するアーティストの楽曲と、音楽出版のユニバーサル ミュージック・パブリッシング・グループと契約する作曲・作詞家の楽曲が、全世界のTikTokでの利用対象に入ります。

日本を含むTikTokユーザーは、ユニバーサル ミュージックとUMPGが持つ全カタログから、UGCコンテンツやカバー曲動画、オリジナル動画を作ることができるようになります。

またTikTokとの契約によって、ユニバーサル ミュージックと契約するアーティストや作曲・作詞家が、より公平な報酬を得ることが可能になっていきます。

今回ユニバーサル ミュージックとグローバル・ライセンス契約を結ぶ前、2020年にTikTokはソニーミュージックとワーナーミュージックとライセンス契約で合意してきました

TikTok上で利用できる楽曲にメジャーレコード会社3社の楽曲カタログが揃ったことは、今後のUGC生成や、新しいクリエイターの誕生に向けて、さらに拍車がかかるはずです。

またTikTokは、独立系音楽ディストリビューターのBelieveや、インディー音楽のライセンス団体Merlin、汎ヨーロッパ間の著作権ライセンス・サービスのICE、オランダの著作権徴収団体Buma/Stemraとも契約も実現してきました

アーティストをTikTokから見つける時代

音楽ストリーミング成長期の音楽業界、特にレコード会社にとって、TikTokはもはや必要不可欠なプラットフォームであり、ストリーミングでの成功を目指す上で、日に日に重要性が増しているといっても過言ではありません。

この背景には、全世界のあらゆるジャンルのアーティストのTikTokユーザー化が進んだことに加えて、UGC動画やオリジナル動画を作るTikTokユーザーのアーティスト化という流れが世界的に増えていることが、大きな要因としてあげられます。

今回は、TikTok発アーティストの発掘という視点で、音楽業界の動きを考えてみます。

まず前提となる情報は、TikTokが発表した音楽の実績で詳しく説明されています。このまとめは詳細が見えてくるので、日本の方にもご覧頂くのをオススメします。

TikTokが公式に発表した、2020年の実績によれば、わずか12カ月で、TikTokからブレイクした結果、メジャーレコード会社とのレコード契約を実現したアーティストの数はなんと70組以上。毎月2組以上がメジャーと何かの契約を交わしたこととなります。

さらには、この70組以外も出版契約やパートナー契約を結ぶアーティストも生まれています。

TikTokによれば、アメリカでは2020年、動画視聴回数が10億回を越えたのは176曲にのぼります。また、15曲が米Billboardチャートで1位を獲得。90曲はチャート100位内にランクインしました。

TikTok発で最も成功したアーティストの一人は、2020年に、米Billboardシングルチャートで「Mood feat Iann Dior」が1位を記録し続けた2000年生まれの24KGoldnがいます。

24KGoldnは現在、インディーレーベル「RECORDS」(ソニー・ミュージックとプロデューサーのバリー・ワイスによるジョイント・ベンチャー・レーベル)と、ソニー・ミュージック傘下のコロムビアレコードと契約する、急上昇中のヒップホップアーティスト。

2019年リリースの「Valentino」を聴いてヒットを予感したRECORDSが、他のレーベルからのオファーの前に直様契約したという経歴があります。

結果として、24KGoldnとRECORDSは、「Valentino」でTikTok発のバイラルヒットを達成しただけでなく、SpotifyやApple Music、YouTubeなどからもサポートを得るほど、ストリーミング発のヒットを生み出すことに成功したのです。

TikTok発のアーティストとの契約で、特筆すべきスピード感で契約をまとめているメジャーレーベルは、ソニー・ミュージック・グループにあるコロムビア・レコードです(日本のソニー・ミュージックはこの動きとは関係ないが…)。

2020年でTikTokアーティストと契約した実績を見ても、コロムビア・レコードはTikTokを新人発掘のプラットフォームとして捉えていることが分かります。

2020年に、TikTokとYouTubeチャンネルでバイラルヒット化した「Death Bed (Coffee for Your Head)」をリリースしたカナダ人アーティストのPowfuもまた、同曲のストリーミングでの成功を受けて、コロムビアとRobots + Humansと正式にアーティスト契約を実現。米Billboardチャートで1位を獲得し、再生数は10億回を超えるほど伸び続けました。

2002年生まれのヒップホップアーティスト、StaySolidRockyもまた、10代からInstagramとSoundCloudとストリーミングで音楽を発信し続けてきた若者でしたが、後にバイラルヒットとなる「Party Girl」をリリースした直後、注目度があがる直前の彼を、XXXtentacionを発見したマネージャー・レーベルオーナー・A&Rのソロモン・ソバンデ(Solomon Sobande)が見つけ、コロムビア・レコードとの契約を2020年に結ぶこととなります。

TikTok発の次世代アーティストと積極的に契約しているのは、コロムビア・レコードの他にはRCAレコードがあります。こちらもソニー・ミュージックのレーベルになります。

RCAレコードは、コロナ禍の1年だけで、シンガーソングライターのFousheeや、ヒップホップアーティストのFlo Milli、イギリス人シンガーソングライターのキャット・バーンズ(Cat Burns)、TikTok以外にTrillerやYouTubeでも人気のヒップホップアーティストZaeHD & CEOなどとの契約をまとめることに成功しています。

上記のアーティストはいずれも、TikTokで自身の楽曲や動画がバイラルヒットしただけでなく、ストリーミングやチャート、ラジオでのヒットに繋がる成功を達成しています。

このことからも、メジャーレコード会社との契約は、こうしたTikTokアーティストのキャリアアップとブランディング(特にストリーミングプラットフォーム)に「速さ」と「スケール」を加えて実現できることがあると言えます。

なぜコロムビアレコードやRCAレコードが素早くTikTokアーティストと契約できるのでしょうか?

その理由は、TikTokとソニー・ミュージックが結んでいるライセンス契約の中で、プラットフォーム上で急上昇するアーティストやUGCクリエイターを両社が連携して発掘して支援するという内容が含まれているからです。

加えて、コロムビアレコードやRCAレコードは、アーティストを発掘して育てることに特化したインディーズレーベルやA&R専門レーベルと、プロジェクト契約やジョイントベンチャー契約を結んでいることも要因です。

24KGoldnを契約したインディーレーベルRECORDSは、コロムビアレコードと直接アーティストのプロジェクトで連携する契約があります。この2社の関係はソニー・ミュージックの契約方法の一例です。

このように、可能性あるアーティストを探して育てるまでの仕組みでメジャーレーベルと(メジャーの支援、投資を受けた)インディーレーベルが協力していることが、世界各地に広がろうとしています。

さらに言えるのは、コロムビアレコードは2019年に「Old Town Road」がTikTokで大成功していたLil Nas Xを他社との競争に勝ち契約した実績があります。

また、RCAレコードには、SNSで発信してきたバイラルコンテンツの勢いを原動力に、グラミー賞ノミネートまで掴み取ったDoja Catがいることもあり、すでにTikTokアーティストのキャリアを広げる術も蓄積されています。

ここでいう「メジャーレーベル」とは、日本で言うような「メジャー・デビュー」とは感覚も契約も違うことをお断りしておきます。

「メジャーレーベルと契約」しても、別のインディーレーベルや事務所、音楽出版社と契約できるのが、日本と海外との大きな違いの一つ。アーティストが権利を持ったり、クリエイティブをコントロールすることも可能です。

そうできるように契約形態も幅広く、柔軟に設定できることも、TikTok発アーティストがメジャーレーベルと契約する際にはプラスに働く場合もあります。もちろん、契約金勝負となれば、メジャーの資金力が有利に働くことも、無視できません。

ストリーミングやTikTokなど、バイラルするコンテンツでは、次のアクションを起こすまでの「スピード」が重要視されます。その中で、A&R専門レーベルやマネジメントが、メジャーレーベルとクリエイターとの橋渡し役として機能してきました。新人を発掘するために必要な情報にアクセスできる体制を最大活用しているのがコロムビアレコードやRCAレコードの売りの一つと言えるでしょう。

ライブやツアーができないコロナ禍の影響によって、こうした無名クリエイターやアーティストを見出す動きには拍車がかかっており、レーベルの迅速な契約へと繋がっているのです。

このような海外の動きを、日本の音楽業界で成功させた代表例は、「香水」がヒットした瑛人と契約したavex / A.S.A.Bが近いと言えます。

もう一つは、TikTokを中心に活動するシンガーソングライターのりりあ。と契約したトイズファクトリー/VIAも近いモデルです。

ですが、日本でこのような形式の新人発掘が増えるには、まだ時間を要すると考えられます。旧来型のレコード会社やマネジメント、業界関係者の多くはまだ、このソーシャルメディアのクリエイターやユーザーの力を信じておらず、ストリーミングとの結びつきを想像できない人が未だ多いため、なかなか足を踏み出せないでしょう。

とは言え、avexやトイズファクトリーの例でも分かるように、日本でも、感度の高いレコード会社や事務所は、プラットフォームでアーティストと繋がれるこの複雑な時代を、逆に契機だと捉えているはずです。日本独自の契約や支援方法を見つけていくのも面白いと思います。

このようなTikTokからの新人アーティスト発掘はどこに向かおうとしているのでしょうか?

前述のコロムビアレコードやRCAレコードと契約したアーティストが成功するかどうかは誰も分かりません。数年後には投資大失敗に終わることもあります。

Lil Nas XやDoja Catが5年後どうなっているかを予測することは、アルゴリズムでも不可能です。

ですが、コロムビアレコードやRCAレコードは次世代のクリエイターを信頼する英断に至りました。今後もその判断は続くはずで、コロナ禍で先の見えにくい音楽市場を成長させるための有効な戦略と捉えられるはずです。

さらに、前述のTikTok発アーティストの契約形式も変わっていきます。アーティストやクリエイターの求める条件も、ストリーミングやコンテンツの使い分け、配信する地域やサポート形態、権利の保有など、今後は多種多様に広がるはずです。

それは当たり前です。なぜなら、今の時代のアーティストは、新しいモデルと価値観を作って共有しているからファンや消費者から支持を集めているのであって、音楽業界が必ず求める常識や理屈とは合致するものではないのです。

逆に、今も生き残るレコード会社の多くが身に付けている常識は、これまでのアーティストを支えるための常識です。それらが次の世代や5年先の将来まで続く保証はどこにも無い訳ですが、先を見越して行動しなければ、継続的な音楽活動とビジネスは生まれないでしょう。

例えば、プラットフォーム発のアーティストが、従来のレコード会社の契約のように、アルバムリリースやテレビ露出、タイアップが必要かどうか、向いているか否か、あらゆる契約や戦略を考え直す必要もあります。決まりきった施策が当たり前と思っているレコード会社と契約するのは危険信号でしかありません。

アーティストが選ぶ側、というスタンスで、音楽業界が決定権を持つのではなく、アーティストに最終決断を委ねるように、新人発掘や契約も柔軟に変わらなければならないはずです。

source:

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jaykogami 記事提供元All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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